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ラークスの旅  作者: サーモン丼
第一章
12/12

接触

作戦当日(木曜日)の22時。

俺達3人は予定通り、夕食を済ませ、監視を行った家の屋根で男が外出するのを待っているのだが、俺は今放心状態になっていた。

何でかって?

夕食だよ夕食。

俺は約束通りエデンにご飯を奢ったんだけど、あいつバカみたいに食うんだ。最初に2人前くらい頼んだから、食い意地張りやがって、そんな食えないだろって馬鹿にしてたんだけど、それをペロッと食べ上げたんだ。だからその時点で嫌な予感はしていたんだけど。

依頼1つ分の値段って、いくら何でも食べ過ぎだろ!

そんなに食べられるのは素直に凄いと思うけど、少しくらい遠慮しろよ!

金が一気に無くなったわ。

くっそ、今でも食べ終わった時のあいつの満足そうな顔が浮かぶ。腹が立つな。

もう2度とこいつには奢らない。


ちなみにエデンと住んでいるエリーも一緒に食べたんだけど、彼女は馬鹿じゃなかった。

明るくて、普通にいい奴だった。

エリーが食べ過ぎたことを、俺に謝ってくれたし。

初めて会った時に、馬鹿だと思ったこと謝ります。すみませんでした。


ノランは、俺の顔が時間が経つごとにみるみる悪くなっていく様子を見て、クスクスと笑っていた。

半分出そうかと気を遣ってくれたが。

まあ俺の独断だったから流石に断ったけどさ。

まったく、これもあれもエデンのせいだ。


「あっ、出てきたんじゃない?」


そんなことを考えていると、男が家から出て来た。


「よし、じゃあ追うよ」


俺は一旦、夕食のことを無理やり脳の隅に追いやり、追跡することに意識を向ける。

それにしても、流石に緊張してきた。怖さもある。手が少し震える。

男とは俺が会話をする手筈になってるけど、相手はボスの側近という危険な人物だ。

下手したら殺されるかもしれない。

今思えば、金も貰えないのに、こんな危険なことをしている自分はおかしいのかもな。


そして男が人気のない裏路地に入って行くのを確認する。

俺は覚悟を決め、


「ふぅーー。いくよ」


2人にそう伝え、屋根から男の目の前に飛び降りた。

手の震えはもう消えた。大丈夫なはずだ。

スタッという音が、今の静かな街に響く。


「だ、誰だ!?」


最初に口を開いたのは、男。

誰かと遭遇すると思っていなかったのか、それとも頭上から俺達が現れたからなのか、その表情には焦りと驚きが見える。

俺はまず、ノランが心配していた組織と騎士団の繋がりを確かめる方法を実行した。


「突然申し訳ございません、バ二ド・ロジェルド様。騎士団上層部から緊急の連絡です。最近、騎士団内部で我々の対抗組織が作られ、このままでは我々に協力関係があると外に露見する恐れがあります。

ですのでお手数をお掛けしますが、その第3勢力の排除に協力してもらえませんか?」


と。

簡単に言えばカマかけだ。

もし騎士団と繋がっているなら、ボスの側近が知らないはずがない。

前にも言ったが、ルイ・カルビンの情報は恐らく正しいから、この男は今ボスの側近と断定して接触している。

この男の次に発する口調、顔色、態度から繋がっているか分かるはずだ。

絶対に見逃すな。

俺は男を凝視する。

ちなみに2人には、この作戦について話してある。

だから、エデンが何かしでかすことはない。多分。


「何故俺の名前を!?

いやそれよりも騎士団上層部?対抗組織?何を言ってる?訳が分からない。

お前たちは一体何者だ?」


うーん。

やっぱり今の反応的に、騎士団とは繋がってはいないな。

俺は横にいる2人に目配せをする。

これで繋がりを確かめる方法は終わりだと。


「今のは気にしないでください。

私達は騎士団です」


「・・騎士団だと?」


「ええ」


男にはもう、最初の驚きと焦りはないように見える。

落ち着くのが早い。


「ならば何故服を着ていない?証のようなもののはずだ」


そして疑うように俺、横にいるノランとエデンを見る。

ちっ。

流石に疑われるか。

だがこれは前回と同じで対策済みだ。


「だからですよ。私達騎士団の今の計画は、組織に最後の最後まで、騎士団が動いていると悟られないようにして、組織を破壊することですからね。油断している時が最も潰しやすいのですよ。

あの服を着ると目立って仕方ない」


これで人気のない裏路地で接触した言い訳もできた。


「・・・」


しかし男は何も言わない。

ただ俺を見つめてくる。

俺は思わず息を呑む。

俺の発言はおかしくなかったか?表情に違和感はないか?

