第十陣
経達はいつものように廃屋にいた、経の球体避けは最初に始めた時の倍以上の速度になり一度に複数を避けられるようになった。
巴嘩は簡単に折れてしまう長刀での仕合、相手の攻撃をまともに受け太刀しようものなら楊枝の如く折れてしまう、巴嘩はこの修行で何とか最初から最後まで一本の長刀で仕合が出来るようになった。
次の日、次郎は廃屋に行くといつものように始めずに二人に魂玉を開放させた、そして次郎は二人をボ〜っと眺めて笑った。
「よし、じゃあ弐式を発動してみようか」
「発動って、もしかしてもう修行終了!?俺らも弐式を使えるのかよ!?」
「だからそれを確かめるの、一回魂玉を戻していつもより魂脈を速く回してみて、壱式とは違う魂玉を感じると思うから、後は始めて開放した時と同じ」
二人は目を閉じて魂脈を速めた、巴嘩は元から魂脈を使うのは慣れてるタメにあっという間に流れが異常なスピードまで達した、そして巴嘩の頭に美しい形の長刀が浮かんだ、巴嘩の周りに桜の花びらが舞はじめて巴嘩が両手を前に突き出す、桜の花びらは渦を巻き巴嘩の手元に集まる。
「巴!枯雀桜刃!」
桜の木の枝の先に桜色の等身の広い刃が10枚、花が咲いたように円形についている、巴嘩は確かな力と魂脈の美しさに浸っていた。
経は少しずつだが着実に魂脈の流れが速くなっている、以前の経とは比べ物にならないくらいだがまだ足りない、そして経は更に集中した、経の周りに風が吹き始める、そして風が渦となりその中に一筋の光が回り始めた、経が両手を開くと右手に光が降りた、光は右手から弧を描いて左手に痕を残して移動する、光の周りに全ての風が渦巻く。
「義経!疾鎖双狗!」
壱式より短い刀の柄が鎖で繋がっている、右は緑色、左手は黄色の刀身だ、経は左手に持っている刀を投げると鎖が伸び続ける、そして経の意思で戻す事もできる、経は魂玉を眺めて笑った。
「スゲェ、なんか魂脈の流れの速さが分かる、風が体の中に吹き荒れてるみたいだ。それに……、なんだろこの感覚?」
経は自分が使ってる風とは違う何かを感じた、始めての感覚だが使い方はイメージが出来る、次郎が拍手をしながら近寄って来る。
「おめでとう。じゃあ最終段階の修行やろうか」
「え?もう終わりじゃないの?弐式を開放出来ただろ」
「甘いなぁ、経は感じるだろ?風とは違う何かに。今度はそれを使いこなしてもらう、それが出来て始めてマスターしたことになる。ちなみにその力は一度マスターしたら壱式でも使えるから」
そういうと次郎が魂玉を開放した、次郎はその場に水溜まりを作りそこに手を触れる、次の瞬間辺り一面が冷えだして水溜まりが凍った、暫くすると外気は普通の温度に戻る。
「これは経が感じた奴の仲間、巴嘩ちゃんは前々からなんとなく分かってたと思うけど属性の奥には更に‘付加効果’がある、水の場合は‘冷却’、経の風の場合は‘雷電’、巴嘩ちゃんの木の場合は‘出芽’、他には岩の場合は‘鉄鋼’、火の場合は‘爆発’といった感じだね、普通は技名とかはいらないけど場合によっては必要だね、口で説明するよりやってみな」
経はイメージした、風は体を回るイメージ、だけど新しい力は体を駆け巡るイメージだ、それを魂脈の流れを逆回転させる、そうすると体を電気が包む。
「スゲェ!!体が軽い、それに空間が俺のものになったみたいだ」
「それは多分空気中にある電子が影響してるからじゃないかな、じゃあ次は巴嘩ちゃんの番だよ」
巴嘩はイメージした、木を生やすのではなく、魂玉を生やすイメージを、魂脈の流れを逆回転させる、そして前方一直線に集中する、巴嘩から一直線に弐式の魂玉が次々に生えてくる、それらは全てが魂玉なので今巴嘩が持っている物と変わらない。
「何だよこれ?相手に魂玉を渡してるようなものじゃん」
