【1-2/みさお】同室の雪女
「あらあら、またなのねぇ。」
保健室の先生が、ベッドに横たえられた彼を見て軽くため息をついた。
意味が分からず、私はただポカンと立ち尽くす。
先生は慣れた手つきで、ぐったりした彼を診ていく。
「この子、今朝も同室の子が蜂に追いかけられてるのを助けたときに同じように倒れて、その手当をしたばかりなのよね。はい、あなたはこれ、使って。」
「え……この人いったい……?」
手渡されたタオルで頭を拭きながら問い返す。
「ヨルムンガンドって知ってる?大きな毒蛇。彼はその家系の子なのだけど…」
先生は話しながら、ふう、とため息をつく。
「やっぱり、毒には弱いのね。」
え…
毒蛇なのに、毒に弱いって…?
ポカンとしている私を見て、先生はふふ、と笑って話を続ける。
「ここに集まってくる子たち、みんな個性的でかわいいのよね。
はじめは驚くかもしれないけど、慣れればなかなか楽しいわよ。」
てきぱきと彼の処置を続けながら、先生はにこやかに言う。
「大丈夫。すぐ仲良くなれるわ。」
心の奥にくぐもっている感情を全て見透かされたようで、ドキッとした。
そんなとき、保健室の戸が軽くノックされた。
「失礼します……あっ」
入ってきたのは、淡い水色の髪に雪のような白い肌をした女の子。
私を見るなり、ぱっと表情を明るくする。
「あなたが、みさおちゃん!」
「えっ……」
――あ。さっきの青年の言葉を思い出す。
ー『入寮式。部屋分けの時、あんた一人だけいなかったから。超名前呼ばれてた。』ー
やだやだやだ……これから会う人全員に「入寮式をすっぽかしたサボり魔」だって思われてるってこと……!?
「あ、あの……」と口を開きかけた私に、その子はにっこり笑った。
「私は霜村ゆき(しもむら ゆき)。あなたと同室なの。よろしくね。」
そう言って手を差し伸べられ、おずおずと握り返す。
ゆきと名乗る少女の手からは、ひんやりと、心地の良い冷たさが伝わってきた。
「じゃ、部屋に行こっか!」
彼女の後ろについて保健室を出ようとしたとき――泣きじゃくりながら飛び込んでくる男の子とすれ違った。
(わっ、ちっちゃ……あんな子もいるんだ、この学校…)
*
案内された寮の部屋に入ると――
南国風のBGMと、アロハ柄の布やパイナップル形のランプが部屋中を占領していた。
「すご……」思わず見回す私。
「あっ、あははっ、ごめんね!まだ片付けきれてなくて!」
ゆきは慌てて部屋一面に広げていたアロハな荷物を自分のスペースにガサガサと移動させた。
「そっち半分、みさおちゃんのスペースだから!」
目の前でワタワタしている彼女を見て、思わず口元が緩む。
「……南国、好きなの?」
「えっ!あの……えっと……あったかいとこに、憧れてて……実は、寒いの苦手なんだ。身体冷えると、すぐ風邪ひいちゃって。」
恥ずかしそうに両手で頬を覆う。その瞬間、頬の赤みから立ちのぼったのは湯気ではなく――冷気。
ひや〜〜っとした空気が私の顔を撫で、思わず鳥肌が立った。
「あっ!ごめん……!」
「あの……あなたって……」
ゆきは照れくさそうに笑って、言った。
「私、雪女なの。」
寒さで風邪ひく、雪女…
ー『ここに集まってくる子たち、みんな個性的でかわいいのよね。』ー
保健室の先生の言葉が、頭をぐるぐる駆け巡る。
まことしやかに噂されている‘訳あり’の意味が、少しだけわかった気がした。
ご覧いただきありがとうございました。
更新は不定期です。
活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。
感想や評価など、いただけると嬉しいです。
こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.




