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ラークスの旅  作者: サーモン丼
第一章
6/12

勧誘

翌日。

いつも通りの時間に朝食を済ませた俺達は、朝一番にギルドに赴き、依頼の受注を完了させる。


「そろそろだな」


そしてギルドの中にあるテーブルの椅子に腰をかけ、エデンが現れるのを待つこと約30分が経過した時、ノランがそう言った。


聞いた情報通りの時間に来てくれるとありがたいけど。

少し不安だな。


俺は現れる保証がない人間を長時間待つという行為が、意外にも精神に負荷がかかるものだと今初めて実感していた。


「うん。情報通り来てくれればいいけど」


「まあ大丈夫だろ。あんま心配すんなよ。

逆にもしこれで来なかったら、運がいいってことさ」


ノランは俺を安心させるように言う。

何故俺が不安そうにしているのか、ノランには分かっているのだろう。

今日エデンが現れなければ、明日からも朝の30分という冒険者にとっての貴重な時間を失うこととなるということを。

たったの30分と思うかもしれないが、冒険者の朝はとても大切なんだ。

まあでもそれくらいの覚悟はできているから大丈夫なんだけど。


「確かにそうだね。よく考えてみると」


「そうだろ?

それにもしあいつが仲間になってくれたらパーティーが3人になる。念願の旅が出来るようになるんじゃないのか?」


だけどノランはまだ俺を励ましてくれる。

嬉しいことだ。


「そう、そうなんだよ。もし今日彼女が来なくても、明日仲間になってくれればやっと世界を旅できる。凄く嬉しいよ」


俺達の今の目標はパーティーの戦力を補強し、この国から外に出ることだ。

この国にもう用はないから。

つまりノランの言う通り、もしもエデンが加われば2人では足りなかった戦力が補強され、目標を達成したも同然になる。

嬉しくないはずがない。


この国に住み始めて約3年。

俺は止まっていた針がようやく動いたように感じていた。


「そうだよなぁ。俺も普通に楽しみだからさ。

あ、でもラークス。肝心なことを聞いてないぞ」


「肝心なこと?」


「ああ。最初は何処の国に行くつもりなのかってことだ」


「あーー」


確かによく思い出してみると、次に行く国が何処なのか一度も言ってなかったな。

行く国はとっくに決めていたのに。


「ごめんごめん、すっかり忘れてたよノラン。

最初はノア王国の予定だよ」


ノア王国。

そこはクマーク王国から真っ直ぐ西に進んだ場所にある国であり、アルトリア大陸に存在するもう1つの王国。その大きさはクマーク王国の倍以上あり、世界でも有数だと言われている。


まあクマーク王国は、世界的に見ても比較的小さい国らしいけど。


「おぉー。ノア王国かぁ。確かすげぇでっかい国だったよな?

