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【1/ハル、あやめ】水底の人魚姫

『ハルー魚人ー』


焼け付くような日差しが容赦なく降り注ぐ猛暑日ーー。


「ハル、、これから海だよね…?大丈夫…?」

授業に向かう支度をしている俺の後ろで、ルカが心配そうに声をかけてくる。


「平気だよ。水泳の授業じゃないし、いきなり泳げとは言われないだろうから(笑)」

口では軽くそう返してみるも、本当のところは、相当…ビビっていた。

俺は、泳げないわけではない。泳げなくはない、、が………


これまでは教室での学習が主だった『感覚鍛錬のための教養と実習』の授業。

今日は“実習”の日で、あやめとペアで参加することになっている。前にも何回か別の授業で組んだことはあるが、同じ場所で実習ってことは、あいつには水に関係する力があるのか、、?



集合場所は、学校の裏手の、海に深く抉られて泉のようになった入江。

水が綺麗なので海底はよく見えるが、思ったより深さはあるらしい。


マジで勘弁してほしい…

ルカにはああ言ったが、まさか本当に泳げとでも言われるんじゃないかという不安に駆られる。


「本日は感覚鍛錬の実習となります。具体的な内容は割愛しますが、各々アンケート記入の際“苦手”だと書いていた科目ですので、気を引き締めて授業に臨んで下さい。」


なんだ、あやめも水が苦手なのか。

淡々とした先生の説明を、あやめは俺の隣で腕組みをしながら聞いている。

ぶつぶつと何やら呟いているので、大方今日の作戦でも立てているんだろうと思い、また先生の方に目をやった。


「まずは、今持っているもので構わないので、それぞれの持ち物の中からひとつ、私に預けてください。」


ん?

持ち物預けて、どうするんだ?


そう言われても、渡せる持ち物と言ったら腕時計くらいしかなかったので、仕方なくそれを先生に預ける。


あやめは、持ってきたバッグの中から、何やらキーホルダー…?のようなものを渡していたが

なんだか、すごく辛そうだった。先生に差し出すその手も、心なしか震えてる…

そんなに大切なものだったのか…?


先生は預かったものを、丁寧に袋に詰めた後、それぞれをカプセルのようなものに入れてぱちっと蓋を閉めた。

そして次の瞬間ーーー



そのカプセルを、入江に向かって思い切り




ーーー投げた。


「えっ、ちょっ……」


ドプン…

と、鈍い水音をたて、俺たちの預けたモノは入江の底へと沈んでいく。


あやめは、隣で青い顔をしている。

先生は俺たちに向き直ると静かに話す。

「カプセルは今、海の底です。

入江の中なので潮に流され外海に行ってしまう心配はありませんが、魚たちには食べられる恐れはあります。

あなたたちは今から日没までに、あなたたち自身の“力”を駆使してあのカプセルを見つけてください。無事に回収したら、本日の授業は終わりです。」


んな無茶苦茶な実習あり得るのか…!?

カプセルが沈んでいった入江を呆然と眺める俺とは対照的に、あやめは先生の説明が終わるか終わらないかのうちに、入江の方へ駆け出していた。


「ひとつ!」

先生がその後ろ姿に声をかける。

「まずは必ず、自分の“力”を試すこと。これはルールです。」


あやめは、入江の縁でへたり込む。


先生は少し離れたところから、俺たちがどう動くのか、静かに観察している。

あいつの力が何かはともかく、先生はとっくに把握済みなんだ。俺が“魚人”であること。

そして魚人が、本来ならば海を“操る”力を持っていると言うことを…。


力を使え、、、

何をすべきかは、わかってた。それでも、身体の震えがおさまらず、足は根が生えたように動かない。


俺がモタモタしているあいだに、あやめは入江の縁で座り込み、ばちゃばちゃと水をかき出した。

そして次の瞬間ーー


ドボン!!!と、海の中に、飛び込んだ。


「ぉおいおいっ!あやめ!?」

その光景をみて、金縛りが解けたかのように咄嗟に身体が動いた。慌ててあやめが飛び込んだ入江の淵へ近づくと、震えながら、海の中を覗き込む。


あいつもうまくいかなくて、結局自分で取りに潜った感じか…?