今もバクバクと聞こえてくる心臓の音が、相手に聞こえてしまっているのではないかと、不安に駆られる。


「それに、私達がわざわざ違反行為をするメリットがありませんし、そもそも今こうして向かい合っている事実が、証拠になるのではないですか?」


今俺達が知っている情報、それは普通、騎士団くらいにしか手に入らないものだ。

運が良かっただけ。

だけど偽るには使える。

これで納得してくれよ。


「・・・なるほど。確かにそうだな。

はぁー。

それで俺に何の用だ?捕まえに来たって訳でもないのだろ?」


ふぅー。

一旦安心していいだろう。

多分だが俺達が騎士団と信じてくれた。

取り敢えず最初の壁を超えることはできた。

それにしても、流石幹部といったところだな。

捕まえるつもりなら、とっくに実行していると理解しているようだ。


「ええ、理解が早くて助かります。私達はこうして貴方と直接向かい合う必要がありました。

交渉をしたいと考えているので」


「なるほど、やはりそういった類のものか」


男は俺達の答えに、予想がついていたような反応をする。


「俺は何も言わないぞ。さっさと捕まえろ」


この男はやはり賢い。

俺達が組織について聞こうとしていることに気が付いている。

そして覚悟も決まっているときた。

さあ、ここから正念場だ。

こいつの心を折れるか。


「そうですか。それは残念ですね。情報を提供してくれないのであれば、捕まえるしかありませんからね」


「ふっ。まあ捕まえればいい。

組織にバレちまうけどな。お前たちが動いているということが」


「確かにそうですね。今貴方を捕まえれば、組織にバレ、私達の計画は破綻します。また今は逃がし、後で捕まえようとしても、貴方はこの後、今あったことを組織に伝えるでしょうから、それも駄目でしょう。

ですが、本当にいいんですか?我々に捕まっても?」


「なに?」


「貴方がこのまま組織について何も言わないなら、勿論ですが、私達は貴方を今すぐ捕まえます。ですが、それは貴方だけではありません。

家族もですよ」


「!」


俺は元々、家族に組織の人間だとバラされたくなければという感じで脅す気だったが、今はっと思い付いてしまったのだ。

それだけじゃなくて、家族も捕まえると脅せば、より効果があるのではと。

チラッと左右を見ると、このことについて何も知らない2人は、聞いてないぞという様な顔をしていたが、まあ気にしないでおこう。


「まずは貴方が組織の人間だと家族に伝えます。そして一緒に牢屋で罪を償ってもらいましょう」


だが、やはりこの男が家族に対して、愛情を持っていなければこれも意味はない。


「か、家族は関係ないだろっ」


男は顔に焦りをみせる。

この反応。

家族は大事にしている!

ならば、このまま押し切れる。


「いえ同罪ですよ。部屋はそうですねぇ。特に凶悪な犯罪者がいる部屋にしましょうか」


「な、なんだと?そんなこと許されるはずがない!家族は無罪だ!」


「許されますよ。今私達は、団長の指示の下、動いていますからね」


俺は団長の名を出すことで、さらに相手を追い詰める。

騎士団の団長はかなりの権力があるからな。


「ですが貴方がもし組織の情報を教えると言えば、貴方と家族は特別に見逃してあげます。組織を潰した後もです。

ですからこれらのことを踏まえて、もう一度聞きます。本当に捕まってもいいのですね?」


「うっ。騎士団が脅迫とは・・」


「国民のためです。手段は選びません」


「・・わ、分かった。教える。教えるから、約束は守ってもらうぞ」


「ええ勿論です。ただし嘘は駄目ですよ。直ぐに分かりますからね」


「ああ、そのくらい分かっている」


男はついに折れた。

作戦は成功したとみていいだろう。

家族を愛していてくれて本当に良かった。

俺は心臓の鼓動が落ち着いていくのを感じ、握り締めていた手を緩めることができた。


「それで組織の何が聞きたいんだ?」


「予想はついているでしょ?貴方なら」


「ちっ、ボスのことについてか?」


今の発言。やっぱり側近だったか。これで確定したな。


「ええその通りです。流石の団長も、ボスについて何も情報がない状態では、挑みたくはないらしいのですよ」


まだ交渉は終わっていない。

まるで騎士団の人間のように振る舞う。


「何を知りたいんだ?名前か?居場所か?」


「全てです。貴方が知っているボスについて」


「・・・名前はニーク・ガルナール。大陸指名手配されている男だ」


「っ!」


俺はその言葉に、思わず目を見開いてしまった。

大陸指名手配犯がボスだと!?

