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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
76/110

私を捕まえて

 

「やっと見つけたぞ、エミリア・ライド。学園にいたなんて気付かなかった」

「…ライード・ドルトイ…っ!」

「僕の名前を知ってくれてるとは光栄だ」


 にやり、と背筋が震えるような気持ちの悪い笑顔を浮かべるドルトイ三男のライード。そしてその左右に立つフードを被った3人の男。きっと前回もいた人達だ。


 思わず震える私の手を、ギュッと握られる。

 バッと振り返ると、私の手を握ったミルムがいた。


「ミルム…?」

「どうやら余計なものがついてきたようだな」


 巻き込んでしまったのか。私を喚ぶ魔術に、私が近くにいたからミルムまで巻き込んで…!

 申し訳なさが胸を覆うその前に、ミルムが私の目を見つめた。


 力強い諦めてない目。

 大丈夫だと、その目が言ってる。


 そうだ、諦めない。私は諦めない。

 私は絶対に逃げるし、ノアが来てくれるって信じるんだ。


 ノアが来るまで時間を稼ぐか、ここから逃げるしかない。

 とはいえこの狭い空間で魔法を出すのは、出す前にやられてしまう。だから逃げるとするなら不意をつくしかない。


 握られたミルムの手を私も強く握り返す。

 その様子を見たライードは面白そうに笑った。


「はは、美しい友情だな。だが悪手じゃないかね?僕はその女を人質にとることも出来るんだぞ?」


 動揺しないようにきつくライードを睨みつける。

 きっとミルムが人質にとられたら、私は言うことを聞いてしまう。でもそれを悟られたら、人質にされてしまう。


 少しでも時間を稼ぐために、少しでもその判断を遅らせるために。


「やれやれ、まぁどっちでもいいんだが。おい、そっちの女を拘束しろ」

「はっ」


 ライードの左右にいた3人のうち2人がこちらにじりじりと近寄ってくる。


「ミルムに手を出したら許さない!」

「なら君が大人しくしてくれればいい。そうしたら手荒な真似はしないさ」

「エミリアに何かしたら私だって許さないわ!」

「おっと…」


 お互いがお互いを守るその姿に、ライードは笑った。

 その笑い方でさえ癪に障る。


「そちらのお嬢さんは勘違いしているな。僕はその女になにも酷いことはしないさ」

「嘘に決まってるわ…!」

「本当だとも。ちょっと抱かせてもらうだけさ」

「なんですって…!?」


 ミルムがわなわなと震える。相当怒っているようだ。その間もライードの手下が近寄ってくる。


「だってその女を抱くだけで魔力が増大するんだ。安いものだろう?」

「魔力が…増大…?」


 ライードが言った。ミルムがそれを信じられない顔で聞き返す。


 バレてしまった。秘密を、明かされてしまった。


「そうだ。今なら君も仲間に入れてあげよう。君は女性だからその女を抱くことは出来ないが、君の婚約者に貸すことは出来る」

「…!」

「剣術が得意なようだな。そこに魔法の力も加われば、尚更強くなれるし発言力も高くなる。男爵などに収まる器ではなくなるぞ」


 ミルムが声を出さない。

 私は、ミルムの顔を見れない。

 怖い。嫌だ、どうしよう。


 もし、もしライードの言う通りに従ったら…。


 その時、私を握る手を、ミルムが強めた。


「私が…っ友人を売るわけ無いでしょ!!」


 がつんと大きく響いたその声は、私の心にもしっかり響いた。

 ようやく見れたミルムの顔は怒りに満ち溢れていて、その矛先はしっかりライードだった。


「ミルム…」

「魔力?権力?要らないわ!私は私の周りが幸せであればいいのよ!」


 ミルム…。そこまで言いきってくれるの?

