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ラークスの旅  作者: サーモン丼
第一章
9/12

恨み

「いやぁー名演技だったなラークス」


裏路地を出るとノランがすぐにそう言った。


「うんうん、ほんとかっこよかった。地の果てまでなって。ぷぷぷっ」


エデンもノランの言葉に付け加えるように言う。

馬鹿にしているように聞こえるけど。


「あ、ありがとう2人共」


だから俺は苦笑いを浮かべる。


こいつ。

俺の言ったセリフだけ、わざと声を低くして言いやがって。

何がカッコいいだ。

完全に馬鹿にしてやがるじゃねぇか。

もう2度とやるかよ。

はあぁーー

まあでも


「やって良かったよ。相手に嘘を言わせないことは勿論のこと、安全面も恐らく保証されたはずだからね」


「ん?安全面?」


「どうゆうこと?」


2人は首を傾げる。

そう言えば説明してなかったな。

特に必要ないかと思って。


「実はあの演技、特に後半の部分の言葉には、あいつが組織の人間だった時ようの対策も含ませていたんだよ。もし組織の人間だったら結構ヤバいからね」


まあこのくらい話せば分かるだろう。


「・・は?何言ってるか全然分かんないんだけど。

ちゃんと説明して!」


わ、分からなかったか。

ノランは・・分からなそうだな。

チラッとノランの方を見たが微妙な表情をしてる。

俺の説明が悪かったか。


「うーんどこから話そうか。そうだねぇー。

じゃあまず少し考えて欲しんだけど、組織が本拠地としているのがこの貧困地区ってことは分かるよね?」


「当たり前でしょ。ここに来たのもそれが理由じゃん」


「うんそうだね。っていうことはさ、こうも言えるでしょ?貧困地区、つまり今俺達がいるこの区だったら、組織の人間が何処にいてもおかしくないって」


「う、うん。多分?」


エデンの反応は微妙だな。

半々ってところか。

ノランはどうだ?


「あぁーー。つまりあの人も組織の人間だったかもしれないってことか。

安全面。なるほど、そういうことか」


どうらや全て理解したようだ。


「ええ?待って?何で分かるのあんた。私が馬鹿みたいじゃん」


エデンは頭を抱える。


「まあ落ち着いてもう一回考えてみてよエデン。

組織の本拠地はこの地区なんだから、この地区に組織の人間がいたってなんら不思議はない。そうでしょ?」


「う、うん」


「だったらさっき話したあのお爺さん。あの人が組織の人間である可能性は結構高いってなるよね?」


「・・た、確かに。言われてみれば。

でもそれにどんな問題があるの?ヤバいって言ってたけど」


いい質問だ。

ここからが大事になってくる。


「それはね。うーん

・・そうだね、じゃあエデンが組織の人間で、あのお爺さんだと考えてみて」


「私があのお爺さんー?」


エデンは嫌そうな表情を浮かべる。

少しは抑えて欲しいもんだ。

気持ちは分かるけど。


「例えばだからねエデン。あんまり気にしないでおいてよ。

で話は戻るけど、そこに今日みたいに裏路地で俺が現れて、組織のボスについて情報をくれと言われたとするよ。

エデンはどうする?」


「えぇ?ど、どうするか?

それは、それは・・うーんとねぇ。組織に報告するとか?」


お、分かってるじゃん。


「そう、その通りだよ。報告するんだよ。上の人間に。怪しい奴がいたってね」


「う、うん」


「でも俺達からするとそれは避けたい。探りを入れていることが組織の上の連中にバレたら、警戒されるし、最悪殺しにくるかもしれないから。

でここまで説明したから、俺の幹部にしてやるって言葉に戻るけど、相手の視点から見てみると、どう?俺の提案はメリットが大きいでしょ?

