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ラークスの旅  作者: サーモン丼
第一章
2/12

冒険者ギルド

目が覚めると、ラークス・ロニングの目には茶色の天井が映った。

その天井は、歳月の長さを感じさせるように少しぼろついており、所々に染み付いたシミやかすかに剥がれたペンキが良く目立っていた。


「夢か・・・」


いつぶりか分からない程に夢を見るのが久しかったラークスは無意識に言葉を漏らす。

そして後悔していた。

今より幼いとはいえ、あの時質問しなかった自分に。


「うわっ」


ラークスは自分が汗だくになっていることに気が付く。

シーツは肌に張り付き、体温が高まっていることを良く感じ取れた。夢の中で感じたことを色濃く残しながら。

ラークスは掛け布団をめくり、ベッドから立ち上がる。


「さむっ」


今は秋の終わりが近く、冷えた空気がラークスの肌を刺激する。


カーテンを開けると、朝の光が闇に包まれていた部屋全体を照らした。

部屋は8畳ほどの広くも狭くもない大きさで、ベッドの他に少し大きめの机と本棚、そして椅子とクローゼットが設置されており、本棚にはびっしりと本が立てかけられ、勉強熱心であることが見て取れる。


立ち上がったラークスは軽く体を伸ばし、別の部屋にあるシャワールームへと足を運ぶ。普段は朝にシャワーは浴びないのだが、今日は汗を大量にかき、気持ちが悪く感じていたので浴びることにしたのだ。


そしてシャワーを浴び終えたラークスは、出掛けるために身支度の準備に取り掛かる。


10歳の時に父が老死し、それに伴い父の教え(約束)のもと、ラークスは世界を旅し、何故人族以外の種族が消されたのか、その謎を解き明かすと決意した。

11歳になると、ラークスはそこから西に向かった最も近い場所にある、このクマーク王国に旅の第一歩として住み始め、14歳の今まで約3年間冒険者として活動を続けていた。

情報収集、仲間作り、そして次の国にお赴くための資金の調達を主な目的とし、毎朝早くから依頼をこなしてる。

ちなみに決意した理由は、単純。気になるからだ。


ラークスは身支度を済ませ、最後に部屋の隅にある大きな鏡で自分の姿を確認する。

冒険者という荒っぽい職業に就いているが、最低限の身だしなみは整える必要があるのだ。


ラークスの顔はかなり整っていた。引き締まった頬に、ぱっちりとした大きな瞳、滑らかに伸びた鼻。

全てのパーツが違和感なく並べられている。

そして黒髪を後ろに流すことで、その顔立ちの良さを一層際立たせている。

ラークスの母親は人間族であるため、エルフと人間のハーフであるが、ラークスには父親の面影はほとんどない。あるとすれば、黒い瞳の奥底に潜み、ひっそりと輝いている青色だけ。

上半身は膝下まで伸びた緑色のロングコートを羽織っており、コートの内側には黒と白のシャツ。腰には革ベルトが巻かれており、そのベルトには父から授かった杖、後ろにナイフを掛けていた。

そして下半身には動きやすそうな黒いパンツと茶色の靴を履いている。


「よし」


十分に身なりが整っていたのでラークスは気合を入れ、玄関のドアを開け外に出る。

早朝の街には無数の歩く音が響き渡っていた。整備された石畳に靴底が触れる乾いた音、革靴が特有のコツコツという心地の良い音など。それらが混じり合っていた。

人の表情もそれぞれで、無表情な人、眠たそうに目をこすっている人、眉をひそめている人など多くの人が行き交っていた。

ラークスが住んでいるこのクマーク王国はモンスターの侵入を防ぐために、周りが分厚い壁で囲まれたよくある円状の国である。この国で最も特徴的なのは、最初に視界に飛び込んでくるだろう鮮やかな赤色の屋根。全ての建築物の屋根が赤で彩られており、別名「赤の国」と呼ばれている由縁でもある。

