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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
番外編
87/110

浮気騒動リターンズ2 sideミルム

最後に少しエミリア視点ありです。

 


「勉強はどう?」

「もう終わらせようと思ってたところ」


 自分の部屋だけどノックをして入ってきたノアゼット様は、いつもの優しい目をエミリアに向ける。


「そっか。ミルム嬢、ロットを呼んだから、もうすぐ来ると思うよ。それまで待っていて」

「ありがとうございます」


 私にもその笑顔を向けてくれるのは、私がエミリアの友人だから。ただそれだけだ。

 エミリアの為だけに、ノアゼット様は私にも優しくしてくれてるに過ぎない。


 だからきっと、この話をしたら怖い目を向けられるだろう。

 それでも、私は引けない。


「ノアゼット様、少しお話したいことがあるのですが、お時間いいですか?」

「うん、構わないよ。エミリアは?」

「エミリアには待っててもらってもいいですか?」

「分かった」


 ノアゼット様はあっさり私の言葉に従ってくれて、エミリアにも、いってらっしゃーいと軽く手を振られた。


 リビングの扉を閉めて、ノアゼット様の寮の部屋の出口まで続く廊下で、先を歩いていたノアゼット様が振り返る。


「何か深刻そうな顔だね。僕に何か言いたいのかな?」


 彼は表情を読むのに長けている。私の気持ちなどお見通しだろう。

 その目はさっきエミリアといた時ほど柔らかくなく、口角は上がっているのに少し鋭い目線を私に向けている。



 怯むな、立ち向かえ、私!


「…ノアゼット様、これがソファの隅にありましたが、説明願えますか」


 そっとポケットからさっきの髪の毛を取り出して、ノアゼット様に見せた。ノアゼット様はそれを見て、少し驚いた顔をした。


 なんで、なんで驚いた顔をしたの?

 綺麗に掃除したはずなのに落ちていたから?それって、隠そうと思ってたってことなの?


「どういう…おつもりですか。私室のソファに座らせるような関係の女性が、エミリアの他にいるということですか!?」

「……」


 ノアゼット様は無言のまま、私を見た。射抜くようなその目線に、逃げ出したくなる。

 ぐっと拳を握りしめて、震えそうになる足で床をしっかり踏みしめて、ノアゼット様を精一杯睨む。


「エミリアを悲しませるようなことをするのであれば、私はノアゼット様にエミリアを預ける訳にはいきません」

「僕からエミリアを奪おうってこと?」


 ぐっとその目に鋭さが増して、表情が冷えたものになる。

 びくっと体が震える。

 怖すぎる。今にも殺されそう。


 だめ、怯むな私。大事な友人のためなら、私はノアゼット様にだって負けない!



 力強くノアゼット様を睨む。彼の冷たい目線に負けないように、力と気持ちを込めた。


 するとノアゼット様は、ふ、と口角をあげると冷えた雰囲気を瞬時に切りかえて、面白そうに笑った。


 え?笑っ…。


「ごめん、悪戯がすぎたね。君がエミリアのためなら僕にさえ刃向かってくるのだと思うと心強いよ」

「…へ?」

「で、この髪だっけ。うーん、ちょっと聞いてくるね」


 エミリアの友人向けの優しい顔を浮かべたノアゼット様は、私から暗い色の髪の毛をヒョイと取って、エミリアのいるリビングに行ってしまった。



 え、何?何が起こったの?

 てか、聞いてくるって、なに、エミリアに?

 は?なんでエミリアに聞くの?エミリアに聞いたら、エミリアが悲しむじゃない…!


 ハッとしてリビングに行こうとしたら、リビングからノアゼット様が顔を出した。


「ミルム嬢、エミリアが呼んでるよ」


 未だに心の整理がつかないまま、ノアゼット様の声に従ってリビングに足を踏み入れた。


 そして恐る恐る見たエミリアの顔は悲しそうになんてしてなくて、少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「ミルム!ごめんね、なんか心配かけたみたいで」

「心配かけた…?」

「この髪の毛だよね」


 そう言ってエミリアが見せてきたのはさっきの暗い色の髪の毛。

 それを見てエミリアは平気な顔をしていられるのはなんで?あなたの髪じゃないのは一目瞭然なのに。


「ミルム、見てて」


 エミリアは私から少し離れて、ずっと付けていたブレスレットを外した。

 途端にエミリアのキャラメル色の髪が、黒に染まった。


 え、黒い、髪…?


「これが私の本当の髪なの。この国にはいないから隠してたんだ。だからそれ、私の髪の毛なんだ」


 確かに見たことがない。ここまで真っ黒の髪の人は。この国どころか、他の国でも聞かないだろう。

 何より見慣れないその黒い髪が、エミリアに似合ってるから余計不思議だ。神秘的にすら見える。


「…って、え?エミリアの髪?」

「そう。私の髪の毛」

「………」


 知らない女の髪の毛かと思ったら、エミリアの髪の毛だった。

 ノアゼット様は他の女性を連れ込んだりなんかはしていなかったということだ。


 私は慌ててノアゼット様に振り向いて、勢いよく頭を下げた。


「申し訳ありません!!早とちりでした!」

「あはは、いいよ、顔上げて。全く怒ってないよ」


 ノアゼット様は朗らかに笑われて、私を許してくれた。

 あんなに敵対心たっぷりに睨みつけて、浮気を疑ったのに、怒ってないの?聖人なの?


