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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
8/110

逃げた先は?2

 

 低木が私の身を受け止めてくれた。


 むき出しになってた足と腕と、顔がピリピリしたけど、枝が体に刺さったりはして無さそうだ。


 ふぅ、一発勝負だけどなんとか!

 高鳴る鼓動を抑えて起き上がろうとした時、私の飛び降りた窓から大きな声が聞こえてくる。

 なに?と思って見ると、窓からノアがこちらを見下ろしていた。


「エミリア!!」


 凄い焦った顔で、ノアは窓枠を飛び越え、かっこよく地面に着地した。


 え?…なに、超人なの?


 地面に着くや否や、すぐさま私に駆け寄って私のことを抱き起こしてくれて、私の全身をチェックし始める。


「き、傷がこんなに…!エミリア、他に痛めたところは?」

「いや、擦り傷だけだよ。」

「ごめん…っ。助けられなくて…!」


 ぎゅうぅぅ、と苦しいくらいに抱きしめられる。

 ええー、擦り傷だけだってば。確かにちょっと擦り傷多くて痛々しいけど、ヒリヒリするだけだって。


「ノア、大丈夫だよ。私無事だよ?」

「でも、傷がこんなにたくさん…!」

「それは私が飛び降りたから。擦り傷だよ。深くないよ?」

「それでも、痛かっただろ…っ」


 少し乱暴な言い方になったノア。抱きしめる腕は少し震えてた。

 そんなに心配してくれたんだ。ちょっと嬉しいな。


「ノア。来てくれてありがとう。ノアこそ、窓から飛び降りて怪我してない?」

「僕は鍛えてるから…」


 鍛えたらいけるんだ。いいこと聞いたな。


「エミリアは鍛えちゃダメだからね」


 バレてる。釘を刺された。


 少し落ち着いたのか、ノアは私を腕の中から解放すると、服に着いた葉っぱやら枝やらを払ってくれた。


「一応聞くけど、触られたりは?」

「してないよ。嫌だから飛び降りたんだもん」

「心臓に悪い…。触られなくて良かったけど、飛び降りも…ううん…」


 ノアの心の中では葛藤してる。

 私が飛び降りて誰にも触られないか、触られてもノアが来るまで助けを待つか。


 まぁ私は待っててって言われても絶対逃げるけどね!

 黙ってやられっぱなしなのは性にあわないの!


「さっきエミリアがいた部屋にいた男については、捕まえてるから安心して。僕をそこまで案内した女が多分主犯で、そいつも捕まえてるから」

「ありがとう」

「ううん…無事で、良かった…」


 また抱きしめられた。

 気の済むまで抱きしめててください。心配かけたお詫びです。


「エミリア!」


 ノアの胸で見えないけど、ミルムの声がした。

 私はとんとん、とノアの腕を叩き、離してと言うと、腕が緩んでミルムの方をむくことが出来た。…けどまた後ろから抱きしめられる。


 あー…まぁいっか。


「エミリア!あなたねぇ…心配かけすぎなのよぉ!」


 ミルムは若干涙目で、私に近寄る。

 あーーめっちゃ心配かけちゃった。


「ごめんねミルム。心配してくれてありがとう」

「ばかぁ!」


 ミルムが私の両手をミルムの両手で包み、ぎゅっと握る。

 うーん、こんなに大事になるとは…。


「で、あなたからも話聞くわよ。何がどうだったの」


 目に涙を溜めながら、ミルムは私を睨む。

 可愛い。でもミルムの婚約者のロットに怒られそう。ミルムを悲しませるなって。


「えっと、三限の休憩時間に御手洗行ったら、帰りに声かけられて、着いてきてって言われて着いてって、あの部屋入ってって言われたから入った。そこから4限終わるまで1人だったよ」


