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第二十三陣

巴嘩が泣き、それによって静まりかえる三人、そしてそこに場違いなアニメの騒がしい音、全てが場違いで、全てがふさわしい。

しかし更に場違いな者が部屋に土足で入ってきた、空間に出来た亀裂から眼帯を付けた二人の少女。

一人は身震いをするような殺気を放ち、一人は花が咲いたような笑顔。

小さい方の女の子は目付きが悪く、髪の毛を後ろで一つに束ねてる。

美しい大人っぽい女の子は、髪の毛を簪で一つにまとめて、着物を着ている、典型的な和美人。

二人を見た途端に一番表情が変わったのは巴嘩だった、四奈は苦笑し冷汗が垂れている、次郎と晴季は状況が理解出来てない、しかし一つだけ分かる事がある、この二人は適合者で信征の傘下ということ。


「トコちゃん、政音、来ちゃったんだ」


「冥界からの使者で〜す、素直に死んでくれないかな、いちいち雑魚を殺すのは疲れるんだよね」


「政音ちゃん、久しぶりに会った親友に向かってそれはなんどすか?」


十子の方は笑顔を崩さずに京都弁で淡々と話す、政音の方は闘志剥き出しで歯を剥き出しにしながら待っている。


「来ちゃったんだ、ゴメンね、今は経ちゃんいないから、私しかいないんだ」


「まったく、とも姉のお人好しも治ってねぇな。大丈夫だ、経兄のほうは隆徳の爺が今頃殺してるから」


その場に極度の緊張が走る、経と龍奴は自分では回復出来ない、かと言って今この場で誰かが行ける程の余裕はない、二人の力を祈るしかなかった。


「みなはん、私らの仲間になるなら良し、敵になるなら、残念どすが死んでもらいます」


「トコちゃんと政音こそ、こっち側に来る気はないの?」


「「ない」」


即答の一言、表情一つ変えずに十子と政音は答えた、巴嘩以外は全員黙っている、感動の再会とは言えないこの状況に入る術は持ち合わせてないらしい。


「殺し合うしかないの?」


「巴姉は甘いんだよ!!うちらと経兄・巴姉はもう敵、どちらかがどちらかの屍を踏むまでは終わらないんだよね。分かるでしょ!?」


「でも………」


「巴嘩ちゃん、もう無理だよ、弥益姉妹は敵、殺さなきゃ経さまが殺されちゃうんだよ」


「わかってはるやないか四奈、裏切り者の言うことは違いますな」


「巴嘩ちゃんどうするんだよ?俺は巴嘩ちゃんが何と言おうが二人を殺すよ」


「巴嘩さん、私にはまだ分からないですけど、そこにいる二人が敵ということは分かります」


巴嘩は自分が置かれてる立場で揺れていた、大事な幼馴染みは手の届く所にいる、しかし二人は敵、殺さなきゃいけない敵。


「ゴメンね、トコちゃん、政音、私達の前に立ち憚るのは全て敵、たとえそれが幼馴染みだったとしても」


「分かってるぅ!じゃあココじゃ狭いから場所移そう」


「それじゃ、お先に」


十子と政音は亀裂に消えて行った、次の瞬間遠い所に二人の反応が現れる、巴嘩が皆の方に振り向くと巴嘩は泣いていた。


「大丈夫か?ダメなら俺達だけでやるけど」


「それじゃダメ、過去にけじめをつけないと前に進めないよ、辛いけど頑張る」


「巴嘩ちゃん、二人は強いよ、少しでも迷いがあったら死ぬよ、それでも行くの?」


巴嘩は力強く頷いた、それが合図となり四人は十子と政音の元に向かった。

巴嘩達と行き違いになるように経と龍奴が帰って来た、二人は肩を落としてその場に倒れる、いつ帰って来るか分からない奴らを、ただひたすらに痛みに耐えて待ち続けるしかない。










学校が取り壊された大きな空き地に十子と政音はいた、そこは山の上で誰も近寄らない、瓦礫が多少残っている、その瓦礫の上に足を組んで政音が座ってる、隣で凛と立っている十子。