あんな薄暗い場所にいるとしたら、恐らく下っ端だからね」


相手は上に報告するば、俺達の作戦の失敗確率が高まるかもしれないと考えるだろう。

確証はないが下っ端から幹部になれるかもしれないんだ。

言わないと俺は思う。

ただし俺達が騎士団員だと疑われれば話は別だけど。

まあでも、話した感じ組織の人間ではなさそうだから大丈夫だろう。


「う、うん。確かに下っ端なら幹部になりたいって考えると思う。多分」


「これで俺の言葉の意味が分かったでしょ?」


「ああ、そんな所まで考えてたとは思わなかったぜ。マジですげぇな」


ノランが代わりに言う。

ま、エデンも理解できただろう。


「だけど、大丈夫かラークス?あの人の答え少し予想外だったろ?」


得られると思っていたのは組織の人間の情報。

だからノランの言う通り、確かに予想外だった。


ノランは情報が得られるか心配しているのだろう。

組織の人間とそうでない人間では情報を得るための方法は変わってくるから。


「まあね。でも大丈夫だと思うよ。有益な情報があったからね」


そう、恨みという操りやすい要素をそいつが持っているということを。

もしかすると、組織の下っ端よりもボスの情報を聞くのが簡単なかもしれない。

知っているという保証はないけど。


「ふぅーん、自信満々じゃん。本当に大丈夫なの?」


「うん、まあ見ててよ」


そして俺達は青いアパートに到着すると、右側にある階段を上り


「よし」


2階の1番奥にある扉の前に立つ。

もしかすると部屋の中にいるのは重要な人物かもしれない。

だから絶対にこの機会は逃せない。

気合を入れよう。


そして


コンコン


俺は木製のドアを軽く2回叩く。

勿論警戒はしている。

中の人間がいきなり襲ってくるかもしれないからな。


「・・・」


しかし数十秒経過しても、中からは何の反応もない。

こんな早朝だから、家にいるはずだけど。

まだ寝てるのか?

