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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
28/110

隣国に逃げる?

 

「交換留学?」

「そうそう。隣の国と、3ヶ月生徒を交換するのよ。もうすぐなはずよ」


 ミルムの言葉をふぅん、と聞き流す。留学生が来たって、私にはあんまり関係無さそうだしなぁ。

 そんな私に気づいたミルムは、甘いわよ、と言ってきた。


「今回の交換留学には向こうの第3王子が来られるわ。高貴な身分の相手は高貴な身分でしょ」

「……まさか、ノアが?」

「可能性は十分あると思うわ」


 ノアにその第3王子が近づいてきたら、ノアの近くにいる私まで巻き込まれてしまう。

 うーん、どうしたものかなぁ。


「暫くお昼とか一緒にしない方がいいのかな」

「それはやめて。」


 即答された。なんで。

 ミルム曰く、ノアの機嫌が下がれば下がるほど、ミルム達に影響があるそうだ。


 うーん、分からない…。そもそもノアが機嫌悪かったところをあまり見てないから、どういう影響があるのかも分からない…。


 ミルムは花の香りを纏って私にジト目を向けてくる。

 お土産に買ってきたあの石鹸を、とても喜んでくれたみたいで、あれから毎日ミルムからあの香りがする。

 気に入ってくれて使ってくれて、とても嬉しい。


「とにかく!ノアゼット様から離れることは絶対だめ。まぁノアゼット様に聞けば全部解決するわよ」

「うーん、それもそっか。そうするよ」


 そうだね、きっとノアならいい案が浮かぶよね。




「交換留学生?気にしなくていいよ」

「えっ……いいの?」

「多分僕も案内を任されるだろうけど、エミリアとの時間は削らないよ」


 ……それって本当にいいの?大丈夫なの?

 相手は第3王子だよ?

 そう思ったけどノアの顔は変わらない。


「第3王子でも何でも、僕からエミリアを奪うやつはみんな排除するから、安心して」


 ニコッと笑うノアにふざけた様子は見られなくて、だから余計本気なんじゃないかって気がして心配になる。


 ……不安だ。




 5人ほど交換留学生が来たらしいが、クラスはノアのクラス。高位貴族が沢山いるクラスだし、当たり前だよね。

 ということでまだその人たちを見てないけど、ミルムが興奮してなんか言ってたし、なかなかのイケメンがいたらしいね。


 てっきりノアからお昼一緒にとれなくなった、って伝言でも来るかと思ったけどそんなことは無く、普通にお昼にむかえにきた。


 わぁ、ほんとに私との時間は削る気ないんだな、なんてちょっと苦笑いをした。



 よく行くガゼボに座って、今日はノアのお手製サンドイッチだ。

 きゃあー!と胸をワクワクさせて、私はサンドイッチを眺める。


「すごーい!今日は何!?」

「今日は、エビとアボカドとクリームチーズのサンドイッチと、チキンとチーズのサンドイッチだよ」

「美味しそぉぉ…!」


 なんてそそる具材たち。聞いただけでも美味しい。

 というかノアのサンドイッチの技術が、どんどん上がってる気がする。どこを目指してるんだろう。


 ノアが紅茶を淹れてくれて、いただきますをしようとした時、ノアの目が校舎の方を見て止まり、嫌そうな顔になる。

 何かと思い私も見ると、校舎の方からこちらに歩いてくる人が2人居た。


 知らない顔の男の人が2人。


 彼らは私たちの所に来ると、そのうち1人が優しそうな笑みを浮かべる。


「ノアゼット、私たちの誘いを断って、婚約者とご飯かい?」

「勿論です。私にとって優先すべきは婚約者ですので」


 優しそうな男の人に、ノアは冷たく答えた。


 あぁ、もしかして留学生の人かな。そう考えると言ってることも納得だ。ノアを呼び捨てするし、ノアが敬語使うし、噂の王子様かな。

 んでもってもう1人の人はその人の斜め後ろに控えてるし、でも制服だから…従者、では無い…?側近、ってやつかな?


