【1-1/みさお】迷子の狼
私は――
群れからはじかれた、出来損ないのオオカミだ。
本来なら、満月の夜には大きなオオカミに変わり、誰もが恐れる存在になるはずなのに。
私には、耳も尻尾も現れない。
せいぜい少し鼻と耳がきいて、身軽なくらい…。
それじゃあ「ただの人間と同じだ」と、いつの間にか笑われるようになった。
群れにいても居場所がない。
だから私は、ここにやってきた。
――「万怪異類文化継承学園」。
通称「ノアズ・アーク」。
八百万の種族継承を守るため、何かが足りない者、何かを求めている者であれば、ノアの方舟のように、いかなる種族でも平等に受け入れてくれる――らしい。
そんな「訳あり」ばかりの子たちが集まる場所。
……きっとここなら、私も紛れ込める。
だけど、ほんとうにうまくやっていけるんだろうか……。
*
「……迷った。」
おかしい…案内図、ちゃんと見たのに
ここ、一本道のはずなのに!?
港から学園まではすぐのはずが、気づけば山奥深くへとズンズン進んでいた。
船から降りた時はまだお昼前だったのに、今はもうすっかり陽は落ち、辺りには薄暗い闇が広がっていた。
背の高い木々の間から見え隠れする月のあかりは弱く、湿った土と葉の匂いが鼻をくすぐる。島特有の、少し野生めいた匂いだ。
ブンッ――。
耳元で、低い羽音。
思わず振り返った私は、息を飲んだ。
「……でかっ!?」
そこにいたのは、手のひらよりも大きい虫。羽の一枚一枚がはっきり見えるくらいの、島特有の巨大種…なのか…!?
山奥で生まれ育ったのに、私は虫が大嫌いだ。
「や、やだやだやだ!」
パニックで駆け出すと、今度は地面を這う黒い影が視界をかすめる。
ずるり。
「……っ!!?」
振り返れば、信じられない太さの大蛇。動物園で見たどの個体よりも太い胴体が、ぬらりとこちらへと伸びてくる。
――あ、死ぬかも。
恐怖のあまり、その場でへたり込んでしまった。
その瞬間ーー
頭上の枝葉がガサリと揺れた。
影が落ち、ひとりの青年が木の上から飛び降りる。
彼は私と蛇の間に割って入り、じっと蛇を睨みつける。
構わず飛びかかろうとする蛇。
青年の目にグッと力がこもり、体から黒い煙のようなものが立ちのぼった。
「……おまえ、何様?」
低く吐き捨てる声。
空気が変わった。肌が粟立つような威圧感が、蛇へと突き刺さる。
蛇はたじろぎ、ゆっくりと後ずさり…やがて湿った落ち葉の中へと姿を消した。
私は呆然と立ち尽くし、ようやく声を絞り出す。
「……あ、ありがと……」
震える声に、青年はちらっとこちらを見た。
黒と赤が混じる髪色が風にゆらめく。乱れた前髪の下、鋭い目には、もう先ほどの威圧感はない。
傍には、散らばった大荷物。
「……あんた、白狼みさお?」
「えっ、なんで……!? なんで名前知ってるの!?」
「入寮式。」
「へ?」
「今日の午前中。部屋分けの時、あんた一人だけいなかったから。超名前呼ばれてた。」
「は!?」
入寮早々から全員に名前を覚えられるくらい、目立ってしまったらしい。
「…なんでこんなとこいんの。さぼり?」
「えっ!?違っ…」
「じゃなんで。学校、あっちだけど。」
彼が指さした方角は、私が歩いてきた方向とは真逆だった。
島に来て、早々に迷子になったなんて恥ずかしくて言えず、私はとっさに嘘をつく。
「う、うぁ……えーと……散歩……?」
じぃっと見つめられる。
視線に射抜かれそうで、私は思わず目を逸らす。
「……ふうん。」
気まずさを打ち消すように言葉が飛び出す。
「あ、あなたこそ!なんでこんなとこ…」
「…散歩。」
彼は興味を失ったように目を逸らし、だるそうに続けた。
「とりあえず急げば。みんな、寮の部屋いる。」
そう言うと彼は、スッと背を向けた。
「えっ!?あっ、まって……!」
(置いていかないで……!)
必死に呼び止めようとした、そのときだった。
――バターン!
「うぇぇえ!? なに!? どうしたの!?」
「……きもちわりぃ……」
白目をむいた青年と、呆然と立ち尽くす私のもとへ
ゴロ…ゴロロ…
雷鳴とともに、
突然ザーーッと雨が降り注いだ。
もともと夕立が来る予定だったのか、いまの私のどうしようもない心を表しているのか…
「うぅ…重っ……
ちょっと、、しっかりしてよ…」
大きなキャリーケースにやっとのことで青年の身体を半分ほど乗せて、落ちないように片手で服を引っ張りながら、ずるずると引きずっていく…
初日から迷子になったあげく、こんな不恰好な状態で、その子の匂いを辿ってびしょ濡れで入寮する――。
そんな波乱の幕開けになるなんて、、、港に降り立ったときは夢にも思わなかった。
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