まあいい。

起きるまで叩くだけだ。


コンコンコン


俺はもう1度扉を叩く。

今度は1回多く、少し強く。


「・・・・誰だ?」


すると中から男の声が聞こえてくる。


この声のトーン。

今飛び起きた訳でもなさそうだ。

無視してたな。

ま、あんま気にしないでおこう。

まずはあの爺さんが言った情報が正しいかを確認しなければ。


「すみません、こんな朝早くに。私はラークスと申します。

実は少し聞きたいことがありましてね。ルイ・カルビンさん」


「・・どこで俺の名前を知ったのかは聞かないでおこう。

一体どんなことを聞きたいんだ?」


名前は正しそうだな。


「あなたが昔関与していた、今もこの区に存在する薬物組織についてです」


「・・関与?心当たりがないな。一体何のことだ?」


最初の間。

これはほぼ当たりだな。

一旦、爺さんの情報は正しいとみていいだろう。


「しらばっくれるつもりですか?」


「しらばっくれるも何も、知らないものは答えようがないだろ。

分かったらさっさと帰ってくれ。俺は忙しんだ」


しかし男は組織とは関係がないと一点張り。

まあいいけどさ。

そういう反応するって思ってたから。

仕方ない。

組織への恨みを利用させてもらうか。


「そうですか。それは残念です。

折角、あなたの代わりに仇を取ってあげようかと思っていたのですが」


「・・仇だと?やはり何か勘違いをしているんだろう。なんせ俺は今まで誰かを恨んだことなどないからな」


「はあぁー、嘘は良くないですよカルビンさん。正直に言いましょう。

あいつらが憎くて憎くてたまらないと」


相手からすれば命令に聞こえているかもしれない。仇を討ってやるから情報を教えろと。

だが情報が真実ならばこいつは、絶対に俺の言葉に食らいついてくる。

必ず何かしらの反応を示すはずだけど。


「そうかそうか。どうやらお前は俺をどうしても組織と関わっていたことにしたいらしいな。そして恨みをもっていると。

だがそれが本当だったとして、お前に組織を潰せる力があるのか?」


俺はニヤリと笑う。


よし乗ってきた。

もし恨みを持っていなかったら、そんなことは聞かない。

これで、恨みを持っているのはかなり濃厚になった。

やっぱり爺さんの情報は正しそうだ。

そして力があるのかと疑われるこの展開も予想通り。

対策は立ててある。


「はい勿論です。私達は騎士団ですから」


騎士団の戦力は大きい。

組織を潰せる程に。

だから名乗った。

だが


「「は?」」


最初に聞こえたのはノランとエデンの声。


「おいちょっと待てラークス。正気か?」


「ほんと、何考えてんの?馬鹿なの?」


そして俺の耳元で2人は焦ったようにそう囁く。


あのエデンもこの焦り具合だ。

少し面白い。

まあでも、そういう反応になるのも無理はないのかもな。

2人はビビっているのだろう。

重い罰が与えられるかもしれないということを。

実はこの国、いやどこの国でもそうだけど、騎士団員ではない者が騎士団員であると名乗ることは違反行為とされているのだ。

バレれば恐らく重罪。

俺が騎士団員と言ったが、協力している2人も恐らく同罪になるだろう。

だけど俺はこう思うんだ。


「大丈夫だよ2人共。バレなければいいだけだからね」


そう、バレなければ何の問題もないと。事実、薬物を使用していたエリーは捕まっていないのだから。

それに逆に好都合だ。

重い罰が与えられるのに、わざわざ嘘をついて騎士団と名乗る者などいない。

相手は、俺達が騎士団だと信じざるおえないだろう。


「ま、マジかよ。まだ戻れるぞラークス」


「そうそう、まだ取り消せるから。今しかないってば」


2人はまだ抵抗するが


「本当か?」


男が口を開いたので、2人は慌てて俺から離れる。


残念もう無理だ2人共。


「何がですか?」


「今の話は本当なのかと聞いているんだっ!!」


男は声を張り上げる。

騎士団なのかの、確認みたいなものだろう。


「本当ですよ。私達はソニル・ラウンゾルト騎士団長命令の下、秘密裏に行動していますから」


俺はさらにクマーク王国騎士団長の名前を提示することで、信用を確実なものにしようとする。

騎士団長までが動くとなると期待大だろ?

なんせ剣術の超級だからな。


「俺を捕まえる気はあるのか?」


「いえ、そのつもりはありませんよ。

やるつもりなら、もうとっくに貴方は捕まっていますから」


自分の情報は筒抜けている。男はそう確信して聞いてきたのだろう。


「・・分かった。今ドアを開ける」


よし!

これで一番難関な部分は突破した。

後は質問するだけだ。

ボスの情報を持っているという保証はないけど。


そして直ぐにガチャっという音が鳴り、目の前のドアが半分程開き


「3人いたのか」


中から少し頬がこけ、瞳に光がない男が顔を出す。


「はい」


この人がルイ・カルビンか。

今にも死にそうな顔をしているが、大丈夫か?


「ん?待てお前たち、何故騎士団の服を着ていない?

まさか騙したのか!?」


突然、男は怒りと焦りを露わにする。

騎士団員の証は、騎士団専用の”服”を着ていることなのだが、俺達は騎士団員ではないので、勿論その服を着ていない。

だからそういう反応になるのも頷けるが


「秘密裏と言ったでしょう?あの服装で来たら目立ってそれどころじゃないですからね」


俺は布石を打っていた。

秘密裏、つまり組織にバレないように行動していると言うことで、俺達が騎士団の服を着ていないということを正当化するために。


「な、何故そんなことを?」


「敵は今油断しているんです。長年放置しているから何もしてこないだろうと。

しかし私達騎士団が探りを入れていると知れば、当然警戒するでしょう。

それは避けたいんですよ。

油断している時と警戒している時、どちらの方が潰すのが簡単か分かるでしょう?」


「な、なるほど。

疑ってすまない。入ってくれ」


男は申し訳なさそうな表情をし、ドアをさらに大きく開け、俺達を部屋の中へと案内する。


そんな顔しないでくれよ。

嘘を言っているから、こっちがマジで申し訳なく感じるから。


部屋の中はエデンの部屋と大きさはほぼ同じように感じるが、物が散乱しており、お世辞にも綺麗とは言えない状態だった。


「そこに座ってくれ」


男は2つある椅子の内の1つを机から引き、そこへ誘導する。

俺は言われるがままそこに座ると、男は向かいにあるもう一つの椅子に腰を掛ける。


「すまない。椅子は2つしかないんだ」


「いえいえ、気にしないでください」


俺は真っ直ぐな信念を持つ騎士団員のように振舞う。


「それで、組織の何を知りたいんだ?」


「話が早くて助かります。では組織のボスについて何か知っていることがあれば教えてください」


何か知っているとありがたが、どうだ?


