甘さの増した日常
番外編始まりました!
30話位を予定しています。
ゆっくりめに投稿しますが、どうか最後まで見ていってください!
「ん……ふぁぁぁ……」
ふっと意識が浮上して、ぼんやり目を開ける。酸素を取り込むように欠伸をして、ようやく頭が動き始めた。
朝だ…。
「おはよう、エミリア」
「っ!」
声にびっくりして勢いよく隣を見ると、寝転びながら頬に手を当てて頭を浮かしてるノアが、幸せそうに微笑みながらこちらを見ていた。
布団から見えるその体は、裸である。
「お、おはよう…ノア…」
自分も裸なことに気付いて、そっと布団を手繰り寄せて体に貼り付けると、それを見たノアの目が少し鋭くなる。
あ、この狩人みたいな目はヤバいやつだ。ダメなやつだ。
「まだ恥ずかしがるの?可愛いね。……早く慣れるように今から頑張ろうか」
「い、いえ!十分です!もう慣れたので!もう!!」
「まだ時間はあるよ。1回くらい、いいよね?」
に、逃げられない…!
朝からぺろりと頂かれ、くたくたになって学校の準備を始める。ご機嫌な様子で支度をするノアを見て恨めしいような気もするけど、それがバレたら大変なことになるので、もう気にしないことにする。
昨日もあれだけやったのに、まだ足りないのか…。
ノアは俗に言う絶倫ってやつなんじゃないかって思えてくる。
結婚してから私はノアの部屋で寝泊まりしてる訳だけど、毎日のように抱かれている。それはもう、毎日。勿論次の日が学校だから、程々の時間で解放してはくれるけど、次の日が休みの日となると枷が外れる。
枷が外れるとノアは私の意識が飛ぶまで私を抱く。私も逃げるために体力をつけてしまっていたから、意識が飛ぶと言うより眠くて落ちる感じだけど、大体寝落ちするのは朝方になる。
それでもノアは休みの日も元気だし、若さ故なのかなぁ、なんて思ったり、思わなかったり…。
「エミリア、はい」
「ん」
腕輪を差し出され、受け取る。そしてそれを自分の手にはめれば、さっきまで黒かった私の髪が明るい茶髪に変化した。
それをいつもノアは眺めてる。少し惜しいなって顔をして。
ノアはいつも夜に私と2人になると、ブレスレットを外してくる。そして私の黒髪によくキスするし、うっとりした目で見てるから、黒髪が好きなんじゃないかなって思ってる。
まぁ茶髪でも髪にキスはしてくるけども。
ノアと一緒に朝ごはんを食べて、手を繋いで登校する。お互いの左手の薬指にはちゃんと、シルバーのお揃いの指輪が嵌ってる。
寮の同じ部屋で寝泊まりしてるだけで、夫婦になったような気がするから不思議だ。
教室について、頬とおでこにキスを落としてノアとさよならした。
「おはようエミリア」
「おはよう、ミルム」
ミルムの隣の席に座る。結婚当初感じてた沢山の視線も、だいぶ治まってきた。
もう学園中が私たちが結婚したことを知ってるし、私の力のことも、神の祝福を得たこともみんな知ってる。
最初は少し行き辛かったけど、ミルムもいてくれたし、1ヶ月もすれば慣れた。
「もうすぐテストだけど、勉強はしてる?」
「まだよ。あなたを借りてもノアゼット様に怒られないかしら」
「怒るわけないよ。一緒にやろ」
ミルムは私が神の祝福を受けても変わらずに接してくれて、変わらずに私を怒ってくれる。
そんなミルムも、未だにノアに緊張しているし、畏敬の念を抱いてるみたい。神の制裁よりノアの制裁の方が怖いそうだ。
ノアの何がそんなに怖いのか私には分からないけど。
私の言葉にミルムは諦めたような顔をした。
「結婚して一月も経てば少しは落ち着くかと思ったけど…ノアゼット様の溺愛ぶりは増す一方ね」
「やっぱりミルムもそう思う?」
そう、結婚して身も心もノアに捕まったのに、ノアの溺愛ぶりは落ち着くどころか増している。甘さも増し増し。
これは一体どういうことなのか私にも分からない。
「あれは多分治らないわ。頑張りなさい、エミリア」
「えぇ…。大丈夫かな、そのうち閉じ込められたりしないかな…」
「……頑張りなさい」
気まずそうに視線を逸らしたミルム。
閉じ込められたら助けてね!?
