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【3/セツナ、りん】キャンディひと粒の間合い

『セツナーヨルムンガンドー』


「わー!こんな綺麗な場所あったんだねー!」


学園の裏にあるプライベートビーチのような砂浜の上で、りんがぴょんぴょんと飛び跳ねている。


この島に来てもうすぐ一ヶ月が経とうとしているが、この場所に足を踏み入れたのは今日が初めてだった。

“個体群生態学”の授業以外では入ることのできない、特別に用意された海岸なのだと先生から説明があった。


「今回の授業では、特定の種の個体群が、環境収容力や種間相互作用といった要因に制御されつつ、時間的・空間的にどのような変動を示すかを観察、検証していきます。」



「……えっ……こたい…??…しゅかんそ…ご……???」

小難しい言い回しの言葉の羅列に、りんは全くついていけてない。


「要は……この辺にいるカニとかが、環境なんかに影響されて、どれくらい増えたり減ったりするかって話。」


「ああ!なるほど!」

教えてくれてありがとう、と、りんは申し訳なさそうに笑う。


「時間までは自由にみていただいて、授業後にレポートをまとめて提出してください。では、どうぞ」

「はい!!!」


りんは、やたらと良い返事をして、勇んで岩場を覗き込む。

途端にーー

「ぃやぁぁぁぁぁあ!!」

ものすごい勢いで飛び退き、一瞬で俺のはるか後方へ。


「…なに。」

「ああああしがっ…足がいっぱいあるちっちゃいのが、、わさわさって、、、」


「ああ、フナムシだろ、それ。」


「…えぇぇん怖いいぃ……(涙)」

パチ…パチパチ……

目の前で、メソメソと泣くりんの涙が、ちっこい飴のかけらになって落ちていく。


前に食堂で見た時は驚いたが、こいつは“これ”が通常運転らしい。

なかなかおもろい体質だ。


落ち着くまで待つかと思っていたら、りんは急にハッとして、ポケットから小さい袋を取り出して自分で顔の前に広げた。どんどん溢れる飴のかけらを、なぜかこぼさないように集めているようだ。


あの涙、、あとで食えるんだろうか。



ようやく落ち着いたりんは、顔を赤らめながら

ごめんね、と小さくつぶやいた。


…しかしちっこいやつはみんな、こんなにコロコロ機嫌が変わって騒がしいもんなのか?

俺はふう、とため息を吐く。


笑って困って勇んで驚いて泣いて、、

ハヤテそっくりだ。と、俺はりんを見て肩をすくめた。


「あっち。水辺の方が、かわいいのいるかも。」

俺はりんを誘って、海岸沿いの小さな入江になっている場所まで移動した。


海の中を覗いてみると、水深はさほど深くはないが、綺麗な色の小さい魚が海藻の間をスイスイと泳いでいる。


「わ!かわいい!」

つい今し方まで泣いていたとは思えないくらい、りんは嬉しそうにはしゃいでいる。


「カニもいるっ!すごいね」

「さわってみたら?」


えっいいのかな?と言いながら、りんが、そろっと手を近づけると、カニはその小さい手のひらにちょこちょこと登ってきた。


「かわいいねぇ…」

「だな。」

「セツナくんも触る?」


りんは、手に乗せたカニを嬉しそうに俺の方に近づける。

「あ。や、だいじょぶ…」

ーー俺は咄嗟に少し距離を取る。


「ふぅん?」


りんは少しだけ不思議そうに俺を見つめると、また視線をカニに戻した。



ーーーーーーーーーー

『りんーゴルゴーンー』


「生き物たくさん見つけられたねー!」

「あぁ。」

授業が終わり、うーん!と伸びをする私の少し後ろで、小さくあくびをするセツナくん。


すごく可愛い魚たちが見られるスポットに連れて行ってくれて、嬉しかった!

カニは、苦手だったみたいだけど…


そんなことを考えながら、校舎へと続くトンネルに差し掛かった時ーー


「あ、りん。ちょっとーー」

「え?」

突然のセツナくんの声に顔を上げると、なんと目の前に蜘蛛の巣が…


「ひゃああぁあ!?」

ちゃんと見ていなかったので髪でまともに蜘蛛の巣を絡め取ってしまった。


「やだっ!やだやだぁ!!とってぇぇ!!」

「暴れんな、余計絡まる。」 


セツナくんが何か言ってたけど、聞く余裕なんて全くない。

「わぁぁん助けて〜〜!!」

もしかしたら、巣を壊されて怒った蜘蛛が襲ってくるかもしれない…!


もう、だめだーーー

そう思った次の瞬間


バサっ!!

