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【4-2/あやめ、りん】内緒の砦〈後編〉〜解放とあたたかさ〜

『あやめー絡新婦ー』


ぴたりと閉じたパーテーションの内側で、私はなんとか気持ちを落ち着かせようと深呼吸をする。


…やり切ったと思う。


最後の反応は意外だったけれど、彼女のことだ、明日以降も塩対応が続けば、否が応でも私から離れていくだろう。

冷たくて怖い、近づいちゃいけない女なんだという刷り込みは、完璧だ。


さて、これからどうしよう。ひとまずベッドの上に荷物を広げてからマイスペースを見渡し、何をどこに並べるのがいちばん推しを感じられるかをじっくりと考える。


フィギュアもポストカードも缶バッヂも、詰め込みすぎてかげに隠れてしまってはせっかくのかわいい見た目が台無しだ。

ひとまず大きなフィギュアは一列で配列し、手前には背が低く背景が良い具合に透けて見えるアクスタを並べて足元までくまなく愛でられるよう工夫をすべきかあるいは机の上の本のラックをはずしてそこにひな壇のように……


腕を組み仁王立ちしたまま、刻一刻と時間だけが過ぎていく。



ーーその時だった。


パーテーションの向こう側、りんのスペースから、予想だにしなかったメロディがかすかに聞こえてきた。



ーーーーーーーーーーー

『りんーゴルゴーンー』


ー『お前は、突然変異の落ちこぼれだから』ー


三姉妹の末っ子である私が、昔からずっと言われ続けていた言葉が、最近また頭の中でグルグルと繰り返し響いてる。


特段夢中になれるものも、人に自慢できるものもなにももってなくて

狙った獲物を石にすることすらできないくせに、唯一他の人と違うところが『キャンディになる涙』だなんて、、

そんなの、メルヘンチックな物語の中でしか見たことがない…


内緒にしなくちゃいけなかったのに。


変なやつだって思われる

また、嫌われる…

そう思っていたのにーー


あやめちゃんは私の涙を見た途端、何も言わずに大きな布を持ってきて、ポロポロ溢れ続ける私の“変な”涙をみんな受け止めてくれた。


びっくりし過ぎて涙が止まった。


「今度から、泣く前に袋、用意しておいてください。バラバラと散らかされたら、ベタベタするし迷惑なので。」

不機嫌で冷たそうな言葉のうらで、それまで少し怖いと思ってたあやめちゃんの目が一瞬…でも確かに、ふわっと優しくなった。


なんだか…おねえちゃんみたいーーー


それまで感じていた寂しさや心の冷たさが、一気に吹き飛んでいく。


嬉しかった。

拒否されなかった。

それだけで私の胸は幸せでいっぱいになっていた。


「…ありがとう」



夕暮れ時。


理想の寮生活とは程遠く、あやめちゃんはあれっきり、自分のスペースから出てきてはくれないけど…


この部屋に来てすぐの時よりも、私の気持ちははるかに暖かく穏やかになっていた。



そろそろ荷物をほどいて、部屋を整理しないと。


少しずつ部屋の片付けをしながら、お気に入りの曲を口ずさむ。


前にお姉ちゃんが聞かせてくれた曲。

毎日俯いていた私に

人と違っても、いいじゃないか。前を向いて歩いていこう。と、そんな思いが詰まってるんだよと、教えてくれた曲。


ボーカルの女の子の歌声が、力強い男の子たちのそれに負けないくらい自信に満ちて輝いていて、私もこの子みたいになれたらなと、憧れた記憶がある。




「曲名…

なんだったっけ。」


あれは、たしかーーーーー







「Cry out, O Misfit Angels」



突然背後から声が飛んできた。

振り向くと


すぐ後ろに、あやめちゃんが立っていた。



「…え?」

「Cry out, O Misfit Angels ― 僕らだけの翼で飛べばいい」


「あっ、あの…」

「ノクセラの魂がこもった有名な曲です『Cry out, O Misfit Angels ― 僕らだけの翼で飛べばいい』」


「は、、」

「これは彼らの作った曲の中でもメッセージ性の高い心揺さぶる“つよい”曲でメジャーで発表された4thシングル『異端であることを恐れずに、夜空を翔ける僕らの詩』のカップリング曲として収録されている名曲です単体ではシングルとして発表されていない知る人ぞ知る幻の神曲である『クラミス』をなぜあなたは知っているのですか!?」