 彼女の言葉と態度に胸が熱くなる。

 そして疑ったことに罪悪感を覚えた。


「まぁ僕はどっちでも構わない。甘い蜜を吸うのは少ない方がいいからな」


 ライードはつまらなそうにそう言って、手下に目配せする。そして再びフードの男が近寄ってきた。


 私はミルムの手をしっかり握り、ミルムも私の手をちゃんと握る。

 まだ、諦めない。


 その時、この部屋の唯一の扉が大きな音を立てて開く。


「なんだっ!」


 ライードが驚き、彼の前にフードの男が彼を守るように立つ。

 扉から現れたのは侍女の服を着た1人の女性だった。


「禁術を使ってると通報がありましたので、拘束しますっ!」


 そう言ってその侍女さんが手持っていた剣をフードの男に振りかぶる。フードの男も慌てて剣を抜いて彼女に応戦した。


 その姿を見て驚き混乱するライードを見て、私はミルムの手を引いて走ってその横を抜けた。


「こら!待て!!」



 扉をぬけて、階段を上る。

 ミルムの手を離さずに、二人で駆け登る。

 背後から追いかけてくる音も聞こえて、焦る。


 やっと階段を上り切った先の扉を開けて外に出た。

 そこはいつかと同じ、知らない屋敷の中。


 でも立ち止まっていられない。


「とりあえずこっち!」


 ミルムの手を引いて右の道へ進む。すぐに後ろからフードの男とライードが追いかけてきた。


「そいつらを捕まえろ!窃盗犯だ!」


 ライードがそう叫ぶと、屋敷の中にいた使用人が私達の前に立ち塞がった。

 ライードの言葉を信じて、私たちを捕まえるつもりだ。


 前も後ろも塞がれて、どうするかと思っていると、前の使用人達が何故かぱたぱたと倒れた。

 そしてその後ろから1人の執事さんが顔を出す。


「お逃げ下さい、エミリア様、ミルム様」

「!…ありがとう!」


 よく分からないけど逃がしてくれる。味方らしい。

 私はミルムと共に執事さんの横を駆け抜けていく。



 知らない屋敷の廊下を走る。あの時と違って屋敷には人が沢山いて、私もひとりじゃない。ミルムがついてる。


 私たちは2人で走り、人がいない廊下に差し掛かると、手当たり次第にドアに手をかけた。

 いくつか開いてる部屋があったが、そのうちのひとつの部屋に私はミルムと入った。


「ノアゼット様が来るまで隠れていましょ。私達の味方もこの屋敷には居るみたいだし、多分出口はどこも塞がれてるわ」


 ミルムの言葉に頷いて、私はこの部屋で隠れられそうなところを探す。


 客室のような部屋。隠れるとするなら、クローゼットの中、ベットの下、テーブルクロスの中…。


 私たちはベットの下に潜り込むことを決めた。



 ベットの下に潜り込んで、時間が過ぎるのを待つ。

 廊下側の壁からはバタバタと慌ただしい音がする。今もきっと私たちの味方が戦ってくれているのだろうか。


 やがてみんな倒されて、私達は見つかってしまうのだろうか。

 不安になった私の手を、ミルムが握った。


「大丈夫よ。ノアゼット様はすぐ来るわ。私達は大人しく待ってましょ」

「…そうだね……」


 ここがどのくらい学園から離れていて、ノアがどのくらいのスピードで来れるのかは全く分からない。どれだけここに隠れていればいいか分からないけど、信じて待つ。


 ミルムが私の手を強く握ってくれて、安心する。


「巻き込んでごめんね、ミルム」

「何言ってるの?巻き込まれたんじゃないわ。一緒に戦いに来たのよ」


 一緒に、戦いに…。


「いつもいつもエミリアは1人で立ち向かうから心配だったのよ。やっと一緒に戦えるわ」

「一緒に……戦ってくれるの?」

「当たり前でしょ。ずっとそう思ってたもの。きっとノアゼット様も同じ気持ちよ」


 ずっと私と一緒に戦うつもりでいてくれてた。

 ミルムも、ノアも。

 私が信じられなかっただけで、一緒に立ち向かおうとしてくれてた。


 心がとても温かくなる。熱い気持ちに涙が出そうになる。


「エミリアの秘密も、知っても何も変わらないわ。大丈夫よ、私達はあなたの味方よ」

「……ありがとう、ミルム」


