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【2/ハヤテ、セツナ】てぶくろの魔法

『ハヤテー天狗ー』


「…ここで…あってるよね?雑貨屋さん…」


「みたいだな。」


すぐ近くに設置してあった商店街の案内図を見ながらセツナが答える。


お店の外観は、古びた木の扉と錆びた看板が目を引く、小ぢんまりした雑貨店だった。

扉は一人がようやく通れるほどの幅しかなく、上のほうは蔦が絡まっていて、まるで“通るな”と言わんばかりだ。


セツナは無言でかがみ、頭を軽く傾けて中へ入っていく。



けれど、一歩中に入ると――


視界がぐんと広がった。


天井は高く、奥行きはまるで“森”のようにどこまでも続いていて、並ぶ棚には見たこともない品々が静かに光っている。


「うっわぁぁ、、すごい!!」

僕は目をまんまるにしたまま店内を眺める。


「これ、このコウモリのキーホルダー、ルカっぽい!あっこっちは詰め合わせキャンディ用ガラス瓶だって!りんちゃん喜ぶかもーー」


「ちょっと落ち着けハヤテ。」


あちこちに目移りして駆け出してしまいそうになる僕の頭を、セツナがぺしっと軽く叩く。


「へへ、ごめん、わくわくしちゃって…」


僕が思い切り踏み込んだあの日以来、セツナは僕に触れることをそこまで怖がらなくなった。


まだ少し、ためらいがちだけど…でも、こうしてちょびっとでも普通に触れてくれることがなんだかすごく嬉しい。


はしゃぎすぎるなって怒られてるのに1人ニヤニヤしていたら、

聞いてんのか!?と、また怒られてしまった。


「とりあえず必要なもの、先に探すぞ。」

ため息混じりに渡された紙には、みんながどんな仮装をしたいかがメモしてあった。


「ゴーストに、ミイラに、、わっゆきちゃんうさぎだって!かわいい!」

ちなみに僕は、かぼちゃのおばけ。

ちっこい見た目だけでピッタリだろって選ばれた感すごいけど、、


「頭につけるやつと、、あとなんだ、手に持つものくらいか、ここで揃いそうなのは。」


「そうだね。あ、あそこ、帽子とか置いてある!見てみようよ!」


僕はセツナの手を引いて、窓際に並べられた帽子のコーナーに向かった。




ーーーーー

『セツナーヨルムンガンドー』


ハヤテは

俺が触れても大丈夫。


わかっていても、すんなり割り切るのはまだ難しくて


勢いつけてちょっと触れては、なんともないことを毎回確認してしまう。



「ーーあっ、こっちは詰め合わせキャンディ用ガラス瓶だって!りんちゃん喜ぶかもーー」


「ちょっと落ち着けハヤテ。」


ぺしぃっとハヤテの頭を軽く叩いて、そろりと横目で確認し、バレないようにホッと息を吐く。


「あ、あそこ、帽子とか置いてある!見てみようよ!」

俺はハヤテに手を引かれ帽子売り場に向かうが、売り物よりもその手に意識が向いて、正直買い物どころじゃねぇ…


ハヤテはそんな俺の気もしらないで、いつも平気でペタペタと張り付いてくる。



「わぁ!見て!この耳のやつつけたら、ゆきちゃん完全に雪うさぎだね!あっこのふわもこの手袋とかも合いそうじゃない?」


「ああ、、そうだな。」

ぴょんぴょんとはしゃぎながら商品をカゴに入れるハヤテの問いに素っ気なく返事をして、俺は目を逸らす。


と、ふいに目線を送ったその先、ハヤテが見つけたふわふわの手袋が並んでいた棚の中に、隠されるように置かれた黒い手袋があった。


俺は吸い寄せられるようにそれを手に取る。

薄手の生地だが、触れた手によく馴染む、少し不思議な素材。


「…革?」


「防水防塵、ウイルスなんかもシャットアウトするよ。」


急に背後から声がして、俺の身体がビクッと跳ねる。

慌てて手袋を元の位置に戻して振り返ると、魔女のような出立ちの小柄な婆さんが微笑みながらこちらを見上げていた。


「アークの子だね、蛇の坊や。いらっしゃい。よくきたね。」

「…っ!!?」


こいつ、、なんで俺のことーー


「セツナぁ!いいやつ見つけ……て、えぇ!?だれ!?」


少し離れたところで、あやめ用の魔女の帽子を発見して嬉しそうに戻ってきたハヤテが、驚いた声をあげる。


婆さんは、ハヤテに目を向けると、ふふ、と笑いながら答えた。

「私はこの店の主人だよ。

天狗の坊やは何をお望みだね?」


「…店主…?」