ラークスもこのクマーク王国へ初めて来たときには、その街並みに茫然自失したものだった。


ラークスは喫茶店へと向かう。

父に朝食はきちんと食べるようにしろと言われていたからだ。

父曰く、エネルギーを補充しないと一日は始まらないということらしい。そのため毎朝必ず喫茶店へ赴き、しっかりと朝食を食べているのだ。


ーーーーーーー


約10分後。ラークスは目当ての喫茶店に到着する。


「おはよう。ノラン」


すると入口のすぐ側に立っている男にラークスは親しげに声をかけた。


「よお」


ノランと呼ばれた男はラークスの方に振り向く。

彼は茶色の短髪で、第一印象は青少年といった感じだろう。

上半身には青い服を着ており、その下には肘まで隠れる黒い袖が見える。腰には1本の剣を携え、複数のポーチが付いたベルトを着用していた。

この男、ノラン・ガガンドはラークスと約1年半前に出会い、そこから共にクエストを受ける仲になったラークスにとっての今いる唯一の仲間だ。


「それにしても良さそうな奴マジで見つからないな。旅をするならあと1人ぐらいはそろそろ見つけたいところだけどな」


喫茶店に入り、注文を終えるとノランが口を開く。

実はラークスはノランのことを信頼し、父のこと、そして父から聞いたこと全てを打ち明け、一緒に世界を巡らないかとノランを既に勧誘していたのだ。

そしてノランはその話を信用、賛同し、一緒に旅をしてくれると承諾してくれていた。


「そうだね。でも探すの結構難しいんだよね」


ラークスは椅子に寄りかかり、天井をぼーっとした様子で眺める。

そう2人は今、仲間探しに難渋していた。

旅には危険がつきもので、道中、凶暴なモンスターなどと遭遇する可能性はかなり高い。そのため今の2人だけでは少々不安が残り、ある程度の実力者が最低でももう一人欲しい状況なのだ。

しかしそのある程度の実力者がなかなか見つからない。

そういった実力がある者は王国の騎士団や他の冒険者パーティーとして活躍しているのが現実で、誘うことができないでいるからだ。

それに信頼できる人物もそういない。

(クマーク王国に来て約三年。この国に滞在するのは1年半くらいと決めていたんだけど・・。

まさかここまで苦労するとは。

仲間というものは命を預ける存在。

だから人は選ばざるおえないんだけど。

ここまできたらもう妥協するしかないか?ノランを見つけたのは奇跡みたいなもんだしな。

いや、やっぱりそれは駄目だ。

中途半端な実力者じゃ簡単に死んでしまうかもしれないし、最悪足手まといにもなる。

はぁ~。世界は広い。今はもう、できるだけ早くこの国から旅立ちたいんだけどなぁ)


「まあすぐに見つけるさ。ちなみに俺は前衛が欲しいけどな」


2人の戦闘での役割は、ノランが前衛で敵を攻撃し、ラークスが後衛で魔法を放ち援護をするといった感じだ。


「俺は正直どっちでもいいけど。でも確かに前衛の方がいいかもね」


これはノランが弱いというわけではない。

後衛が2人よりも前衛が2人いた方が安定するし、なにより前衛は体力の消耗が激しいので、1人より2人の方が断然良い。

2人はそういったことが分っているから、前衛が欲しいと言っているのだ。


「ていうか、そもそもこの国の冒険者の数が少なくないか?」


「そうかな?あんま感じたことないけど」


「俺の昔いた国にはうじゃうじゃいたからさ。こっちの比にならないくらい」


「そうなの?初めて聞いたよ」


「多分だけどこの国だと騎士団が人気なんだろうな。ここは治安もすごくいいしな」


ラークスは目を開き、それと同時に唇も無意識に少しだけ開いていた。

ラークスはクマーク王国以外の国で暮らしたことがなく、他の国で暮らしたことがあるノランとは違い、物事を比較することができない。そのため、この国は他の国とこういった違いがあるのかと、つい驚いてしまうのだ。


「そう言えば、ノランはなんで冒険者をやってるの?」


1年半という長い期間、ノランがなぜ冒険者をやっているのか一度も考えたことがなかったが、この時ラークスはふと興味が湧いたのだ。

真っ直ぐな人間であるノランが、騎士団を選ばなかった理由に。


「そうだなぁ。特にはないけど、強いて言うなら冒険者のイメージが自由って感じだからだな。

ほら、騎士団って厳しいイメージが強いだろ?俺はそういうのあんま好きじゃないからさ」


「なるほどね。でもちょっと意外だね」


「え?なんでだ?」


「ノランからは騎士団に向いてそうなオーラを感じるからだよ。冒険者を選んだちゃんとした理由があるかなって思ったんだ」


「まじ?俺って騎士団に向いてそうな感じすんの?」


ノランは眉を上げ、驚いた表情をする。

ノラン自身、騎士団が性に合っているなんて思ったこともなければ、そんなことを1度も言われたことがなかったから。


「まあね。でも俺個人の意見だから、あんまり気にしないでおいてよ」


「はあーん。まあだったら気にしないでおくぜ」


ノランはにっと笑った。

その笑顔は太陽に照らされ、まるで彼の明るい性格を表しているかのようだった。


ーーーーーーーーーー


「よし。今日もやるか」


2人はあれから食事を済ませると、お金を稼ぐために、クエストが募集されている冒険者ギルドに足を運んでいた。

この冒険者ギルドは「ダンファ」という名前で、クマーク王国に1つしかない冒険者ギルドだ。

そのためか、ギルドの中は多くの冒険者で賑わっており、剣や槍を持った強靭な肉体をしている男たちや、杖をもった魔法士のような服装をしている男女がごった返していた。特にギルドが開店したばかりの今の時間は、依頼のゴールデンタイムと言われており、より混雑している。

