弟十七陣
次郎と龍奴は居酒屋をはしごしていた、当然全ては経の金で、次郎は龍奴が先に酔ってしまい自分が酔う前に酔っ払いのお守りになってしまった、次郎は龍奴をタクシーに無理矢理押し込んで金だけ置いてタクシーを経の家まで向かわせる。
次郎はタバコを買いにコンビニに向かった、既に時計の針は12時を回っていて大きな路地を一本外れると人は皆無だ、次郎は夜風と途中の自販機で買ったミネラルウォーターで酔いを冷ましながらコンビニへの最短ルートを歩いていた。
途中のコインパーキングで適合者の気配を感じた、恐る恐る近付いてみるとそこには衰弱しきった一人の少女が壁に持たれて座っていた、髪は短く恐らく経よりも短いだろう、大きめのシャツにデニムのミニスカートなのでほとんどスカートが見えない、左目の下にはハートのタトゥーが彫ってある、次郎は慌てて駆け寄って声をかける。
「お〜いどうした?どっか具合でも悪いのか?返事しろよぉ」
次郎は頬を叩きながら呼び掛けた、少女はそおっと目を開くと次郎と目があった、次郎はニッコリと微笑みかけると少女は枯れた声で何かを言っている。
「喉枯れてるね、これ飲む?」
次郎は先程買ったミネラルウォーターを差し出すと少女は奪い取るような感じでミネラルウォーターを取り一気に飲む、次郎はそれを見ながら笑って言った。
「間接キスだね」
「ブッ!!」
少女は勢い良く水を次郎の顔めがけて吐き出した、次郎は苦笑いを浮かべながら顔を拭いて少女の口元も拭いた。
「まだ喉渇いてるでしょ?」
少女は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに頷く、次郎は魂脈を逆回転させて指から水を出した、それをそっと少女の前に差し出す。
「飲みな、体に染み込み易いようにしてあるから」
少女はそれをぼーっと眺めた後に次郎の手を持って水を飲んだ、あまりに喉が渇いていたのか次郎の指をくわえながら水を飲んでいる、次郎は苦笑いしながら水を出し続けた。
飲み終えて少女は満足そうな顔をすると腹が鳴った、少女は顔を真っ赤にしてお腹を押さえると次郎は笑ってそれを見ている。
「お腹空いてるんだ、俺が買ってくるからココにいてね、逃げても適合者だから居場所は分かるけどね」
次郎はその場に少女を置いてコンビニに向かった、少女の反応は動く事なくその場に止まり続けている。
次郎は両手に大量の食料の入ったコンビニ袋をぶら下げてくわえ煙草をしながら歩いていた、買いすぎた事を後悔しながら美しい満月を仰いでいる、次郎は満月が大好きだった、武志に殺された彼女が満月が大好きだったからだ、満月の夜は毎日あって月見をしていた、懐かしい思い出を運んでくれる満月を次郎はタバコの煙で雲をかけた。
駐車場にはまだ少女がいる、次郎は笑いながら両手に持っている袋を上げると少女は笑顔になった、その笑顔を見て次郎は更に明るく笑う。
「どれくらい食べるか分からなかったからいっぱい買ってきた、…………って言っても買いすぎだよな」
少女は顔を横に振ると中から弁当を引きずりだした、割箸を割って手を合わして親指に割箸をを挟む。
「いただきます」
凄く小さな声でそれだけ言うと口を大きく開けて弁当を掻き込む、あっという間に一つを食べ終えると他の弁当に取り掛かった、次郎は嬉しそうな顔でそれを見てる、少女は箸を止めて次郎を上目使いで見た。
「はしたない女の子は嫌いですか?」
「全然、可愛いよ」
次郎はその透き通るような声に惚れていた、心の奥に染み渡るような、小鳥のさえずりよりも優しいその声が。
