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【2/みさお、あやめ】歌声の向こう側

『みさおー狼女ー』


とある日の、音楽室にて。



「…え……いまなんて…?」

「だから…選択希望表はあくまでも「希望」を確認するためのものであって、基本的に授業は全科目全選択カテゴリすべて受けていただきます。と言ったんです。なにか問題でも?」


私は先生のその言葉を聞いてその場に崩れ落ちた。


先日ゆきが暴走した日にようやく発見した「選択希望表」の冊子は、なんと教科書のように分厚く、この学園で受講する全科目それぞれについての選択科目名がずらりと一覧になっていた。

科目ごとに自分の得意なことや苦手なことを記述式で書く欄があり、その後選択科目名の一覧から好きなものを選び丸をつける。

さらに、苦手な科目についてはその理由も詳しく記入する、という、とてつもなく時間のかかるアンケートを、ゆきと一緒に徹夜で記入し提出したのだ。


それなのに……

「あのアンケートの、意味って……」


「どうでもいいので、早く準備していただけませんか?」

呆然とする私の後ろで、あやめが冷たく言い放つ。


「あ、、ごめん」


今日は私とあやめ、りんの3人が参加する、音楽(声楽)の授業。

私は、希望表の項目で「声楽」は苦手だと記入した。

歌は好きだ。けれどそれは1人の時に限ったことで…人前で歌うなんてこと、私にはハードルが高すぎた。


泣きそうになりながら、またあやめに怒られないようにとのろのろ準備を始める私を、りんが心配そうに眺めている。


ちら、とあやめの方を見ると、ぱちっと一瞬目が合う。が、すぐに怒ったような顔であからさまに顔を背けられてしまった。


…嫌われてるのはわかってるけど、、なんかすごい、やりにくい……


私は若干しょんぼりしつつ、歌集と筆記用具を用意して席に着く。


長々とした音楽の歴史の講義の後、1人ずつピアノの前に呼ばれて、課題の曲を歌った。


恥ずかしすぎて声が震えた。だが…

不思議なことに、歌い始めるといつのまにか震えは止まっていた。

自分が思っているよりも遠くに声が響いている感覚がして、すごく気持ちいい。


歌い終わると、りんが拍手してくれた。

ちらりとあやめの方を見る。


「…え?」

私は目を疑った。


あやめは、席から私を凝視したまま、真っ赤な顔をして固まっていた。


え、、それ、どういう反応……?


「年度末の試験では、自由に選んだ歌を歌っていただきます」

授業の終わりに一言そう告げると、先生は部屋を出ていった。


振り向くと、あやめも一瞬で姿を消していた。


「…全然、話せないんだけど……」

肩を落とす私に、りんが優しく声をかけてくれる。


「みさおちゃん、歌上手ですごいね!今度また、聞かせてほしいな。」


りんの言葉は、いつもとてもあたたかくて、心地よい。


「ありがと。」

ふっ、と笑ってお礼を言うと、2人でそれぞれの部屋へと向かった。


ゆき、今日は調理実習って言ってたなぁ、またシュークリーム食べたいな…

そんなことを考えながら部屋に戻る直前、隣の部屋のドアがスッと開き、あやめが音もなく目の前に現れた。


「うぇ!?」

驚く私を気にすることなく、あやめは無言で私に一枚のCDを手渡してくる。



相変わらず目は合わないが…

「…これ。あなたの声質にとても合ってると思うから。」


あやめはそれだけ呟くと、また音もなく部屋の中へと消えていった。


「…え、ありがと……?」

一瞬の出来事。何が起きたか理解が追いつかないまま、部屋に戻り、握らされたCDを見つめる。


「のく、せ、、し…?なんだ?」

普段、テレビなど全く見ない私にとって、流行りのアーティスト名など小難しい暗号にしか見えなかった。


まぁいいか。

とりあえず、聞いてみよ。


そう思い、部屋でデッキにCDをセットし、再生した。


曲のタイトルは、『光の在処』

流れてきたのは、華やかすぎず暗すぎず、透き通る声の女の子が歌う、軽いバラード調の曲だった。


♪迷ってもいい 泣いてもいい 光はきっとどこかにーーー♪



あ、これ、いいかも。


心に沁みる言葉の数々が、少しずつ凝り固まった気持ちを溶かしてくれる気がした。



「練習、してみようかな。」


私はそう呟くと、デッキから流れる歌声に合わせて、そっとハミングしてみた。




ーーーーーーーーーー

『あやめー絡新婦ー』


食堂で初めてみさおの姿を見て以来、私は彼女のことがまともに見られない。


なぜって…そんなの言うまでもない。

彼女のビジュアルが、私の愛するNoctuLucis†Seraphimの最推し神ボーカル氷室ひむろ 美沙希みさきことみーたんにそっくりなのだから…!!