気づけば私は部屋の隅のベッドまで追いやられ、そこにあやめちゃんが覆い被さるようにして私の顔を見つめていた。

あと数センチで、互いのおでこが触れてしまいそうな近さ。


先ほどまでの冷ややかな彼女からは到底想像がつかないようなメラメラと燃えたぎる炎が、その瞳の奥に宿っている。

息継ぎすることも忘れるくらいの怒涛の畳み掛けに、私は言葉を失った。



しばしの沈黙のあと…


「…ぁ……」

あやめちゃんが急に小さく声をあげた。


次の瞬間、目の前にいたはずのあやめちゃんが消え、同時に彼女のエリアの“扉”がピッタリと閉じられる。




どのくらい時間がたったろう。


…何が起きたのか、いまだに理解が追いついていないけれど

私は、ようやくゆっくりと立ち上がり…

あやめちゃんを守る、閉ざされた扉の前に立った。


小さくノックをして、声をかけてみる。

「…あの…あやめちゃん」


「……。」

返事はない。



「……。」

「……。」



「……さっきの曲のタイトr…」

「Cry out, O Misfit Angels」


ガタンっと小さな音がして、また沈黙…。


思わず

ふふ。と笑ってしまった。



「……なんなんですか」


扉の向こうから、声だけが飛んでくる。


「何が言いたいんですか。

もっと大声で笑えばいいじゃないですか。


あんな家に生まれてそんな出立ちで冷たい女なくせに…Vtuberとかいう虚空の存在に打ち込むことでしか価値を見出せない情けないやつだと触れ回ればいいじゃないですか。」