 …っていうか、誘われたの断ったのか。


「ならその気持ちは尊重するしかないね。私達も一緒に良いかい?」


 王子様が私の顔を見てそう言ってきたので、私は両手を体の前でブンブンと振った。


「いえ、ノアゼット様に用があるのでしたら、私が失礼させていただきます」

「エミリアっ!?」

「サンドイッチだけ貰っていい?折角作ってくれたから、食べたい」


 すくっ、と立ち上がって言うと、ノアから引き止めるような声がする。

 サンドイッチだけ貰っていくのはさすがにダメかな?

 そう思ってると、王子様がくすくすと控えめに笑った。


「ノアゼットは君の前では別人のようだね。君もいてくれると嬉しいな。男だけでは花がないからね」

「ですが私は平民です。教育もまともに受けてないので、失礼なことをするかもしれません」

「構わないよ。無礼講だ」


 では失礼して、と再び席に座る。

 ノアは私の隣に座り直して、私たちの前に2人が座ることになった。


「初めまして、ノアゼットの婚約者さん。私はフリードリヒ・トルディームだ。よろしくね」

「フリードリヒ殿下の側近の、レイズ・バッセムです」

「エミリア・ライドです。よろしくお願いします」


 やっぱり王子様と側近だった。私の目に狂いはなかった。

 自己紹介も終えたところで、彼らは恐らく購買で買ってきたであろうサンドイッチを食べ始めた。

 こちらも、ノアの手作りサンドイッチを食べ始める。


 2人がいてもノアは何も気にせず、私に視線を向ける。


「どう?美味しい?」

「うん、めちゃくちゃ美味しい」


 美味しいと言うと嬉しそうにノアが笑う。

 いや本当に美味しい。店出せるレベルだこれは。どこで学んできたんだ。


「ノアゼットは婚約者のために料理もするんだね」

「彼女が喜ぶなら、何でもします」


 相変わらず王子様には冷たい目を向ける。

 これはノアが冷たいのか、それとも私以外に対するノアはいつもこうなのか…。私には分からないな…。


「私も見習わなくてはいけないね、レイズ」

「そうです。ノアゼット様をお手本にして頑張ってください」

「お手本がちょっと出来すぎやしないかい」

「実在はするのですから、無理ではございません」


 王子様とレイズ様が話している。とても仲が良さそうに見える。

 まぁ、留学生の関係性なんて私には関係ないしね。うーん、エビうまっ。


 紅茶が無くなればすぐさまノアがいれてくれるし、その様子を見てまた王子様が笑う。

 確かにこれ傍から見たら、私の方が地位が高いように見える。

 でもノアが楽しそうにしてるから、止めようにも止められないんだよなぁ。


「エミリア嬢は、トルディームに興味あるところはあるかい?」

「恥ずかしながら、あまり詳しくなくて。」

「そうか。穏やかでいい所だから、ぜひ来て欲しいな」

「機会があれば是非行かせてください」


 王子様の言葉に当たり障りなく答える。なんだか仕事していた時を思い出す。取引先の人と話してる時みたいだ。


「殿下、エミリアを引き入れようとするのはやめてください」


 ノアがキッ、と王子様を睨む。

 うん?私はてっきり旅行に来てねって話かと思ったけど、ノアのその言い方だとそういう事じゃなかったっぽいね?


