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【5/みさお、ゆき】意外な一面


『みさおー狼女ー』


「みさおちゃん、大丈夫?」


ルカに、きちんと“ありがとう”を伝え損ねたその夜。

部屋に戻ってきてからも、ゆきはずっと私のことを心配してくれていた。


「なんかごめん。…昨日から……」


入学初日の予定は全てすっぽかすし

せっかく整えてくれた皆とゆっくり話ができるチャンスも早々に無駄にして


そしてまた、やらかした私のせいでこうして不安そうな顔をさせている。


ずしりと重くのしかかるようなこのどんよりとした空気感に耐えられず、懸命に話題を探す。



あ、そうだーー

「シュークリーム、ありがとう。」


俯いたままそう呟くと、心配そうにこちらを見ていた顔がぱっと明るくなる音がした。


「あ!食べてくれたの!?よかったぁ!」

ぴょんっとかるく跳ねるようにして、喜びを存分に表に出すゆき。


「甘いもの、好きかどうか分からなかったんだけど、疲れてたみたいだし、少しでも元気が出たらいいなって思って。」


ゆきが、照れくさそうに笑うと、部屋の空気が、また少し涼しくなる。


いいな…素直で。

それに比べて私は……



「そうだ!」

突然ゆきが、カバンの中から取り出したプリントの束を広げて何かを探し始めた。

「渡さなきゃいけないものあったの。今日のガイダンスで、授業の「選択希望表」って言うのが配られたんだけど……あれ?」

今度は教科書やら辞書やらノートやらをぽいぽいと出し始める。


「どこに入れたっけな…ええと、まってね。」

そう言いながら、バッグの外ポケットの中身も全て取り出す。

ペンケースとお財布、のど飴やリップクリーム、ホッカイロとポケットティッシュにビニール袋、くしゃくしゃのレシート、先ほど引っ張り出したプリントの束とは別の、プリントの、束…


…嫌な予感がした。

これ…もしかしてまだ出てくる感じ?

部屋中がゆきのバッグの中身でみるみる溢れていく。


「あれ、、困ったな大事なものなのに…」

そうこうしているうちに、隣に置いてあったトートバッグとリュックサックもすっかり空っぽになってしまった。

足元には、新たにぶちまけられたメイク道具に、ヘアアイロン、お花のレイにアロハシャツ、アイピローと救急セットに裁縫道具……


「ごめんね、また散らかしちゃって…おかしいなぁ……」


「あの、ひとまずちょっと…」

一回、手を止めませんか………


そう言おうとしたところで、私の様子がおかしいことをゆきも察知したらしい。はっと顔を赤らめて私に謝る。

「ああっごめん、びっくりしたよね…

実は、整理整頓するのちょっとだけ苦手で…」


まって、そう言う問題…なの!?これ…

咄嗟につっこみそうになった言葉を、慌てて喉元でぐっと押さえ込む。



しょんぼり顔と“行動力”のギャップで混乱している隙に、ゆきはごめんね、と言いながら机の足元に置いてあった大きめのボストンバッグに手をかけた。


あれ…まさか、、もうひと波くる…!?

「…ちょっ……!!!」


このままじゃほんとに、、溺れちゃう…!!


私は咄嗟に、沈んでいない机とソファのわずかな縁を足場にしてゆきのそばまで跳んで行き、彼女のベッドの上にその身体を放り投げた。


「わぁっ!?」

ベッドの上にひっくり返ったゆきは、驚いて目をぱちくりさせている。

私はそのまま、ゆきの上にふわりと着地した。


「…ごめん、びっくりさせて…」


久しぶりに“動いた”から、荒い息を落ち着けるのに少し時間が必要だった。


怪我しなかったかな…


ゆきは、なんとも言えない表情で私を見上げていた。


部屋の中の惨状は相変わらず。

先ほどまでかろうじて物の海から頭を出していたソファも、すでに荷物の波にのまれて見えなくなって、唯一無事な2人のベッドだけが、ぽっかりと浮かぶ孤島のように佇んでいる。