「これ、、力使えなかったら、そうするしかない感じ…?」


俺は頭を抱えてその場にしゃがみ込んだ。



ーーーーー

……あれ


……てか…結構時間、経ってないか…?


あやめが飛び込んで最初の泡がすぐに消えたあと、1分…2分…?いやもっと……?

そのまま、一向にあがってこないことに気づいたのは、その後少ししてからだった。


入江全体を見回しても、それらしき人影はない。海の中をもう一度のぞく。澄んではいるが、全て見通せるわけでもない。


心臓が、嫌な音を立てて騒ぎはじめる。

あいつに何ができるのかはわからないが、仮に潜水のプロだったとしても、、限度があるだろ…


先生は、何も言わない。


海の中の恐ろしさは、俺自身がよく知っている。体の震えはとまらない。


そして俺は、どうしても海を“操りたくない”


でも……これはマジでやばいかもしれない




「……っあぁ………くそっ!!」


ひとつ大きく吠えると

俺は、勢いよく入江の縁から海へと、飛び込んだ。




ーーーーーーーーーー

『あやめー絡新婦ー』


水辺での実習なんてたまったもんじゃない。


元来、絡新婦ジョロウグモは水辺に住まい、糸で絡め取った男を水に引き摺り込み命を喰らう種族。水とは仲が良いのが普通なのだろうが、私はそんなくくりにおさまるような女ではなかった。


…つまり……カナヅチなのだ。

ちなみに糸もだせない。絡新婦ジョロウグモとしては絶望的なスキル力だ。


「まずは、今持っているもので構わないので、それぞれの持ち物の中からひとつ、私に預けてください。」


授業が始まってすぐ、先生が私たちにそう告げた。


持ち物の中から、ひとつ…!?

私のバッグには、心の平穏を保つための愛しいみーたんの推しグッズしか入っていない。

その中から“ひとつ”選んで、さらに、、“差し出せ”と…!!?


けれど、先生のおっしゃることは“絶対”だ。

隣でホイホイとつけていた腕時計を渡すハルを横目で見ながら、私は震える手で、命よりも大切なコレクションの中からひとつ、ノクセラの2nd Album「宙の在処」の初回限定版を購入した際の予約特典である、2ndソロシングル『ひかりの粒、きみの声』の衣装を着用したみーたんのキーホルダーを取り出し、先生に手渡した。


しかし次の瞬間。

私は、先生に歯向かわなかったことを深く深く後悔することになる。


先生は私とハルの私物を何やら小さなカプセルに入れると、おおきく振りかぶって、入江にそれを、投げ捨てたのだ。



「ーーーーー!!!!!」

私は声にならない叫びをあげ、入江の淵へと勢いよくかけていく。


「カプセルをみつけて、回収したら終了」


そんなひどい話があるか…

海の底を覗いてみても、小さなカプセルはもう水面の光に紛れてしまって見つからない。


後ろから先生の声がする。

「まずは必ず、自分の“力”を試すこと。これはルールです。」


力を試せ?

この期に及んで、私に命令するというのか…!!


