第一陣
少年は掛け布団を投げ出して、腹を出して見事な大の字で寝ていた。
少女は少年を起こすべく力いっぱいオープンな腹に重たい鉄拳を入れた。
少年は朝の目覚めを理解する間もなく痛みとの戦いを繰り広げる。
少女はカーテンを開けて、朝の日射しを暗かった部屋に入れた。
そして少年の第一声は。
「朝か!?」
少年は時間帯をやっと理解した、しかし理解の至らないところが一つ。
「巴嘩が何でいるんだよ!?」
「経ちゃんが遅いから」
経とは、石幟経、サラサラの目にかかるくらいの髪の毛、ツリ目気味のパッチリ二重が年相応に見られない。
巴嘩とは、袋小路巴嘩、美しい真っ黒な髪の毛を緩く後ろで束ねている、垂れ目と通った鼻に柔らかく整った唇、俗に言う美少女だ。
巴嘩の服装は、灰色のブレザーに赤いネクタイと茶色のチェックのスカート、高校生だ。
「早く起きない、これ以上遅刻すると単位どころか進学すら出来ないわよ」
「それより、幼馴染みでも家宅侵入罪ってのは適用されるぞ、この場で国家権力の助けを借りることも出来るんだけど」
「その前に経ちゃんの命があればね。ほら、死にたく無ければ起きる!」
巴嘩は軽々と片手で経を持ち上げて立たせる、経は比較的小柄なのもあるが、同年代の少女に真似出来る技ではない。
いつまでたっても部屋を出ようとしない巴嘩を見て経が一言。
「着替えたいから出ていってくれない?」
「別に良いでしょ、幼馴染みなんだから。それとも見られちゃマズイものでもあるの?」
巴嘩にとって経は異性では無いらしい、経もそこまで気にしてないのだが、‘一応’女の子ということで気を遣ったらしい。
同じような色彩の制服を着て、学校という修羅場(経にとっては)へ向かう途中だった、どこからともなく人の声が
『経どの、雑魚ながら近くに異端の気が。申し訳ないが‘学校’には行けぬ』
「またぁ?これのせいで俺がどれだけ苦労してるか分かるだろ?」
『しかし人間達に危害を加えられてからでは困る、ノミのようなものだ』
今、経と話しているのは、経の‘武者魂玉’の‘義経’だ。
源義経、異才とされた源氏の血を引くものだが、兄の差し金により命を落とした武将。
経は義経に取り付かれた適合者、本人は望んではいないが適合者に選択権はない
「巴嘩が行ってよ、俺よりは留年って言葉に縁が無いだろ、頼むよ」
「どうする巴?たまには経ちゃん助けちゃう?」
巴、木曽義仲の妻、力は屈強な男よりもある女武将、巴嘩の武者魂玉。
『義経さん』
『そうだね。経殿、巴嘩殿、今回は経殿一人では厄介かもしれませんぞ』
「どういう事だよ、ノミなんだろ?ノミなら何百匹集まろうが一人で十分だろ?」
ノミやら異端やら言われている存在は‘鬼’、古来戦などで雑兵などと呼ばれた存在は、9割が鬼と言われている、しかし鬼は人間を喰らう存在でもあるために半面忌み嫌われてた
『その中に適合者がいるの、多分鬼を束ねてる存在だと思うわ』
「でも巴、一人だけなら変わらないんじゃないの?だって経には……」
『一人じゃないんだよ、少なくとも二人以上はいる、異端の気に紛れて分からないが、経殿一人ではキツイ』
経と巴嘩は驚きを隠せない雰囲気だ、適合者が鬼を連れてる事は北朝鮮と日本が合併するくらいの事だ、それが現に起こってるから厄介だ。
「しょうがないわね、行くわよ」
『かたじけない』
「じゃあ行くか!」
適合者には人間のそれを遥かに超越した身体能力が与えられる、普通の人間の体では武者魂玉の力に押し潰される事があるからだ。
経と巴嘩は脚力を最大限に上昇させ地面を蹴った、2Kmを10秒足らずで移動した。
そこには、長くてストレートの髪で、冷淡な目をした細身の男と、重力に逆らった髪とゴツゴツした顔、獣のような目でゴツイ男の二人と、ザッと見て100匹ほどの異端がいた。