少女は顔を真っ赤にして再び弁当を掻き込んだ、しかし慌て過ぎて喉にご飯を詰まらして胸を叩いてる、次郎は2リットルペットボトルのお茶を開けて少女に渡した、少女は小さい両手でペットボトルを掴んで物凄い勢いでお茶を飲んでる。
「ハァハァ、ありがとうございます」
「慌てなくても良いよ、可愛い顔にこんな物が付いてても気付かないくらい必死にならなくても」
次郎は少女の口元に付いたご飯粒をとって自分の口に放り込んだ、少女は茹で蛸みたいに顔を真っ赤にして一口ずつご飯を食べた。
次郎が適当に買ってきた異常な量の弁当を少女は全て食べ終えた、少女は2リットルペットボトルのお茶を2本飲み干して次郎にお辞儀する、次郎は微笑みながらタバコに火をつけた。
「お腹いっぱいになった?」
「はい、ありがとうございます」
少女は最初の頃とは違い覇気が戻った、次郎はあれだけの量の食品がこんなに小さな体に収まった事を信じられずにいる。
「名前なんていうの?ちなみに俺は次郎ね」
「私は晴季です。男の子に間違えられるけど正真正銘の女の子です」
次郎は晴季と武志に殺された彼女を重ね合わせていた、外見は違うけど雰囲気が似ている、何かが晴季と似ているのだった。
「何で晴季ちゃんはこんな所で行き倒れてたの?」
晴季は顔を真っ赤にしてうつ向いてしまった。
「異端退治と人捜しをしてるんですけど、……………食料とお金が底を尽きて」
「それで行き倒れね。で、異端退治はともかく人捜しって?」
「兄を捜しているんです、兄はある日何かに取り付かれたようにおかしくなってしまったんです、夜な夜な人を殺したり、いきなり暴れだしたり、今だから分かりますけど兄は魂玉に取り付かれいたんだと思います。だから兄が他人に迷惑をかけないうちに、私が兄をこの手で………………」
次郎は笑顔が消えて黙ってしまった、晴季の兄に近い男を経と殺しているからだ、晴季の前にいる次郎は兄の仇、晴季にとっては恨むべき存在。
「念のタメに聞くけど、晴季ちゃんお兄さんって武志って名前だったりする?」
「兄を知っているんですか!?もしかして兄が何か迷惑を?」
「実に言いにくいんだけど、……………武志は死んだよ、正確には俺が殺した」
晴季は驚いた表情を浮かべてその後に晴れ晴れとした顔になった、次郎は晴季の顔を直視出来ないでいる、晴季は次郎の肩に手を置いて微笑んだ。
「ありがとうございます、兄は苦しんでいました、兄に残された道は死しか無かったんです、兄に代わって私が言います、本当にありがとうございます」
「ゴメンな、本当にゴメン」
二人の間に長い沈黙が続いた、しかし二人の沈黙は無理矢理引き裂かれる、二人は強い異端の反応を感じた、今までの異端よりも強い反応に加えて量が多い、二人は険しい顔をして立ち上がった。
「あぁ最悪だ、さっき派手に殺りあってきたばっかなのに、タイミングってものを考えて欲しいよ」
「次郎さん、協同戦線ですよ、さぁ、行きましょう」
晴季は次郎の手を引いて走った、暫くすると二人はその場から消える。
二人はたどり着いたは良いが異端の集団のど真ん中にいた、しかも異端がおかしい、人型ではなくゴリラのような獣型だ、空には大きな鳥のような異端もいる、次郎は異端といえば人型であったために少し動揺していた。
「次郎さん、落ち着いて下さい、形は違ってもただの異端です、大した事はありません」
「あぁそうだな、パパッと片付けるぞ」
二人は魂脈の流れを速めた、二人とも何故か笑っている、今、この状況を楽しんでいるようにみえる。
「小次郎!神清氷刃!」
次郎の背中には身の丈ほどの長刀がある、晴季は次郎と背中合わせになった。
「晴明!呪符五行!」
晴季の手には様々な文字の書かれた呪符があった、変わった装備型の魂玉を次郎は後ろ目で見ている。
