【2-3/ハル、ルカ】カケラごと受け止めて③〜伝えたいことば〜
『ルカー吸血鬼ー』
「ほい、到着。」
部屋に着くと、ハルは、まだ涙目な僕をそっとベッドにおろしてくれた。
「身体、へいき?」
「…いたい……」
「だろうな。」
そう言いながら、僕の隣に腰掛ける。
「ルカ、なんで投げ飛ばされたのかわかってないだろ」
「うん」
「即答かよ(笑)」
ハルは苦笑いをしながら僕の顔を見た。
相変わらず訳がわからずキョトンとする僕を見つめながら、ハルは続ける
「もし、俺が
ルカって、雷と暗いの怖いんだってよ。ってみんなの前で笑いながら話したらーー」
一瞬、体がビクッと跳ねる
「…そしたら、お前どう思う?」
内緒にしてくれるって約束したのに、ハルがそれをしゃべっちゃったら…?
急に胸がぎゅうっと苦しくなる。
「……いや…だ…」
弱々しく、なんとも情けない声が、口元からこぼれる。
「だろ?」
ハルが僕の頭をポンポンと叩く。
「みさおも、たぶんそれと一緒。」
「え…」
「理由はわからんが、ああやって大勢がいる場であの話題、触れられたくなかったんだと思うよ。お前がガンガン突っ込んでる間、あいつ辛そうな顔してた。」
「そんな…」
全然気づかなかった。
知ってる子が増えて嬉しくて、なんだか僕と違う匂いがして、それでつい気になって…
「…どうしよう」
「謝ってくれば?」
狼狽える僕に、なんともハードルが高いことをあっけらかんと言い放つハル。
「そんなん、ちゃんと誠意見せるしかないだろ。誰でも間違えることはあるんだから。」
そして、次の瞬間、あっ!と目を輝かせた。
「料理!」
「へ?」
「ルカ得意だろ?謝るついでに、なんか美味いもの作って、持ってけば?」
そんなこと、思いつきもしなかった。
美味しいもの作って、ごめんなさいって言ったら、許してくれるだろうか。ハルみたいに、美味しいって言って、元気になってくれるだろうか…
「うまく、できるかな、、、」
「おう、行ってこい。あ、授業始まるまでには戻ってこいよ」
ハルの笑顔にもう一度背中を押され、僕は、恐る恐るキッチンへと足を向けた。
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『ハルー魚人ー』
「行ってこい」と、俺に背中を押され
まだ午前中で「元気100倍」Timeだろうに、まるで雷に打たれにいくかのようにプルプル震えながら部屋を出ていくルカ。
俺はその後ろ姿が角を曲がって見えなくなるまで、がんばれよーと笑顔で手を振っていた。
現在、朝の8時30分。
今日の授業は2限からの予定だ。
うーんと大きく伸びをして、10時過ぎくらいまでに戻ってくれば、まぁ間に合うな、なんて考えながらのんびり身支度を整える。
早起きした分余裕があったので、ここにくる前
に衝動買いした本を荷物の中から引っ張り出して、少し読むかとページを開いた。
ーーーと、ほどなくして廊下を走ってくる足音が聞こえたかと思うとバタン!と勢いよくドアが開き、ルカが飛び込んできた。
「たっ…だいま!!」
「あれ、もう終わったの?」
さっき出て行ってからまだ、30分ちょいしか経ってない。いや、廊下の突き当たりを曲がって姿が見えなくなるまでかなり時間がかかったから、実質20分かかってないくらいか…?
