第十五陣
次郎は勇治の突進を受けて吹っ飛んだ、ダメージは殆ど無いが防いだ時に魂玉で防いだタメに手が痺れていた、勇治が歩いて来た後は爪の跡がくっきりと残っている、重量があるのもあるがその爪の鋭さに次郎は身震いした、飛ばされてる最中に口からタバコを落としたためタバコに火をつけて煙を吐き出す、そして口にくわえて構えた、勇治も構えた瞬間に勇治の下から氷の柱が出てきて勇治を突き上げる、勇治の重くなった体すらも軽々と浮き上がらせて次郎は空中で斬りかかる、しかし勇治はあっさりと魂玉をくわえて次郎を下に叩き落とす、次郎は着地して上を見ると勇治が爪を剥き出しにして落下してきた、何とか横に避けた次郎は再び構える。
「でかくて重いくせに軽々と動くもんだな」
「それが白虎ってもんよ!本気出せよ、死ぬからな!」
勇治物凄いスピードで突進してきた、次郎は自分の間合いに勇治が入った瞬間に素早く上段から斬りつける、勇治はギリギリで避けるが次郎が下まで振り抜いた瞬間次は下段からの素早い切上げで勇治の頬にかする、勇治は地面を叩き次郎の頭の上を通って5m程先に着地する。
「なんだよ惜しいな、燕返しを避けるなんてなかなかやるね」
「いやぁ!焦った焦った、あの間合いからあれだけ素早い攻撃をされたら避けきれねぇ!」
「初撃を避けただけでも立派だよ、次は外さないけどね」
「おう!そうだな、次はねぇんだから外すも外さないもねぇな!」
「口だけは達者だね」
次郎は構えて勇治に突っ込んだ、次郎の周りからは水弾が発射され、勇治に襲いかかる、しかし勇治はその全てを前足で消しさった、だが目の前は先程の水弾の霧で視界が悪くなっている、霧を引き裂いて最初に勇治の目に入ったのは次郎の魂玉の切っ先だった、勇治は間一髪のところで後ろに避けるがすぐに次郎が間合いをつめる、次郎の連撃に防戦一方の勇治、次郎の大きな間合いとその魂玉の長さを感じさせない素早い斬撃に勇治は圧され気味だった、それに追い討ちをかけるように次郎の水弾の雨が降り注ぐ、勇治は前足・後ろ足・口・尻尾を使ってなんとか避けてるようにも見えた、しかし先程から勇治の顔色は何一つ変わらず不敵な笑を浮かべてる、まるで攻撃させてやってると言わんばかりだ。
「もっとだ!もっと楽しませろよ!残り物には福があるんだろ!?」
「さぁね、お前にとっての福が何を表すのかが分からないし」
次郎は更に斬撃を速めて勇治を追い込む、それだけではなく今までは水弾だったものを氷塊に変え防御時に加わる衝撃度を増やした、それによって若干の隙が出来る事を次郎は望んだ、しかしその僅かな望みはことごとく氷塊と同じように打ち砕かれる、勇治は顔色一つ変えずに全てを防ぎきる、次郎はこのままでは埒があかない事に気付いた、時既に遅し、次郎の魂玉は目の前にある岩壁にめり込んで動かなくなっている、その岩壁を打ち砕いて砂塵と共に勇治が飛び出して来て次郎の左肩に噛みつきそのまま投げ飛ばした、次郎はサッカーボールのようにバウンドしながら木に当たり停止する、暫くして土煙の中から左肩を魂玉を持った右手で押さえてる次郎が出てきた、左手から血が流れ出して次郎が歩いた所に線を残している、次郎は苦悶の表情で左肩を凍らす、そしてポケットからタバコを取り出して加えて火をつける。
「今のはヤバかったな、でもまぁ、何とか動くし、どうにかなるでしょ」
「お気楽な奴だな!気付いたら死んでるぞ、気を付けろ!」
「忠告ありがとね、でもどっちかって言ったら死ぬよりは殺す方が好きだから、あっ、殺人鬼とかその類じゃないよ、死ぬよりはマシって事」
勇治は大声をあげながら大笑いをした、人の図太い声にも、虎の雄叫びにも似た大きな声で、それにビックリして次郎はタバコを落としそうになった。
「確かに!100人中95人はそう答えるだろうな!」
「後の5人は?」
「自殺志願者だな」
「おぉ!なんかお前とは気が合いそうだな、味方だったら良かったのに」
「そうだな、地獄で飲み明かそうぜ!どちらが地獄で待つかは……………」
「弱い奴だね」
勇治は笑いながら構えた、純粋に戦いを楽しんでるのもあるが、良い敵に巡り会えた満足感が大半を占めている。