経は生えた魂玉を握ると魂玉から木が生えて経に巻き付く、そして経は身動きができなくなった。
「うわぁ!何だよこれ!?巴嘩、早くこれほどいてくれよ」
巴嘩は全ての魂玉を消した。
「凄い、これなら弐式の力をフルに使えるわ、まだまだ改良の余地はありそうね」
「はい。じゃあこれから二人に殺し合いをしてもらうから、それが最終段階ね。属性攻撃抜きで付加効果と魂玉だけで戦って」
「ちょちょちょ、ちょっと待て、殺し合うって何だよ?どっちか二人が死ねと?」
次郎は笑うと四奈に何かを言った、次郎と四奈は少し下がると経と巴嘩を収容する空間が出来た、そしてそこに穴が空き次郎が入る。
「ココは四奈ちゃんの魂玉が作り出した空間、いつも二人が回復してもらってるやつの改良版、だから……!」
次郎は経の肩口から脇腹にかけて斬る、しかし確実に斬れたハズだが経は痛みすら感じていないし傷口すらない、経と巴嘩は次郎に斬られたところを見るが痕も何もない。
「この空間で痛みは無いよ、傷口も斬れたらすぐに塞がる、例え致命傷だったとしても全てはロストされる、衝撃とかはあるけどね。この空間なら殺し合えるでしょ?頑張ってね」
次郎は穴から出ると二人に手を振っている、外部からの全てのものは遮断されるらしい、経は壁に左手の刀を投げるがビクともしない、諦めたの経は構える、それをみて巴嘩も構える。
「怪我しないなら本気でいくから、巴嘩も手加減するなよ」
「当たり前じゃない、それに今は新しい力のイメージが湧いてくるの、経ちゃんに負ける気がしない」
「あっそ、じゃあ行くぞ」
経は一足で10mほどあった差をつめる、しかし左手の刀は元いた場所に突き刺したまま、刀一振りのみで巴嘩と斬り合う、巴嘩は軽々と防ぐ、そして経に斬りかかろうとした時だった、経の魂玉の鎖が収縮して巴嘩の巻き付く、経は戦いながら巴嘩の周りを回って鎖を巻き付けていたのだ。
「残念でした、これで一回死んだ………!」
経が巴嘩を斬りつけようとした時だった、巴嘩の魂玉の刃がバラバラになって経に襲い掛る、経は鎖をほどいて全てを避けた、間一髪で避けた経は間合いをとり一息つこうとした時だった、後ろに巴嘩がいた、しかし前にも巴嘩がいる、考える暇もなく後ろの巴嘩に斬られた、斬ると後ろの巴嘩は消えた。
「魂玉だけじゃなくて適合者も生やせるんだよ、陸は全て私のテリトリー、それを頭にいれといてね」
巴嘩の魂玉の刃が回転し始めた、そして今度は巴嘩が斬りかかる、次郎は受け太刀した瞬間刀を地面に叩き落とされた、刃の回転により格段に斬撃の威力を上げたのだ、経は少し下がる、巴嘩はゆっくりと歩きながら経に近づく、次の瞬間巴嘩の胸から先ほど叩き落とした刀突きでていた、そしてそれを抜くと経の手元に戻った。
「油断大敵、魂玉でも刀は鉄らしいな、こっちに引き寄せるのは簡単だったよ」
そういう経の手元は電気が走っていた、手元を磁石化することによって落ちていた刀を引き寄せたのだろう。
「まだまだよ!」
次郎は中の二人を外から笑いながら見てる、四奈は拳を振り上げて観戦している、これだけ高度な戦いをしている経と巴嘩にただ純粋に楽しんでる四奈と次郎。
「巴嘩ちゃんも自分を生やすなんて考えたね、経はまたスピードが上がってるし、スゴいスゴい」
「キャハハハ!二人ともスゴ〜イ!ねぇ次郎君、こんなに凄い戦い見たことある?私は無いよ!」
「でも俺らはこれからもっと凄い戦いをしなきゃいけないんだよ」
経達が戦おうとしてる相手はココにいる四人でも勝てない相手だ、まだまだ四人は強くなる必要がある。
公園の一角の空間に亀裂が入る、中から髪が長くジャージの襟が高い男が出てきた、半哉だ、そして集中すると何かを感じたらしい、あえて魂脈の流れを速める。
「近いな」