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【2-4/ハヤテ、セツナ】きみのぬくもり④〜きみの、ぬくもり〜

『セツナーヨルムンガンドー』


大きく弧を描いて飛んでいったスマホが、ソファにバウンドして床に落ちる。



「え………?」


……やってしまった。あからさますぎた。


「なんで?セツナ、僕また何か……」

…何かしちゃった?怒らせた?


あいつが聞きたいことはわかってる

この一瞬で、また傷つけたこともわかってる


俺に避けられたハヤテの手が、行き場を失って震えていた。


「あー、、わりい。」

ハヤテの視線を感じながら、俺は目を逸らしたままスマホを拾う。


「セツナ?」

「手が滑った。」


「…ねえ」

「手が滑ったんだよ!ほっとけ。」

言い訳にしちゃ苦しすぎる。だが、俺はわざとひと睨みして、強めの口調で言葉を返す。


そうすれば、あいつはびびってそれ以上踏み込んでこないだろうと、思ってた。


なのにーーー


いきなり後ろから、ぐいっ!!と、すごい力でシャツを引かれる。

ふいをつかれた俺はバランスを崩して、そのままソファに尻餅をつくように倒れ込んだ。


「って…何して……っ!?」

焦った俺が体制を立て直す隙も与えず、ハヤテが俺の腹の上に飛び乗ってくる。


「は!?」

そしてそのまま、ハヤテは俺の胸ぐらを両手でつかんで、叫んだ。


「っ…何で避けるんだよっ!何で話してくれないんだよぉ!!バカやろうぅ!!」


……俺は、呆気にとられて、うごけなくなった。


大粒の涙をこぼしながら

必死に大声を出そうとブルブル震えるハヤテ。


「僕にばっかり、、言わせて、謝らせて…セツナだって、、セツナだって、言いたくないと…っそうやって…なんにも言わないじゃないか!!!」


ちっこくて軽いハヤテ

必死にしがみついてるが、ちょっと体をひねれば簡単に振り落とせる。


だけど俺は、そうしなかった。



「今!言えよっ!!おおっ、、怒るぞっ!!!」


そんな言葉、普段使ったことないくせに

人につかみかかったことなんかないだろうに

俺の真似して背伸びして、めいっぱいすごんで泣いて、怒りをあらわにしてる。


顔を背けようとしても、ハヤテの目が、俺を逃さない。


体がデカくても、力があっても

俺は、今のこいつには敵わない。



「……わかった。」


握ったままだったスマホはテーブルにおいて、両手を軽く上にあげる。


俺は、ハヤテの“本気”に降伏した。



ーーーーーーーーーー

『ハヤテー天狗ー』


誰かに向かって、バカやろうなんて、生まれて初めて言ったかもしれない。


「…わかった。」


大騒ぎして泣き喚いた結果、セツナが、折れた。


「とりあえずそこ、どいて。」

そう言われて、いまだにセツナに馬乗りになり胸ぐらにしがみついていたことに気づき、慌ててそこから飛び退いた。


セツナは、少し辛そうな顔をしている。

僕は、床にあぐらをかいて座るセツナの正面に、ペタンと正座した。


言葉を探すように口を開きかけてはつぐみ、目を泳がせるセツナ。

足の上で組まれた両手が、わずかにそわそわと動いているのがわかった。


僕は、じっと待つ。



しばしの沈黙のあと

セツナは、僕の顔をチラリと見てからまた目を逸らし、ゆっくりと話し始めた。


「毒が…あるって、言ったろ?」

「…うん。」


「それで、、使うと、やばいのも」

「…うん。こないだ教えてくれた。ちゃんと覚えてるよ。」


うん、とセツナはうなずいて、自分の両手を広げて眺めた。


「…手を……はらったのは……その」


その手を、ぐっと握りしめる。


「……触られるのが…怖い。」



「……どうしてこわいの?」

僕は、少しだけ踏み込んでみる。


セツナは、黙り込んだ。


話したくないかな…?

