表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

ロボットの好みは?

※挿絵は生成AI画像です。

 もはや、ロボットは一家に一台どころか、一人に一台の時代に入りつつあった。


 家事、介護といった仕事を24時間こなす人型ロボットは、便利なことこの上ない。


 しかし、僕は、まだロボットを購入していなかった。


 今日は、友人の家を訪ねて、ロボットを見せてもらう。購入の参考にするためだ。


 ────


 まず僕が訪ねたのは、『太田』の家。玄関でインターホンを鳴らした。


『誰~?』


「太田くん。僕だよ、『すぎ ひとし』だよ」


『あ~、入ってきて』


 ドアを開けて中に入ると、可愛い女の子が迎えに出た。ぱっちりした目に、おさげ。ミニスカートの美少女だ。


「いらっしゃい。杉さんですね。どうぞ、上がってください」


 あいつにこんな可愛い彼女がいるはずがない。この娘がロボットだ。


 部屋に入ると、太田が、太った尻をクッションに乗せて座っていた。


「あ~、仁か。その辺に座って。アイちゃん、お茶でもいれて」


「いいよいいよ。ロボットを見せてもらうだけだから」


「そう~? じゃ、続きやろうか、アイちゃん」


「オッケー、マスター」


 ()()()は、対戦ゲームをしていた。格闘ゲームの『パーシャルファイター32』だ。


 しばし見ていると、ロボットが勝った。3本勝負の1本目だが、2本目、3本目も、またたく間にロボットが勝った。


「ざぁこ♡ざぁこ♡ マスター、弱い。マジ、やる気あんの?」


「くっそー、また負けたか。よし、もう一度だ」


 な、なんだロボットのこの口の利き方は? 聞けば、言葉づかいをカスタムできるんだと。


「うわ、また負けた」


「マスター、反応速度ナメクジ。いくら練習しても、あたしに勝てないよ?」



挿絵(By みてみん)



「お、おい。太田くん、何やってんの? これ」


 僕が聞くと太田は、ロボットの方を向いて、あごをしゃくった。

 ロボットが僕に顔を向けると、瞬時に表情が変わった。


「はい。マスターは、美少女に罵られるのを、無上の喜びとしています。なので、私はそのようにカスタムされています」


 なんという性癖。しかも、説明すらロボットにさせるとは、なんというものぐさ。


 僕は、彼の家を後にした。


 ────


 次に訪れたのは、高校時代の同級生、『陰野かげの』だ。彼は、自他ともに認めるダメ人間だ。そのくせ、プライドだけは人一倍高い男だった。


「陰野くーん」


 インターホン越しにうながされるまま、家に入った。


「いらっしゃい。杉さんですね?」


 またしても女性が出迎えた。しかし、さっきと違って、大人っぽい見た目だ。ロングヘアーの黒髪で、パンツスタイル。見るからに優しげな表情だ。


 これも、ロボットだった。


 ()()に案内されて、部屋に入った。入ったとたん、ロボットが陰野のそばに行き、膝枕をした。


「杉くんか。久しぶりだね。ちょっと待っててね。すぐ済むから」


 言われるままに、座ってふたりを眺めていた。


「でさ、その上司が、まじムカつくんだ。ちょっとしたミスなのに……」


 陰野は、膝枕されたまま、ロボットに話している。


「そうね、陰野くん。ホントは、言ってやりたかったんでしょ?」


「そうなんだ。『そんなこと、わかってる。偉そうな口を利くな』ってね」


「でも、言わなかったのよね? あなた、えらいわ。相手のプライドを気づかって、黙ってたのね」


「そうなんだよ。僕は間違ってないのにさ」


「相手のために、そんなことが出来るなんて、とても勇気がいるわ。陰野くん、あなた、すごいわ。私、男らしいと思う」


「そうだろ? わかってくれるのは、君だけだよ。ベータちゃん」


 僕はこのやりとりを黙って見ていたが、ついに口を利いた。


「ね、ねえ。陰野くん……」


「あ、杉くん。お待たせ。ロボットが見たいんだったよね?」


「あ、ああ……」


 僕は、彼の家を後にした。


 ────


「そういえば」


 僕は、ふと思いだした。実家の両親が、ついにロボットを買った、と言っていたことを。

 実家には、ときどき帰るが、今日は電話もせずに訪問してみることにした。


 ────


 実家の玄関まで行って、見ると、車がない。たぶん、父さんは出かけて、母さんが家にいるんだろう。


 玄関のドアを開けると、ただいまも言わずに上がりこんだ。


 居間の方で声がする。



「ほんと? ほんとに愛してる?」


「ああ、この世の誰よりもね」


「また。うまいこと言って。それもプログラムなの?」


「そんなことないよ。僕の愛は本物さ」


「もっと。もっと言って」


 見ると、母さんは、若いイケメンの膝の上に乗って、うっとりした表情を浮かべている。


 僕は居間に突入した。


「母さん。何やってんの?」


「ひひひ仁! な、何よいきなり。ノックくらいしなさい!」


「ノックしたよ。気づかなかったの?」


 イケメンロボが、こっちを向いてほほ笑んだ。


「仁さん、おかえりなさい」


 おだやかな、耳を撫でるような声だ。


 僕は、ため息をついて家を出ようとした。


「仁。このことは、お父さんには……、ね? ね? お願い」


「わかってるよ」


 家を後にした。



 今日は疲れた、精神的に。もうロボット買うのやめようかなーと思い始めた。



 ──1か月後



 僕は、結局ロボットを購入した。やはり、ロボットの便利さには勝てなかったからだ。

 しかも、せっかくだからと、ちょっと奮発して、いろいろオプションも付けた。


「ただいまー」


 夕方、帰宅すると、すぐ玄関に出迎えが来る。


「お帰りなさ~い。仁さん」


 出迎えたのは、金髪美女ブロンドのロボット。おまけにグラマーだ。



挿絵(By みてみん)



「あたしね、仁さんが帰ってくるの、待ってたのよ。まっすぐに帰ってきてくれた?」


「もちろんだよ。マリーに会いたくて、飛んできたよ」


「ホント? あたし、うれしい」


 金髪美女のロボットが、僕に抱きつく。


「でもね。帰る途中、ちょっとだけ、5秒だけ、猫を見るのに立ちどまったんだ」


「え~、やだ。ロボットにとっての5秒は、すっごく長いのよ。あたし、待ちきれないわ」


「はは、ごめんごめん」


「もう。代わりに、うんと可愛がってくれなきゃイヤよ?」


「わかってる。わかってるよ」


 靴を脱ぎ散らかしたまま上がると、廊下の姿見が目に入った。


 そこに映る僕の顔は、ゆるみきっている。

 なんとも情けない顔だ。



 でも、いい。別に。


 誰も見ていないんだから。



 このロボット以外は、誰も。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
読ませていただきました。 はい、ホントにこういう未来があると思っています。 そして人口減少が加速、ロボットで更に補い、誰も困らないまま人間がいなくなっていく。そんな気がします。 読ませていただいてあり…
 タイトルの通りロボットの利用に人間の性がモロに出てますね。  多分これがR指定だと……。(笑)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