「一番好きなっ、ガーリックトースト作って…
部屋まで持ってったんだけど…」
「うんうん」
「…ノックしても返事なくて……ゆきちゃんが、ちょうど部屋もどってきたとこだったから…その…あずけて、、きた……」
料理を渡して“謝る”。
ミッション完遂ならず、いたたまれなかったのだろう。話しながらどんどん声が小さくなり、プシューっと音がするんじゃないかと思うくらいにみるみるしょぼくれていくルカ。
悪いと思いつつ、俺は思わず吹き出してしまった。
泣きそうなルカの背を、ポンポンとたたく。
「まぁ、頑張った頑張った。」
「ゔん…」
「そうなるとまぁ、授業中は話しにくいだろうなぁ。夕飯時がチャンスかもな。」
「夕飯……」
ルカの顔がさらに曇る。
夜は、、ルカにとって最悪のタイミングだ。
時間が解決してくれるのを待つしかないか…と思いかけたそのとき、ルカがなにか決心したように、自分の荷物をあさり始めた。
中から出てきたのは、LEDのスティックライト3本、懐中電灯3本、予備の乾電池たくさんと、工事現場で使うような蓄光反射タイプのベスト、反射板になっている大きなキーホルダーの束、ロウソク1ダース、マッチとライター、そして、ヘッドライト…
唖然とする俺に、ルカは震える声で言った。
「明るくなるもの、持ってれば、、ちょっと安心するから…!!」
お守りがわりに持ち歩くには到底かさばりそうなものばかりだが…
「全部は無理だから、厳選しないと」
呆れるくらい当たり前のアドバイスしかできない自分にも、笑いが込み上げてしまう。
そろりそろりと、中から2つほど手に取るルカ。
「あー…それにしちゃう?」
なにはともあれ、もしもの時のための準備を万端に、その後の授業と、夕食時に備える俺たちだった。
*
ー夕食時。ー
みさおは結局、授業に顔を出さなかった。
あのルカの一件の後、俺も後日授業でみさおとペアを組むことに決まり、様子を見がてら部屋を尋ねてみたら、みさおは布団に篭って、眠っていた。
(なるほど、だからルカが来た時も。)
そう思いながら、机の上に置かれたガーリックトーストの隣に、授業のメモをおいて部屋を出た。
夕飯時になってもまだみさおの姿はなかった。
今夜もなんだか風が強いようで、窓ガラスがガタガタと音を立てている。
隣で、平静を保とうと必死なルカが、おにぎりを口いっぱい押し込んでいる。
ふと、誰かがスマホを眺めながら
「わ、今日またゲリラ豪雨だってさ。昨日みたいに停電しなきゃいいけど。」
とこぼす。
…あー、、、最悪な展開だ。
俺は思わずルカの方を見る。
ルカの顔から一瞬で生気が失われ…
皆がいるにも関わらず、懐から蓄光反射ベストとヘッドライトを取り出し、無言で装着。
皆ギョッとしてルカを見つめるが、そんなの知ったこっちゃない。
さらにタイミングが悪いことに、、
その直後、みさおが食堂にやってきた。食堂の扉が開く大きな音に、ルカはあっという間に椅子から飛び降り、奥のソファ席の下に隠れるようにうずくまる。
俺は何も言えずに、ただただ精一杯安全策を講じるルカの気持ちを受け止め、いつも通り振る舞うしかできなかった。
その後のことは、、思い出すのも恐ろしい…
みさおが近づき、ルカに話しかける
朝の“ごめんなさい”と、贈り物の“ありがとう”を言いかけて…
それをバッサリと遮った、ルカの余裕がない返事が、みさおの地雷を踏んだ音がした。
「あぁ…。今どーでもいいよそんなこと。」
「はっ!?」
「まてまて、とりあえず落ち着け!!」
心配していたゆきと一緒に、あいだに割って入ったはいいが、真相は話せない。
しどろもどろでさらにイラつかせた自覚はあった。
その時ーーー
「…とりあえず先、戻ったら。」
3人に向けたセツナの一声で、わずかに空気が変わり、みさおは、ゆきと一緒に部屋へと向かった。
「まだ俺いるし。落ち着くまで見てる。」
「わりい。よろしく…」
とにかくこの状況を抜け出せたことに、安堵の気持ちが隠せない。
ルカのことは心配だったが、俺も、一度部屋に戻ることにした。
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『ルカー吸血鬼ー』
どのくらい時間がたったのだろう。
ようやくソファから顔を上げた頃には、窓ガラスを揺らす風はすっかり落ち着き、食堂の中は、しん…と静まり返っていた。
そろりと周りを見回すと、ハヤテは向かいのソファでうとうととうたた寝をし、セツナは、まだ空になった皿を片づけもせず、うずくまったままの僕の隣で、スマホを眺めていた。
「あ、、あの……」
ハルたちが部屋に戻ってからも、ずっと待っててくれた…
感謝よりも、申し訳なさが先立ってしまい、言葉に詰まる。
セツナは、僕の方をちらりと見やった。
「……ガーリックトースト」
ルカの肩が、びくっと揺れた。
「みさお、全部食べてたよ。」
「……え?」
「部屋に空の皿置いてあった。美味しかったってさ。」
そっけないその一言が、ルカの胸の中でじんわりと広がっていく。
「…ごめん……ありがとう…」
ちゃんと届いたのか自分でもわからないくらいの、小さい、ぽつりと落ちた声。
セツナはふっとひと息ついて、僕の頭をスマホでポンと叩き、席を立った。
「言う相手ちがう。」
「“ありがとう”は、ハル。」
「“ごめん”はみさおに、ちゃんと伝えな。」
めんどくさそうに言葉を残して、セツナはハヤテを起こし、一緒に食堂を出て行った。
「………ありがとうっ!」
外はさっきよりも暗かったけれど
僕はいつもの夜より大きな声で、ハヤテとセツナに、お礼を言った。
部屋に戻らなきゃ。
ハルが、まってる。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は不定期です。
活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。
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《登場人物おさらい》
⭐︎夜霧ルカ(吸血鬼)
明るいお調子者の吸血鬼
夜と雷は大嫌いで、ガーリックトーストが大好物。
料理が得意!
暗いところでも安心グッズを大量に常備している。
⭐︎海原ハル(魚人)
海が嫌いな魚人。
明るい方ではあるが、ルカには敵わない。
朝が弱い。(ルカが早すぎる説)
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こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
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