「むしろこっちこそごめんね。少し怖がらせたら引くかなと思ったけど、想像以上にミルム嬢が食い下がってくるから、余計怖がらせたね」

「えっ、ミルムのこと怖がらせたの?」

「ちょっとね」

「絶対ちょっとじゃないでしょ…」


 悪気のなさそうに笑うノアゼット様にエミリアは疑いの目を向けた。そして私に抱きついてきて、私の背中をさすってくれる。


「ごめんね、ノア怖かったでしょ。ちゃんと私が怒っておくね」

「…私が疑いをかけたから私に非があるの。ノアゼット様は悪くないわ」

「いーや、私の大事な友人を怖がらせたなら、どんな理由でも怒ります」


 ぷんぷん、と擬音が聞こえてきそうなくらいエミリアは頬をふくらませている。

 いつものそんな姿でさえ、髪が黒いだけで天上の人のような雰囲気が出ている。


 と、ちょうどそこに、ノックの音が響く。

 ノアゼット様がドアを開けに行って、そして私の名前を呼んだ。どうやらロットが来たようだ。


 エミリアはすぐさまブレスレットを付けていつものキャラメル色のエミリアに戻った。それを見て少しほっとしてしまった。


 さっきのエミリアはとても神々しくて、神の愛し子そのものだった。そのまま神になってしまいそうにも見えてしまった。

 だから髪色が治って、エミリアが戻ってきた気がして、嬉しく感じてしまったのだ。



「ミルム、本当にごめんね!ノアはちゃんと叱っておくからね!」

「ミルム嬢、これからもエミリアを頼んだよ」


 …情報が色々多すぎて整理出来ないけど、とりあえず分かったことは。


 ノアゼット様はエミリアを溺愛している。

 それが分かった。

 それなら、エミリアのことは安心だ。


 それにノアゼット様ならエミリアを天上に連れていかせる様なこともしないだろう。

 彼の愛は本物だ。


「なにかされたのか?ノアゼット様に」

「ううん、私が勘違いしてしまっただけ」


 ロットに聞かれ、そう答える。

 エミリアの髪の色はきっと極秘情報だ。わたしがあの髪の毛を見つけなかったら、きっとエミリアは私にも言う気はなかったのかもしれない。


 ならば墓まで持っていく。


「ロット、いつもありがとう」

「な、なんだよ突然!」


 私の突然のお礼にロットが狼狽え、その様子を可愛いな、と思って眺める。

 こんな素敵な人と結ばれたのはエミリアのおかげだ。


 そのお礼の気持ちだけで友人をしてる訳じゃないけど、恩があるのも事実。

 私はずっとエミリアの友人でいよう。


 髪が黒くても、黒くなくても。

 私はずっと、エミリアの友人だ。



 ###



「ミルムのこと怖がらせたの?」

「少しだけね。でも彼女、震えてたのに負けじと睨んできて、エミリアへの愛を感じたよ」


 へらりとノアが笑っているものの、私は許さない。

 大切なミルムを怖がらせるなんて。

 いくら浮気と思われたからとはいえ、やりすぎだ。


 でも、ミルムがノアと対峙したのはとても嬉しく思った。ミルムはあんなにノアのこと怖がっていたのに、私のためを思ってノアを睨みつけてくれるなんて。


「でも残念だな。エミリアの髪の色を知る人が増えてしまったね」


 少し残念そうな顔をしてノアが言う。

 ノアは本当に黒髪が好きだな…。そんなにいい?これ。


「じゃあ今日はブレスレット外さない。ミルムを怖がらせた罰ね」


 怖がらせる前に私のところに説明に来てくれれば良かったのに。罰としてノアのお気に入りのこの黒髪を今日は封印してやる。


 そう思ってふんぞり返ると、ノアは目をぱちぱちと瞬かせ、そして妖しく笑う。


「エミリア、それはちょっと僕を侮りすぎじゃない?」

「ん?」

「僕がエミリアの髪の色だけを愛してると思ってるの?」


 うん?なんか不穏な雰囲気。

 ノアがゆっくり私に近付いてきて、顎を片手で取られノアの方を向かされた。


「僕はエミリアの髪の色なんて何色でもいいんだよ。黒髪が似合って美しいのも事実だけど、違う髪色になったからって僕のエミリアへの愛は変わらないよ?」

「……つまり?」

「罰にはならないだろうね。僕はエミリアがエミリアであることだけで幸せだから」


 なに、罰にならないって?

 ノアのお気に入りの黒髪を封印したら少しは残念がるかと思ったのに、全然効かないってこと?


 じゃあどうしよう、と思った時、ノアに腰を抱かれて密着された。

 なんか嫌な予感。


「僕がエミリアの黒髪ばかり気に入っていると思われてたのは心外だな。僕の愛は足りなかった?」

「え、いや、そんなことは…」

「エミリアの髪色が何色でも、その姿がどう変わったとしても、僕の愛は変わらないよって、しっかり教えなくちゃいけないね?」


 そういったノアの目は明らかに欲情していて、私は逃げる隙もなくがっしりと捕まっている。



 ノアに私の髪色の制限は大して効果がなくそれどころかそれを理由に美味しく頂かれました。



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