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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
38/110

誘拐犯から逃げる4

 

 村の人は、私たちが婚約関係では無いことを知って、配慮して違う部屋を用意してくれた。

 そして屋根のある所で1晩すごし、朝ご飯を王子様の部屋で2人で頂いた。


 そして食べ終わった頃、昨日の夜通しで私達を護衛してくれてた騎士さんが顔を出した。


「迎えが到着しました」

「分かった」


 王子様は頷いて、騎士さんに手を借りて立ち上がる。

 そして私を見た。

 ん?なんで私を見るの?


「エミリア。最後に握手してくれないかい」

「?握手くらい、いつでもしますよ」


 手を差し出されたので、その手を握った。

 最後って、今日の最後ってこと?かな?


 そのわりにはなんだか本当に最後かのような雰囲気を出している。


 王子様は私の手をぎゅっ、と握って、噛み締めるように目をつぶる。

 握手したのは時間にして5秒くらいだった。


 私の手を離した王子様は、にこりといつもの笑顔を浮かべた。

 丸2日くらい一緒に過ごして彼の素顔を少しは見て、これが作られた笑顔なんだとすぐに分かった。


「じゃあ行こうか」


 なんでここで笑顔を作ったのか、なにかの感情を隠したいのか、私には分からないことばかり。




 外に出て、村の入口に向かうと、沢山の騎士と馬車があった。そしてその先頭にいた人が走ってきて…。


「エミリア!!」


 あ、ノアだ。

 と思った時にはもうノアの腕の中に居た。


 ぎゅうっ、と痛いくらいに抱きしめられた。


「エミリア、エミリア…!」

「ノア…」

「無事で、良かった…!」


 絞り出すように出る声に、私も胸が切なくなる。

 心配かけた。凄く心配してくれた。


 ノアの腕は痛いくらいに私を抱きしめるけど、それを緩めてもらおうとは思わなかった。

 私の存在を確かめるように私の体を抱きしめるから、何も言えなくなる。


「心配かけて、ごめんね…」


 私の肩にかかるノアの頭を優しく撫でた。




 馬車に乗せられて、学園まで連れて行ってくれることになった。

 王子様はレイズ様と2人で別の馬車に乗り、私はノアとグレン様と同じ馬車だ。

 グレン様も私に会って無事でよかったと胸をなでおろしてくれていて、沢山の人が心配してくれたと思って少し嬉しくなってしまった。


 馬車に乗る前にノアに首輪を外してもらって、ようやく首が軽くなった気がする。ノアは首輪の外れた私の首を何度もさすっていた。


 馬車に乗ると、ノアは私を足の間に座らせて、うしろから抱きしめられた。そして目の前にグレン様が座り、彼は苦笑いをしていた。


 さすがに人前でこれは…とノアに苦情を申し出たものの、余程私が心配だったらしく、離してくれなかった。

 グレン様もノアの意見に賛成していて、私は恥ずかしい目に合う事になってしまった。


「まぁまぁ、こいつ凄い心配してて不安だっただろうから、落ち着くまでそうしてやってよ」

「…分かりました」


 心配かけたのは事実だし、不安だったのも分かる。

 まぁ同乗者のグレン様がいいと言うんだし、暫く好きにさせてあげるか…。


 私が頷くとグレン様もニカッと笑って、話し出す。


「エミリアちゃん、無事でよかったよほんと」

「無事なのはほとんど殿下のおかげですけどね。殿下が川の中で私を守ってくれたから、こうしてほぼ無傷なんです」

「殿下が…ねぇ」


 意味ありげな声を出して、グレン様は私の後ろのノアに目線を向ける。だけどノアは何も話さず、グレン様もノアから直ぐに視線を私に戻した。


「まぁエミリアちゃんは女の子だから、殿下も守ったんだろうな」

「それじゃ体持ちませんよって言ったんですけど、分かって貰えなかったんですよね…」


 大丈夫だろうか、本当に。あんなことばかりしてたらいくつ命があっても足りないよ。

 あとでレイズ様に言っておくべきだろうか。


「そう言えばエミリアちゃんに聞きたいんだけど」

「なんですか?」


 グレン様に話を変えられて、そちらに意識を向けた。


「エミリアちゃん、焚き火とかした?」

「はい、しましたけど…」

「魚、食べた?」

「たべ、ました…」

「じゃああれはやっぱりエミリアちゃんたちの跡かぁ」


 うーん、と少し困ったようにグレン様は頭を搔く。

 え、なんか不味いことをしてしまったんだろうか。


「はっ、ゴミですか?ゴミの不法投棄になりますか?」

「ふほう…?分からないけどゴミが捨ててあるのは関係ないな」

「じゃあ火の始末が良くなかったですか…?」

「いや?消えてたよ」


 え、じゃあ何が不味かったんだろう。あそこで火を炊いちゃいけなかったとか?焚き火してもいいエリアとダメなエリアがあるとか?


 考えを巡らせてるとグレン様は、考えてること多分全部違うと言って笑う。そんなに顔に出てるんだろうか。


「俺が聞きたいのはそうじゃない。……どうやって火をつけたんだ?」


 …あ。それか。

 待って?王子様も聞いてきて、グレン様も聞いてくるってことは…もしかしてこれ、この世界では常識ではない?


 ってことは、私やばいことしてしまったのでは?


 冷や汗がドバっと出て、どう言い訳するか悩む私に、グレン様は慌てたように手を振った。


「わー、待て待て、なんで知ってるかとかは聞かないから!火の付け方が知りたいだけだから!ノアゼット、そんなに睨むな!」

「あ、え…?」


 怯えた私に気付いたノアが、グレン様を睨んだらしい。


 なんで知ってるのかは、聞かないの…?

 付け方を知りたいだけ…?