 あぁ、ノアの入れてくれた紅茶美味しい…。


「言いがかりだなぁ。エミリア嬢が優秀だと聞いたから、是非我が国にも来てもらいたいと思っただけなんだけど?」

「ありがとうございます。お気持ちだけいただきます」


 にこっと愛想笑いを王子様に送った。

 ノアもなんだか王子様嫌いそうだし、ここらで手を打ってくれんかね。


 そう思ったけど、王子様はノアの睨みなんて何も気にしていないようで、私の配慮も無に返そうとしてくる。


「それなら、エミリア嬢は甘いものは好き?レイズが結構お菓子作るのが上手くてね、変わったものを作るんだよ」


 あぁー…。またノアの機嫌が下がってく…。

 ノアが私に当たってくることはないと思うけど、ノアの気持ちを悪くさせるのが純粋に嫌だ。


 ううん、折角のほのぼのしたお昼の時間が…。


「今度食べてもらおう。ね?レイズ。作っておいて」

「かしこまりました」


 レイズ様、側近というか執事みたいだな。

 険悪なムードの中、王子様だけがニコニコ笑っているお昼の時間が、やっと終わる。




 私を教室に送ると、名残惜しそうにノアが私の目を見つめてきたので、夜にいっぱい話そうね、と約束して別れた。

 流石にノアの部屋で夕飯食べれば、あの人達も来ないだろうし…。


「なんかノアゼット様、機嫌悪そうね?」

「ちょっとね…、色々あって…」


 ミルムにそう聞かれたので、お昼にあったことを話した。

 話すうちにどんどんミルムの顔色も悪くなっていく。


「うわ……。流石他国の王族ね。そんな命知らずなことよく出来るわ…」


 命知らずというか、なんでそんなにノアの機嫌悪くなるようなことをわざとやろうとするかなぁ…。

 あれ絶対わざとだよ。ノアの顔を伺ってたもん…。


「私も大変だったんだよ…」

「……そうよね。他国の王族とまともに会話出来るあなたもすごいと思うわ」


 まともかどうかは分からないけど。敬語だってちゃんとしたものじゃないし。第3王子が厳しい人だったらきっと怒られてる。

 まぁそんな人だったらそもそもノアを煽るようなことしないと思うけど。


「さすがに夕飯には来ないと思うんだよね」

「ノアゼット様のお部屋ででしょ?それは来ても断れるわよ」


 そうだよね。じゃあ安心だ。

 今日の夜はノアをたくさん甘やかしてあげよう。




「エミリア……ん、はぁ、エミリア…」


 ノアの部屋に入ってから長い長いキスをされた。私の存在を確かめるように深くされたキスで私はもう腰が砕けている。

 だけど昼間のこともあるし、私はされるがままになった。


 ノアは私の名前を呼びながら、私の体も抱きしめる。しっかり腰を抱かれて、顔を固定されて、口の中をこれでもかってくらいに舐めまわしている。


「エミリア……」


 やっと口を離してもらえて、ノアに少し強めに抱きしめられた。

 はぁ、この匂い、落ち着くんだよね…。


 抱きしめられながら呼吸を整えようとして息を吸うと、ノアの体から香る香水の匂いに心が落ち着く。


「…あの王子潰そうかな……」

「えっ」


 ポツリとノアが呟いた言葉に驚き、聞き返す。

 潰すって聞こえた?え?気の所為だよね?他国の王子様潰すなんて、出来ないよね?


「国に置いてきてる第3王子の側近の不正が見つかれば国に帰るかな…」


 あっ、だめ、本気っぽい。

 下から覗き見た時の目が本物だった。

 ノアならやりそう、ていうか出来るんだろうな。


「ノア、落ち着こう?」

「エミリア、でも…」

「そんな人に時間と心を割かないで、私と楽しいことするのを考えよう?」


 下からノアに向けて笑顔を向けると、ノアは私を見下ろして優しく笑う。

 あぁ、いつものノアに戻ってきてくれたかな。


「そうだね。あの人たちはとりあえず放っておこう。」

「そうそう。私と遊ぶ予定でもたてようよ。ね?」


 機嫌が戻ったらしいノアに触れるだけのキスをされて、優しく頭を撫でられる。


 でも多分、お昼に乱入してくるのはあれが最後じゃないだろうな…。まだ何度もありそうな予感を感じて、ちょっとげんなりした。

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