教師ならば、私の事情は熟知しているはずだ。糸はだせない。泳げない。それなのに、この仕打ち…


私は闇雲に水面を叩く。

そんなことをしても、みーたんは戻ってこないのに。


魚に食べられてしまうかもしれない。どこかへ流れていってしまうかもしれない。そう考えたら、もういてもたってもいられなくなって




気づいたら

海へ飛び込んでいた。



ーーーーー

体に絡みつく水の重みが、私を海の底へ底へと引き摺り込んでいく。


家族に絡め取られた男たちは、最期にこんな景色をみたのだろうか。


せめて糸さえ操れたら

水の中を探すことは他愛もなかったかもしれない。けれど、、もう、遅い。


霞んでいく目の端に、きらりと光る金属製の塊がうつった。

あ、いた。よかった…


そのカプセルを目にしたのを最後に、海の底の岩の影で、私の意識は…途切れた。





「…め…っ………



……あやめっ!!!!!」



頬にピリリと痛みを感じて、私は、ふ、と目を開いた。


「……え…」


気づくとそこは、先ほど飛び込んだ入江から少し離れた芝の上だった。


全身ずぶ濡れで私を見下ろし頬を叩くハルと、ぱちっと目が合った。


「…!!あやめ!!

…わかるか!?俺が見えるか!?」


身体中が重くてだるい。

けれど、意識はさっきよりもだんだんとはっきりしてきた。そして、私を支える手が、とても震えているのを感じた。


ハルが

助けてくれたんだ…


「…人魚姫、、みたいですね。」


「!?バカ言ってんな!まじで死んだかと思った…!!」



「…大丈夫です…


……生きてます。」


「よかった…!

どこも痛めてないか?」


ハルは、私が無事だとわかると、心の底から安堵したようで、大きくひとつため息をついた。


「…どんなものかわからんけど……力、使ったんか…?」


私はハルを見て、正直に答える。

「……使えないんです。」

呆れられるかと思ったが、ハルは、そっか、と一言呟いただけだった。


「じゃ泳ぎに自信あったのか?」

「…私は泳げません。」

「はぁっ!?」

……これは流石に、呆れられた。


「なんて無茶してんだよ…」


「だって…みー…カプセルを救わないといけなかったから。」


「死んだら何にもならんだろ、バカだな。」

ハルが、何やら固いモノで私の額をコツンと叩いた。

それは、私のカプセルだった。


「…これ…っ!!」

「ちゃんと救ったぞ。感謝しろよ。」


「…良かった…!」

お礼を言うのも忘れて、私はぎゅっとカプセルを抱きしめた。



「選択科目表を見た限りでは、あなたも泳げないと認識していましたが。」

ハルの背後から、一部始終を見ていたであろう先生が淡々と声をかける。


「……泳ぎたくなかったんで、そう書いただけです。」

ハルは先生の方をひと睨みして、不貞腐れたように答えた。


泳ぎたくなかった…

事情があったのだろうか。それなのに、飛び込んで私とみーたんを助けてくれた。


普段私が間違えることなど滅多にない。

けれど、今回はーーー

「…ハル。」

「ん?」

「無茶をして…あなたにも、無理させてしまいました。…ごめんなさい。」


ハルは少しびっくりした顔をしていたけれど、

笑って「許す!」と答えてくれた。


そして私の顔を覗き込みーー

「…許すからさ、いい加減敬語やめね?」

「無理ですこれが私のアイデンティティなので。それともなんですか、無鉄砲で行き当たりばったりで迷惑をかけるような私は一個性など重要視するに値しないとでも言ーーー」

「ああぁ、わかった!うそです!そのまんまでいいっす!…お前たまにでるそういうとこ、怖えよ……(笑)」


ハルは、困ったように頭をかきながら、そろそろ、みんなのとこ戻るか。と呟いた。




ご覧いただきありがとうございました。


更新は不定期です。

活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。

感想や評価など、いただけると嬉しいです。


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《登場人物おさらい》

⭐︎海原ハル(魚人)

海が嫌いな魚人。

明るい方ではあるが、ルカには敵わない。

泳げないわけでは…ない。


⭐︎霞織あやめ(絡新婦)

蜘蛛の糸が出せないジョロウグモ。

箱推しアイドルVtuber『ノクセラ』のボーカル命。

隠してるつもりだけどガチオタ。可愛いものが大好き!

気持ちが昂ると早口でまくし立てる


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こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


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※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


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