表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
番外編
104/110

大切なもの5

 

 朝1番に教室に駆け込んで、ミルムがやってくるのを待った。


「み、ミルム…!」

「ど、どうしたのエミリア…」


 ようやくやってきたミルムに縋り付き、教室の入口辺りを警戒する。

 もしかしたらノアが連れ戻しに来るかもしれないから。


 昨日の夜は来なかったけど、登校した今は分からない。

 めちゃくちゃびびってる。


「ちょっと、昼、話聞いて…」

「え?わ、分かったわ…」




「…え、監禁?」

「そう!内側から鍵掛けられて!どうしよう、今更だけど怖くなってきた!」


 人があまり来ない庭園のテーブルを挟んで、ミルムに昨日のことを話した。そして食べかけのパンを持ちながら、両手で自分の体を抱きしめる。


 いや大丈夫、大丈夫なはずだ。

 私にはノアのくれた魔道具もあるし、大丈夫!


「どうやって抜け出してきたのよ」

「ピッキングで。1年生の時にクラスメイトに教わったんだよね」


 なんでそんなもの覚えてるの、とミルムは恐ろしいものを見るような目で私を見たが、あの時は逃げるための技術を色んな人に教わってたから、と言うと納得してくれた。


 いやいや、ピッキングのことはいいんだよ。


「今日も私ノアの部屋を訪ねなきゃいけないんだけど、どうしよう?生きて帰れるかな…」

「殺されはしないわよ。……多分」

「多分て、ミルム…」


 そこは断言して、お願い。


「私にも昔のノアゼット様の思考は分からないわよ」


 そうだよね、分からないよねぇ。


 うーん、どうしよう、と頭を捻っていると、ミルムが何かに気付いて手を上げる。

 そしてそれに気付いたロットが私たちと同じテーブルに着いた。


「なんかやつれてんなぁ」

「昨日監禁されて逃げ出して来たらしいわ」

「え、監禁?!しかも逃げ出して!?……あーお前、死んだな」


 ロットが残念そうな顔で私を見た。

 勝手に殺さないで!私はまだ生きたい!!


 ロットをつい睨むと、ロットはケラケラ笑った。

 完全に他人事だ。

 くそ、私は恩人のはずなのにっ!!


「あ、そーいやお前宛に手紙来てたんだ」

「ロットに私宛の手紙が?」


 ロットが懐から私に手紙を差し出した。

 私はそれを受け取って裏を見る。


「グレン様?」

「そう。エミリア宛の手紙は全部ノアゼット様のところに届くから、内容が見られるからって俺のところに届けたらしい。俺は中見てないからな」


 いや手紙開いてないから、見てないのは分かるよ。

 そう思いつつ手紙を開く。


 初めて見たグレン様の字は、少し大ぶりだけど読みやすい字だった。丁寧さはちゃんとあって、ノアの字が丁寧で静かな字なら、グレンは丁寧で騒がしめの字って感じだ。



 ただその内容に、私は開いた口が塞がらない。


「え、何。まずいことでも書いてあったか?」


 私の顔を見て、顔をひきつらせたロット達。

 私はそっとミルムに手紙を渡すと、ミルムは手紙を読み、ロットもそれを覗き込んだ。


「なになに。……言うの忘れてたことがあって、ノアゼットは多分エミリアちゃんにまた恋するとは言ったけど、もしそうなったら危ないかも。前言ったことあったと思うけど、ノアゼットは最初エミリアちゃんへの恋心が自覚できなくて、嫉妬のあまりエミリアちゃんを閉じ込めようとしてたから、気をつけて……って、え!!」

「遅いですグレン様!!!」


 私は思わず叫んでしまった。


 遅い!言うのが遅い!!

 そして私も思い出すのが遅い!!!


「言ってた、確かにノアと婚約したばかりの時、グレン様言ってた。閉じ込めようとしてたから俺が止めたんだって」


 項垂れながらミルムたちにそう告げる。


 心底感謝した、確かにあの時は。

 でもこの状況でそんなの、思いだすわけない!!


「え、じゃあ何。今ノアゼット様は、エミリアに恋して暴走してるってこと?」

「前回それを止めたグレン様がいないから、その気持ちがなんなのか分からずエミリアを監禁したのね……」


 ロットとミルムが納得したように頷いてる。その顔は少し呆れたように引きつっている。


 私だって!まさか!本当に閉じ込めようとするとは!!

