【1-4/みさお】机の上の贈り物
その日はその後、授業があったけれど
私はかまわず、部屋の布団に篭っていた。
誰とも顔を合わせたくない。
誰の顔も、みられない。
昨日は入寮式をさぼって、今日は授業にもでないで
とんだ問題児だと思われてるだろうな…
そんなことを考えていると、ふいに部屋の扉が開いた。ひんやりとした空気が、部屋に漂う。
ほんのりと、優しい匂い。
「…みさおちゃん」
「……。」
「みさおちゃん、大丈夫?」
ゆきが心配そうに私を見つめる気配がしている。
「今、オリエンテーション終わったよ。次、実技科目のガイダンスだって。一緒に行くの、難しそうかな。」
ゆきの気配は、はじめからずっとあたたかい。
本気で心配してくれているのがわかる。
「…いきたくない……」
やっとのことで小さく絞り出した声は、ひどく弱々しかった。
「そっか、わかった。」
ゆきはそれ以上、無理に誘っては来なかった。
「あとで、どんな話してたか教えるね。先生には伝えておくから大丈夫だよ。」
そう言ってゆきは、部屋を出ていった。
情けなくてまた、涙が溢れる。
こんなとこまで来て、何やってんだろ、私はーーー
*
ふと、香ばしい良い匂いがして目を開ける。
気づくと、もう外は日が傾いていた。
「!!」
慌てて布団を跳ね除ける。
どうやらあのあと、そのまま眠ってしまったらしい。
机に目をやると、そこにはなにやら色々なものが置いてあった。
かわいい雪だるまの形のシュークリームが2つ。
甘い香りのする小さな包み。
少々乱雑な字がならぶルーズリーフ。
それから
何やらホイルに包まれた、、軽食?
シュークリームはほんのり冷たい。これは、ゆきだろうか。
小さな包みは、今朝覚えた、りんの涙の匂いがした。
ルーズリーフは、授業で書き留めたであろうメモの下に『次の授業は俺とペアだから、休むな!』と書かれていた。ふわっと、海の香りがする。
そしてーー
ホイルの包みをそっと開けてみると、それはガーリックトーストだった。ひときわ香ばしい、良い匂いの正体は、これだった。
食欲をそそる、ガーリックとバターの匂い…
朝から何も口にしていなかった私は、あっという間にそれをたいらげた。
「おいし…」
ガチガチに固まっていた気持ちが、少しずつ解けていく。
そのとき、ノックの音がした。
ハッとして思わず身構えるが
あ、これ、知ってる匂い。
「…みさお、いい?今」
そっと扉を開けたのは、昨晩助けてくれた(助けた?)青年だった。
「セツナ…」
「なんだ。知ってんの。」
森で会ったときと同じように、セツナは気だるそうに言う。
「朝、俺死んでて行けなかったから。挨拶だけ。」
そう言って、私の机の上をチラリとみる。
「…これから夕飯。くれば?」
その誘いに、私はまた、体をこわばらせる
「あ、、でも、顔合わせるの…」
「なんで?」
「だって…」
「ああ、投げたから?」
「はっ、え?!」
あまりにさらりと言われて、驚きのあまり変な声が出てしまった。
全部バレてる…
恥ずかしすぎて顔が真っ赤になってしまう。
セツナは、めんどくさそうにため息をついて言った。
「怒ってねえ。みんな。
それが証拠だろ。」
そう言って机の上を指差す。
そして、空っぽになったホイルの包みを見てポツンと言った。
「ガーリックトースト作ったのは、ルカ。」
「え…」
それを聞いて、胸がぐっと熱くなった。
何も言葉を返せない私をよそに、セツナはまた机の贈り物たちを気の向くままになぞるように見回すと、一瞬ハッと目を見開いた。
次の瞬間、彼はススーッと部屋の中に入り、雪だるまの形をしたシュークリームを1つ、何のためらいもなくつまみ上げてーーー
「相談料。」
そう言うと、そのままぱくっと一口で食べてしまった。
「甘。」
一瞬きょとんとした私にむかって、口元だけでふっと笑うと
「夕飯、きなよ。」
短くそう言い残し、セツナはドアを閉めて出ていった。
ドアが閉まってから、静かな部屋にまた一人。
机の上の贈り物を見つめながら、胸の奥で何かがじんわりと動いた。
……行ってみようかな。
でも、まだ足はすぐには動かなかった。
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