経にとって異端は敵では無かった、問題は二人の男にあった、20mほど離れていてもジリジリと伝わってくる‘気’
「巴!枯葉魅刃!」
巴嘩は武者魂玉の名を叫ぶと、眩い光と共に手元に歪な形をした長刀が現れた、名は枯葉魅刃。
武者魂玉には、3種類ある、装備型と馮位合体型と属性馮位型。
装備型は文字通り、武器となる玉だ。
馮位合体型は、適合者の身体能力を高めたり、一部を変形させる玉。
属性馮位型は、どの玉にでもある属性を極限まで高めた玉だ。
巴の属性は‘木’、‘水’には強いが‘火’には弱い。
「寄生木!」
嘩が長刀を地面に突き刺すと、地面から生えたツルが異端に絡まりミイラとかす、男二人は瞬時に回避した。
「装備型なのに大層な属性攻撃ですね」
「歳!甘く見てると死ぬぞ!」
そういうと、細身の男は手を天に突き上げ、ゴツイ男は四ん馬になった。
「歳三さん、麗雲水刃」
「勇!状態白虎!」
細身の男は装備型、水流によって形成された刀。ゴツイ男は牙が生え、手足の爪は鋭くとがってる、馮位合体型だ。
「義経、あの四聖獣の白虎だよな?あんなのに俺達二人で勝てるのか?」
『案ずるな、経殿には我々がついてる、それに経殿は王になる人だ、死ねない』
経の目付きが変わり、右手を下に、左を逆手で上げた、経は精神を集中し叫んだ
「義経!疾風双刃!」
経の手には二刀一対の刀が握られていた、細身の刀だが威圧感はある、通常より短い刀を右手は通常通りに、左手は逆さにして握られてる。
「美しい刀身ですね、ですが私は巴さんの方へ」
「じゃあ俺は義経!」
ゴツイ男は経の元へ、細身の男は巴嘩の元へ向かった、しかし巴嘩には一つ理解出来ない事があった、それは属性関係だ
「貴方何で先に私を選んだの?属性を考えたら不利じゃない?」
「美しい者と強い者に目が無いんですよ、だから、属性何て関係ありません、私をガッカリさせないで下さいよ」
「最期に一つ、貴方の魂玉は‘土方歳三’よね?」
「そうです、貴方は巴……!?」
巴嘩は、相手が名前を言い終わる前に突進した、細身の男は受け太刀をしたが力で押し負け、10mほど飛んだ
「貴方の話は聞く気は、ミジンコほども無いわ」
「そうですか、不意打ちとは言え中々でしたよ、流石馬鹿力で有名な巴さんだ。でも敵の名前を知らずに殺すのはつまらないでしょ?私は美濃歳那です」
「袋小路巴嘩!行くわよ!」
10mは間合いの内に入らない、一瞬で巴嘩は上段から斬りかかる、しかし歳那もそれを許さない、後ろに避け斬り返そうとした時だった
「木槍!」
地面から鋭い木の根が出てきて歳那に襲いかかる、歳那の姿が見えなくなるほどの量の根が圧倒的力を感じさせたに思えた、しかし次の瞬間巴嘩の淡い期待は目の前の光景の如く砕け散る事になった
「何だかムカつきますね、僕が圧されてる?フフッ!笑わせないで下さい、力を抜いていたからですよ!」
「貴方まだ生きてたの!?」
その瞬間、歳那を突き刺したハズの根が氷始めた、辺り一帯が冷気に覆われるほどの強い力で、次の瞬間根が砕け散った、しかも歳那は傷どころか服の乱れや汚れすら見当たらない
「う、嘘でしょ?こんな化け物に勝てる訳がない、属性を無視して凍らせるなんて」
「あぁ、美しい顔が恐怖と絶望の海に呑まれるその顔、そそりますね、決めました、凍らせて私のコレクションにします、……」
歳那が目の前から消えた、亜音速までついていけるハズの巴嘩があっさりと見失った、気付いた時には遅かった、歳那は音速以上の速さで巴嘩の前にいた
「一生、この美しい顔が私の物になる。あぁ、考えただけでめまいがする、巴嘩さんもそうは思いませんか?」
巴嘩は声を出せなかった、‘恐怖’と‘死’からの絶望感から
土方歳三
新選組副長、鬼の副長と呼ばれ、隊をまとめるタメに局中法度なるものを作成、違反者には切腹という重い罰を与えた。戊申戦争で、新政府軍の一発の銃弾により倒れた