無理させるようなら、話題を変えようか…

そんなことを考えていたら、

「変に気ぃ遣うな。やりにくい。」


「あ、ごめん…。」

セツナは、そんな僕を見て、わずかに肩をすくめ、ひとつ、小さく深呼吸。

そして、少し震えるような息遣いのまま話を続けた。



「昔、お前みたいなやつ、助けたことあって」


「森で迷ってた。暗くて怖いって。

手、つないでくれって。


で、しばらく、手を引いて…歩いて…


そしたらそいつ

苦しいって、言いだして


うずくまって…

そのまま、動けなくなった。」



僕は、はっと息をのむ。



「……わかったろ?理由」




僕には、答えられない。

セツナの心の奥底から、“痛み”がじわじわと這い上がってくる音が聞こえる気がした。


「そんとき、俺まだちっこくて。

周りは皆、“毒持ち”で…

常に“それ”が…俺の“当たり前”だった。


知らなかったんだ。森の動物だけじゃなくて



…人間も、毒で死ぬって。」



セツナは自分の手のひらを見つめて、苦しそうに言葉を絞り出す。


「あとから知った。俺が、


この手で直に触れたのが、いけなかった。



俺自体が…“害”なんだ。」



これまで僕の中でずっとひっかかっていたことが、みんなみんな繋がっていく気がした。


手に触れられるのを嫌がる理由

僕らを助けるとき、直接“触れない”理由ーー


僕は、膝の上でぎゅっと手を握り締め、ただただセツナを見つめる。


「…間違ってないよ、お前。」

セツナはポツリと、そう言った。


毒が侵蝕していくように、黒くじわじわと這い上がってきたセツナの“痛み”の気配は、彼の体を飲み込み、首元から頭の先までをも包んで押し潰してしまいそうなほど大きく蠢いている。




セツナをずっと“怖がらせている”原因は、あいつだ…


セツナの話を聞きながら、僕は“僕にしかできないやり方”で、心を縛り付けている“痛み”を引き剥がしてセツナを“守る”方法をずっと考えていた。



真っ向勝負を挑んでも絶対に敵わないし、僕の言葉だけじゃセツナの中には到底届かない。



だったらーーーーー




話し終えたセツナは、ふう、とひとつ大きく息を吐く。そして


「おわり。隠してたこと。」

さらりと、いつもの調子でこう言った。



ーーーーーーーーーー

『セツナーヨルムンガンドー』


思い出したくもない昔話をひとつひとつ言葉にするたび、胸の奥の方が締め付けられて、まるで毒にじわじわと蝕まれていくように、目が霞み、呼吸が苦しくなっていく。



ーーー


毒を使えば自分も傷つき、使わなければ…放出されず体内で無限に湧く毒で、自滅する。そんな毒蛇は、家族の中で俺1人だけだった。


当時まだちっこくてビビリだった俺は、その体質のおかげで恐ろしい狩りに連れて行かれることもなくラッキーだとさえ思ってた。あんな凶暴な動物たちを狩るなんてできない。俺は家族みたいな化け物とはちがうって、ずっとそう思っていた。



毒持ちの中で生きてきて、この手が“凶器”であることは、あの人間に出会って初めて知った。


毒に弱い俺の身体の中で、この手だけは異質だった。“外にしか”毒の影響を与えないかわりに、俺の意思など関係なく、直に触れたものをみな“壊してしまう”ーーー


俺も、ちゃんと“化け物”だった。



ハヤテは、自分から聞かせろと凄んできたくせに、いざ俺が話し始めると、まるで怪談話をむりやり聞かされている子供みたいに、身動き一つとれず震えながら手を握り締めていた。


ーーそれが正しい反応だよな。


これだけ怖がりゃ、もう深入りはしてこないだろう。離れていけば、傷つけなくて済む。


「…間違ってないよ、お前。」



俺が毒を外に出すのと同じだけ自分の中で爆ぜさせる理由も

手に触れたがらない理由も

あいつなりにわかってくれたらそれでよかった。


わかったらもう、そっとしておいてほしかった。



だから普通に、いつも通りに話を終わらせたんだ。

「おわり。隠してたこと。」



ハヤテがまたバカなことをする前に、俺はさっさと夕飯のしたくをしようと立ち上がり、ふいっと顔を背ける。


「じゃあ夕飯、何食うか決めてーーー」

「セツナ」


後ろから、ふいにハヤテに声をかけられた。


「…なに?」

振り向いた俺の方に、ハヤテがスッと近づいてくる。

わざわざ俺を呼んだくせに、顔をじっと見つめるだけで一言も話さない。


また、怒ってるの?とでも、聞く気か?