四人が現れると政音が立ち上がった、肩を回し屈伸をする、そして軽く二回ジャンプすると魂脈の流れが速まる、政音は口を大きく開ける、犬歯が一際大きいのが目立つくらいに。


「政宗!状態青龍!」


犬歯が伸びて牙となる、手の爪は鋭くなる、しかし他の馮位合体ほど体の変化はない。

伊達政宗、奥州藩の若き藩主、独眼竜といわれ、眼帯をつけていた、常に先をみていて後少し早く生まれていれば天下を取っていた逸材、死装束を着て徳川に頭を下げてを藩を守った。

それを合図にしたかの様に全員が魂脈の流れを速める、全員短期決戦を望んでいるがために急速に上がる。


「十兵衛、魂玉段階弐式、傘沙針雨さんさしんう


十子は日本古来の傘を担いでいた、鮮やかな朱と白で染められたいたって普通の傘、武器としての使い道は鈍器のみに見える。

柳生十兵衛、江戸時代に柳生新陰流の使い手、幼い頃から徳川家の剣術指南役として過ごしていた、宗家の柳生宗矩に命を狙われる不運な人生を歩んだ。


「巴!魂玉段階弐式!枯雀桜刃!」


「次郎!魂玉段階弐式!神牙凍刃!」


「晴明!魂玉段階弐式!六芒邪符ろくぼうじゃふ!」


「四郎よ、我が刃となりてひじりを持って咎人に裁きを下せ、死の旋律は血の戦慄によって奏でたまえ。属性馮位、ひじりの舞」


晴季の手には壱式とさほど変わらない呪符が握られていた、巴嘩は花が咲いたような薙刀、次郎は猫の眼のような長刀、四奈は白い球体が取り巻いている。

全員が臨戦体制にはいった、四奈は自分の球体に乗り、晴季は鷹に乗り空へ飛び上がる、地上にいるもの達は全員構えた。


「スゲェ、飛んでるよ、四奈も考えたな」


「よそ見してると危ないよ、君の相手は俺と晴季なんだから」


次郎は政音がよそ見をしてる間に斬りかかる、しかし簡単に目の前から消える、気配をたどり気づいた時は背中に爪を突き立てられていた。


「遅い、つまらない」


「ちょっと油断しすぎたかな」


次郎が頭を掻くと上から呪符が飛んできて政音に当たる、大きな爆発と共に政音は吹っ飛んだ。


「サンキュー、晴季」


「大丈夫ですか?」


「晴季のお陰でね」


次郎は手を振って政音に視線を戻す、政音は埃一つ付けずに立っていた、変わっている点といえば殺気くらい。


「それっぽっちかよ?がっかりだ、面倒だからちゃっちゃと行くぜ」


政音は地面を滑るように走って来る、いや、実際に滑っている、政音の属性は水、足元を凍らせるくらい朝飯前だ。

次郎は液体の刃を放つが意味がない、政音の間合いに入ると両手の爪で攻撃された、次郎は何とか避けるがこっちは刀一振り、相手は両腕がある、明らかに劣勢だ、しかし上空には晴季がいる、晴季は政音の背中めがけて呪符を数枚なげる、それらは全てが刀となり政音に襲いかかる、政音は体を横回転させて全てを叩き落とす、そして右腕を大きく引く、次郎の方に突き出すと腕は龍の形となり次郎めがけて襲いかかる、次郎は何とか受け太刀するが龍の腕は刀を掴んで引き寄せた、次郎の体は簡単に浮き上がり政音の方へ飛んで行く、政音はすれ違い様に左の爪で次郎の腹を切り裂く。


「グワァハ!」

そのまま政音は上空に跳び上がった、晴季に向かって上昇する、次郎はすぐには立ち上がれない。


「終わりだ」


「貴方がね」


晴季は腕を広げると政音の周り全てに刀が現れる、この状況で避けることは不可能、晴季は腕を抱くように振った、その瞬間全ての刀が政音めがけて襲いかかる、政音はいくつかは叩き落とせたが体にもいくつか当たった。