「!!?」

上から、何かを被され視界が遮られた。


「じっとしてろって。取ってやるから。」

セツナくんはそう言って、私に被せた布でくるくると巻き取るようにして、糸を絡め取ってくれる。

徐々にひらけた視界の先には、丸めたTシャツを片手に持ったセツナくんがいた。


自分のシャツで、蜘蛛の巣とってくれたんだ。


「まだ残ってるから。あとで洗え。」

「…うん、ありがとう…」

そう答えると、セツナくんは、別に。と、眠そうに答えた。


私は、少しだけ溢れた涙を咄嗟に手で受け止める。涙はまた小さく固まって、キラキラと夕陽を浴びて輝いていた。


「あ。それ。」

不意にセツナくんが私の手のひらを覗き込む。


「それ、食べれんの?」


思いもよらぬ質問に私は目を瞬かせる。

「えっ、うん…」

一応ちゃんと、キャンディだし、あやめちゃんはいつも美味しいって言ってくれるけど…


ふうん、とセツナくんはつぶやき、そしておもむろに、私の手の中のキャンディを指差して言った。

「食べていい?それ」

「ふぇっ…!?」


「救出料。」

そう言って、片手に持ったままのTシャツを軽く持ち上げる。


「…いいっ…けど、こんなのでいいの?」

「甘いもの好きだから。」


おずおずと、セツナくんの前に手を差し出す。

セツナくんは、空いている方の手でキャンディを摘もうとして…なぜかその手をひっこめた。


そして、頭をかきながら私の前にしゃがみ込み、


「いっこ、入れて。」

と、口を開けた。


「えええっ!!?」

ちょっと、ちょっと待ってなんで!?

あーんってしろってこと!?


顔が真っ赤になっていく音がする。


「なっなん…っ…つまんで取って、いいよ…?」

「両手、塞がってる。」


えっうそ!と目線を下げると、セツナくんは丸めたTシャツを“両手で”しっかりと抱えていた…


うそうそさっき片手で持ってたじゃん!

「…っ……ずるいぃそれ…」

セツナくんはじーっとこっちを見ている。


そんなに見つめられたら、私の方が石になってしまいそうだ…。


「それか、投げていいよ、口で受けるから。」

どうしても手を出したがらないセツナくん。良い妥協案だと思っているのか、セツナくんからは妙な提案しか出てこない。


「投げ…ないよ、食べ物投げちゃダメだもん…」


恥ずかしくて顔から火が出そうだったが、、私は、ふうぅ…と息を吐き、そっとキャンディを摘むと、恐る恐るセツナくんの口にぽいっといれた。


「うま。」

満足そうにコロコロと口の中のキャンディを転がして、セツナくんは立ち上がる。




「……なんで触りたくないの…?」

「!?」

私ばっかり恥ずかしくて、ちょっとだけ悔しくなってポツリと落とした呟きに、セツナくんが明らかに動揺して振り返る。


あれ、いつもの反応とちょっと違う…?


「……触りたくない、のでは、なく…」

「じゃあなんで?」

「だから手が塞がっ…」

「さっきあいてたもん。」


ポーカーフェイスが一瞬揺らいで、少しだけ目が泳いでいる。そんな顔、初めて見た…

そしてーーー


「…あ、あー……

………オンナノ、コ、ダカラ……?」


急にあからさまにカタコトになるセツナくんの返し。かなり動揺しているのが、私でさえもよくわかった。


私は目を、ぱちくりさせて

そして、思わず吹き出してしまった。

「ふふ…なにそれ(笑)」


ごまかされた感じはちょっとだけするけれど、本当に、女の子にふれそうになったのがただただ恥ずかしかったのかもしれない。

まぁ、いっか。


「…とりあえず、美味かった。」

何事もなかったかのようにそう言うセツナくん。


狼狽えてるの、全然隠せてなかったのに、平気なフリしてる…


なんか、、やさしくてちょっと…かわいいのかも。


そんな思いがふと頭をよぎり、私はまた、こっそり笑ってしまった。

ご覧いただきありがとうございました。


更新は不定期です。

活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。

感想や評価など、いただけると嬉しいです。


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《登場人物おさらい》


⭐︎毒島セツナ(ヨルムンガンド)

自分の毒にやられる毒蛇ヨルムンガンド。

口数少なく見た目が怖めだが、ちっこいやつには好かれがち。



⭐︎巳影りん(ゴルゴーン)

見つめても石にできないゴルゴーン。

涙がキャンディになる!

怖がりだけど、わりと積極的なことも。

ーーーーーーーーーー


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


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※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


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