誰もいなくなった世界で、私は紙飛行機を飛ばす
※『第6回なろうラジオ大賞』応募作品です。指定キーワードを作品中で全て使用しました。
(カレンダー/ルームメイト/卒業/紙飛行機/ベランダ/散歩/プール/トレーニング/観覧車/お弁当/寝言)
目が覚めると、つい癖でカレンダーに目をやってしまう。もう日付に意味なんてないのに。
電気も水道・ガスも全て止まっている。テレビもつかないし携帯も繋がらない。もう正確な日時なんて知りようもないのだ。
同棲していた彼が寝言で香の名を呼んだことから、私は浮気に気づいた。
問い詰めてみたら、やはり私の元ルームメイトで親友の香ともデキていて、しかももう妊娠6か月だという。
信じていた二人からの二重の裏切り。
捨てられた私は、自ら命を断とうと大量の睡眠薬を飲んで──何日か振りに目が覚めた時には、もう世界は終わっていた。
ベランダから見る風景はいつも通りで──ただ人の往来だけが消えている。
理由はわからないし、どうでもいいけど、どうやら突然世界中の人が消えてしまったらしい。
最初の数日は、誰もいないコンビニから拝借したお弁当で乗り切った。あとはレトルトや缶詰、災害用保存食だ。
残念ながら冷凍庫に電気が来てないので、冷凍食品は全滅だった。
──今日も味気ない食事を口に運びながら、ぼうっと考える。
もう死のうと思っていた筈なのに、何で私はご飯を食べてるんだろう。
そろそろ終わりにしてしまおうか。どうせやりたいこともないんだから。
──その時、はたと気づいた。
元凶のあいつらが消えたのなら、もう私が死ぬ理由もないんじゃないの?
ご飯を食べたら、何だか気力がわいてきた。
とりあえず、他に誰か生き残りがいないか探してみようか。
何日も部屋と近くのコンビニを往復してただけなので、脚が弱ってる気がする。
トレーニングがてら、まずあそこに見える市民プールまで──いや、もっと向こうの観覧車まで散歩してみようか。
案外、近くに誰かいるかもしれないし、いなかったら車でもっと大都市に行ってみてもいい。
そうと決まったら、ガソリンが多く残っている状態のいい車を探して、食料や水もいっぱい積み込まないと。
あ、野犬とか、最近は熊も怖いから武器が欲しいな。猟銃とか、どこで手に入るんだろう。
やるべきことは山ほどあるけど、時間も腐るほどある。
色々考えていたら、何だかワクワクしてきた。こんな前向きな気持ち、いつ以来だろう。
私は、あの二人と一緒に写った写真を壁から剥がして、小さな紙飛行機を作った。
窓を開けて、ベランダから秋晴れの空へ向かって飛ばす。
──バイバイ。私はあんたたちから卒業する。
生き抜いてやる。
あんなクズどものためになんか、もう絶対死んでやるもんか。