少しでもこの時間に遅れると、報酬の高い依頼が殆ど無いという状態になってしまうためだ。


「どれにする?ラークス?」


2人は人混みを潜り抜け、依頼書が貼られている大きな掲示板まで行く。

掲示板には沢山の依頼書が貼られており、ノランはどの依頼を受注するのか、ラークスに問いかける。

依頼には薬草の採取、護衛、配達、モンスターの討伐など様々なものがある訳だが、冒険者は命が伴う仕事であり、他の冒険者達も真剣な表情で掲示板に目を凝らしていた。


「・・今日もこれにしよう」


少しだけ悩む素振りを見せるが、ラークスはそう言い、掲示板に貼ってある1枚の依頼表を手に取る。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

危険度レベル3

内容 ロックファンゴ3体の討伐

報酬 金貨2枚と銀貨5枚

場所 グロスの森

期限 受注から1日後まで

依頼主 ダンファギルド

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「いつも通りの場所だな」


依頼書を覗き込みながらノランが言う。

グロスの森はクマーク王国の北側の門を出て、真っ直ぐ15分程歩いた場所にある森だ。モンスターのレベルはそれ程高くないが、その大きさはかなり広大で、注意が必要となっている。


ちなみに危険度レベルは1~9に別けられ、数字が大きくなるほど難関になっており、1日に受注できる回数は、パーティーにつき2回までとなっている。


「うん。ノランもいるし、報酬もいいからね」


森は木が多いため、動きづらい、長い武器が扱いにくい、死角が多いというデメリットがある。そのため他の依頼よりも不人気かつ危険度が上がるので、報酬が高めに設定されている。

しかしノランは、聴覚が優れているという特殊な体質を備えているため、剣が振りにくいだけで、最も危険視されている死角があるという問題がある程度無くなるのだ。

受注しない手はない。


「じゃあさっさと済ませるか」


「うん」


ラークスは頷いて肯定する。


「これお願いします」


そしてその依頼書を受付カウンターへ持っていき、そこに立っている女性のギルド職員に渡す。

女性は依頼書を受け取ると


「確認します。

ロックファンゴ3体の討伐ですね。では、ギルドカードの提示をお願いします」


と言った。

ギルドカードには自分の魔力を流すと、名前や年齢などが記録され、どこのギルドもそうだが、依頼を受注するためには必ずこのギルドカードを職員に見せる必要がある。

主に身分証明として使われているだが、その1番の目的は、冒険者のレベルが依頼の難易度に適切かどうかを確認することで、冒険者が簡単に命を落とさないようにするためだ。


2人は慣れた手付きで、鉄でできたギルドカードをポケットから出すと、それを相手に見えやすいよう机の上に差し出す。


+++++++++++++++++

名前 ラークス・ロニング

パーティー名 仲間探し

性別 男

年齢 14歳

職業 魔法士

等級 中級

+++++++++++++++++


+++++++++++++++++

名前 ノラン・ガガンド

パーティー名 仲間探し

性別 男

年齢 14歳

職業 剣士

等級 中級

+++++++++++++++++


「確認させていただきます」


女性は机に置かれたギルドカードを手に取り、じっくりと目を通す。


そして少しの時間が経つと


「ありがとうございます。これにより依頼の受注が完了しました」


問題が無かったこと、依頼の受注が終わったことを笑顔で2人に伝える。

受注が無事に完了したので


「ありがとうございます」

「あざす」


2人は女性に軽くお礼を伝え、ギルドカードを元の場所にしまうと、出口へ歩き出す。


「お気をつけて」


このギルドでは最後にお辞儀をし、そう言うように決められている。ほとんどの場合は機械的に伝えることが多いが、2人の時は本気で心配をしているように感じ取れた。

2人の普段の言動が良く分かるだろう。


ちなみに依頼された危険度のレベルが3の場合、中級の1つ下の、下級が2人は必要とされているが、2は低めの危険度レベル3をメインにこなしている。

常に不測の事態を想定しているのだ。


そうして2人は後ろに振り返り、手を振りながらギルドから出ていくのだった。

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