「なるほど。ボスについてだったか」


「ええ」


「そうか。

だが期待に添えなくて申し訳ない。俺もあいつらのボスについて知っていることは何もないんだ」


「そうですか・・」


うーん。

予想はしていたけど、これは少しショックだな。


「ただ・・」


「ただ?」


「側近の男について1人だけ知っている」


「!」


マジか。

側近ということは、恐らく幹部だ。


「本当ですか?」


「ああ。どういった男なのか。今住んでいる場所とかだけだがな。役に立ちそうか?」


「はい。とてもありがたいですよ」


ボスではなかったは言え、幹部でも十分だ。

男っていうことも分かったし。


「それは何よりだ。

だがこちらからもあなた達騎士団に1つ聞きたいことがあるのだが、いいかな?」


「ええ勿論です。答えられる範囲であればお答えしますよ」


ちっ。騎士団に関することは質問するなよ。答えられないからな。


「・・お前たち騎士団は、何故組織を長年放置していたんだ?何故もっと早くあの組織を潰そうとしなかったんだ?」


男のその声には怒りが含まれていた。


なるほど、これは質問じゃない。

ただの八つ当たりだ。

長年放置してきたのに、今更何故組織について探っているのか。

お前たち騎士団がもっと早く行動してくれていれば、家族は殺されずに済んだのではないかと。

そう俺達を責めているのだろう。

だけど安心した。


「これは言い訳に聞こえてしまうかもしれませんが、私達騎士団は指名手配犯を追うので精一杯。組織の方に手を回すほどの人材、時間を確保することがなかなかできずにいました。

ですが私達自身、力不足であることを恥じ、もっと早く行動していればと心の底から後悔し、今ここに居るのです。

これで許されるわけではありませんが、今この場で謝罪します。

力及ばずもし訳ない」


俺は頭を下げる。

これは頭を下げれば済む話だからだ。

この男の自業自得とも言えるが。

まあ、騎士団と嘘を付いた罰が下ったのかもな。


「!

・・すまない、頭を上げてくれ。悪いのは私だ。君達は悪くない」


「そう言ってもらえるとありがたいですね。他に質問はありますか?」


俺は頭を上げ、優しく言う。

これで好感度アップ間違いなし。


「いやもうない」


「分かりました。では私達の質問に戻らせていただいて、先程話していた人物の名前と特徴、どこに住んでいるのか、教えてもらえますか?」


「ああ、だが少し待ってくれ」


男はそう言い、椅子から立つと、後ろの壁に貼ってある大きな紙を取り、

テーブルに広げる。


「これは、凄いですね」


俺はその紙を見て、驚きを隠せなかった。

クマーク王国の細部まで正確に描かれたその地図に。


「いつか役立つ時がくるかもしれないと思って作ったんだが、役立ちそうで何よりだ」


世に出回っているこの国の地図は、もっと大雑把なものなのだが。

まさか自分で作るとは。


実際に毎日通っているダンファギルドの周辺を見てみると、全て記憶通りに描かれている。

これを完成させるために、一体どれ程の時間を費やしたのか。


「ええ、これはとても役に立ちますよ。それで奴の家は何処ですか?」


「ここだ」


男は黒いバツマークが付いている場所に指を置く。


「ここですか!?」


俺はその場所にまた驚いた。

そこが国の内側にある高級住宅街の一宅だったからだ。


「ああ」


「まさかこんないい所に住んでいるとは」


随分と贅沢な暮らしをしている。


「本当にだな。

そしてこの家は娘が2人の4人家族で、その夫が組織の人間だ。

名前はバ二ド・ロジェルド。

特徴は少し小柄で黒目、黒髪。戦闘の実力ほとんどはないから、そこまで警戒する必要はないだろう」


「なるほど。あとあればでいいのですが、そいつに弱点みたいなものはありますか?」


「弱点・・・そうだな。強いて言えば、夫が組織の人間だと家族が知らないという点ぐらいだな」


「分かりました。

では欲しい情報も手に入ったので、この辺でお暇させて頂きます。協力感謝します」


俺は立ち上がり、頭を下げる。


「そうか。

・・頼む!あの組織を破壊してくれ!頼れるのは君達しかいないんだ」


すると男も深く頭を下げる。


「分かりました。仇は我々騎士団が必ず討ちます」


「ありがとう。

これは持ってってくれ。他にも使えることがあるかもしれん」


男は地図を折り畳むと、俺に手を伸ばす。

その瞳にはほんの少しだが、光が宿っているように感じた。


「ありがとうございます」


俺はそれを受け取ると


「ではこれで失礼します」


玄関へ向かう。


「あ、そうだ」


俺は立ち止まり、男の方へ振り返る。

念には念をだ。


「ん?」


「今日あったことは内密にお願いしますね」


もし噂になんてなったら困る。


「ああ。勿論だ」


その返事を聞くと、俺達は部屋から出て行くのだった。

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