「…なんだよ。」

俺は訝しげにハヤテを見下ろす。


その途端、、


ハヤテが、いきなり手を伸ばしてきて俺の手に触れようとした。


「っ…!?」

俺は咄嗟にその手を振り払うが、ハヤテは一度飛び退いてそのまま高く跳ね上がり、今度は俺の身体にしがみつく。


「…何して…っ、お前…!!」

あんな話聞かされた後で、なにやってんだよ…!?


「触んな、うぜぇ!」

だが、ハヤテは何を言われても怯まない。

いつもビービー泣いてる情けない目が、今は鋭く俺だけを捉え、何度避けても拒んでも、諦めずに向かってくる。



……怖え。


こんなの、いつものあいつじゃない…


ハヤテ相手に、俺は初めて逃げ出したくなった。


この執念深さもそうだが何より

このまま続けば、咄嗟に“触れて”しまうかもしれない。


そしたらこいつもーーー

…さっきの昔話が、俺の心臓をめちゃくちゃに跳ねさせる。



「…俺に、、触るな!!」

振り払う腕につい本気で力がこもり、ちっこい身体を吹っ飛ばしてしまう。

ガターン!!!と、椅子に激突する大きな音。


「………っ!」

…たのむ、、もう、やめてくれ……


なのに…

ハヤテは体勢を立て直し、両足に、もう一度力を込めるーーー


「……諦めろよ……っ…!!」

俺の我慢も限界をとうにすぎていた。

体が、手先が、かっと熱くなる。


「なんで…っ、、触れたら死ぬって言ってんのがわかんねえのか、バカやろう!!!」








「バカやろうはセツナだよ。」



ーーー背後から、ハヤテの静かな声がした。




「…………は…?」


振り向くと

俺の少し後ろにハヤテがいてーー


俺の左手をぎゅっと掴んで立っていた。


「……え………?」


さっき突然つかみかかってきた瞬間から今まで、俺は、ハヤテから一瞬たりとも目を離していなかった。なのにーー


「…なんで……お前……」



ざぁっと血の気が引いて、前を見る。



目の前にハヤテ。

俺の後ろにも…ハヤテ。



「…うそだろ……」

身体の力が一気に抜ける


俺を捕まえたハヤテが、気まずそうに笑う。

「天狗の術の中で僕が使えるの、これだけなんだ。」

その言葉と同時に、俺がずっと追っていた目の前の“ハヤテ”が、煙のように消えた。




…“増える”なんて、聞いてない

それ以前にこの状況…

「…っ……!」

服を掴んで引き剥がそうとしたが、

焦りと動揺で、、力が入らない。

ハヤテのまっすぐな目が、俺を怯ませる。



「…はなせ。」

「やだ。」


「…やだって、、お前……」



壊れちまう

怖い


早く…

「はなせよ、、たのむから…」


手が、震えて



だめだ…


もう

だいぶ“注いで“しまった




おわりだ………



「…ハヤテ……」

俺の口からはもう

弱く細く、情けない声しか出なかった


壊したくない

壊すしかできない



「…なくしたくないんだ…」


左手をぐっと握られたまま、何もできず、その場にしゃがみ込む


涙が、頬を伝うのを感じた


俺は震えるもう一方の手で、ハヤテの服にしがみつく。



「もう……ひとりはいやなんだよ……」



途切れ途切れに溢れたのは、絶対にだれにも見せたくなかった“俺の本音”だった。


ーーーーーーーーー

『ハヤテー天狗ー』



これじゃまるで、いつもと逆だ


セツナが僕に、しがみついて

手を離してくれと泣いている。


「もう……ひとりはいやなんだよ……」


僕は、セツナの“心”に触れた。



「セツナ」

僕はセツナの前にしゃがみ込んだ。


僕が考えていたこと

説明したら、また怒られるかもしれない。

でも…


「こうでもしないと、セツナは信じてくれないと思ったから。あのね…」


僕はセツナがいつもするように、大きく一つ深呼吸をして、話を続けた。


「僕まだ、セツナに話してないことあるんだ。」




「…なに」

セツナは力なく俺の方を見る。


もうどうにでもなれと思ってしまっただろうか。

「僕ね…」

まっすぐセツナの目を見る。



「…毒には、耐性があるんだよ。」