 その言葉が、どれだけ救いになるか。

 私はミルムの手をぎゅっと握りしめて、ミルムからの言葉をしっかり心の中にしまった。





 どれくらいベットの下にいたのか。廊下の喧騒は収まってきて、私達はずっと同じ姿勢で待っていた。


 ガチャ、とドアが開く音がして、体を固くさせる。数人の足音が中に入ってきて、私たちを探している。


 見つからないように息を潜めて、じっと嵐が過ぎるのを待とうとしていた。



 だけどあっさりベットの下を覗かれて、私達はベットの下から引きずり出された。


 フードの男達に私とミルムは別々に取り押さえられ、身動きを取れなくされる。

 私もミルムも派手に暴れるけど、数人掛りで抑え込まれて床に押さえつけられる。


「ライード様!こちらです!」


 フードの男がライードを大声で呼んで、そいつは直ぐに来た。

 そして私たちを見ると舌なめずりをしてにやりと気味悪い笑顔を浮かべてる。


「かくれんぼは楽しかったか?」

「……っ」


 気持ち悪い。

 絶対に、お前のすきにさせて溜まるか!

 私は諦めない、絶対に!


「おい、お前が暴れるなら今すぐにでもあのお嬢さんを殺していいんだぞ?」

「エミリア、聞いちゃダメよ!」


 視界に映るミルムの首に剣が当てられた。それでもなおミルムは怯むことなく、私に言葉を届けてくれる。


 だけど私はミルムが人質にとられて平気でいられるわけが無い。

 反抗せず大人しくなった私に、ライードはそれでいい、と言ってにやりと笑った。


「服を脱がせろ」

「エミリア!」

「うるさい、黙らせろ」


 ミルムの口が手で塞がれる。んーんー!と声にならない声を上げてるのが聞こえる。

 私を拘束してた人は私の体を仰向けにさせて、他のフードの男が私の上の服に剣を当てる。


「動いたら切れるぞ」


 ライードがそう言って、その剣は私の服を切っていく。

 私の寝巻きが前開きにはだけて、ブラ1枚になる。


「子供の割に成長してるな」


 いやらしい目が私の体を舐めまわすように見ている。

 それでもなお、私はライードを睨みつけた。


「私を無理やり抱いて、本当になんのデメリットも無いの?」

「なに?」

「私が気持ちを込めればその分魔力も上がるんでしょう。なら逆もあるとは思わないの?」


 ライードの手下が今度はドロワーズに剣を当てる。

 気にしない振りをして、ライードに私は声をかける。


「私を抱いて魔力が少なくなってもいいの?」

「それは一理あるな。仕方ない、最初は別のものにやらせよう」


 ドロワーズが切られて、パンツだけになった。

 大丈夫、まだ大丈夫。


 ライードに命令を受けたフードの男が私の前に立つ。

 その男は少し躊躇っているような顔をしていた。


 これは、いける。


「いいの?私を抱いて。もしかしたら魔力減るかもよ?」

「減ったらその後に増大させるだけだ。いいからヤれ」


 私の言葉に答えるのはライードで、私の前に立つ男は動くのに躊躇ってる。


「無くなっちゃうかもよ、魔力。そしたら増えるも何も無いんじゃないの」

「っ!」


 顔が大きく歪んだ。

 これは、揺さぶり成功だろう。


「おい!早くしろ!」

「で、ですが…!」

「おい女、魔力が無くなったらこの友達がどうなるか、分かってるだろう?」


 ぐっ、とミルムの首に剣が強めに当てられる。つー…と少し血が見えた。

 私がそれを見て顔を歪ませたのをライードはしっかり見た。


「ふん。分かればいい。ほら、無くなることは無いからさっさとやれ」

「…はい」


 ライードに言われて、少し下がってた男がまた近寄ってくる。


 ここまで、ここまでなのか。

 私が出来るのは、ここまで?


 いや、まだ諦めないんだ。


 男の手が私のパンツにかかる。


 嫌だ。こんなヤツらにやられてたまるか。

 ノアがいい。私に触っていいのはノアだけなんだ!



 ぐっ、と歯をかみ締めた時、その男はパンツを切ろうとして、目の前から吹っ飛んだ。


 え?あれ?吹っ飛んだ?