これはさらに楽しみになってきたな」


ノランは目を輝かせて言う。

ノランも楽しみにしてくれるのはこっちとしても嬉しい限りだ。

これは何としてもエデンを仲間にしないとな。


「でもさノラン。俺からこんなこと言うのは可笑しいけど、彼女簡単に仲間になってくれると思う?」


だが俺はすでに勘づいていた。

一度会い、少ししか話していないが、勧誘した時エデンの性格的にどういった返事をしてくるのか。

あの実力の持ち主だ。勧誘だって一度や二度あったはず。でも未だにエデンは1人。そこでも直ぐに予想は付く。

では何故ノランに分かっていることを聞いているか。

それは、自分の考えが正しいかどうか確認をしようとしているからだ。

ノランも当然そのことを分かっているだろうから。


「はっそんなの聞かなくても分かるだろ。あいつの性格的にそれは絶対にないな」


ノランはそう断言した。


どうやら俺の考えは正しかったようだ。

良かった。

・・いや良かったと言っていいのか?よく考えれば簡単に仲間になってくれた方がいいに決まってるじゃないか。

でもまあいいか。

多分当たっているし。

それに


「そうだよね。でも任せてよノラン。難しいだろうけど、モンスターを狩るよりは簡単だと思うから。作戦もあるしね」


「ああ。

お!来たみたいだぞ」


その時入口の扉からタイミングよく、白い髪を靡かせるようエデンが現れる。

俺は一安心。

来てくれて良かったと。


「じゃあ行こうか」


「ああ。任せたぜラークス」


俺達はすぐに立ち上がり、エデンの元へ歩いて行く。

立ち去られる前に話しておかなければ。


「エデン」


そして俺は掲示板を見ているエデンのすぐ後ろまで行き、彼女の名前を呼ぶ。


するとエデンは声が聞こえたのか、俺達の方に振り向き


「あ!あんた達昨日の!」


と指を差しながら驚いた表情をする。


「おはよう。昨日ぶりだね。

ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」


俺は好印象を与える為、いつもよりも優しい口調で話す。


「私に何か用?」


しかしエデンは正面で腕を組み、上から見下すように睨んでくる。

エデンは俺よりも身長が高い。

だから物理的に見下しているみたいになるのは仕方ないと思うけど、そんなに睨まなくても。

警戒してるのか?

まあいいか。俺は自分の考えを言うだけだ。


「単刀直入に言うよ。

・・エデン。俺達の仲間になってくれない?」


俺はエデンの目を真っすぐ見ながら、精一杯の気持ちを込め、要望を伝えた。

頼みごとをするので当然ではあるが、相手からの信頼を得るため、そしてこの気持ちが伝わって欲しいと思ったから。


「いやだ」


しかし結果は即答で駄目。

まあ予想は出来ていたけど。

少しくらいは悩んでくれてもいいじゃないのか。

流石に傷つく。


「理由を聞いてもいいかな?」


「理由?そんなの教えなくてもあんた達なら分かるでしょ?」


「え?分からないけど」


質問を質問で返さないで欲しいと思ったけど、口には出さないでおこう。

それにしても、何故俺達が理由なんて分かると思っているのだろうか。

俺達は超能力者じゃなんだけど。


「はあぁー。そんなの私が強いからに決まってるでしょ。

パーティーなんて組む必要は私にはないの」


あーそういうことか。

どうやらエデンは、昨日自分の実力を見たのだから、断る理由くらい分かるだろうと言いたかったらしい。

まあ確かにそうかもね。

でも昨日の一件で、1人では限界があると思い知ったはずだ。いくら馬鹿だとしても、それくらいは分かるだろう。

・・・・もしかして本当に分かっていないのか?

こいつは。


「まあ。私は強くて、こんなに美人だし、別のパーティーに誘われるほどの有力株だから仲間に誘いたくなるのは分かるけど、相手が悪かったってことで潔く諦めて」


随分と自信満々だ。

実際かなりそうだけど。

まあ望み通り今日の所は諦めてやるか。

作戦もあることだし。


「そう。じゃあ行こうノラン。今日はありがとう」


俺はそう言い、出口へ歩き出す。


「「え?」」


すると俺の言動に2人は驚いている様子をした。

作戦があるって説明したノランは分かるけど、何でエデンが驚いているんだ?