 そういうとミルムは手を強く握りしめて、プルプル震える。

 あ、これめっちゃ怒ってるやつだ。やばい。


「なんでそんな怪しいのに着いていくの!あの部屋に入れって言うのも怪しさ満載でしょ!!」

「あーいや、なんか脅されてるみたいでさ。閉じ込められるだけだしって思って…」

「だけじゃなかったじゃない!」

「でも部屋入ってすぐ窓から出れるか確認したし、無理そうなら魔法使って逃げてたよ?」

「でもじゃなーーい!!」


 ミルムの怒りは最高潮になってしまった。

 やってしまった。


「危機感が!足りないの!絶対大丈夫なんてないんだから、もっと周りを頼って、助けを求めて!何かあってからじゃ遅いのよ!」

「うん、ごめん」

「あなたが…っ、飛び降りたところ、ちょうど私とノアゼット様は見たの…。こんな高さから、死んじゃったんじゃないかって…」


 …相当心配かけたみたい。

 まさか飛び降りた瞬間を見られてたとは。それは心配にもなるよね。うん。


 ぽろぽろ涙を零すミルムの頭をそっと撫でる。


「ごめんねミルム。もうしないよ」

「…っあたりまえよ!」


 ミルムに抱きついてごめんねって言いたいけど、生憎私の後ろに抱きつき虫がいるからそれは叶わない。


 ミルムの頭を優しく撫でて気持ちを落ち着かせる。

 少しして落ち着いたミルムは、ハンカチで涙を拭うと再び私を睨みつける。


「あなたにはお仕置が必要だわ」

「えっ、なんで」

「だってまた同じことが起きたら同じことするでしょう。」


 否定できない…。謝るけど反省はしてない…。強いて言うならもう少し前に飛び降りてれば見られなかったなとしか…。


「ノアゼット様。あとは任せました。」

「任せて」


 私の髪の毛に顔を埋めたままのノアはそのまま返事をした。

 えっ、なに。こわい。


 ノアは腕を弛めて私を離したかと思うと、あっという間に横抱きにされる。

 これお姫様抱っこってやつじゃ…。


「ミルム嬢。エミリアは閉じ込められて精神が落ち着いてないから、午後の授業は休むよ」

「はい、先生に伝えておきます」


 えっ、なんで。元気だけど。むしろ落ち着いてないのノアだけど!

 反抗する間も与えられず、私を抱えたノアは歩き出してしまった。


「あの…どこに?」

「どこがいいかな。自分のこと大切にしてくれないエミリアには、何処でおしおきしたらわかってくれるかな?」


 久々に見た、黒い笑顔だ。お怒りだ。

 黙った方がいいかもと思った私が黙ると、それでいいんだとばかりに足を早めるノア。



 学園から離れて、いつもの帰り道を通り、寮に着く。でもそこは私の寮ではなくて、男子寮の方。しかも一般入口じゃなくて、特別な入口の方だった。

 一般の方には寮母さんが常駐してて、異性は入れなくなってる。でも特別な方は警備員がいたけど何も言われることなく通り過ぎてしまった。


 特別寮は初めてきたけど、かなり綺麗で豪華だった。高位貴族がこっちで暮らすらしい。

 きらびやかな廊下をスタスタ歩き、やがてたどり着いた部屋のドアを開けて中に入る。


 おそらくノアの部屋なんだろう。

 入った部屋はとても綺麗で落ち着いてて、私の部屋の4倍はありそうだった。私の部屋はワンルームなのに、この部屋は見た感じリビングしかないから他にも部屋がありそう。


 そう思ってしまったからなのか、ノアはリビングに私を下ろしてはくれなくて、そこから続く別のドアを開ける。

 その先は大きなベッドのある寝室だった。


 あれ、まずくない?と思った時には遅く、ベッドに下ろされそのままノアもベッドにあがり、私に覆いかぶさってきた。

 その目は何を考えてるのか私には分からなかった。複雑な目をしてた。


「………」

「………」


 無言で見つめあう。

 何か言って。何か言って!!


「……このままここに閉じ込めたら、エミリアはもう害されないかな」

「!?」

「魔法封じの魔道具つけて、ベッドとエミリアの足を鎖で繋げれば、どこにも行けないよね?」


 な、なんだかよくない。良くない方行ってる!

 それはお仕置じゃないと思う!