 そう思った直後、私を拘束する人達がぱたぱたと倒れ、私の体が自由になる。


「なっ!!」


 ライードが驚き目を見張り、バッとミルムに目を向けた時にはミルムを拘束する人達も倒されていた。


 ゆっくりミルムが起き上がるのが見えて、ほっとする。

 良かった、生きてるし、元気そうだ…。


 そう思った時、肩からふわりと何かをかけられ、ぐっと肩を寄せられる。

 こんなことするのは一人しかいない。


「ノア…」

「ごめんエミリア、遅くなった」


 少し汗をかいて胸を上下させてるノア。相当急いでくれたようだ。

 そしてこの腕の中に戻ってこれて、心の底から安心してる自分がいる。



 さっき分かった。私はきっとノアが好きなんだ。

 やっと気付いた。


 ノアがいい。ノアじゃないとダメなんだ。ノア以外に触れられるのは嫌だ。



 じんわりと広がる恋と、背中から伝わるノアの温かさに身を預けていると、立ち上がったミルムが急いで私達の所に来る。


 そしてノアはライードに剣を向けた。

 その目はとても鋭くて、冷ややかで、とてつもなく怒っている。


 それを見てライードが分かりやすく慌てて顔を白くしている。


「まて、待て待て!仲間に入れてやる。その女を抱けば、魔力が増大するんだ!」

「エミリアを、抱くって…?」


 その言葉に体を固くした私を、ノアが強く抱きしめる。

 後ろに後ずさりしようとしたライードの足が、地面から生えてきたかのような氷によって動きを止められる。


「エミリアを抱いていいのは、僕だけだよ」


 ノアの冷たい声が響く。

 でも私の心は暖かくなる。


 私の秘密を知っても、ノアは変わらない。

 変わらず私を守ろうとしてくれてる。


 目が熱くなる。嬉しくて、安心して、泣きそうだ。


「ノアゼット様!全員捕らえました!」


 部屋の扉から走って入ってきた男の人が、大声でそう言った。

 そしてその人の後ろから数人の男の人もやってくる。

 それを見たライードは、更に顔を青くする。


「分かった。あとはこいつを捕まえて、ミルム嬢を安全なところに」

「はっ!ミルム嬢、こちらへ」


 ノアの配下らしき人がミルムを誘導する。

 ミルムは彼について行き、そして振り返って私の目を見て頷く。

 その目は力強くて、大丈夫だと言ってる目だった。


 私も同じように頷くと、安心したように微笑んでミルムは男の人に着いて行った。



 残されたライードを手際よく拘束する男の人達。

 そして連れていかれるところを、私は呼び止めた。


「待って!」

「エミリア?」


 ノアは絶対に離さないとばかりに腕を強めて来たので、私はノアの腕の中からライードに目を向ける。


「私を帰す方法があるのは、本当なの…?」


 あれが脅迫でも、その方法はもしかしたらあるんじゃないか。召喚した本人なら、それが分かるんじゃないか。


 一縷の望みをかけて聞くと、ライードは私を見て、大きく笑う。

 いきなり笑いだすから驚いた。ノアも警戒している。


「はは、何を言うのかと思えば…。ある訳無いだろう、そんなもの」

「…っ」

「残念だったな、元の世界に帰れなくて」


 ははは、と笑いながら彼は、連れていかれた。


 呆然としている私をノアは横抱きにして、何も話さずに歩き出した。




エミリアの魔道具が作動しなかったのには理由があります。



魔道具にはGPSと、攻撃を弾くもの、結界を張るものがありましたが、攻撃を弾くものは主に魔法の攻撃が対象です。


危険が迫ったら結界を張るものは、素早く刃物が近付いたら、のようにしています。

ただ刃物が近付いただけでは、一緒にお料理とか出来なさそうなので…。

殺意を持ってる人からの刃物に反応するでも良かったのですが、それなら悪意のある攻撃(縛り付けたり)も弾けそうな気がしたのでやめました。ここではエミリアにピンチになって欲しかったんです。


刃物が近づいたらというのも、「刃物って認識はどこから?」とか思いますが、そこはファンタジーなので許してください。



でも多分これを機に、そのうちノアが機能追加しそうな気も……。



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― 新着の感想 ―
お守りアンクレットは状況から外されてないと思ったのですがなんで結界作らなかったんでしょう?
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