「エミリアちゃんの偏った知識が、秘密に繋がってるってことは分かってるつもりだ。だから深くは聞かない。ただ、知っとけばいつか使えるかなと思って知りたいだけだ」


 真面目な顔でグレン様が私を見た。


 グレン様も、私を深く聞くことはしないんだ。何かを隠してるのは確かなのに。私が、秘密にしたいばっかりに。


 ノアと同じように問い詰めることはせず、ただそのやり方だけを聞いてきただけ。


「…ありがとうございます。なら、やり方教えますね」


 私は身振り手振りで、火起こしのやり方を教えた。グレン様はそれを見て頭の中で想像しながら話を聞いていた。


「まぁ言葉だけでは難しいですよね。良ければ帰ったら実践しましょうか」

「えっ、頼む!見てみたい!」

「エミリア」


 ずっと黙ってたノアが、私を呼んだ。

 なに、と声をかけると、ノアの腕がぎゅっと強くなる。


「僕がエミリアから覚えるから、グレンは僕からでいいよね?」

「へいへい。俺は教えて貰えるならなんでもいい」

「エミリアは、僕にだけ教えて」

「わ、わかった」


 いつもより少し低めの声が、耳元でする。その声の理由も、わざわざノアからグレン様に教える理由も分からないけど、ノアがいいならいいんだろう。


「じゃああの焚き火跡は、別の人のものだったってことにしておくわ。エミリアちゃんも、火の起こし方、他の人に教えないように」

「は、はい」


 前半はノアに向けて、後半は私に向けて言った。

 やっぱりあれはここでは知られてないやり方で、そんなやり方を私が知ってるとバレるのは色々まずいみたいだ。


「あっ。でも、殿下にも教えちゃった…。まずいかな」


 この世界ではイレギュラーな事を、殿下にも答えてしまった。

 私は後ろのノアを少しふりかえって聞くと、ノアは微笑んでくれた。


「多分殿下も分かってるから大丈夫。僕も後で言っておくし」

「そっか。それなら良かった」


 殿下も隠してくれるなら、私が変なことしたことは広がらないだろう。うん、良かった。


「あと、ロープはどうやって切ったんだ?」

「あ、ロープはですね、ここに…」


 そう言いながら靴を脱いで、靴のかかとを見せる。

 そこの硬い金具を引っ張り、出てきた薄くて小さめのナイフをとる。


 それを見たグレン様の顔が固まる。


「ここに、仕込んでました…。……もしかして」

「これも内緒にしとこうな」

「はい……」


 靴に刃物を仕込むのは向こうの映画や漫画ではありがちだったけど、ここにはないようだ。

 まぁこの靴の仕込みも私が手作りでやったし、売ってないってことはそういう事なのか。


 おずおずと後ろを見て、これも殿下に…と伝えれば、ノアは伝えておくよと言ってくれた。


「じゃあ魚は?まさか手づかみじゃないよな?」

「あー…魚…」


 これは…言ってもいいんだろうか。

 ちょっと言うの躊躇うな…。でも、グレン様は凄く聞きたそうだし…。


「あの…殿下には言わないでもらいたいんですけど」

「うんうん」

「その……ドロワーズを」