そしてーー


「…これ以上荷物に埋もれると、向こう岸に渡れなくなっちゃうかも…」


もうこれ以上出さないでっ!足の踏み場が…

と、どストレートには言えず、、穏便にオブラートに包もうとした結果、なんだかよくわからないことを口走ってしまった。





ーーーーーーーー

『ゆきー雪女ー』



無我夢中で探し物をしていて、気づいたらーー


みさおちゃんに抱えられていた。


私をベッドに放った後、みさおちゃんは目の前で身体を捻ってふわりと着地する。



無駄のないしなやかな動きと、ギラっと光る彼女の強い目。



わぁ…きれい……


私は思わず見惚れてしまった。


そして

「…これ以上荷物に埋もれると、向こう岸に渡れなくなっちゃうかも…」


「向こう岸…??」

そう言われて、ハッと我にかえる。


部屋をそろりと見渡すと

足の踏み場もない室内は、一面私の荷物だらけ……


ああ、、またやってしまった……


ひとつのことに夢中になると、まわりがまったく見えなくなってしまう。

特に、、焦って探し物をするといつもこうなってしまうのだ…


どうしよう…私1人の部屋じゃないのに……


申し訳なさすぎて、みさおちゃんの顔が見られない。

「…ごめんね…私、一度スイッチ入っちゃうと、、いつも止められなくなっちゃって……」



みさおちゃんは何も言わない。やっぱり、、怒ってるよね…



そう思いながら、膝の上でぎゅっと拳を握る。

せっかく仲良くなりたいと思ったのに。嫌われちゃったなぁ…。



「あの、、」

ふいにみさおちゃんが、私の背後を指差して言う。


「せめてあそこのシーサーだけ、、、先に助けない?あのままだとちょっとかわいそうかも。」


振り向くと、ちょうど机とベッドのあいだの隙間に頭から落っこちて途中で引っかかり、縦に潰れた状態で身動きが取れなくなっている(?)、大きなシーサーのぬいぐるみがいた。

キラキラした黒い瞳が、助けを求めるようにこちらを見つめている。


「あ、、そういえば……昨日隙間におっことして、そのままだった…」


涙目な私の代わりに、みさおちゃんがぬいぐるみを隙間からひっこぬく。

そしてーー


「…ぶふっ…!」


「えっ?」


恥ずかしさに顔を赤らめ、冷気を発生させながらみさおちゃんを見上げると、

彼女はこちらに背を向け、ぷるぷると肩をふるわせていた。


そして次の瞬間


「ははは!!」

部屋中に響き渡るほどの大きな声で笑った。

「なに、これ今のバタバタのせいじゃないの…!?昨日からって流石に…気づいてあげないと……かわいそうすぎて…っ!」



私がキョトンとしていると、、みさおちゃんはしばらく笑った後、いきなり『はっ!!』と我に返り、またスン…と静かに座り直した。



「…みさおちゃ……」

「ごめん!」


みさおちゃんは、申し訳なさそうに目を背ける。



「あの、ごめんいまのは、、忘れて…」

今しがたの大笑いとはうって変わって


消え入るような、蚊の鳴くような声


顔はーー

相変わらず真っ赤だ。


こんなに感情を表に出してるみさおちゃん……初めてみた。それから、さっきの…かっこいい姿も。

たぶん、自分を否定し続けて、ずっと“らしさ”を押し殺してきたんだろう。



偶然かもしれないけれど、それを、私には見せてくれた。そんなみさおちゃんを知っているのは、この学園の中で、“私だけ”。


その特別感が、なんだかとても嬉しくて、、

ひんやりと漂う冷気の、もっと心の奥の奥で、何かがボゥ…と燃え始めた気がした。


ご覧いただきありがとうございました。


更新は不定期です。

活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。

感想や評価など、いただけると嬉しいです。


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《登場人物おさらい》

⭐︎白狼みさお(狼女)

狼になれない狼女

まだあまり心を開けていない。

動きが俊敏(さすが狼!?)


⭐︎霜村ゆき(雪女)

寒いの苦手な雪女

整理整頓スキルが壊滅的

よく無くしモノをする


ーーーーーーーーーー


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


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