「おいちょっと待てって。作戦があるんじゃないのか?」


ノランは俺を慌てて追って来て、小声でそう言う。


「うん。これがその作戦だよノラン」


「え?」


「まあ次は明日に期待だね」


説明はギルドから出てからしよう。

俺達はさっさとギルドから出ようとする。

その時


「あ、諦めちゃっていいの!?」


エデンがそう俺達を止めた。


なるほど。そういうことね。

どうやら他の人からの勧誘はもっとしつこかったらしい。

こんなにあっさりと諦める奴はいなかったのだろう。

だからさっき、驚いていたんだんな。


「諦めるよ。だって嫌なんでしょ?」


俺は足を止め、顔だけをエデンの方に振り返りそう言う。


「そ、そうだけど。本当にいいの!?このまま行っちゃって!?」


「うん。じゃあねエデン」


俺は立ち尽くすエデンに手を振り、再び出口に向かって歩き始める。

明日も楽しみだ。

そんなことを思いながら、俺達はギルドから出て行くのだった。




「で?一体どういう作戦なんだラークス?説明してくれ」


ギルドを出て、少し歩くと、ノランがそう口を開いた。


まあそうだよね。

説明がなきゃ何やってるんだって誰でも思うから。

俺の完璧な作戦を伝えよう。


「うーんとねぇ。簡単に言えば、毎朝今日みたいに勧誘しに行くって感じかな?」


「・・それだけ?」


「それだけ」


「・・・・マジで言っている?」


ノランは信じられないというような表情で俺を見る。


「うん。これから彼女がイエスって言うまで毎日行く。

我慢比べだね」


俺は最初、彼女みたいな性格の人は、どんな条件を出してもああいう誘いは受けないだろうと判断し、相手にどれだけ自分が真剣なのかを伝えるしかないと考えていた。

ついでに心も折らせられればなお良しと。

だから時間を空けて何度も誘うという手段を選んだんだ。

これ以外は無いって。


「はっ。

なるほどごり押しか。

まあしょうがねぇか。あいつが相手だしな」


「ごめんね。これからちょっと面倒だと思うけど」


でも俺はいくら作戦だとしても、ノランの時間を奪ってしまうことに罪悪感を感じていた。

それ以外の方法を考え出せれば良かったんだけど。


「気にすんなよ。元々一筋縄じゃいかないって分かってたからな。

それに俺がお前に任せたんだから文句はない」


「そっか。ありがとうノラン」


「こっちこそ。

まあ明日も頼んだぜ」


ノランは少し照れくさそうに言う。


「うん」


そうして俺達は、エデンに会う前に受注した依頼を済ませるために、今日もグロスの森へと向かうのだった。


2日目(翌日)


「おはようエデン」


俺達は昨日ノランに説明した作戦通り、次の日もエデンを勧誘しに朝一からギルドに足を運んでいた。


「!!

あんた達また来たの?

昨日あんな簡単に諦めたからもう来ないと思ってたけど・・。

もしかして別件?」


昨日あっけなく帰って行ったことから、エデンはもう現れないと思っていたのだろう。

少し驚いた表情をしていた。


「違うよエデン。俺達はべつに諦めてないよ。

今日も誘いに来たんだよ」


「ふぅーーん。

そうなんだなぁー。

昨日あんなに簡単に諦めて癖に。

でも残念でした。昨日も言った通り、私は仲間にはなりません」


俺達が今日来た目的を言うと、エデンは少し怒ったように、そして少しだけ馬鹿にするようなトーン言う。


どうやら昨日あっさり帰ってしまったことが気に入らなかったようだ。

子供みたいだな。

仕方ない。少し機嫌を取っておこう。


「そこを何とかさ、仲間になってくれないかなエデン?その絶大な力が必要なんだよ」


「へっ。絶対にならないよぉーだ」


しかし効果はなし。

エデンは舌をべーっと出し、仲間にはならないと強く主張する。


「そっか。それは残念だなぁ。

仕方ない、行こうノラン」


俺は同情に訴えかけるよう、とても残念そうな感じで言い、ノランと共に出口へ歩き出す。


「ふんっ」


断られてしまったが、今日はまだ2日目で、作戦は始まったばかりだ。

最低でも一週間はかかると予想していたし。

あまり気にしなくていいだろう。

でも今日のことで、エデンの心がほんの少しでも動いてくれていると嬉しい。


俺はそんな淡い期待を心に持ちながら、ギルドから出るのだった。


3日目


「おはようエデン」


今日も俺達はギルドに足を運び、エデンを説得していた。


「・・・また来たのあんた達?」


3度目となると流石に思う所があるのか、少し呆れたような口調で言う。


「どう?今日こそは仲間になってくれるエデン?」


「昨日も言ったでしょ。絶対になりません!」


残念。

今日もエデンにきっぱりと断られる。

やっぱりそう簡単に彼女の気持ちは変えられないらしい。



4日目


「おはようエデン」


今日もまた俺達はしつこくエデンの前に立ちはだかる。


「・・・・」


しかし返答はない。

おかしいな。声は聞こえてるはずだけど。喉の調子でも悪いのか?


いや違うな。

今俺は無視されているんだ。

悲しいな。

俺達の相手が面倒になったのか?