「お待たせ、エミリア」
お昼にノアが迎えに来てくれて、私はノアの元へ行く。2人で購買でパンを買って、よく行くガゼボに向かった。
向かい合わせでパンを食べてると、正面のノアから甘い微笑みを向けられる。
…このパンはしょっぱいパンのはずなのに、甘く感じる。
「ノア、結婚してから甘いの増したね?」
「そうかな?」
首を傾げてるその姿も、甘い。なんか色気出てるし。
「日に日にエミリアのことを好きな気持ちが膨れるからね。仕方ないんじゃないかな」
「ぐっ……眩しい…」
イケメンの甘い笑顔、眩しくて直視できない…。
なんでそんな砂吐きそうなセリフを素で言えちゃうのかな。それに心掴まれてる私もちょろいんじゃないか。
「なんか、色気も凄いし…」
私が目を細めながらノアにそう言うと、ノアはより一層色っぽく微笑む。
だからなんでそんなことが出来るんだって。
「それはエミリアのせいだよ?エミリアが可愛くて歯止めが効かないから、僕もこうなっちゃうんだよ」
「ええぇぇ…」
ヤリすぎってこと?いやでも歯止めが効かないのは自分のせい…んん、言わないでおこう。
でもノアも私が初めての相手だったらしいから、やっぱりそういう経験をすると色気が出るんだろうか。初めてにしては凄い匠だったし手馴れてる様子だったけどね…。
でもそれなら私にも色気が出たっていいのに、誰も変わったとは言ってくれないな。
そう思ってると、その気持ちを読んだノアが私の目をじっとみた。
「エミリアも、色っぽくなって僕は困ってるんだよ」
「え、ほんと?」
「僕に愛されて抱かれて、花開いたように色気と美しさが表面に現れてきて、少しでも気を抜いたら奪われそうだから僕も必死なんだよ」
困ったように言うノア。私自身自分が色気が出たとか綺麗になった自覚はないけど、ノアがそう思ってるなら心配にもなるか…。
まぁこんな平凡な女をノアから奪おうとするやつなんていないとは思うけどね…。
「大丈夫だよ。私のことはノアが捕まえててくれるでしょ?」
「…うん、そうだね。逃がさないよ」
半年前まで身震いしてたその言葉も、今では安心する言葉に聞こえるから、人生ってなにがあるか分からないな。
ノアの黒い発言も、仄暗い心も、たまに怖くなることはあるけど、それと同時に安心感を覚えてしまう。
そこまで私のことを思ってくれてるという安心感と嬉しさ。
きっと私もどうかしちゃったんじゃないかな、なんてたまに思ったり。
お昼を終えて教室に戻り、授業までの少しの時間をミルムとお喋りしていたら、クラスメイトから私を呼んでる人がいると言われた。
ミルムと共に教室から出ると、そこには1年生の男の子がいた。
「エミリアさん」
「はい」
男の子は少し緊張した顔で、体をガチガチにして、すっと右手を差し出してきた。
「握手してくださいっ!」
頭も一緒に下げられる。斜め後ろでミルムが、またか、と呟いていた。
神の祝福を受けてからというものの、握手を求められることが増えた。そうして少しでも神の祝福にあやかりたいらしい。握手しただけで何か起こるわけでもないのにね。
私は少し頭を下げて、ごめんなさい、と言う。
「旦那様以外の男性とは、極力触れ合わないようにしています。お引き取り下さい」
「…っ、握手くらい、いいじゃないかっ!」
下手に出ていた態度から一変、乱暴な口調になる男の子。
だからノア以外には触れないようにしてるんだってば。
神の祝福にあやかった握手なんて、1度許したらもう際限なく来そうだからね。ちなみに女の人には違う断り文句を使ってる。
「神の祝福を、僕にも…!」