扉に触れた手を思わず引っ込める。



「どうせ私は“普通”と違う爪弾き者なんです。

集落に残ったところで蜘蛛の糸すら出せない落ちこぼれと馬鹿にされ続けるだけの無価値な存在でしかないんです!」


あやめちゃんのことばが、まっすぐに私に突き刺さる。


くるしい。


「私はここさえ守れれば他には何もいらないんです!好きなものに囲まれているだけで幸せで、くだらない馴れ合いで時間を…無駄にしたくないんです…」



そっとしておいてほしい。



認められたい。



そのままでいいんだよって


言ってもらいたい。





その気持ちが、痛いほど伝わってきた。





ーーーーーーーーーー

『あやめー絡新婦ー』



…言い過ぎてしまった。



しん……と、静まり返る室内。


こんなに感情的に言葉をぶつけるつもりなんてなかった。



私の愛するものたちを、あの子が知っているなんて夢にも思わなくて

気づいたら私の下に組み敷くように詰め寄ってしまっていた。



そんな姿をみせてしまったことが恥ずかしくて

歯止めの効かない自分がみっともなくてーーー


きっと明日にはみな、今夜のことを知るだろう。


りんは小さくてすごくかわいいから

みんなが守ろうとするだろう。



私は、ここにすらいられなくなるんだ…。





「あやめちゃん…あのね、あの…」


小さくか細い声が、扉の向こうから聞こえてきた。


「私ね、あやめちゃんすごいなって、思ったの。」



何を、言ってるんだ…この子は。


「私の知らないこと、たくさん知ってて…

かっこよくて…それで、、もっと聞きたいなって


お話ししてほしいって、思ったの。」



静寂ーーー

彼女の震える声だけが、微かに響いて、すぐに飲み込まれていく。


「私ね、あやめちゃんみたいに、、なりたいっておもったの…」


そんなこと…今まで誰にも言われたことなかった。

私は、両手をぎゅっと握りしめる。


「あっ…そ、それでね……ちょっと…」



また、涙がパチパチとこぼれ落ちる音がした。


「あぁ……どうしよう…あのっ!……」



ふるえる喉の奥から必死で絞り出される、涙交じりの言葉たち。


ぐらりと、心が揺さぶられる。


次の瞬間ーーー




「私今日っ…ふ、ふくろ、もってなくて……!!」



私を閉じ込めていたぶ厚い壁が

一瞬で吹き飛んでしまった。



「…て…っ…てつだって、、ほし……」



私はその言葉が終わるよりも早くノクセラのオフ会で配られたプラチナ会員限定の3周年記念エコバッグをひっつかんで飛び出すと、そのまま、りんを涙ごとぎゅうっと抱きしめた。




ーーーーーーーーー

『りんーゴルゴーンー』



七色のキャンディが散らばる部屋の中で


私は、あやめちゃんに、ぎゅうっと抱きしめられていた。


涙は、またいつの間にか止まっていた。


「…そんなにしょっちゅう泣かれたら

袋がいくらあっても足りません。」


私は、ごめんなさい。と小さな声で言う。



「とは言え…」

一つため息ををついて、私をみる。


「毎日3回までなら泣いても当分は余裕がありますので。」

そう言ってちらりと自分の背後に目を向けた。


先程までピッタリとしまっていたパーテーションが開いている。


あやめちゃんの顔色を伺いながら、、その中をのぞくと…

ベッド脇の段ボールの中には、何やらカラフルな紙袋やエコバッグ?たちが、ぎっしりと詰められていた。


そろりと目線をうつすと、ベッドの上には、まだ整理しきれていないたくさんの荷物。

そして机の上には、あやめちゃんのタブレット端末に寄り添うように、一体のフィギュアが飾られていた。


「…あっ!」

私は、目を丸くした。


さっき教えてくれた、あの歌の、、女の子だ!




「…誰にも…知られたくなかったんです。」


あやめちゃんは、私の方を見ずに呟く。



「……言いますか…?」

みんなに…。


私は、彼女の微かに震える手にそっと触れながら小さく答える。


「言いません。」



戸惑いの色を消せないままのあやめちゃんの目が、ようやく私を見た。



「…なでても、いいですか?」



予想していなかった方向からの問いに、私は思わず「えっ!?」と大きな声が出てしまう。


あっ

あやめちゃんがまた、不安そうな表情に…


慌ててコクコク!と頷くと


優しくふわりと手がのびてきた。

ぽんぽん、と触れる手のひらに、私はとても温かいものを感じた。




生まれて初めての寮生活。


同じ境遇の友達と、同じお部屋で楽しくお話したり、一緒にお菓子を食べたり、時にはちょっぴり夜更かししたり…


そんな憧れの日々が、すこしだけ手の届くところまで近づいてきたような気がして


私はとても、あたたかい気持ちになった。

ご覧いただきありがとうございました。


更新は不定期です。

活動報告等でもお知らせいたしますので、よろしければまたお立ち寄りください。

感想や評価など、いただけると嬉しいです。


ーーーーーーーーー


《登場人物おさらい》

⭐︎巳影りん(ゴルゴーン)

涙がキャンディになる小柄な女の子。

どんなに見つめても、相手を石にできないゴルゴーン。

いつもおどおどと自信がなさげ。

ふわふわの髪とくりくりの目が、かわいい!

三姉妹の末っ子。



⭐︎霞織あやめ(絡新婦ジョロウグモ)

クールな見た目とはうらはら、可愛いものが大好き。

ガチオタ。アイドルVtuber『ノクセラ』箱推し寄りだが最推しはボーカルの少女。

グッズもCDも全て持っている。ファンクラブはプラチナ会員!

ーーーーーーーーーー


こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。

(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)


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※この作品の無断転載・複製・AI学習への使用を禁止します。Repost is prohibited.


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