次郎は魂玉を戻すと更に魂脈の流れを速めた、その流れを感じて更に勇治は笑いが止まらない、辺り一面に冷気が立ち込めて次郎の足下は凍り始めた、次郎の背中には大きな氷の塊が出来た、魂脈の流れが最高潮に達した時に氷の塊が弾けとぶ。
「小次郎!魂玉段階弐式、神牙凍刃!」
次郎の背中には鍔から伸びた二つの刀が切っ先で一つにした猫の瞳の様な刀があった、それを見て勇治は地面を揺らしながら興奮した、次郎は刀を鍔から切っ先にかけて触れると猫の瞳の穴の部分に液体窒素が溜まる。
「おぉ!スゲェじゃねぇか!これ以上に俺を楽しませてくれるのか!?」
「まぁ、飲み会は信征を倒してからな、それまで待っててくれよ、地獄でな」
次郎は燕返しをした、二つの窒素の刃が勇治に向かって飛んで行く、勇治は地面から岩壁を出して防ぐが全てを防ぎきれずに岩壁が砕けた、砕けた岩壁の向こう側からもう一つ窒素の刃が飛んできて避けきれずに尻尾に当たり尻尾が凍った。
「グッ、グアアァァァ!!……………なぁんてな」
勇治は苦しんだフリをしていた、尻尾は剥がれ落ちて新たな尻尾が現れる、それは新たな尻尾ではなく外に土を塗って鎧としていたのだ、勇治が大きな声で吠えると体の周りあった土の鎧が剥がれ落ちた、次郎の顔がひきつって魂玉を握る手に力が入る。
「それだけのハンディアンカー付けてアレだけのスピードかよ、これはマジでヤバめだな」
「さぁて、ちょいと力出すぞ!気を付けろ!」
勇治が姿勢を低くした瞬間次郎の視界から勇治が消えた、気付いた時には後ろにいて魂玉を振って攻撃をしようとするが当たらない、当たらないどころか右肩に爪がかすった跡がある、傷に気付いた時には次郎は勇治に後ろから突進されて飛ばされていた、とっさに水のクッションを作り防いだがダメージは大きい、次郎は立ち上がり勇治の方を見ると勇治が見当たらない、次郎は右足を軸に回転して円形に窒素の刃を放つ、そして上を見ると勇治がいた、勇治めがけて再び窒素の刃を放つ、勇治は前足で弾いたが僅かに付着した窒素により所々火傷を負った。
「俺も本気出すからな、お前も本気出さないと気付いたら凍ってるよ」
「何だか俺が本気を出してるみたいな言い様だな!?」
「本気だろ?」
「そんなに俺の本気が見たいなら見せてやるよ!ただし、記憶に残る前に殺すがな」
勇治の魂脈の流れが一気に速まる、そして体中の毛が金色に染まっていく、そして唸る様に鳴くと大きな声で吠えた。
「勇!状態麒麟!」
勇治の体が大きくなり牙は剥き出しとなった、角も生えていて金色の毛に長い手足、まるで馬のような風貌だが筋肉が異常だ、体は麒麟そのものだった、現代に生きるキリンではなく神獣の麒麟だ。
「……………デケェ、でも動きは更に鈍くなったんじゃねぇの?」
「試してみるか?」
地に響くような声だが美しい、まるで心に話しかけてくるような声だった、勇治は軽く体を沈ました瞬間に消えて次郎の後ろに現れた、前足で軽く薙払うと次郎は勢いよく吹っ飛んだ、木を何本か折ってやっと止まった、痛む体を無理矢理起き上がらせて魂玉を握るが力が入ってない。
「次で終わりだ、言い残す事はねぇか?」
「芋焼酎が飲みてぇな」
「残念だがそれには答えられねぇな、持ち合わせてない」
「なら、ココでお前を殺して買いに行くよ」
次郎は圧倒的な力の差を感じていた、立っているだけでもやっとだ、魂玉を握ってるのでも賞賛に値する、次郎が気付いた時には次郎の体は宙に舞っていた、勇治に口で投げられたのだ、勇治は大きな口を開けて次郎の落下地点にいた、次郎に体を動かす力も残ってなく手に握っていたハズの魂玉は消えていた。
「そこまでです!」
「…………!」
勇治がよそ見をしたお陰で次郎は地面に叩き付けられた、次郎はその場に人形の様に横たわったままピクリとも動かない、勇治の目線の先には秀美が立っていた。
「信征様からの命令です、今すぐに帰還せよとの事」
勇治は次郎を見て状態を解除して人間に戻った、そして次郎を蹴り飛ばして亀裂の中に消えて行った、秀美は動かない次郎を見て近より次郎の頬に手をあてる。
「綺麗な顔だったのに、私達に戦いを挑んだのがそもそもの間違いだったようね」
秀美は立ち上がり亀裂に入って行った、一人取り残された次郎は意識が混濁するなかでこれ以上ない死への実感を感じていた、そして次郎の瞼は落ちたまま開かなくなった。