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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
61/110

捕まえてもすり抜ける sideノアゼット

少し前に戻ります。


エミリアとミルム嬢と、ロットの浮気調査に向かった。

勿論お昼に聞いた時からすぐにロットのことは調べさせて、噂の女性はいとこだと知ってから、2人を見守った。


ミルム嬢は頑張って気分を変えようと明るくしていて、それに乗っかってエミリアも楽しそうにしていた。


思えばエミリアが友人と出かけるのは初めてだ。僕が居なければ外にも出れなかったのだから。

だからいつも以上にはしゃいでる気がする。


エミリアの喜びようを見て嬉しく感じつつも、ミルム嬢に嫉妬してる自分もいて、僕は自分に向かってやれやれとため息をついた。



ロットを見つけた時、エミリアは怒りが爆発したようで、ロットに殴りかかった。エミリアの行動力に驚きつつも僕はエミリアを抱きしめて止める。

今ロットを殴ったら、あとで傷つくのはエミリアだから。


離せといつも以上に暴れるエミリアを何とか押しとどめ、ミルム嬢とロットを引き合せる。

そして浮気じゃないと分かったエミリアは力が抜けて、ほっとしていた。


うん、これで僕らの役目は終わりかな。

あとはエミリアとデートして帰ろう。


ロットのいとこが僕に熱い視線を向けてたのには気付いていたが、無視をした。


エミリアも不思議がっていた。本当に今まで僕に興味がなかったんだね、エミリアは。僕は誰にでもあんな感じなのに。

ミルム嬢やロットに優しくするのも、エミリアの友人だからだ。僕が彼らに冷たくしたらエミリアが悲しむだろうと思うからだ。


ロットの浮気だって本当だったなら、エミリアに言ったとおり僕も加勢する。僕も加勢して、ロットを社会的に抹殺する。それくらいしないとミルム嬢の気持ちは晴れないし、ミルム嬢が落ち込んでたらエミリアも落ち込むでしょ?


僕の行動理念は全部エミリアだってこと、いい加減分かってくれないかな。


まぁ、気付かないでのほほんと生きてるのもエミリアらしいんだけど。




新入生が入った。特になんの興味もなかった。

ただ、エミリアを寄ってたかって非難する新入生が今年は多い。僕の婚約者だと知っての行動なのだから、ライオニア家を敵に回すってことでいいんだよね?