「…………は…?」

セツナの目が、大きく見開かれる。


「あっ火傷とか、あと痛いのとかは全然ダメなんだけどね…


天狗だから、僕、毒だけは効かないんだ。」


みて!と言いながら、繋いだままの手を、ブンブンとふる。

「ほら、なんともない!」


「…………」

………何言ってるんだ…こいつ……

と、言わんばかりの訝しげな表情。


「あれ…信じてない顔してる。」

僕はちょっとむうっとして、セツナのもう一方の手もとる。

セツナは反射的に引っ込めようとしたけど

僕はかまわずその両手を、自分の頬まで引っ張っていった。


「ほら!」

セツナの手が、僕の両頬にちょっとだけ触れる。


これは流石に本気で振り解かれて、僕は後ろによろけて尻餅をついた。


「あっ…」

わりい…。セツナが謝る。



僕はそれ以上、無理やり触れようとはしなかった。かわりに「ハイっ。」と両手を差し出す。


大丈夫。大丈夫。ーーー

僕は心の中で、何度も繰り返す。


セツナからきてくれたら

僕はその“痛み”を全て消し飛ばせる。

絶対に戻ってこないよう、守ってあげられる。


いつもと変わらずにっこりと笑う僕の前で、

セツナは、驚いたように自分の手を見つめてふらりと目を泳がせた後、また僕の顔を見つめた。



そしてーー

恐る恐る手を伸ばし、セツナの震える左手が僕の右手に重なる。


琥珀色の輝く瞳がゆらゆらと揺れ、一度、パッと離れていく、セツナの手。


「…気持ち悪く、、ないか?」

「うん」



「………どっか、痛かったりとか…

息苦しかったりとか、あと…………」

「大丈夫だってば。まだ信じてないの!?」


「…あぁ、いや……でも………」

一瞬逸らした目を、もう一度僕に向ける。


心臓の音が、はやくなる。


またそろりと伸びてきた手が、そっと僕の耳に触れ、頬に触れ


「ね?」

と笑う僕を見て、ようやくほんの少しだけ、セツナの口元が緩んだ。


「…はは……まじか……」


今度は両手で、僕の髪の毛に優しく触れると、


セツナをがんじがらめにしていた“痛み”の気配が、バラバラとくずれていく音がした。


やった!

作戦は大成功だ。



天狗の僕だけが、セツナのために“できる”こと。

先生たちは、最初からわかってたのかもしれない。


両手でくしゃくしゃと頭を撫でるセツナの手に力がこもり、

僕は、気持ちよさそうに目を瞑る。




セツナはそのまま、僕の顔を両手で包むと



「ほんと…おもろいな、お前」




そうつぶやいて、静かに笑った。


ご覧いただきありがとうございました。


更新は不定期です。

活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。

感想や評価など、いただけると嬉しいです。


ーーーーーーーーー


《登場人物おさらい》


⭐︎烏丸ハヤテ(天狗)

いつまでも子どもな見た目の、一人前になりきれない天狗。

ビビりでよく泣き、逃げ足だけは超はやい。

セツナが大好き。ヤキモチ妬いちゃう。

雷は操れないけど、天狗なので雷にはうたれない!

毒耐性あり。セツナと同室になったのは、運命か、必然か。


⭐︎毒島セツナ(ヨルムンガンド)

自らの毒で自分もダメージを被るヨルムンガンド。

彼の手だけは、本人に影響を与えることなく直に触れた相手に毒を流し込んでしまう。

口数少なく、目つきが悪い。

必要以上に近づくことを好まないのは、自らが毒で人を傷つけたことがあるから。

いろいろ気にかけてはいるけど、顔に出ないので伝わらないことが多い。


ーーーーーーーーーー


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


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※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


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