第十一陣
経と巴嘩の殺し合い(実際は死ねない)を見てる次郎と四奈は空間に響く生体反応を微弱ながら感じた、そしてその反応の魂脈の流れが急に速まる、四奈は反応を感じると顔をこわばらせて苦笑した、次郎はその異様な速さの魂脈の流れを感じて嫌な胸騒ぎを覚えた。
「四奈ちゃん、悪いけど二人の修行は終りみたいだね」
「そうみたいだね」
四奈は経と巴嘩を取り囲む空間を二分する、片方は経、片方は巴嘩、普通に空間を無くした時にどちらかが攻撃をしたらシャレでは済まされない、二人も終了の意を悟って魂玉を戻した、四奈も戻して外部の空間を感じた経と巴嘩の顔色が変わる、大きな適合者の反応、しかしそれ一つだけしか感じない、異端の反応も他の適合者の反応も。
「何だよこれ?」
「た、多分、死刑執行人、半哉が来たのよ、……………私を消しに」
全員黙ってしまう、四奈は体を震わせながら歩いて行く、戦うつもりなのだろうが相手の力量を知ってるが故に震えが止まらない、経が見かねて肩を掴んで制止するがそれを振りきって微笑む、しかし顔は冷汗でいっぱいだ。
「大丈夫だよ、経さま、怖いけど勝つから、絶対に死なないから、だから安心して」
「なら俺も………!」
「それじゃ駄目なの、これは私と経さまが歩む上で避けては通れない壁なの、みんなの力を借りるのは簡単だけどココでみんなに甘えたら遅かれ早かれ死んじゃうよ、私一人で勝たなきゃいけないの、だから一人で行かせて」
経は四奈と同じ目線まで屈んで四奈の頭をクシャクシャにした、今出来る最高の笑顔で涙を堪えてる四奈の顔を覗きこむ。
「子供のクセに考える事は一人前だな。そこまで言ったんだから絶対に勝てよ、生きて帰ったら何でもしてやるよ」
四奈は経から離れて経達に背を向けた、そして涙を拭って廃屋の窓から見える太陽を見る。
「みんな待っててね。…………それと、私17歳だから」
涙を一粒と捨てセリフを残して四奈は消えた、経と次郎は驚きを隠せないようだ、巴嘩は後ろの方で誰にも見られないようにすすり泣いている、この中で四奈と戦ったのは巴嘩のみが四奈の力を知っている、それ故に半哉と四奈の力の差が分かってしまった、経と次郎は四奈の勝利を信じていたが巴嘩だけは違った。
広い公園のベンチに腰掛ける一人の男、表情は読み取れない、男の30m先に四奈が現れる、それを見て男もとい半哉は髪を後ろにもっていき一つにまとめる、目にはサングラスをかけていてやはり表情は分からない、四奈は震える体を抑え込むだけで精一杯だ。
「最期に二つほど質問する、1・戻る、2・死ぬ、選択の自由は与えた、選べ」
「3・貴方を殺して前に進む、これに決定」
「残念ながら交渉決裂のようだ、後悔先起」
「四郎よ、我が刃となりて聖を持って咎人に裁きを下せ、死の旋律は血の戦慄によって奏でたまえ。聖の舞」
四奈の周りに聖の球体が浮かぶ、そして半哉は魂脈の流れを速める、やはり異常な魂脈な流れが速い、四奈は覚悟を決めて集中する。
「半蔵、風の流れを刃と変え、前に佇む闇の僮どもを疾風の羽衣で絶つ。属性馮位、風の閃き」
辺り一帯に強い風が吹くと半哉の体の周りに風が吹き始める、半哉も四奈と同じ属性馮位型だ、属性は風、風の属性馮位型は殆どをスピードにおき体術中心の戦いとなる、しかしスピードは尋常ではないタメに防ぐことも出来ない事もある。
服部半蔵、日本の忍者の代表的存在、伊賀の忍者で徳川の家臣として暗殺・スパイを中心に活躍した。
「そういえば貴方も属性馮位だったわね」
四奈は両手を刀に変化させる、そして構えて相手に走って行く、しかし一瞬で目の前から消えて後ろに現れる、殴ろうとしたが背中の辺りに岩を隆起させるがそれを砕いて四奈を殴り飛ばす、四奈は球体を網のように広げて体を守る、しかし一瞬で四奈の目の前に半哉が現れ腹に一撃をいれる。
