【4-1/あやめ、りん】内緒の砦〈前編〉〜高難易度の試練〜
『りんーゴルゴーンー』
うまれて初めての寮生活。
同じ境遇の友達と、同じお部屋で楽しくお話したり、一緒にお菓子を食べたり、時にはちょっぴり夜更かししたり…そんな楽しい日々がついに実現するんだと、私は幸せでいっぱいだった。
ルームメイトと一緒に、この部屋の扉を開けるまではーーーーー。
*
「部屋は、平等にピッタリ半分に分けましょう。」
寮の部屋に入るなり、ルームメイトのあやめちゃんは私にそう言った。
「…えっ……」
部屋を…分ける……?
すぐには状況が飲み込めず、両手にいっぱいの大きな荷物を抱えて立ち尽くしたままの私の目の前で、あやめちゃんは持参した大きなパーテーションをテキパキと組み立て始める。
「えっ、え…あの…半分こってつまり…“それ”で…?」
あやめちゃんは、作業する手は止めずに目線だけ少しこちらによこして、さらりと答える。
「そうですけど。なにか?」
驚きとショックで、言葉がでてこない。
…そんな…ことって………
入学前から描いていた“理想の寮生活像”が、ガラガラと音を立てて崩れ始める。
「あっあの、でも、ピッタリ半分にしちゃうと、、ほら、ひとつしかないものとかも…あります…よね……?」
左右に分かれたそれぞれのベッドと机、クローゼットのほか、部屋の真ん中のスペースには、2人で使えるようソファと本棚、かわいい電気スタンドの乗った座卓が置いてある。
せめて、この“共有スペース”くらいは、一緒にーーー
「ああ、それなら…」
すがるような目で、あやめちゃんを見上げる。
「そこはりんさんのスペースに全て含ませていただいて構いません。私は、ベッドと机とクローゼットがあれば十分なので。」
…おしまいだ……
一縷の望みも、ばっさりと切り捨てられてしまった。
目の前が真っ暗になった。
さっきからずっと我慢していた波が一気に込み上げきて…涙が、ポロポロとこぼれ落ちた。
初対面の人の前で泣くなんて、恥ずかしい…
何度も手で拭うが、涙はとめどなく流れ出てくる。
そしてーー
パチ…
パチパチ…パチ…
こぼれ落ちた涙が、
音を立てて固まり始めた。
目の前で起きている不思議な状況に、組み立て終わったパーテーション設置の仕上げをするあやめの手が止まる。
涙は固まって床に落ち、きらきらと色とりどりに輝いている。
「まさか、、そんな…」
あんなに淡々としていたあやめが、驚きの表情を隠すこともできず、こちらをじっと見つめている。
ああ、もう…我慢しなきゃいけなかったのに。
あっという間に、ばれてしまった。
私が
“普通”じゃないってこと…。
ーーーーーーーーーー
『あやめー絡新婦ー』
部屋に入って以来、同室の『りん』という少女の表情は暗く沈み込む一方だった。
そしてそれが私の“提案”のせいであることは、最初からわかっていた。
でも、これだけはどうしても譲れない。
クールでスマートな絡新婦になるためには、
絶対に隠し通さなければならないのだ。
誰よりも“かわいいもの”が好きなこと。
そしてそれ以上に、誰にも侵されることのない完璧な“プライベートスペース”を整える必要があった。
誰にも言えない、私の命より大切な
『推し』のためにーーーーー
*
同室のりんは、私が部屋を分けると言い出してから、ずっと暗い顔をしている。
「あっあの、でも、ピッタリ半分にしちゃうと、、ほら、ひとつしかないものとかも…」
長く伸ばしっぱなしの前髪の隙間からチラッとのぞく彼女の大きな目が、すがるように私を見つめる。
どうしよう。
…かわいい。
初手からこんなにも激辛塩対応をしているのに、なんでそんなに可愛い顔をして私を見上げ、めげずに話しかけてくるのか……!!
うるうるとした瞳が、そのかわいさにさらに拍車をかけている。
思わず、手を伸ばして、ふわふわ伸びる髪をわしゃわしゃと撫でくりまわしたい衝動に駆られる。
というか…
抱きしめたい…!!!!!
ーーーが、なんとか、ぎりぎりで踏みとどまった。
これは試練だ。
動揺した姿を見せないために、推しのグッズをあの棚にどのように配置して置いたら机の位置から全て愛でることができるのかを考えることに頭をフル回転させる。
よし、表情は崩れていない。
あくまでも涼しい顔をして、なんでもないように大人な返事をする。
「そこはりんさんのスペースに全て含ませていただいて構いません。私は、ベッドと机とクローゼットがあれば十分なので。」
これで決定打だ。もう、私とは関わりたくないと怒るだろう。
そう思い、彼女に背を向けパーテーションの仕上げに戻った。
その途端ーー
後ろからパチパチと、何かが弾ける音。
思わず振り向くと
彼女の目からこぼれ落ちた大粒の涙が、床に落ちるたび固まっていくではないか…
「まさか、そんな…」
私は自分の目を疑った。
こぼれ落ちたそれは、きらきらと七色に輝く、キャンディの粒だった。
*
気づくと私は
自分の荷物からストールを取り出して彼女の顔の下に掲げていた。
パチパチと溢れ続ける涙のキャンディが、大きなストールに受け止められて、それはそれは綺麗に輝いている。
小さい頃憧れた、量り売りのお菓子売り場のキャンディの山のようで、ついうっとりしてしまいそうになる。
りんは、私のとっさの行動に驚いたのか、涙が溢れるのもかまわず、キョトンとした顔で私を見上げる。
…私は、今日持ってきた推しグッズの中から限定ライブのアクスタの中でレアな色違いがいくつあったかを頭の中で計算しながら平静を装いーーー
彼女がいつのまにか泣き止んだことを確認してから塩っ気たっぷりに言葉をかけた。
「今度から、泣く前に袋、用意しておいてください。バラバラと散らかされたら、ベタベタするし迷惑なので。」
うるむ瞳を負けじと見返して、今夜聴く推し曲はデビュー作から順にたどろうか逆順にたどろうかはたまたランキング上位から順にループしようかを必死で考える。
ストールに集めたキャンディは、そのまま袋状に口を縛り、さりげなく自分のスペースに置いておく。
また泣くかと思いきや、
彼女の反応は、私の想像と真逆だった。
頬を赤らめ、ふわっと笑ったかと思うと
「…ありがとう」
と、MAX塩対応の私に向かってお礼を言ったのだ。
だめだ、決壊する…!!
私は
「わかればいいんです、というかすぐ泣かないでください」
そう吐き捨てるように告げると、自分のスペースに逃げるようにひきこもり、パーテーションをピッタリと閉じた。
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更新は不定期です。
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《登場人物おさらい》
⭐︎巳影りん(ゴルゴーン)
涙がキャンディになる小柄な女の子。
いつもおどおどと自信がなさげ。
ふわふわの髪とくりくりの目が、かわいい!
⭐︎霞織あやめ(絡新婦)
クールな見た目とはうらはら、可愛いものが大好き。
ガチオタ。
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こちらの物語は、pixivにも同時掲載しております。
(※創作活動としての併載です。転載目的ではありません。)
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