地上にドスンと落ちると体中が傷だらけで脇腹に一本だけ刀が刺さっていた、それでも政音は立ち上がる、次郎も裂けた腹を押さえながら立ち上がった。


「ハァ…ハァ…、まぁまぁだな」


「君の方が圧倒的に不利なのが分からないかな?」


政音の眉尻がピクンと動くと不敵な笑を浮かべた、歯を剥き出しにして笑う政音、それが理解出来た頃には遅かった。







巴嘩と十子は無言で向き合っている、どちらも動かない、巴嘩に関しては動けないという表現の方が妥当かもしれない、十子は傘をさしてるだけにも関わらず隙がない。

そんな沈黙を破ったのは四奈だった、球体を刀の形に変えて次々と飛ばす、十子は一歩も動かずに全てを受ける、時には傘を畳み、時には傘を広げ、まるで花火が咲き乱れるかのように傘を操る。

巴嘩は十子の後ろに自分の分身を作った、巴嘩の分身は薙刀を振り上げるとそのまま止まった、数秒すると分身は砕け散る、巴嘩は間髪入れずに斬りかかる、巴嘩の横薙が十子に当たる瞬間に金属と金属が激しく当たる音が響く、巴嘩の薙刀を止めたのは小刀、傘の持ち手には小刀が仕込まれていた。


「仕込み刀!?」


「攻撃手段は一通りじゃおまへん」


十子は巴嘩のを受け太刀している間も四奈の攻撃を全て傘で弾く、体にかすりすらしない。

巴嘩は何度も斬りかかるが全て弾かれる、さすがに止まって受け太刀するのは無理らしく、その場で回転しながら防ぐ、巴嘩は一度間合いを開けて体勢を立て直す、四奈も白い刀を球体に戻して、球体は体の周りを回り始める、十子は小刀を傘に戻す。


「トコちゃんやるわね」


「相手を誉める暇がありはるんなら、勝つ算段でもしたらどうどすか?」


「巴嘩ちゃん、どうするの?」


「こうするの」


巴嘩は地面に薙刀を突き刺す、それと同時に地面から100振り近くの薙刀が飛び出す、まるで一面に桜の花が咲いたようだ。


「舞い散れ、花達よ」


桜の刃は乱れ散る、風に舞うように浮遊して十子を包囲する、十子は笑顔を崩さずに周りを見渡す、そして何事も無かったかのように視線を巴嘩に戻す。


「大変どすな」


言葉とは裏腹な表情、それが諦めでは無い事は一目で分かる、桜の刃は桜色に輝き、時より太陽に反射して銀色に輝く。


「桜の花びら達よ、その桜色の美しい身を、朱に染めよ!桜吹雪・阿修羅の舞!」


桜の刃は一瞬で切っ先を十子に向けて飛んで行く、十子が見えなくなった瞬間に金属音と共に刃が飛び散る、十子の周りにはいくつもの刃が地面に突き刺さっている、しかし十子に触れたものは一つもない、着物の裾すら無傷だ。


「嘘でしょ?」


「巴嘩ちゃん、しっかり!」


四奈の声で我に帰った、巴嘩の喉元には十子の小刀が当てられている、巴嘩の命は十子の気分しだい。


「巴嘩ちゃんって経の事好きでっしゃろ?」


「だったらなに?」


「若いどすなぁ」


「何が言いたいの?」


「会いたいでっしゃろ?ココで私を倒したら会えまへんよ、経はこの世にはおらへんのやから」


巴嘩は嘲笑うかのように口角を上げる、そして魂脈の流れを逆回転させる、十子が気づいた時には巴嘩ごと十子が木の根で串刺しにされていた、巴嘩はそのまま地面に消えて行く。


「それは私の分身よ」


地面が隆起してそこから巴嘩が出てきた、しかし串刺しになった十子は水と化して消えた、十子は反対側に現れる、十子の袖には穴が空いていて、ギリギリで避けたのが分かる。


「危なかったどすな。まったく気付かなかったわぁ」


「避けたトコちゃんも凄いと思うよ」


「おおきに」


十子は一礼すると、仕込み刀を抜刀する、そして傘の方を空に向かって投げる、傘は高々とあがり、空中で開いた。


「まずは弱いお人から死んでもらいます」














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