「あなた何を考えていますの?」
なかなか引かない男の子の後ろから、見知った姿が顔を出した。
「ユフィーリア!」
「ごきげんよう、ミルムお姉様、エミリアさん」
ユフィーリアは笑顔で優雅に私達にカーテシーを見せ、そして私達の前にいる男の人に鋭い目を向けた。
「そのように他人から与えられるのを待つばかりでは、握手していただいたところで神の祝福にあやかることなど出来ませんわ」
「…っ!」
「エミリアさんは断っているのです。不愉快ですから立ち去ってくださいませ」
ユフィーリアがぴしゃりと言い放つと、悔しげな顔をして男の子は去った。
その後ろ姿を見ながらユフィーリアはふぅ、とため息を吐く。
「握手しただけで何故自分も祝福が貰えると思うのかしら」
「ほんとだよね」
握手しただけであやかれるなら、世の中みんな祝福を貰ってるに違いない。
「ユフィーリア、助けてくれてありがとう」
私がユフィーリアにお礼を言うと、彼女はツンデレのツンを発動させて、あなたのためじゃありませんわ!といつものセリフを言う。
「ユフィーリアなら握手するよ。いる?」
「なっ!お断りしますわ!そのためにあなたの友人をやってるんじゃありませんのよ!」
「ただ握手したいなと思っただけなんだけど…」
「そ、それでしたらいくらでもいたしますわ」
手を差し出すと、おずおずとその手を握られる。
本当、ユフィーリアも私の神の祝福なんてまるで気にせず関わってくれて、本当に嬉しい。
このツンデレも変わらずで楽しい。
握手してる時も彼女は少し顔を赤くしてそっぽ向いたままだった。
「今日も握手を求められたんだって?」
「情報が早いね」
夜、お風呂に入って濡れた髪をノアに乾かしてもらってる時、そんな事を聞かれる。
今日の昼の話なのに、情報早いなほんと。どこかに密偵でもいるの?ってくらい。
「たまたまいたユフィーリアが追い返してくれたんだよ」
「それも聞いたよ。でもたまたまじゃないみたいだね。エミリアのところに行くって言ってたのを聞いたらしくて、ついてったんだって」
「え、そうなの?」
だからなんで知ってるの?知りすぎてて恐ろしい。
私の黒髪を優しく魔法の温風で乾かしてくれるノアの手は、とても優しく私の髪に触れる。大事なものを扱うようにしてくれる。
ちなみに毎日乾かしてくれる。やりたいらしい…。
「牽制が足りなかったかな…」
「えっ、なに牽制って。なにかしてたの?」
「ん?ちょっとね」
ノアの顔が見れないけど、なんか悪い顔をしてる気がする。
濁したように答えられて、ハッとした。
待って?結婚当初、握手やら友達になってやら周りがうるさかったのが、数日で鳴りを潜めたのは、ノアが何かしたからってこと?!
てっきりみんなが諦めてくれたのかと思ったのに!
「エミリアは僕のものだからね。それをわかってもらわないと」
「ひぇぇ…」
少し声が低く聞こえたのは気のせいじゃないはず。
少し身震いすると、ノアが温風をやめて私の顔をのぞき込む。
「どうしたの?寒い?」
いや、あなたの発言が怖いんです!
なんて言えずにいると、ノアはそんなことすらお見通しのようで、にやりと妖しく笑う。
「じゃあ一緒に体を温めようか、ね?」
そう言われて膝裏に腕を入れられ、ふわっと体を持ち上げられる。
あ、まずい!これは、寝室直行コースだ!
「ま、待って!早くない?ちょっと早くない!?」
「その分たくさん愛し合えるでしょ?エミリアも早く温まりたいよね?」
「いや、これは違くて!?」
抗議する言葉はノアの口に塞がれて飲み込まれた。
やっぱり逃げられないな…。




