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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
番外編
88/110

神様とお話

 

「今週のお休みはどこか行きたいところはある?」


 お昼にノアのサンドイッチを学園の庭園で食べている。何度食べても美味しいこのBLTサンドを味わいながら、やりたいことあるかなぁ、と頭を働かせる。


 ないと言えばきっと色んなことを提案してくれるんだろう。彼はいつも私を楽しませようとしてくれるから。


「あっ、ある!」

「なに?」

「どこでもいいから、教会に行きたいな」


 教会?とノアが首を傾げたので、私は頷いた。


 結婚式で神の祝福を貰った時、気が向いたら教会に来てねって神様に言われていた。

 神様には色々お世話になってるし、挨拶も兼ねて会いに行きたいな。


 その事を告げると、ノアはわかった、と頷く。


「花の街にも教会があるから、今週末は花の街に出かけようか」

「ありがとう!」





 そうしてやってきた週末。

 いつものようにミルムが私の支度を手伝ってくれて、外でノアと待ち合わせる。


 私を見るなりその目をギラつかせるノアを手で制した。


「だめっ!絶対だめだよ!今日は神様に会うんだからね!」

「くっ…!なんたる拷問…!」


 私を部屋に連れ込みたいノアをなんとか抑えて、私達は花の街に向かった。




「何か物持っていったら、神様って受け取れるのかな」

「どうだろうね。供え物とかはするけど、それを受け取る様子は見られないからなぁ」


 だよねぇ。それにあの空間は、物を持っていけるようには見えなかったしなぁ。


「一応買っていっていいかな?」

「勿論」


 ノアは快く頷いてくれたので、まずは神様へのプレゼントを選ぶことにした。



 神様の好きな物は分からないし、食べたりとか出来るのかも知らない。女の人に見えたけど、性別という概念があるのかも分からない。


 それをノアに伝えて、ノアと一緒にプレゼントを考えた。




 プレゼントを買い、お昼を食べて、ノアと一緒に教会に向かった。

 教会に着くと、入口にいた神父さんがこちらを見て静かに頭を下げた。


「これはこれは神の愛し子様、ようこそいらしてくださいました」


 あ、私に頭下げてたのか。

 ノアといるとノアにみんな頭を下げてたから、てっきりそうだと思ってしまった。


「エミリアが神に祈りを捧げたいそうだ。礼拝堂を借りてもいいかな?」

「勿論でございます」


 ノアが神父さんに言うと、神父さんは私達を礼拝堂に案内してくれた。

 入ってすぐの大きな部屋ではなく、そこから横に行ったところに階段があり、そこを上る。


 上った先には、さっきの大きな部屋を小さくしただけのような、似たような構造の部屋。


「こちらが礼拝堂でございます」

「ありがとう。人払いをしておいてくれるかな」

「かしこまりました」


 神父さんは頭を下げてこの礼拝堂から出ていった。


「さっきの大きい部屋は礼拝堂じゃないの?」

「さっきの部屋は礼拝堂に似せた集会室だね。神に会うのに大人数は良くないとされてるんだ」


 だから毎日の礼拝の時間なんかは、あの集会室で聖典を読むらしい。

 なるほど。みんな神に会いに毎日来てると言うより、神の言葉を聞きに来てるって感じなのかな。


 私の今日の目的は会いに、の方だけども。



 私はノアと一緒に礼拝堂の1番真ん中の奥に向かって歩き、講壇の前で止まる。


 どうすれば会えるのか分からないけど、多分祈ればいいのかな?

 そう思ってノアの手を離し、手と手を合わせて祈るポーズを作る。



 こんにちは神様。会いに来ました。



 ふわっと浮いた感覚がしてそっと目を開けると、そこは見覚えのある白い空間。そして真ん中に浮かんでいる白いワンピースの女の人。


「いらっしゃい、エミリアさん。待ってたわ」

「こんにちは、神様。会いに来るのが遅くなってすいません」

「ふふ、いいのよ。あなたが楽しそうにしているのを見てたから、待ちぼうけはしてはないわ」


 神様は柔らかく笑って、会いに来るのが遅くなったことを許してくれた。

 でも見てたって言ってたけど…空から見てたのかな。まぁ神様だしね、なんでもありなのかも。


「何か困ってることは無い?天罰食らわせたい人とかいない?大丈夫?」

「だ、大丈夫です!今のところいませんし、そんな簡単に天罰食らわせたらダメですよ!」

「あらそう?でも貴方に危害を加えたら私は天罰を下すわよ?」


 なんてことない顔で恐ろしいことを言う神様。


 あれ、以前感じた神様の優しいイメージが…。

 なんだかノアみたいな過激派のように見えてきた…。


「あまりやりすぎても貴方が生きにくいだろうから、今のところ天罰は下していないのだけど…」


 わぁ、素敵な配慮。ぜひそのままでいてください。


「でも、貴方に明確な敵意があって危害を加えたら、それはしっかり分からせてあげないといけないから許してちょうだいね」

「は、はい。ありがとうございます…」


 神の威厳みたいなものもあるのだろうか。

 神の祝福を得たものを軽んじることは、神を軽んじていることと同じなんだ、とか。


 まぁ私だって、私に敵意を向けてくる人に情けはかけたくはないから、天罰もお願いしたい…。

 …いや、天罰ってどの規模なんだろう…。ちょっと怖いな。


「それにしても貴方と貴方の旦那さんはとっても仲良しなのね。微笑ましいわ」

「…見られてるのは少し恥ずかしいですね」

「ふふ、ちゃんと夜とかは見てないわよ?」


 安心してね、とウインクを飛ばされて、私は余計恥ずかしくなる。

 確かに見られてたらもっと恥ずかしいけど!