「ガハっ!!」
四奈は口から血を吐いて下に落ちる、腹を抱ながら起き上がると半哉は10mほど先で立っていた、四奈は体を球体で覆って回復する、半哉は四奈が回復するのを待つかのように腕を組んで眺めてる、四奈が球体を元に戻すと腕をブランと下に垂らす。
「終りか?」
「待っててくれたんだ、優しいのね、でも、それが命とりになるわよ」
「弱犬程良吠」
今度は半哉の方から走って来る、瞬きの間に目の前に来ていた、半哉は殴ろうとしたが四奈の球体が板状になってそれを防ぐ、そして四奈の球体が四方八方から飛んでくる、だが半哉にそれをかわすのは目を瞑って赤子を抱きながらでも出来る、四奈は球体を半哉に降り注がせながら地面は足場が無いくらいに燃やし空からは氷の矢を降らせる、半哉は何とか足場にする地面の火を風で消して避ける事しかできない、四奈も今の状況を持続させるだけで精一杯だった。
徐々にではあるが球体が半哉の体をかすり始めてきた、地面の炎も空から降る氷の矢も変わらない、そして半哉の腕に球体の一発が命中した、その瞬間体制を崩した半哉を球体が次々と襲う、まるで球体同士が半哉という球体をキャッチボールするかのように半哉を弾き飛ばす、そして四奈は地面トゲにしてそこに半哉を突き落とし全ての球体が上空から半哉を襲う。
「し、死んだ?」
半哉は四奈の期待を裏切るかのように立ち上がった、半哉の体は無傷とまではいかないがあれだけの攻撃を受けたにしてはキズが少なすぎる、半哉は空中で全ての球体をガードしていたのだ。
「甘いな、最後のトゲは効いたが他は大した事が無い」
「そうかしら?もしかして貴方ほどの人がこの状況にまだ気づいて無いのかしら?だとしたら私は過大評価を今後の課題にしなくちゃね」
「………………!!」
半哉は辺りを見回して気付いた、さっきの攻撃は全てフェイクであった、半哉の動きを封じているのが目的であった、そして半哉の動きを封じて得た結果は。
「………増えてる」
球体の数が初期の3倍〜4倍近くにまで膨れあがっている、そして球体は徐々に大きくなり、ある程度まで大きくなると二つに分かれる、それを繰り返して徐々に増えていってるのである、これが聖の属性馮位の能力である、風が瞬身ならば聖は増殖、長期戦になれば圧倒的に聖の方が有利なのだ、それを誘うために四奈はあえて単調な攻撃を仕掛けたのである。
「これだけ増えれば十分ね、これから貴方は私に指一本触れられないわよ、これが最大の防御であり最大の攻撃なの。聖なる審判」
球体の一つが大きくなりカプセル状に四奈を覆う、そして他の球体は半哉に襲いかかる、四奈は相手の攻撃を受けないばかりか攻撃を常に仕掛け続けられる、しかも球体は増え続ける、相手が死ぬまで続けられるまさに最強の技だ、しかし半哉はカプセルに近寄りそれに手をあてる。
「例え魂玉越しでも俺の攻撃はあたる、残念だったな」
「それは貴方の方よ」
四奈が笑うと半哉が触れてるカプセルの面が半哉の腕を掴んではなさない、そして次々球体が襲ってくる、半哉がいくらあがいても手は抜けず球体のサンドバッグ状態だ。
「クッ!仕方ない。…………グッ!」
半哉は風の刃で自分の肘から先を切断してその場を逃れる、カプセルに半哉の肘先だけが残っている、四奈は半哉の腕を落としてそのまま攻撃を続ける、しかし半哉もそれで終わる訳がない、半哉は残った左手を地面に突き刺す、そして次の瞬間四奈のカプセル内にカマイタチが起こり四奈がズタズタに斬られる、そして球体の攻撃もおさまる。
「ハァハァ、これで終りだ」