安倍晴明、平安時代に悪霊退治などで活躍した陰陽師、一般的に日本で言われる陰陽師はこの人だ、色々な術を使いこなしたといわれている。
「鷹よ!我が翼となり、刃となれ!」
晴季が呪符を何枚か投げるとそれは大きな鷹の形を成した、鷹は地面に降りてくるとその上に晴季が乗る。
「晴季ちゃん、上は任したよ、下は俺が潰すから」
「はい」
「晴季ちゃんは上の奴らだけを気にしてれば良い、俺は下だけを気にするから。信じてるよ」
そういうと次郎は異端の中に走って行った、晴季はそれをみて跳び上がる、空には大量の鳥型の異端がいた、一匹の異端が次郎めがけて急降下した、晴季は呪符を異端な投げる、異端は呪符が当たった瞬間に激しく燃えて灰となった。
「貴方達の相手はこの私です、よそ見をしてると死にますよ」
後ろから一匹の異端が突進してきた、鷹は軽く飛び上がり下を異端が通った瞬間に爪で捕える、首と胴体を掴んでそのまま引き千切った、晴季は跳び上がり一回転して呪符を投げる、異端に当たると燃え尽きそれらが輪を描いた。
「綺麗」
そのまま鷹は飛び回り鷹は爪と口で、晴季は呪符を投げて次々と異端を殺していく。
地上では次郎が異端を斬っている、次郎は異端を全く近付けずに自分の間合いで戦っている、しかし次郎はそれに嫌気がさしたらしい。
「あぁ、めんどくさいな、疲れるけど一気にいくか」
次郎は勢いよく地面に魂玉を突き刺すと物凄い勢いで魂脈の流れを逆回転させる、次郎が口角を上げた。
「氷林降誕!」
地面一帯に氷のトゲが出てきた、異端は全てそれに刺さって死んでいく、氷が砕け散ると地面はグチャグチャだった、次郎はそのまま座って上を見上げた。
晴季は大半は殺したがまだ残っている、晴季も長々と戦ってるのに嫌気がさして大量の呪符を空に投げた。
「降り注げ、岩達よ!」
空からは大量の岩が降って来て異端を貫く、次郎はその光景を眺めて青ざめた、地面に沢山の岩が降り注いだ、次郎はそれらをギリギリで避けていたが足場が悪いタメに転んでしまった、転んだ次郎めがけて岩が降ってきたが鷹が目の前にきて鷹が盾となって防げた、しかし再び次郎が空を見ると今度は晴季が降ってきた、スカートを押さえながら慌てている、次郎は落下地点までいって晴季をキャッチした。
「おかえり」
「…………ただいま」
「気にするなとは言ったけど把握しといてよ、死にかけたよ」
「ごめんなさい」
次郎は笑って抱き抱えたまま消えた、次郎と晴季が消えた後はまるで地面が引っくり返ったような状況になっている。
次郎と晴季は先程の駐車場いた、空は既に日が昇っている、次郎が時計を見ると8時を回っていた、そして肩に目をやると晴季が寝ている、次郎は晴季の頭をそっと撫でると晴季はその手を掴んだ。
「あったかい、朝ですか?」
「そうだよ。寝顔可愛いね」
晴季が顔を真っ赤にしてると次郎がタバコに火をつけた、晴季は起きても次郎の肩に頭をのせている。
「晴季ちゃんは行く所はあるの?」
「兄がいないのならもう行く所は無いです」
「なら俺らが住んでる所に来なよ、俺の他に男が二人、女が二人、部屋とお金なら有り余ってるよ」
「良いんですか!?」
晴季は満面の笑で次郎の顔を見た、次郎はタバコを噛みながら歯を剥き出しにしながら笑った。
「晴季が良いんなら良いよ」
「ならお願いします」
次郎は立ち上がって晴季に手を差し出した、晴季は次郎の手を掴むと次郎は思いっきり引っ張る、晴季は勢い余って次郎に抱きつくような状態になった、晴季はそのまま動こうとはしない、次郎は晴季を前の彼女と重ね合わせてみていたが今は晴季という個人を見ている、次郎と晴季は朝日を背に手を繋ぎながら帰った。