試験-2-
トレイ先生に連れられて着いた先には、少なくない数の子どもたちがいた。もちろん全員貴族。
「みなさん!今から魔法の試験を始めますよ!整列してください!」
トレイ先生がそう呼びかけるとざわついていた子ども達がこちらを向く。必然的に私の方にも視線が来る。
何人かの女の子はこちらを見て頬を染めた。
なんだよ。私の顔に何かついてる?
男の子達はそんな女の子達を見て私に敵意のこもった視線を寄こすか、女の子達みたいに頬を染めるか。女の子はともかく、男の子はなんで赤くなるのか。
…やめて、こっち見ないで、視線が痛い。
「レインさん、あちらの列に並んでください。あなたの試験は最後です」
「はい」
トレイ先生が列の後ろの方を指さして言う。Lv.4は少し高すぎたか。
「では、今から魔法試験を始めます。じゃあまずはそこのあなた。受験番号と名前と得意魔法は?」
「ジルベルト・ノーク!201番です!火魔法が得意です!」
「はい、前の的に自分が最も得意な魔法をぶつけてください」
「はい!ー火炎よ、その業火で我が敵を穿てー【火炎弾】!」
!?詠唱してる!?
私の頭は?でいっぱい。
どうして詠唱なんかしてるの?なくても魔法は発動できるのに…。
混乱をよそに、少年の魔法が的に当たる。勝ち誇ったようにこちらを見る少年。威力はまぁまぁだ。だが、他の子達にはとてもすごい魔法に見えたらしく、ざわついていた。【火炎弾】は複数の火の玉を生み出し、対象に飛ばす魔法だ。私も使える。だが詠唱はしたことがなかった。というか、詠唱自体母に習わなかった。いや、でも…
他の子達は詠唱しないかもしれない。
そんな期待も虚しく、みなさん詠唱をして的に魔法を放っていた。その後も順調に試験は進み…、
「最後!名前と受験番号と得意魔法は?」
「レインといいます。218番です。水魔法が得意です」
私の番が来てしまった。
「的に向かって最も得意な魔法を打ちなさい」
「はい」
さて、どうしよう。私が今から放とうとしているのは【氷結槍】。でも詠唱なんて知らない。
なんか適当に呪文考えるか?いや、それで魔法が発動したらそれはそれで面倒なことに…。
ああもう、どうなでもなれっ。
「【氷結槍】!」
無数の氷の槍が的を取り囲み、次の瞬間発射される。
やばっ、本数が多い!
ドドドド…ッ
砂埃が晴れた時、そこには跡形もない的とクレーターが。
やぁばいぃ…
ギギギ…っとトレイ先生の方を見ると、唖然としてしていた。よほど驚いたらしい。でも流石先生、すぐ正気に戻って、
「あなた!詠唱はどうしたの!それになんなのあの氷の槍の本数は!」
…正気じゃないかも。
私は内心すごく冷や汗をかきながら、
「いや、自分もあの本数は予想外というかなんというか…」
「詠唱は?!」
「師に習わなかったもので…」
「誰に魔法を教わったの?!」
「母です」
「お名前は!?きっと御高名な方に違いないわ!……そういえば、あなた獣人族なのね…それにその白銀の髪…まさか!」
私の容姿から答えに行き着いたようである。
「はい。私の母はルーナといいます」
「やっぱり!それならこの非常識も納得ね…」
勝手に納得してくれた。というかなんだ、非常識って。現役時代に何をしたんだ母よ…。
「はっ!コ、コホン。さぁ、列に戻りなさい。今から筆記試験ですよ」
さっきの取り乱しようはどこへやら、トレイ先生は取り繕ったように笑顔を浮かべ、みんなに促した。
私はこのままお貴族様達に混じって筆記試験を受けるのだろうか?
聞いてみるとそのままでいいとのことだった。貴族も平民も問題は同じなのだそう。
ちなみにさっきの【火炎弾】を放ってドヤ顔をしていた少年…誰だっけ、シルベール?は私が【氷結槍】を放って的を粉々にしてから、ずーっとこちらを睨んでいる。強い魔法を披露して目立つつもりが、あとから私が出てきてさらに目立た魔法を放ち、完全に恥ずかしいやつになってしまったからだろう。
筆記試験の会場に行くと、また別の女の先生が待っていた。
「好きな席に座ってください。全員が座ったら問題用紙と解答用紙を配ります」
わらわらと座りだす。問題用紙と解答用紙が配られて、
「では、はじめ!」
筆記試験が始まった。
問題は簡単な足し算引き算、掛け算割り算だけで、見た目は子どもでも中身は成人女性な私はすらすらと解いていった。
…半分以上時間が余ってしまった。
見直しはもう10回はした。暇だ。寝るわけにもいかず、私は40分ほど、問題を解くふりをしながら過ごした。
やーっと終わったー!
ぐーんと伸びをして、腰を伸ばしていると、
「おい、そこのお前!さっきはよくもこの僕に恥をかかせてくれたな!」
シルベール少年が取り巻き2人を引き連れて私に絡んできた。面倒だ。ここは適当に…。
「申し訳ありません、不快だったならば謝罪いたします」
煽てとけば問題なし。
素直に謝罪されるとは思っていなかったのか、肩透かしを喰らったような顔をするシルベール少年。私は大人、こんな子ども相手にムキになったりしない。
「わ、わかっているならいいんだ。僕はあのノーク侯爵家の次男なんだからな!」
うん、ごめん、知らん。
「そうですよ!ジルベルト様は偉大なのです!」
「お兄様にも負けない才能をお持ちです!」
「そうだろう、そうだろう!」
取り巻きの2人がなんか褒めだしたので、隙を見て立ち去る。また絡まれたら面倒だからね。
さぁ、あとは合否を待つだけだ。
私は学園を後にした。
最初から目立ってしまったレイン。果たして合否は…?