「あ、あぁ、痛い、やっぱり無理な、なのかな?」
「ハァハァ、死ね」
半哉は四奈を空中に蹴り上げてそのまま空中で蹴り続ける、四奈はもう指を動かす力も残っていない、半哉は地上に降りると四奈の頭を掴んで持ち上げる、四奈は人形のように動かない。
「魂玉があるという事はまだ生きているのか、しぶといな、だが次で楽にしてやる、肉片一つ残らないくらいにな」
「………………け、経さま」
四奈が僅かな声を発した時に球体が半哉を弾き飛ばす、油断していた半哉は5mほど飛ばされたところで受け身を取る、半哉の目に入った光景は金色に輝く球体達と四奈、球体と四奈は強い光を放った、半哉はサングラスが壊れていたため目を反らした、次に目を開けた時には周りには四奈が大勢いた、どれもが全く同じな四奈だ、しかしそのどれもが動こうとはしない、ただうつ向いて佇んでるだけだ。
「所詮この程度か、これくらいでなんだ。極・疾風刃」
半哉の属性攻撃は大きな風を起こして全ての物を切り裂いた、ベンチも木も外灯も看板も、しかし四奈達だけは全てが無傷だった、感情が無いハズの半哉が恐れを抱くほどだ、四奈達何も変わらず、何も動かず、何も感じない、まるでマネキンが立ってるようだった。
「ハァハァ、有り得ん、ならば探せば良いだけ」
半哉は一つ一つを蹴りながら回った、本物がいたなら必ず吹き飛ぶはず、半分以上蹴り疲れて一瞬動きが止まった時だった、半哉背中から誰かに抱きつかれた、そしてそこには四奈がいる、四奈の外側が剥がれて半哉を覆う、剥がれた後にはボロボロの四奈がいた、他の球体が半哉のくっつき大きな球体が出来た。
「こ、今度こそ私の勝ちね」
四奈は手を開いて前に突き出す、そして握ると同時に球体が縮み始めた、中からは骨が砕ける音と半哉の叫び声だけが聞こえる。
「グワァァァ!し、死ねぇぇぇぇ」
「ギャハっ!!」
半哉の大きな叫び声と共に四奈の背中が大きく切り裂かれる、そしてその場に四奈は倒れた、球体は消えて中からはグチャグチャに原型を止めてない半哉が出てきた。
倒れて気を失ってる四奈の前に茶髪でパーマの男が現れる、その男の顔は険しく傷口を見るとそこに触れた。
「クソ痛いけど我慢しろ、生きる為だ」
当然四奈からの返答はない、男は四奈の傷口に触れて手でなぞると煙と共に傷口が焼けている、傷口を焼いて塞いだ、そして男は四奈を担いで移動した。
経達は四奈と半哉の反応が消えたのを確認した、そして違う誰かがそこにいることも、巴嘩はその場に泣き崩れた、経は頭を抱えてその場に座りこんでしまった、しかし気づくと遠くにあった反応が目の前にある、そこには茶髪のパーマの男が四奈を抱えて立っていた、男は四奈をうつ伏せにそっと下ろす、下ろした瞬間経が胸ぐらを掴みかかる。
「テメェ四奈に何した!?テメェが四奈を殺したのか?」
「違う、それよりこんなかに回復系できる奴はいないのか?応急処置しかしてねぇからクソヤバい状態には変わらねぇよ」
「私がやる」
巴嘩は泣きながら四奈の回復をする、傷はどんどん癒えていき完全に無くなった、そして暫くまつと四奈が重たそうに起き上がった。
「う〜ん。あれ?私生きてる?経さまに次郎君、巴嘩ちゃんと…………」
四奈が視線を男にやると険しくなった、そして巴嘩の後ろに隠れて震え始めた。
「あ、貴方私を殺しに来たの!?もう私は信征とは関係ないの!だからお願い、見逃して!」
男は頭を思いっきりかきながらしかめっつらをする、そしてその場にアグラをかいて座り膝で頬杖つく。
「クソが、命の恩人に向かってそれは何だよ、あのクソ兄貴んところから脱走したならお前はもう敵じゃない」
「ってかお前誰だよ?」
「俺か?俺は龍奴、お前らが倒そうとしてるクソ信征の弟」