 そこでグレン様が固まる。


「ドロワーズの細いところを縛って、袋状にして、魚を掬いました……」

「………」

「いやあの!ちゃんと川で洗って!使ったんですよ!で、終わったあともちゃんと洗いました!!」


 ポカン、と口を開けて固まるグレン様に言い訳を連ねた。

 あぁー、やっぱり、そうだよね、良くないよね!

 だってドロワーズって、下着扱いだもんね!!


「さすがに下着でとった魚は嫌だと思うので…殿下には、言わないでください…」

「………あっはははは!」


 少しずつ声が小さくなりながら言えば、グレン様は突然笑いだした。急に笑われるとこっちも驚く。しかもめちゃくちゃ笑ってる。


「あはは、やばい、最高すぎる!エミリアちゃん凄いな!」

「え、はぁ」

「下着で、魚を…っははは!」


 めちゃくちゃ笑われている。

 さっきまで恥ずかしかったけど、ここまで笑われると、笑ってるグレン様を冷たい目で見ることも出来る。


 私の冷ややかな目には一切屈しないグレン様は、涙目になりながら笑ってる。

 …なんか悔しい!


「いやぁ、うん、凄いぜエミリアちゃん!騎士団の誰よりも生き抜く力が強そう」

「褒めてます?」

「褒めてる褒めてる!エミリアちゃんのおかげで殿下の体調も最悪じゃないし、食事もとれてたんだ。褒めるだろそりゃ!」


 まぁ、殿下の体調の原因は、私を庇ったからなんですが…。


「外交問題になりかねないから、助かったよ。ありがとう、エミリアちゃん」


 真っ直ぐにお礼を言われて、むず痒くなる。

 でも私はお礼を言われることなんてしてない。殿下が私を守らなければ、あんな怪我はしていないし、もっと早く助けを呼ぶこともできたかもしれないのだから。


 殿下の優しさで、私は無傷でこうやって帰ってこれた。その優しさの対価のようなものだ。


「しかもエミリアちゃん、殿下のことおぶったんだろ?力あるのな」

「こう見えて、鍛えてるんです。いつ捕まっても逃げれるように」

「努力の方向が凄い…っ」


 くく、とまた腹を抱えてわらうグレン様。

 仕方ないでしょ!私の敵はドルトイだけじゃないんだから!


「思ったよりも10倍逞しくて良かったよ。エミリアちゃんが馬車に居ない時のノアの絶望した顔は凄かったからな」

「それは心配を……ってそうだ!」


 私はノアに振り向く。

 言わなきゃ。ノアのくれたものを無くしたこと。


「ノア、ごめん…。ノアのくれたネックレス、気付いたらちぎれてて…」

「うん、大丈夫。馬車に落ちてたから、拾ったよ」

「えっ、本当!?」


 馬車に落ちてたんだ!じゃあガラスに引っかかったのかな?

 とにかく、あってよかった!


「川に流されてなくて、本当に良かった…!」


 そう言うと、ノアはまた抱く腕を強めた。

 帰ったら返してもらって、壊れたところを治してつけ直そう。うん。


 グレン様はそんな私たちを見て苦笑していたけど、その顔は嬉しそうにも見えた。



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