「すごい、すごいね!なんで天狗ってわかったの!?セツナのこともわかった!?」


ハヤテはキラキラした目で店主を見るが、その目の前で俺があからさまに警戒しているのを見て、ハッとして俺の後ろに隠れた。


「そんなに怖がることないよ。ここは必要なものがなんでも揃う店なんだ。」


買うかどうかは、お客さん次第だけどねぇ。

店主は、相変わらず穏やかに微笑んでいる。



「天狗の坊や、向こうに、ミイラ用の包帯があるから、探してみるといい。パーティーで使うんだろう?」


「!? セツナ…この人、僕の考えてること、みんなわかっちゃうみたい…」


「ハヤテ。…買うもの探してきな。」


「え、、うん…?」


ハヤテは俺の方を少し心配そうな顔で振り向きながら、店の奥へと駆けて行った。


店主はじっと俺の目を見る。

なんだろう、不気味で不思議で、全て見透かされているようで身体はこわばるのに、不思議と目が逸らせない。


「…なんか、特殊なのか?それ。」

「いや、ただの手袋さ。」


「っ…」


何か特殊だったら、なんだって言うんだ。

俺は、自分でバカな質問を投げかけたことを心底後悔した。


「けれど、ここで出会ったなら、それは蛇の坊やにとって必要なものなのかもしれないね。」


店主の言葉が、やけにすとんと心の中に落ちていく。


俺はまた、無造作に置いた手袋に目を向ける。



この手で、直に触れなきゃ傷つけない。


けど

それを“当たり前”にするために、なにか対策をしようだなんて、これまで考えてもみなかった。


人とはただ距離を取れば済んだことだから。


「……っ…」


言葉が出てこず立ちすくんでいると、店主が、すぅっとそばに来て、ぽん。と俺の背に触れた。


「まぁ、慌てずゆっくり決めることだ。商品は逃げたりしないからね。


そろそろ、あの天狗の坊やが戻ってくるよ。」


その言葉が終わるか終わらないかのうちに、ハヤテが店の奥から満面の笑顔で戻ってきた。


「セツナ〜!僕使えそうなものみんな見つけちゃった!すごい!?」


褒めて!!と言わんばかりのキラキラの目に見つめられ、俺は思わず吹き出しそうになった。


「ああ、助かった。」


ふふーん!と満足そうに笑うハヤテの顔を見て、俺も自然と口元が緩む。


こいつといると、調子狂うんだよなぁ、ほんと。



「お会計はこっちだよ」

振り向くと、俺のすぐそばにいたはずの店主が、いつの間に移動したのか入り口近くのレジに座って俺たちを呼んでいた。


「行こう。持つ。」

ハヤテが両手で懸命に持ち上げていたカゴをひょいと受け取ると、俺はレジに向かう。



「たくさん買ってくれて、ありがとうね。」  


店主の手で、次々と袋へ詰められる商品たち。


最後の1つがレジを通されたときーー




「あのっ…これも!」


ハヤテによって、ぽんっ!と、レジの端に置かれたのは



あの黒い手袋だった。



ーーーーー

『ハヤテー天狗ー』


勝手に選んだら、怒るかな…


ちょっとだけドキドキしながら、僕は、さっきセツナがおばあちゃんに声をかけられて慌てて戻した手袋を急いでつかむと、レジに向かったセツナを追いかけた。



「あのっ…これも!」


最後の商品がレジを通ったギリギリのタイミングで、僕は手袋をレジに置いた。



「…は……え、なんで…」


セツナは驚いて僕を見下ろす。


…怒られるかも、しれない…


ドキドキしすぎて、セツナの顔が見られない。



けど、僕はどうしても、セツナにはこれが必要だと思ったんだ。


まっすぐにおばあちゃんの顔を見て、僕は言った。


「これも、ください!今使いたいから、値札、切ってもらえますか。」


おばあちゃんはにっこり笑って、狼狽えるセツナを気にもとめずに値札をぱちんと切ると、はいよ。と手袋を渡してくれた。


「なんっ…お前、勝手に……」


「セツナ、お金!早く払って!」


「…はぁ??」

目の前で値札を切られてしまっては、もう返品もきかない。

僕の強引さに呆れながらも、しぶしぶ支払いを済ませてこちらに向き直ったセツナに、僕はそろりと手袋を差し出した。


「セツナに…似合うと思うんだ!これ。」

「…もどしたのに。」


「あっ、けど…あの、ほら、手触りとかいいし!色もかっこよくて、それに、その…」



ほかの人に触れるのも

怖くなくなるかと思ってーー


喉まででかかって、一度ぐっと飲み込む。


