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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
34/110

地位の高い人から逃げたい2

誤字脱字報告してくださった方、ありがとうございます!

 

「やぁ、ノアゼット、エミリア。私達も一緒にいいかい?」


 次の日、昼にノアと食べてたところに2人はやってきた。

 ノアは昨日の事を全部話していて、めちゃくちゃ怒っていた。だからか今、凄い目を王子様に向けてる。


 不敬にとられない?大丈夫、その目。威嚇してない?


「ノアゼット、昨日のことは私が悪かったよ。反省してるんだ」

「反省しているのなら今顔を出すべきではないかと思いますが」

「反省してるからこそ、だよ。いいものを持ってきたんだ」


 ノアに睨まれながら、王子様はレイズ様に合図する。その合図を受けたレイズ様がカバンから箱を取り出して私の前に置いた。


 何これ、と思って王子様を見ると、開けてごらん、と言われたので素直に開けた。


「わぁ…!」


 中には、数種類の和菓子が入っていた。

 この間のどら焼きと、カステラと、わらび餅もある。それと端にあるのは…。


「金平糖……」

「それね、甘くて美味しいよね。キラキラしてて可愛いし、きっと気に入ると思ったよ」


 金平糖を見つめる私に、王子様が言う。


「お詫びのつもりにね、昨日急いで作らせたんだ」

「あ、ありがとうございます…。でもこれ、時間がかかるんじゃ…」

「金平糖はね、おやつ代わりに持ってきてたんだよ。作りたてじゃなくて申し訳ないけど」


 な、なるほど。確かに日持ちするし、手軽に食べれるもんね。

 レイズ様、昨日帰ってから作らされたのか…。こんな数種類も…。可哀想に。


「いえ…ありがとうございます」

「これで昨日のことは許してくれないかな」

「あー、はい、許します」

「あはは、納得いってない顔だね。」

「そんなことは」


 なに。王子様の態度が前と違くてどうしていいか分からない。私の態度なんて気にしない素振りしてたのに、なんで。


「今更不敬罪とかにはしないし、これからもしないから、もっと正直に言ってくれていいよ」


 にこりと笑う王子様の笑顔は、昨日までの笑顔より少し自然に見えた。

 どういう心境の変化なんだろう。

 なんて考えてると、ノアが王子様を睨みつける。


「ではお言葉に甘えて。今は僕とエミリアの時間なので邪魔しないでください」

「ノアゼットは前から遠慮してなかっただろう。いいけど。でも私達もエミリアと仲良くなりたいんだけど、他の時間にエミリアに会いに行ったら怒るでしょ?」

「当然です。というかエミリアを呼び捨てにしないでもらいたい」


 王子様がノアとバチバチ火花を飛ばして睨み合ってる。いや、パッと見は見つめあってるだけだけど。


 そんな彼らを置いて、レイズ様が私に話しかけてきた。


「時間と材料の観点から、これしか作れませんでした」


 申し訳なさそうにレイズ様が言うから、私は首を振る。


「いえ、十分凄いです。むしろよくこんなに作れましたね」

「殿下の命令なので…」


 少し疲れた顔になったレイズ様。彼も大変なんだな。

 私はどれから食べようかな、と箱の中の和菓子を物色してると、どら焼きの中身に気付いた。


「あれ、生クリーム?」

「そうです。エミリアさんが洋風のどら焼きを教えてくれたので、やってみました」

「行動が早い…!そして美味しそう…」

「中にはいちごを入れました」

「最高です…!」


 いちご生クリームどら焼きだと?なんて甘美な響き…!

 女の心の掴み方を分かってる。

 と思っていたら、ノアと話していた王子様が急にこちらに割り込んできた。


「エミリアはいちごが好きなのかな?」

「えっ…と果物全般好きですけど」

「そっか。嫌いなものは?」

「えっと…」


 凄いグイグイ聞かれるんだけどなになに?

 ノアと話してたじゃん!今までこっちに口出してこなかったじゃん!!


 いつの間にか隣に座っていたノアが、私の肩を抱いた。


「エミリアを困らせないでください。というかエミリアの好き嫌いを殿下が知る必要ありますか」

「仲良くなりたいんだから、好き嫌いを知るのは大事でしょ?」

「エミリアと仲良くなる必要ありませんよね。」

「ノアゼットの婚約者なんだから、仲良くなっておきたいじゃないか」

「不要です」


 またバチバチしだした…。

 私とレイズ様はやれやれと肩を竦めた。


 ある意味、2人は仲がいいのかな。


「喧嘩するほどってやつですね」

「私も思いました」


 私とレイズ様は頷きあった。





「やっぱりあなたって大物ね」

「ミルム…」


 休み時間にミルムに呆れた目を向けられる。


「今度は第3王子に気に入られたの?どうしてそう大物ばっかりひっかけるわけ?」

「私だって知りたい…」


 ミルムの言いたいことは分かる。でも私も知りたいんだよ。

 2人してはぁ、とため息をついた。


 王子様に歯向かったあの日から、王子様は私に話しかけることが増えた。

 教室でノアをお昼に誘うことはなくなって、私がノアとお昼を食べてる時に2、3日に1回は割り込んでくる。


 それを見越して、私はミルムとお昼をとれば、どこから聞きつけたのか、こっちに割り込んできた。ちなみにその時ミルムは逃げて、私と王子様とレイズ様の3人で食べることになり、それを聞き付けたノアが直ぐに来るという結局いつものメンバーになった。


 それ以外にも、休み時間に私の教室に来て、何故か私にお昼に誘ってくる。もちろん、ノアゼットも一緒にと言うんだけど、なぜ私にお昼の誘いをしてくるのかは分からない。

 彼の言い分は、「ノアゼットを誘うとエミリアがついてこないから」と言うんだけど意味がわからない。


 それらと、彼が何故か私を呼び捨てにしていて親しげに話しかけてくるから、私が王子様に気に入られていると皆に見られている。


 なんでこんな面倒なことになったのか…。



「ここまで来ると可哀想なくらいよ」

「それで正解。なんも嬉しくないもん」


 地位の高い人たちを避けてたのに、どうしてそういう人ばかり寄ってくるのか…。

 勘弁して欲しい…。


「でもエミリアも大したものね。第3王子殿下も、側近のレイズ様も、結構見た目がいいじゃない。ドキッとしたりしないの?」

「するわけないでしょ」


 何を言ってるんだミルムは。

 私からしたらこの世界の人達皆顔が良いから慣れたんだよ!