信じられない。

騎士団は指名手配犯を追っているから、この薬物組織に騎士団の手がまだ回っていないということは、恐らく指名手配されてからボスになったということ。

何故そんな大胆な行動をするんだ?

それにニーク・ガルナール、聞き覚えのある名前だ。

何処かで聞いたような・・

!!


「それはこの男ですか?」


俺はポケットにしまってある指名手配書を男に見せる。

調査を始めた日に、ノランに見せた、あの紙を。


「ああ、その手配書の男で間違いない」


「・・」


本当にこの指名手配犯なのか。

まったく度胸だけは凄いな。

要請したのはこのクマーク王国だぞ。普通直ぐに出ていくだろ。

ま、灯台下暗しってやつだろうけど。


「嘘ではないですよね?」


俺は紙をポケットにしまいながら言う。


「この状況で嘘を言う程、俺は馬鹿じゃない」


確かにここで嘘を付いても、男には何らメリットはない。

100%ではないが信じよう。


「分かりました。では信じましょう」


「そうか。それは何よりだ。

他に何か聞きたいことは?」


うーん。

1番知りたかったボスの特徴と実力は、指名手配書から分かるから聞く必要はなくなったけど。

そうだなぁー、あっ。

でも少しだけ懸念要素があったから、一応聞いておくか。


「ではニーク・ガルナールの剣の実力、それは上級から変わっていますか?」


そう剣の腕についてだ。

ニーク・ガルナールの指名手配書には、剣の腕が上級と書いてあり、俺達3人で倒せる可能性は十分にある。そのため、エデンの言う3人で倒すという条件を達成できるかもしれない。

だが、ニーク・ガルナールが指名手配されたのは約1年半前。さらに実力を伸ばしている可能性がある。

超級以上になってくると、今の俺達ではどうにもできないのだ。


だけど正直な話、俺はニーク・ガルナールの実力は大して変わってないのではとも考えている。実力が上級以上の世界になってくると、どうしても才能が必要になってくるからだ。

もしニーク・ガルナールが超級になれる素質があるならば、30歳という年齢の時には、とっくにその域に到達しているはず。

つまり30歳で上級ということは、そこで限界に達してしまい、もう伸びしろがないのでは?と俺は考えているのだ。

まあ何度も言うが、念には念をだ。聞くに越したことはない。もしかすると強くなっているかもしれないからな。


「・・正直に言えば、分からないと言っておこう。実際に戦っている姿を見たことがないからな。

だが、そうだな。

これは俺個人の意見だが、大した変化はないと思う。いや、どちらかと言えば、弱くなっているかもしれない。四六時中酒を飲んでいるからな」


「んー」


俺は口元に、まるで何か考えていますというように急いで手を当てる。

フフフ。

今にも出てしましそうな、笑みを隠すために。

ボスの実力は確定しなかったことはとても残念だけど、この男の言う通り、四六時中酒を飲んでいるなら、実力は上級から変わっていないだろうし、本調子ではないだろうから、勝機はかなり上がる。

最高の情報をゲットした。

これならボスと戦ってもいいだろう。

いや戦った方がいい!倒せば騎士団から金を沢山貰えるからな!


「・・分かりました。では次に、アジトの場所を教えていただけますか?」


俺は笑みを底にしまい、手を口元から外し、ルイ・カルビンから貰ったクマーク王国の地図を地面に広げる。

アジトの場所も知っておかないとな。


「どこか知らないのか?」


「候補はついています。最終確認ですよ」


「・・ここだ」


俺の言い訳に納得したのか、男はアジトの場所に指を置く。


「建物の特徴は、3階建てで薄い緑色。外からでは分からないが、地下も1階だけある。あの辺りだと目立つから、行けばすぐに分かるはずだ」


「なるほど。ちなみにアジトには大体何人位の人間がいますか?

あとボスはいつもアジトにいますか?」


組織の規模がどれくらいなのか気になる所だ。

ボスと戦うとなると、無視はできない。

ボスについては、別の場所に住んでいる可能性も考慮して聞いてみたが。

どうかな?