事情を知らないおばあちゃんの前で、話すことじゃない


僕は、一瞬詰まりかけたのを誤魔化すように、大きな声でかわりの言葉を絞り出した。



「……す、すごく、、似合うと思って!!!」




しん…




「…あれ?」


少しの沈黙


セツナはしばらくぽかんとして僕を見つめていたけど、急に、ぶっ、、と吹き出して顔を背けた。


「え…えっ、なに…!?」


「…“似合う”って、2回も言ってる。」


「…はっ!!」


思わず差し出した手袋を引っ込めて、真っ赤になって俯く僕。


と、次の瞬間

すっ…と、セツナの手が伸びてきて、僕の手から手袋を受け取った。


「あっ…」


セツナは、何も言わずにそれをスルッと両手にはめて、ぐーぱーぐーぱーって、感触を確かめるように何度か動かす。


そして

ぱっと開いた手を、僕の目の前に掲げて言った。



「似合う?」


「!!!」

僕は、なんだかすごく泣きそうになりながら、夢中でうんうん!と頷く。


「さんきゅ。」

そう呟きながら、少しだけ、ふ。と笑うセツナを見て、僕は嬉しくて、ルカみたいにふわふわと浮きそうになってしまった。



「じゃあ行くぞ、そろそろ。」


セツナは、おもむろに手袋をはずして、買ったものが詰まった大きな袋に一緒に入れると、そのままお店の扉を開けた。


「えっ、はずしちゃうの?」

かっこいいのに。って言いかけた僕をちらりと横目で見て、セツナがぽそっとつぶやく。


「…今は…平気だろ。」


セツナは

そのまま僕の手をしっかり握ると、僕を引っ張るようにして、入る時と同じように少しかがんで扉をくぐった。


「!!!!!」


セツナが


セツナが……自分から手、握ってくれた…!!


僕は、すごくびっくりした顔でセツナのことを見上げていたんだと思う。


「…なに。」

気だるそうに僕を見下ろすセツナに、慌てて、なんでもないっ!と首を振った。


大きな荷物を軽々と片手で持って

もう一方で僕と繋いだセツナの手を、僕は少しだけ力を入れて握ってみる。


セツナの手が少しだけ、きゅ、と握り返してきた。


「〜〜っ!!」

「…遊んでんな。行くぞ。」


幸せを噛み締める僕を見て、セツナはため息混じりにつぶやいた。



「あんたにとっては、この坊やが“手袋”なんだね。」


おばあちゃんが、セツナを見上げてささやく。



「…こいつは、ただの泣き虫だ。」


セツナがぶっきらぼうにそう答えると、


おばあちゃんはまた優しく微笑み、

「またおいで。」と、静かにお店の扉を閉めた。


セツナは、僕と手を繋いたまま、商店街の坂をゆっくり登っていく。


来たときと同じはずの景色が、さっきよりもほんの少しだけ、明るくキラキラ輝いて見えた気がした。

ご覧いただきありがとうございました。


更新は不定期です。

活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。

感想や評価など、いただけると嬉しいです。


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《登場人物おさらい》

⭐︎烏丸ハヤテ

空を飛べない泣き虫な天狗

天狗の技で使えるのは分身の術のみ

毒耐性あり!セツナの手に直に触れられるのは、ハヤテだけ。

自然の力を操ることはできないが雷などは“自発的に”ハヤテを避けていく。


⭐︎ 毒島セツナ

自分の生成する毒でダメージを受けてしまう毒蛇。

外に放出しないと自家中毒(!?)を起こして命の危機。だが、外に出すと自分も被害を被る、もどかしい運命を背負う。

目は人並みだが、蛇なので鼻と温度を感知する力は秀でている。

運動神経は割と良い。


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こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


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※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


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