「エデン聞こえてるでしょ?無視は良くないと思うよ」


「はあぁーー。

あんた達さぁ。これで4日目だけど、こんなこと一体いつまで続けるつもりなの?

まさかこれから毎日とか言わないよね?」


おー。

どうやらエデンは俺達の作戦に勘付いたらしい。

まあ答えは教えないけど。


「さあ?いつまでだろうね?」


俺は満面の笑みで応える。


「・・・・」


エデンは何も言わなかった。

ただ俺の顔を疑うような目で見つめてくるだけ。


そしてすぐに顔を背け、ギルドの出入口へと歩き始める。


おいおい。

返事が無いぞ。


「あれ?返事は?」


俺は急いでそう聞くが


「明日また来たら、ぶん殴るからね」


今日もまた撃沈した。

それにしてもぶん殴るか・・。

勿論明日も行く予定だけど

流石に冗談だよな?


5日目

今日も俺達はエデンを勧誘しに来て、いつも通り挨拶をしようとわけだが


「おはy」


「明日来たらぶん殴るって言ったよね!?」


その最中エデンに腹を殴られた。


「ぐほっ」


その威力はとてつもなく、俺は両膝を地面に着け、その痛みから思わず腹を押さえる。

まさか本当に殴ってくるとは。

なんて恐ろしい野郎だ。


「くっ。

エ、エデン。今日こそは・・って。

もういないじゃん」


俺は顔を上げ勧誘しようとしたが、彼女の姿はもうどこにもない。

速すぎだろ。


「残念。さっさと行っちまったな」


今日は話すことすらできなかった。

明日はどうなることやら。

ワンチャン斬られるかもな・・


6日目


「おはようエデン」


それでも俺は懲りずにまたエデンの前に姿を現わす。

さあ我慢比べだ。

どっちが先に折れるか。


「・・・・」


エデンはまた俺のことを無視。

昨日無視は良くないって言ったんだけど。

少しくらいは反応して欲しい。


「エデン聞こえてるでしょ?返事してよ」

「おーい。無視は良くないよ」

「おーい」


だから俺は纏わりつくように話しかける。

流石にずっと無視はできないだろう。

どんなに嫌いな相手でも、多少は罪悪感が湧いてくるはずだから。


だけど現実は残酷だった。

エデンはそこに誰もいないかのように依頼を受注し、素早くギルドから出ていくのだった。

いやー泣いちゃう。流石にさぁ。


7日目

この日エデンは、いつもより時間を遅くするという手段で俺達の対策を施してきた。

しかし


「おはようエデン」


それは無意味。

俺達は来るまでずっと待っているから。

決して諦めはしない。

無視をされようとも、何度も誘い続けた。


そして8日、9日目以降も毎日続き

15日目


「わ、分かったってば!あんた達のパーティーに入るから。もう降参」


ついにエデンが白旗を上げた。

この勝負俺達の勝ちだ。

俺は内心でガッツポーズを決める。


「ほんと?いやぁー毎日頑張ったかいがあったよ。

本当に良かった。ねえノラン?」


「ああそうだな」


ノランは少し笑みを浮かべながらそう言う。

ノランも嬉しいどうで何よりだ。


「まさか毎朝来るなんて。しつこすぎでしょ。

頭おかしいんじゃないの?」


それエデンにだけは言われないと思ってたんだけど。

まさかこんなに早く言われるとは・・


「はあぁーーー。まあいいや。

その根性に免じて、仕方ないからあんた達のパーティーには入ってあげる。

でもその前に一つだけ私の頼みごとを手伝って」


「頼みごと?」


「そう。それが片付いたら入ってあげる。

ちなみに内容は、あんた達がやるって言ったら教える」


頼み事か・・

返事をする前に内容は教えて欲しいけど。

一体どんな内容なのか。

少し怖い所はある。

まあ事前に言わないってことは何かあるんだろうけど。

背に腹は代えられない。


「分かったよエデン。その頼みごと手伝うよ」


俺はそう返事をする。

ま、何とかなるでしょ。

そんな軽い気持ちで。

だが俺達はまだ知らなかった。

この出来事が今後、運命を大きく左右することになるとは。

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