【1-3/みさお】食堂のざわめき
バタバタの入寮から、一夜明けた朝。
「……白狼、みさおです。……どうも。」
「ほらぁ!やっぱ女の子だったじゃん!」
奥の席に座った黒髪の少年が嬉しそうに笑う。
「いや、名前だけじゃわかんねーだろ」
隣の、切れ長な目をした短髪の少年が呆れた声をあげる。
短いが柔らかそうな緑色の髪が、風に吹かれてゆらゆらと揺れている。
「僕は最初から女の子だって思ってたもーん!で、なに?!属性何!?」
「うるさいです少し黙ってください。」
向かいの席に座っている、長い黒髪の女の子が、二人の会話を淡々と遮った。
*
昨日あの後、ゆきが提案して、翌朝の食堂で自己紹介をすることになった。
イヤイヤ名前だけ名乗った私に返ってきた反応が、これだ。
…っていうか、なんなの。昨日の今日でこの仲の良さ。……初対面だよね?
…なじむの早くない?
そんなことを考えていると、小柄な女の子が息を切らしながら食堂に飛び込んできた。
「あのっ、おはようございます! 遅れてしまってごめ……」
足元がもつれ、盛大にビタン!と転ぶ。
「ふ……ふぇっ……」
目に涙がにじみ、みるみる溢れていく。
「うわっ、平気か!? 派手にこけたな!」
緑髪の少年が慌てて声をかける
「え〜〜ん……!」
涙は床に落ちると、パチパチと音を立てて固まり始めた。
ーーーえ、、なにあれ?
つぎつぎとこぼれ落ちるそれは、窓から差し込む陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
よくよくみると…色とりどりの、キャンディの粒だった。
長い黒髪の子が何事もなかったかのように立ち上がり、肩から羽織っていたストールを広げる。
器用にキャンディを回収し、無表情のまま包んで縛る。
「はい、おわり。……すぐ泣くなって、昨日言いましたよね。」
「うぅ……うん、ごめん。」
目を潤ませたままの少女はこくんと頷くと、空いている席にちょこんと座った。
心配して立ち上がった少年も席に戻ったのを見届けた後。
「あの!あらためまして、みんなも一度、名前とか……」
ゆきが場をまとめようとすると、黒髪の元気な少年が勢いよく手を挙げた。
「あー自己紹介!だよね!みさおちゃん昨日いなかったし、誰が誰だかわかんないよね!
よし!はい、じゃーハルちゃんからどーぞ!」
「…ちゃん付けやめろ!ったく……」
ハルと呼ばれた緑の髪の少年は、ため息混じりに立ち上がる。
「あー……俺は海原ハル。魚人の類だが……まあ……その……海は……」
「オッケー、じゃ次僕!」
「……お前なぁ…」
黒髪の少年はハルを押しのけ、テーブルを軽々と飛び越えて私の目の前へ。
ふわっと浮いて見せて、にかっと笑う。
「僕は夜霧ルカ!一応吸血鬼の息子だよ〜!
よろしく!はいっ次次!」
ハルは口下手な感じだけど、人とはうまくやっていけそう。ルカは、、とにかく底抜けに明るい。
どちらも、あまり得意ではないタイプだ。
目の前では、ルカのしつこいくらいの呼びかけを、黒髪の子がひたすら無視し続けている。
先程まで泣いていた少女が、二人を交互に見てから、おずおずと俯いたまま言った。
「巳影りんです……さっきは遅れてごめんなさい……」
髪の先が、ほんの少しだけさわさわと動いたような気がした。
りん、、この子はずっと節目がちで、全然目が合わないや…
りんが隣の黒髪の女の子をつんつんとつつく。彼女は、ちらりとりんを見て、黒髪を束ねながら私とはまったく目を合わせずに言った。
「……霞織あやめ。絡新婦。」
まじめそう。冷ややかな目線……きっと初日からいい加減な私のことが嫌いなんだろうな。
ゆきが続ける。
「ほんとはあと二人いるんだけど……昨日会ったヨルムンガンドの彼、毒島セツナくん。あと、烏丸ハヤテくんっていう天狗の男の子。」
「セツナくんは、昨日の今日で回復し切っていなくて、多分まだ寝込んでると思う。」
「そしたらハヤテくん、付き添ってると思うから、今は来れないかも。」
りんが小さく付け足す。
「……はぁ……あの、よろしくお願いします……」
なんか…みんな、もうずっと前から一緒にいるみたい。私、完全に出遅れてる……
ルカが急に顔を近づけてきた。
「そいや、みさおちゃんて……なんかどーぶつっぽいよね!?」
くんくんっと、匂いを嗅ぐ仕草。
「僕、鼻はけっこういい方なんだけど……んー、森の匂い?山犬……いや、きつね……」
その先を言う前に、ルカの視線が私を射抜くようにじっと見た。
一瞬、わずかに笑ったような、その眼差しに、私の背筋がぞくりとした。
「……あっ!オオカミとか。」
その瞬間、頭に血が上った。
気づけば、目の前のルカを背負い投げしていた。
――ドスンッ!
「どわっ!?いでっ……!」
重たい音が床に響き、空気がぴたりと止まる。
誰も動かず、ただ視線だけが私に突き刺さる。
耳の奥で自分の鼓動がうるさいほど響く。
あ……だめだ。やってしまった。
オオカミだなんて
おこがましいーーーーー
群れにいたときみたいにまた、バカにされる
「そんな出立ちのくせに」って笑われる
視線が痛い。顔を上げられない。
胸がぎゅうっと苦しくなって
たまらずそのまま、食堂から飛び出した。
呼び止める声は、聞こえない。
足音がやけに響く廊下を、私はただ一目散に、部屋へと逃げ帰った。
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