 でもノアの顔はふざけてはなくて、ただ真顔で仄暗い目をしていた。


「ねぇ?エミリア。こんなに傷つけて。……何からも守るって言ったのにね」


 それを聞いて、思った。

 私的には間に合ったけど、彼は間に合わなかったと思ってるんだ。だから私が傷だらけなんだと。

 それをすごく悔やんでるんだ。


 苦しめちゃったな。


 私はなんとも言えないその目をしたノアにそっと腕を伸ばして、頭をぎゅっと抱きしめた。


「ごめん。…ごめんね、ノア」

「……」

「心配かけてごめん。傷だらけになってごめんね。ノアのせいじゃないから。そんなに悔やまないで」


 柔らかい水色の髪の毛を撫でる。

 するとノアは私の肩の後ろに腕を回して、寝転がる私をぎゅっと抱きしめた。


「……もっと自分を、大切にして」

「うん。」

「あの男に触られるのも嫌だけど、傷がつくのも嫌だよ」

「うん」

「……もっと頼って。僕は君を守ると約束したんだから」


 ごめんねの意味を込めて頭を撫でる。

 心配かけて、ごめんね。


「次やったら本当に閉じ込めるからね」

「ひぇ」

「分かった?」

「は、はい」


 とりあえず許してくれたらしい。

 ノアは起き上がると、私にそこに居て、といってさっきのリビングに戻る。


 私が死を怖がってないこと、ノアにはバレてるんだろうな。



 戻ってきたノアは、手に小瓶を持っていた。


「傷薬。塗ってもいい?」

「あ、お願いします」


 瓶を開けて薬を人差し指に取ると、私の足の傷に塗っていく。膝より長めのスカートだから、膝下しか傷はない。よかった。太ももとか触られたら困っちゃう。


 一つ一つの傷に丁寧に塗ってくれて、その後腕と顔にも塗ってくれた。

 全部の傷に薬を塗ると、ノアは私を起こしてくれて、リビングに連れてかれる。すごく柔らかいソファに座らされてノアはちゃんとした高そうなカップに紅茶をいれてくれた。


 そして私の隣に座ると、横から私を抱き上げて、ノアの膝の上に私を乗せた。


 ???


「え?ノア?おろして?」

「嫌」

「えぇ…」


 後ろからお腹周りに腕を回され、逃げられなくなった。その状態で器用に紅茶を飲んでる。

 ええ…。このまま?


「でもほら紅茶熱いし、零したら危ないよ」

「嫌」


 意思は固そうです。

 諦めよう。うん、諦めも大事。


 私は温かい紅茶を少しフーフーして冷まして口に入れる。ふわっと香って落ち着く味の紅茶だった。


「おいしー…」


 ノアは紅茶淹れるの上手なんだなぁ。貴族なのに不思議。紅茶のいれ方知りませんって顔してるのに。


 ふー、と息を吐いてると、ノアは持ってた紅茶をぐいっと飲みきってカップを置き、空いた手を私のお腹に回して両腕でぎゅうぎゅう抱きしめてくる。


 首筋に顔を埋めてくるから、ふわふわな髪の毛が当たって少しくすぐったい。

 と思ってると、首に何か柔らかいものが当たった気がした。


「?」


 …気の所為?

 気にせず紅茶を飲むと、それは何度も首筋にやってきた。


「…ちょっとノア?何してるの?」

「ん?エミリアの首にキスしてる」


 いやサラッと言うけど…何してんの!?

 飲みかけの紅茶を置いて、上半身をノアの方に向けようと体をひねる。


「ちょっと、ちょっと…ノア」

「…何?口にさせてくれるの?」

「いやだめだけど」


 口にってそれもうキスじゃん。

 私が首を振ると少し不機嫌な顔になって、また首筋にキスをしてくる。


「ノア…っ」

「これはお仕置だよ、エミリア。」

「え…」


 なんでこんなお仕置!?エロゲーじゃあるまいし!!


「痕はつけないから、安心して」

「え…うん…」

「本当はつけたいんだけどね。まだつけないよ」


 まだっていったこの人。そのうちやるつもりだ。

 やばい、逃げた方がいいのか?

 いやだから逃げられないんだって!



 首筋にキスするのをやめたノアは、今度は私をぎゅっと抱きしめた。

 抱きしめるの癖になってない?大丈夫?


「はぁ…ずっと触れたかった…」

「はぁ」

「逃げられちゃうから、ゆっくり進めようとしてたのに…はぁ」


 まぁたしかに普通の状況でこんな事やられたらもう振り切って逃げてたかもしれない。


 ノアは後ろから私を覗き込み、私の顔もノアの手によってノアの方へ向けさせられた。

 じっと見つめてくるノアの目はトロンとしてて少し色っぽい。


「ねぇエミリア…キスしちゃだめ?」

「えっ……だめ」

「だめかぁ…」


 なんだその溢れんばかりの色気は。

 だめかぁといいながらノアは顔を近づけてくる。


「の、ノア?だめって」

「だめ?…ほんとにだめ?」

「だめ!」


 それでもノアは近付いてきて、思わずぎゅっと目をつぶると、ほっぺに優しい感覚が触れた。

 恐る恐る目を開けると、色っぽくも優しい顔のノアがいた。


「しないよ。逃げられたくないからね」


 ほっぺちゅーだったかー…。それもいいとは言ってないけど…。


「いいよって言うまで待つから…それ以外の所にキスするのは許して」


 そう言ってノアはまたほっぺやら首筋やらにキスをふらせる。

 許しても何も、もうされてる…。


「はぁ…」


 溜息をつきながらまたぎゅうっと抱きしめられる。


 …うーむ…。とりあえず分かったのは。

 心配のかけすぎは良くないってことだ…。






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