 わざわざ言われるのも、恥ずかしい…。


「それで、それは私にくれるのかしら?」

「え?…あっ!」


 神様の目線が私の手の方に向かい、私も見るとそこには神様へのプレゼントが入った紙袋があった。


「あ、持ってこれたんだ…。神様、祝福をくれたお礼です。受け取ってくれますか?」

「勿論よ!ありがとう!」


 神様に差し出すと、神様は目を輝かせて私から紙袋を受け取る。

 中のものを取り出して、神様は嬉しそうに笑ってくれた。


「花冠だわ!素敵ね…。どう、似合うかしら?」

「はい、とてもお似合いです」


 白い花ばかりの花冠を付けた神様は、その場でクルクル回る。

 女性なのか分からないけど、似合うと思ったのだ。

 うん、想像通り、とても似合う。


「これは花のポプリね!とてもいい香りがするわ。あらお菓子もある!こんなに貰っていいのかしら」

「神様の好きなものが分からなかったので、色んなものを詰めてみたんです」


 どれも喜んでくれてるみたいで良かったけど。

 何がいいかわからなすぎて、色んなもの詰め合わせプレゼントになったのだ。


「ふふ、全部嬉しいわ。ありがとう、エミリアさん」

「喜んでもらえて良かったです」


 神様は嬉しそうにその場でクルクル回る。そんなに喜んでくれると、あげたこっちも嬉しくなるなぁ。


「私は嫌いなものというのは無いから、何を貰っても嬉しいわ。でも1番嬉しいのは、あなたの幸せそうな姿だから。これからも私に幸せなところを見せてちょうだいね」

「私の幸せな姿ですね…分かりました」


 見せようと思って見せれるものでは無いけど、最近ずっと幸せだから問題ない。

 それにノアといれば幸せな気持ちになる。

 自ずと神様の要望にも答えられてるはずだ。


「そろそろあなたを戻さないと、旦那さんに怒られちゃうかしら」

「え?あ、今日は時間止めてないんですね」

「今日はそのままよ。だからあなたの旦那さんが心配してるわ」


 ふふ、と神様が微笑む。

 現世での私は一体どうなってるんだろう。後でノアに聞いてみよう。


「エミリアさん、今日は会いに来てくれてありがとう」


 神様がまっすぐ私を見て、笑顔を浮かべて言う。


「これからも時々でいいから会いに来てくれると嬉しいわ。世間話をしにでもいいし、何か聞きたいこととかでもいいから。私はこの世界の誕生からいるのだから、古い知識なんかで助けられることもあるかもしれないし」

「はい、その時は頼らせていただきます。そうでなくても会いに来ます」


 次はノアも少しは安心して、もう少し長くお話できるだろう。

 そしたら持ってきたお菓子を一緒に食べたりとかして、楽しくおしゃべりしたい。


 私の気持ちが神様には伝わって、神様は嬉しそうに笑う。


「ふふ、待ってるわ」


 神様のその言葉を最後に、視界に光がいっぱい広がり、私は眩しくて目をつぶる。




 次に目を開けると、ノアが心配そうな顔で私を見ていた。


「…あ、戻った」

「エミリア!」


 神様の言ってた通り心配してたらしく、私はノアに強めに抱きしめられる。


「良かった…。戻ってきてくれて、本当に良かった…」

「私の帰るところはノアのところだからね。ちゃんと戻るよ」


 安堵のため息をつくノアにそう言うと、ノアは軽いキスを私の口に落とす。


 うん、ノアといるとやっぱり幸せだ。


「ノアから見て私はどうなってたの?」

「祈った姿勢のまま微動だにしなくて、呼びかけてもなんの反応もないんだ。肝が冷えたよ」


 うーん、それは確かに、ちょっと怖いかも…。

 でもそれなら、私は魂とか意識だけがあっちに行ってる事になってるのかな?お菓子持っていっても、一緒には食べられないかも。


 今度会いに来た時にでも聞いてみよう。




「そっか、神は喜んでくれたんだね。よかった」

「花冠もすぐつけてくれて、嬉しそうにくるくる回ってたよ」


 帰りの馬車内で、今日の神との会話をノアに伝えた。私が嬉しそうな顔をするとノアも同じ顔になり、一緒に喜んでくれてる。


「でも良かった。夜のエミリアを見られてなくて。いくら神でも女性でも、夜のエミリアを見ていいのは僕だけだからね」

「ぐっ……」


 それはそうだけど、それはそうだけど!


「エミリア、僕は今日すごく不安だったんだ。神がエミリアを気に入ってるのはいい事だけど、そのまま返してくれないんじゃないかって思って。いくら僕でも神が相手では何も出来ないからね」


 ノアが私の頭を撫でながら言う。少し不安そうな声。

 ノアは神様に会ったことがないから、知らない存在だから余計に不安になったのだろうか。


 私が勇気づけようと思った時、ノアが私にとてもいい笑顔をうかべた。

 嫌な予感がする。これは多分、今夜寝れないやつ。


「だから、今日は僕を安心させてくれるよね?」

「……ハイ」


 案の定、今夜は寝かせて貰えなかった。


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