「アジトには大体だが、50人ほどいる。

ボスについてだが・・アジトにはほとんどいない。1人別の場所で過ごしている」


よし。

ビンゴだ。


「その別の場所とはどこですか?」


「・・・ここだ」


男はボスを裏切る覚悟がまだできていないのか、少し辛そうに指を動かす。

アジトの近くにある建物に。


「これは、なるほど」


まさかアジトのすぐ近くに住んでいるとは。

今日は驚きの連続だな。


「どうだ?もうこれで十分だろ?早く解放してくれ」


「まあ、そう慌てないでください。あと1つで終わりますから」


「くっ、じゃあさっさとしてくれ」


まったく、随分とせっかちだな。

まあ気持ちは分かるけど。


「分かりましたよ。

では最後の質問です。あなた方のボス、ニーク・ガルナールには何か弱点はありますか?」


酒がそうかもしれないが、他にもあるかもしれない。


「うぅーん。これと言ってはないが。

そうだなぁ。弱点になるかどうかは分からないが、強いて言えば、騎士団を恐れていることだな」


「騎士団を恐れているですか?」


指名手配犯なら騎士団を怖がるのは当然だと思うが。


「ああ、だけど別にただ怖がっている訳ではない。異常な程に怖がっているんだ。

騎士団の名前を出すたびに震え上がっているからな」


なるほど。

それなら確かに、何か使えるかもしれないな。

だけど


「何故だが分かりますか?」


理由は一体何なんだ?


「んー、詳しくは分からないが、元騎士団員というのが関わっているのかもな」


・・え?今何って言った?


「元騎士団ですか!?」


有り得ないだろ。そんな話。


「ん?知らないのか?騎士団員なのに」


あっ!しまった!

あまりに予想外な情報に反応しちまった。

騎士団員なら知っていて当然なのかもな。

ちっ、何か言い訳を・・


「そうですね、団長からはそのような話は一切聞いたことはありませんね。まあ私達は入団してまだ1年も経っていないのですからね」


今思い付いた必死な言い訳。

ニーク・ガルナールが指名手配されたのは約1年半前だから、真面な言い訳にはなっていると思う。

多分。

くっそ、また心臓がバクバクなってきた。

頼むから乗り切ってくれよ。

っていうか騎士団員じゃねぇーんだから知ってるわけないだろ!


「ふむ。

だがそんな重要そうな情報を教えて貰えないのにもかかわらず、何故今の重要そうな任務を任されているんだ?

お前達本当に騎士団なんだろうな?」


ちっ。

さらに疑われちまったか。面倒な質問しやがって。疑り深い奴だな。

言い訳が良くなかったか?

いや今はそんなことを考えてないで、早く答えないとな。


「なるほど。貴方が我々を疑う気持ちは良く分かりました。ですが、我々を選んだのは団長です。何故選ばれたのかは分かりません。

まあそこまで重要ではないんだと思いますよ、この任務は。長年放置していたのを貴方も知っているでしょう?」


「・・ああそうだな」


「まあ私達3人が選ばれた理由を強いて言えば、団長から命令された組織にバレないように情報を集めるということから、あなた方に顔を知られている可能性が低い騎士団員、つまり新人である私達が指名されたんだと思いますよ。そちらの方が都合がいいですからね。

あとはそうですねぇ、才能があるからではないですか?試練を与えるみたいな感じで」


あぁー、完璧な返答だ。

俺自身、惚れ惚れしてしまう。


「くっ、なら何故急に組織の捜査を始めたんだ?何故!?」


男は声を荒げる。


「申し訳ないのですが、それも我々には分かりません。団長には組織の情報を集めろとしか命令されていませんので。

まあどうしても知りたいというのならば、団長に直接お聞きしてみては?

もっとも、そんなことをしたら捕まってしまうかもしれませんがね」


「・・・ちっ、もう質問はないな?」


どうやら、やっと観念してくれたらしい。

これで団長の所に行くとか言ってたら、ヤバかったけどな。

調子に乗って、無駄なこと言っちまったよ。


「ちなみにボスが何故騎士団を辞めたのかは知っていますか?」


「そんなことは知らん。聞いたこともない」


「そうですかぁ。

分かりました。

では今日はこの辺りで解散としましょう。ご協力ありがとうございます。

また協力してもらうかもしれないので、その時はお願いしますね」


「ああ」


「一応忠告しておきますが、今日のことは誰にも言わないでくださいね。監視しているので直ぐにバレますから」


監視をする気は一切ないが、男からしたら十分抑止力はある。


「そのくらい分かっている」


「そうですか。では」


そうして俺達はジャンプをし、素早く屋根に戻るのだった。

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