どういうことかと見ていると、今年の新入生には厄介なことに、公爵令嬢のリゼット様がいらっしゃった。

彼女は僕の婚約者を狙っていたし、前の闘技大会でもエミリアにつっかかっていた。

ということは新入生がエミリアにしてることも、リゼット様の意向だろう。


僕よりも爵位は高いリゼット様だが、社会的地位は僕の方が上だ。だから何も気にせず僕は彼女に苦言を呈することもできる。


だけどどうやらエミリアは、そうは思っていないようだ。

エミリアからすればリゼット様は9つも歳下で、子供に見えているようだ。新入生もみんな。

だから彼らに何を言われても、広い心で受け止めている。



それが気に食わないリゼット様はガーデンパーティでエミリアに恥をかかせようとした。


情報源はなんとロットのいとこ、ユフィーリア嬢だ。

ユフィーリア嬢は、ロットの浮気騒動のあと、ロットにしかられ、入学してからも僕にしつこく話しかけて更に怒られたらしい。

ロットからも謝罪された。


まぁ気にしてないし、エミリアに害がなければ別にどうってことはない。よくある事だし。

ただロットがユフィーリア嬢を叱っているところを見かけたが、彼はなかなか人情のある男だった。



僕に対する態度を叱るのはもちろん、エミリアに対しても怒っていた。エミリアは自分とミルムを引き合わせてくれた大切な友人で、それを蔑ろにすることは許さない、と。


そういえば、そうだったな。

2人を引き合せる手筈を整えてるエミリアを見て、僕はエミリアを気になったんだ。


なんて思い出しながら、ロットはエミリアの良い友人なのだと再認識する。

同時に、エミリアは人を見る目がいいのだろうと。




「…………」

「顔が険しいぞ?エミリアちゃんが気になるのか?」


ガーデンパーティ中、男は別室で、剣を学ぶか政治を学ぶかを選択して勉強をする。

僕とグレンは剣術の授業に参加していた。


「エミリアちゃんなら大丈夫だ。あの子強いし、頭も悪くない。ちゃんと受け流してくるって」

「それでも心配なんだよ……」


出来ることはやった。エミリアの手土産は僕の手作りにしたし、足を引っ掛けられるのを避ける練習もさせた。

色んな言葉の言い回しや、言葉の受け取り方も軽くだが教えたし、魔道具だってあるから紅茶がかかって火傷にもならないはずだ。


グレンの言う通りエミリアは馬鹿じゃないし、堂々としている。何か問題があっても冷静にしている彼女だから、悪いことにはならないだろう。


分かってるけど…。


「そういえばノアゼットが作ったお菓子持たせたって、本当か?」

「本当だよ」

「凄いな、お前そんなこと出来るの?」

「エミリアのためだからね」


グレンが呆れた目を向けてくる。エミリアのためにそこまでするか、という顔だ。


正確に言うとエミリアのためでは無い。いや、今回のお菓子はエミリアのためだが、普段僕が料理するのはエミリアのためでは無い。


僕の作ったものでエミリアを満たしたい、そんな僕のワガママだ。

そして僕の作ったものしか食べなくなれば、エミリアの体は僕の作ったもので構成されて、全身余すことなく僕のもののような気持ちになるだろう。


まぁエミリアの食べるものを全て僕が用意するのは、時間的にも無理だからやらないが。

それでも少しだけでも、エミリアを構成する1部を、僕が作ったもので補って欲しいのだ。


そんなことを掻い摘んで説明したらドン引きされた。


「…お前、変だとは思ってたけど……。想像以上に変態だな」

「何、僕と手合わせしたいって?受けて立とう」

「ちょ、待て待て!お前と戦ったら死ぬって!」

「大丈夫、殺しはしないよ」


エミリアがどうしているか分からないこの不安を、僕はグレンで晴らした。




結果的に、エミリアのガーデンパーティは大成功に終わった。

エミリアはリゼット様の罠をすり抜けるどころか、むしろそれを使って自分の株を上げていった。本人は無自覚だったらしいが。


次の日からエミリアは沢山の人に話しかけられるようになった。

エミリアの人となりが良かったのもあり、誰に対しても平等で堂々としている姿はかっこよく映ったのだろう。

エミリアと仲良くなればライオニア家がついてくるというのもあるだろうけど。


そんな訳で人気になってしまったエミリアを、もちろんリゼット様が黙っているはずも無い。



次にリゼット様がしてきたのは、エミリアに対する印象操作だ。

否定しにくい噂を流して、エミリアを孤立させようとした。

この学園に来る前は娼婦をやっていたなんて噂を聞いた時には、僕の教室の何人かが僕の怒気に当てられて体調を崩していた。


エミリアが娼婦だったなんて、腸が煮えくり返る。

それを聞いた男はエミリアのその姿を想像するだろう。この学園の全男を殺したいくらい。


それを想像していいのは婚約者の僕だけだ。


だけどやっぱりエミリアは大して気にしていなくて、僕に何もするなと言う。


エミリア、そこまで耐える必要は無いんだよ。相手が自分より遥かに幼い子供でも、していいことと悪いことがある。それを全て受け入れる必要は無いんだ。



だけどエミリアの頼みを断れるはずもなく、僕は仕方なく黙っていた。

とはいえ、ちゃんと水面下でエミリアの噂を口にしたら僕が怒ると噂を流させた。結果、表立って言う人は少なくはなった。


とはいえ元々僕のエミリアへの溺愛ぶりを知っている2年生以上は、あまり口に出すことはしていなかったけど。

エミリアの事で僕がどれだけ怒るか、知っているから。



エミリアが許しても、僕はエミリアが悪く言われるのは許せない。

そう思っていたら、エミリアもユフィーリア嬢に何か言われて考えを改めたらしく、戦うことにしたらしい。


そんな報告を聞いた直後には、エミリアの新しい噂が広がった。


エミリアは誘拐されてこの国に来て、それでも諦めずに帰るために、頑張っている。とても健気で頑張り屋だ。

自分のことで精一杯なはずなのに、友人を大事にして、友人のために色々動いてくれる、友達思いな人だ。

貴族に誘拐されたから貴族を避けていたのに、ノアゼット様に好かれて、彼の真っ直ぐな思いに絆された。素敵な愛だ。


そんな噂が。


どうやらエミリアは、教室にわざわざ噂のことを聞きに来たリゼット様に言ったらしい。

自分は誘拐されてここに来て、僕と結婚したら故郷に1度帰ると。


それを聞いた周りの人達が、今までのエミリアの行動などから、話が大きく広げた。僕がエミリアを落とすために頑張っていたのも、新入生以外は知っているから余計にだろう。


健気で頑張り屋で、友達思い。だからこそ高位貴族に見初められ、何度も断っていた事も好感度が高い。

リゼット様の流した噂がひっくり返って、エミリアの人徳に皆が惹き込まれたようだ。



全く、エミリアはどうしてこう、盤上をひっくり返すのが上手いんだろうな。本人にそのつもりが全くないから怖いところだ。


エミリアの新しい噂を聞いたグレンは笑っていたし。

僕だってどうにかしようとしてたよ。エミリアが良いと言うなら、僕が直々に噂を口にする人達に注意しに行っても良かったのに。


でもそんな圧をかけることをせず、エミリアは噂を覆した。

本当に、適わない。

きっとずっと一生、適わないんだろうな。



「これ、急いでフィラー公爵家に届けて」

「はい」


僕の部屋に来ていた生徒のうちの1人に、手紙を預ける。ここから公爵家は遠くないし、明日には返事が来るだろう。


内容はもちろん、リゼット様への抗議だ。

リゼット様のお父上である公爵に、直々に抗議の手紙を書いた。


ガーデンパーティでしたこと、噂を流したこと、取り巻きを使ってエミリアに圧をかけようとしたこと。

これ以上するならライオニア侯爵家が出るぞと書いておいた。


この手紙で公爵はきっと娘のリゼット様を窘めるだろう。いくら娘が可愛くても、僕の婚約者を虐めるようなことは容認できないはずだ。

僕とライオニア家を敵に回してもいいことは無いし、エミリアがいくら平民でも次期侯爵夫人。しかも学園長の後見もあり、僕の両親も彼女を認めてる。


もうただの平民では無いのだ。エミリアは。


これで収まるといいが、彼女はまだしぶとそうだ。徹底的に潰すまで引いてはくれなさそうな感じもする。


あぁもう、殺してしまった方が早いか?いやいや、そう簡単に人を殺めては、エミリアは嫌がるだろう。

でも、エミリアにバレないようになら…。

いや、聞かれたら僕はエミリアに嘘はつけない。信用を築いてる最中だから。


あぁ、もどかしい。


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