「そこが凄いわよね…。ノアゼット様にも中々捕まらなかったし。私だったら少しはキュンと来ちゃうかも」

「ミルム…」


 両手を胸の前で組んで、きゃっ、と乙女らしい声を上げたミルム。

 じゃあ代わってあげたいよ…というと、それは無理、とキッパリ断られた。


 私だって平和だったらあんなイケメンに迫られて、ドキッとするかもしれないけど、私の場合男が敵過ぎて、それどころじゃないんだよねきっと。

 避けなきゃ、逃げなきゃって思って警戒してるから、ときめかないんだろうなぁ。


「…待って、私って……枯れてる?」

「あはは、その可能性は出てこなかったわ!かもしれないわね!」


 笑うミルムを横目で見て、やばい、枯れてるかも、と内心焦る。

 みんなより年上だから枯れてても仕方ないけど、ちょっと早過ぎない?


「まぁ、あなたが枯れてても枯れてなくてもいいけど、間違っても第3王子殿下になびいたりしないでよ」


 ミルムが笑いすぎてやや涙目になりながら言った。

 いや、まだ笑い収まってないでしょ?


 ていうかこの前レイズ様のことを好きになるなっていってたくせに、もう次は王子様?!


「そんなことになったらノアゼット様に世界滅ぼされちゃうんだから」

「世界を!?魔王かよ…」

「なるかもしれないわね、ノアゼット様なら」


 ふふ、と笑うミルム。いやいや、笑い事じゃないって。なんか本当になりそうだから怖いって!

 変なフラグ建ててないよね!?


「はぁ、平和に過ごしたい…」

「無理に決まってるじゃない」


 私の平和な日々はどこにあるんだろう…。




「やぁ、エミリア」

「あ、殿下…」


 教室を移動してる時に、殿下にすれ違った。

 隣にいたミルムは殿下に頭を下げながら私を置いて先に行ってしまう。薄情者め。


「教室に戻るところかな?」

「はい」

「そっか。今日のお昼はご一緒してもいいかな?」

「どうぞ」


 断れるわけがありませんのでね。私はただの平民なので。

 あぁ、今日もノアの機嫌が悪くなるな。


 ありがとうといった殿下の笑顔は相変わらず変わらない。自然だけど変わらないその笑顔は、やっぱり少し不気味に思える。


「ふふ、いつも邪魔してごめんね」

「…いえ」

「教室でもノアゼットに怒られるんだよ。邪魔するなって」


 わぁ、さすがノア。王族相手に辛辣だぁ。

 でも王子様の様子を見るに、効いてない。


「私も邪魔したい訳じゃないんだけどね」

「そうなんですか?」

「それはそうだよ。誰だって馬に蹴られたくはないでしょう?」


 ね?と聞いてくるも、その行動をしてる王子様が言うと真剣味がない。

 いつもノアという馬に蹴られてるのに…。


「ただ私はね、君と話してみたいなと思ってるだけなんだ。でも君と2人で話すのはノアゼットは許さないだろう?だから割り込むしかないんだよ」

「な、なるほど…?」


 そうまでして私と話して、なにか得られるものがあるとは思えないけどなぁ。私を勧誘するならレイズ様に任せるのが1番だろうし…。


 そう思ってると、王子様は何かを思い出したようで、ポケットを探った。そして緑の包み紙を取り出す。


「そうだ、これあげる」

「?……あ」


 包み紙に包まれていたのは、金平糖だった。白と緑と黄色の金平糖が混ざったもの。

 中を見て殿下をもう一度見ると、相変わらず笑顔だ。


「これを1番気に入っていたよね。だから、あげるよ」

「あ、ありがとうございます…」


 なんでくれたのか分からないけど、くれるって言うなら貰っておこう。私は金平糖を包み直した。


「これ以上話すとまたノアゼットに怒られそうだ。じゃあね」

「あっ、はい…」


 ひらりと手を振って殿下は去っていく。

 結局何がしたかったんだろうか…。




「金平糖をもらった?」

「うん、なんか廊下ですれ違った時に貰ったの」


 ノアの部屋でノアの足の間に挟まれて、私は貰った金平糖を摘む。この金平糖の入手経路を説明すると、ノアは何やら悩んでいる様子。

 その顔は警戒しているようにも見える。


「?…どうかした?」

「……いや、なんでもないよ」


 私にいつもの笑顔を浮かべて、ノアは口を開けた。そこに金平糖を摘んで入れると、指ごと舐められる。


「ひゃっ」

「ふふ、ごめんね。美味しそうだったから、つい」


 指が美味しそうなわけないでしょ、もう!

 恥ずかしくてノアから金平糖に視線を戻す。そしてまたひとつ、口に入れる。


 うーん、甘い。美味しい。このカリッとした感じがたまらない。


 私が金平糖を味わっている間、ノアはずっと何かを考えていたようだった。だけど、聞いて欲しくなさそうにも見えたから、私は何も聞かなかった。




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