私の気も知らないで、みさおは会うたび私にあの尊い視線を向けて何か言いたげに近づいてくる。

本当にやめてほしい。ライブ会場ですらないこんな学園の一室でみーたんに単独認知されて特別にファンサもらっている気分になるじゃない…っ!!!!!


「みさおちゃんてさ、ちょっとみーたんに似てると思わない?」

「……っく………!!」

追い打ちをかけるように降り注ぐりんの無邪気な言葉が、さらに容赦なく私のHPを削っていく。


とにかく、こんなに近くに長時間座らされていたら私の心臓がもたない。

頭のなかでノクセラの2ndシングル『幻に恋して、揺れる僕らのミラージュハート』のサビ部分を延々ループ再生しながら、なんとか俯き目を逸らし続ける。



「あ、あやめちゃん、、心の声が漏れてるよ…」


…どうやら、サビ部分のメロディを、脳内のみならず無意識にぶつぶつと口ずさんでいたらしい。後ろの席から、りんがコソコソと小さな声で話しかけてくる。


しかしーーー

そんな出来事を一瞬で打ち消してしまうかのような歌声が、音楽室の前方から飛んできて、私の心臓を貫いた。


なに、、この感じ………!

とっさに顔を上げると、ピアノに合わせて懸命に歌うみさおの姿が目に飛び込んでくる。


恥ずかしそうに頬を赤らめ、緊張のせいで微かに潤む澄んだ瞳を時々こちらに向けながら歌う彼女。だんだんと自信に満ちていく流星のように突き抜けるまっすぐな美しい歌声が、私の思考をフリーズさせた。




なんて



美しい………




歌が終わっても、私は微塵も動けなかった。みさおはふとこちらに目をやり、私をみて不思議そうな顔をしている。


そのあと順に先生から指名されたであろう私が、その場で何を歌ったのか、どんな指摘を受けたのか、みさお以外の出来事は全く記憶に残っていない。



授業終わりの合図と同時に、私は部屋へと飛んで帰った。

まだ段ボールに詰めたままのCDの山から、当時デビュー1年目のみーたんの単独ソロで爆発的人気を博したシングル『光の在処』のCDを引っ張り出し、部屋に戻る直前のみさおの前に姿を現す。


「うぇ!?」

変な声をあげて驚くみさおを見ることもせず、その手に、持ち出したCDを握らせた。


「これをあなたのその美声で歌い上げるところを聴かせてそして太陽のような眼差しでこの命尽き果てるまで燃やし焦がして私をあなたの養分にしてほしい」

…十中八九ドン引きさせてしまうようなそんな“お願い”が喉元まで出てきたのを必死で堪え、


「…これ。あなたの声質にとても合ってると思うから。」


それだけ伝えて、今までのどの瞬間よりも素早く自分の部屋に滑りこみ、ドアをしめた。



…やり切った。


先ほど音楽室から戻ってきたりんが、部屋に入るなり驚いた顔で私を見つめる。


「ど、、どうしたの、あやめちゃん」


顔真っ赤だよ。

そう言われて初めて、自分の心臓が爆発してしまいそうなほど音を立てていることに気づいた。


だめだ、

このままでは命が尽きてしまう。



私は、へなへなとその場に座り込み

心の平穏を取り戻すため、か細い声で、りんに情けないお願いをした。




「また、、なでてもいいですか……」



ご覧いただきありがとうございました。


更新は不定期です。

活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。

感想や評価など、いただけると嬉しいです。


ーーーーーーーーー


《登場人物おさらい》


⭐︎白狼みさお(狼女)

狼になれない狼女

歌うことが好きだが人前で歌うのは、苦手、、。


⭐︎霞織あやめ(絡新婦)

蜘蛛の糸が出せない絡新婦

無口で塩対応だが可愛いもの大好き

アイドル系Vtuber『ノクセラ』のボーカル激推しのガチオタ



ーーーーーーーーーー


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


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