試験-1-
「レインもそろそろ学園に通う年齢になったわねぇ」
ある日、母がポツリと言った。
「……!」
「学園?アステリア学園のことですか?」
「ええ、レイン、あなたもう9歳でしょう?学園には9歳から通えるの」
ネイア様が学園のことを何か言っていた気がする。他の神子が通ってるんだっけ。
ラギア学園はここ、アステリア王国にあって世界中から生徒が集まる、9歳から15歳までが通える剣や魔法を学ぶ学校らしい。しかし必ずしも15歳まで通う必要はなく、学ぶことがなくなったと思えば、申請を出して卒業することも可能だ。必要単位はあるけどね。日本の学校の単位制みたいなものだ。卒業した者の多くはスカウトされて王宮勤めになるが、一部冒険者になる者もいるらしい。
私の夢は世界中を旅すること。言うことは一つだ。
「行ってみたいです!」
かくして、私は学園の試験を受けにいくことになったのだった。
試験当日ー。
「行ってきます!」
「「いってらっしゃい」」
家を出ててくてく歩く。乗り合い馬車がいるところまでだ。両親は馬車で送ろうとしてくれたが、流石にちょっと恥ずかしい。
もう自分で行けるもん。
あ、ちなみに私の今の服装は長ズボンにシャツを着て、その上にジャケットを羽織っている感じだ。小さい頃は女の子らしい服を着ていたけど、最近はズボンの方がしっくりくるし、動きやすい。両親は残念がっていたけど、無理には女の子の服を勧めてこなくなった。だから私の外見は肩で切り揃えられた髪も相まって、男の子みたいである。
乗り合い馬車が止まる。学園に着いたみたいだ。
御者の人にお礼とお金を払って降りる。
「でっかぁ…」
ラギア学園はとっても大きかった。なんか、お貴族様のお屋敷みたい。語彙力なくて申し訳ない。
受付らしき人が紙を配っている。受験票らしい。
「剣術、魔法、どちらの試験を受けますか?」
「両方でお願いします」
「…両方?」
「?はい」
何か不味かっただろうか。
「い、いえ、大丈夫です。案内表示に従って試験場へ行ってください。最初は剣術試験です」
「ありがとうございます」
広い廊下を歩いて試験場へ行く。貴族と平民は試験場が分かれているらしい。貴族様は教師を雇えるけど、平民は必ずしもそうじゃない。だから技量に差があることが多いんだそうだ。なるほど、確かにそう。でもうちは父が勇者に母はその仲間。そこらへんの貴族様の教師よりずっと質が高いだろう。
やっぱり手加減とか、いるのかな。ラノベならここは間違って教師叩きのめしちゃって目立つところだろうが、私はそれを望まない。めんどくさいじゃん。
そうこうしているうちに、試験場へと着いた。もう人がいっぱいいる。一人一人に木剣が配られ、整列させられた。
「今から剣術試験を始める!担当は私、ヴァイスだ!よろしく!」
若い先生が溌剌とした感じで言う。
熱血って感じだなぁ。
「じゃあまずはそこの少年!」
ビッ!とこちらを指差す。振り返るけど誰もいない。
私のことかな?私少年じゃないんだけど。でも格好は男の子だから私か?
「君のことだぞ!美少年!」
あ、じゃあ私じゃないかも。別に美少年じゃないし。
でも先生は明らかにこちらを見ている。自分を指さして?と顔で聞いてみると大きく頷いている。私か。
先生の前に進み出る。
「君!受験番号と名前はなんだ!」
「受験番号218番、レインといいます」
「うむ!私はヴァイスだ!」
さっき聞きました。
「さぁ、いつでも全力でかかってこい!」
剣を構えて先生が言う。
いや全力は絶対目立つ。
私も剣を構えた。
「いきます」
まずはどのくらいなら普通くらいになるか確かめなくては。
適当に剣を打ち込んでみる。
カンッ、カンッー!
先生は涼しい顔で私の剣を捌く。
しばらく打ち合いは続いた。
不意に、ぞくっとする。
「…?」
先生を見ると驚いた表情。なんだ。
先生が構えを解いて、
「レイン君、君は本気を出していないね?」
げ。なんでバレた?
あとから聞いたが、あのぞくっ、は鑑定されていたらしい。一応ステータスは本当のものより弱く見えるように設定していたのが不幸中の幸いだ。
「本気向かってくるといい!私が受け止めて見せよう!」
「…はい」
バレてしまってはしょうがない。でも剣術Lv.8の力をそのまま出すのはいけないので、ほどほどに抑えてー。
地面を踏み込む。一瞬で先生に肉薄し、横払い。弾かれて隙ができたところを先生が薙ぐ。重心が後ろに下がっていた私はそのまま宙返りでそれを避ける。そこに先生が剣を振り下ろす。横に流すべく、両手で剣を横に構える。木剣同士がぶつかる。
重い…ッ!
流すと先生は少し驚いた風だったが、すぐにニヤっと楽しそうに笑って、
「いいぞ!その調子だ!」
と言って、少し斬撃を速めてきた。
勘弁してくださいよっ!
受けて流して時に反撃。模擬戦はどちらが優勢ということもなく続いた。
「そこまでですよ!」
女の人の声。ヴァイス先生が剣を止めた。それはもうピタリと。いや、ビタッ、という方が正しいか。声がする方を見るとおばちゃん先生が腰に手を当てて、こちらを見ていた。ヴァイス先生は冷や汗をかきながらおばちゃん先生に言い訳をし出す。
「トレイ先生…ッ、いやあの、これはですね、、」
たじたじだ。ヴァイス先生はトレイ先生に弱いらしい。
私は、
やっと終わった。
ふぅ、と一息ついて周りを見渡す。
なんか他の子達が怯えてた。なんでぇ?
疑問に思ったところではたと思い出す。
『貴族と平民は技量の差がある。それは教師が雇えるか雇えないかの違い』
私の場合は父という師がいた。だが他の子はどうだ。もし教師がいたとしてもそこまで質は良くないだろう。と、いうことは。
やりすぎたな…。
始まる前に手加減しようって決めてたのに。これじゃ、貴族と平民で試験場を分けている意味がない。トレイ先生も同じことで怒っているらしく、ヴァイス先生が体を縮こめて、説教を聞いている。
「そこのあなた!剣術と魔法どちらも試験を受けようとしているのはあなたですか?」
トレイ先生の矛先がこちらに向く。ヴァイス先生は明らかにホッとしている。
飛び火だぁ…。
「はい、そうです」
「確認程度で聞きます。得意な属性は?」
得意属性かー、大体どれも得意なんだけど。水にしとくか。
「水属性です」
「レベルは?」
「4です」
弱めに言っておく。
「高いですね…。あなた、魔法試験は貴族の子息令嬢と一緒に受けなさい」
まだ高かったようだ。貴族と混ざって受けることになってしまった。
「さ、そうと決まれば早く魔法の試験会場に行きますよ。もう始まってしまう。ヴァイス先生!この子は合格でいいですね?」
「は、はい!もちろんです!」
そうして私はトレイ先生に連れられて剣術の試験場を後にしたのだった。
筆が乗りすぎて、魔法の試験までいかなかった…。