 それがしかも恋したからだなんて!


「思うわけない…そんなの、気付くわけない…」

「……ノアゼット様は割と初めから重めだったのね…」


 重い。はじめから重すぎる…。

 なんで?中間は無かった?0か100なのおかしくない?


 恋してくれたのは嬉しいけど、グレン様が帰ってこないと、彼を止められる人がいない。

 私が何を言っても無駄だろう。彼にとって納得出来る答えを用意できるのは、止めたことのあるグレン様だけだ。


 このままでは、グレン様が帰ってくるまで追いかけっこになってしまう。


「早く帰ってきて、グレン様…!」





「エミリア、帰ろう」

「う、うん…」


 逃げる方法も見つからないまま、授業が全て終わり、終わると同時にノアが教室を訪ねてきた。

 ニコリと笑顔を貼り付けているが、笑ってるように見えない笑顔が怖い。


「エミリア、頑張って」

「み、ミルム…!」


 小声でミルムに応援され、私はノアの元へ寄っていく。

 近付いた私の手を、ノアがしっかり掴んだ。ちょっとやそっとじゃ離せないくらいに強く。


「帰ろうか」

「……ハイ」




「なんで逃げたの?」


 そのままノアの部屋にドナドナされて、昨日と同じように内側から鍵をかけられた。

 そしてソファで向かい合って座り、彼から無表情の鋭い目を向けられる。


「その…授業に出たかったので…」

「君に何かあったら僕が困るんだって言ったよね?夫に迷惑かけるの?」


 ぎろ、と睨みつけられる。



 待って!?グレン様、本当にこれ恋ですか!?

 めちゃくちゃ睨まれてますけど、ここに好意あります!?

 前にグレン様が止めた時もこんなんでしたか!?


 聞きたいのに、彼はいない。

 悔しい…!!



「今日は逃げないでよ。逃げられないとは思うけど。手荒なことはしたくないから、大人しくしてて」

「……ハイ」


 目を逸らしながらも頷くと、ノアはとりあえず納得してくれて、目の前で本を読み始めた。



 手荒なこととか言ったけど、本当に私に恋してるのこれ!?

 これがどうなったらあんな優しいノアになるの!?


 確かに婚約する前は凄い追いかけてきたし、最後は容赦なかった。脅しもしてきたし、しっかり追い詰められた。

 でも私を傷つけるようなことはしなかったし、しようともしなかった。


 大丈夫?これ本当に恋?

 違ったら困るよ?私に恨みを抱いての監禁だったら、この先どうなるのか不安でいっぱいだけど!?



「の、ノアゼット様?」

「なに」

「その……今私に抱いてる感情とかって、どんなものですか?」


 聞いてみよう。もしかしたらそばにいて欲しいとか、笑顔が見たいとか言ってくれるかもしれない。

 少しでも前向きな言葉が出てくれば、私も少しは安心する。


 ノアの言葉を待つと、ノアは少し悩んで無表情のまま答えた。


「見てるといらいらする」

「すいませんでした」

「大人しくしてればそうは感じないから」



 やっぱりダメっぽいです!違う方向だと思います!!

 このまま監禁されるのは良くないと思います!!



 というわけで、本日もノアがお風呂に入ってる間に抜け出した。

 あぁ、明日が怖い。





「……ミルム」

「……大変そうね。昨日は無事だった?」

「…なんとか?」


 朝、ミルムに会うと、ミルムは私を気の毒そうな目で見てきた。

 そして2人で端の席に座り、小声で会話をする。


「昨日は、あのまま部屋に連れてかれて、内鍵かけられた。しかも魔法でかかってる鍵」

「うわぁ、よくそんなの用意できるわね…」


 魔法でかかるタイプの鍵は、ピッキング出来ない。魔法には魔法で対抗するしかないのだ。


「でもそんなのどうやって解除したのよ」

「お昼に話すけど、ちょっと私の魔力は、見えてるものよりも大きいの。だからそれで無理矢理」

「なるほどね。後で詳しく」

「もちろん」


 私の魔力は目に見えてるものより大きい。圧縮されているから。

 それを今のノアは知らないから、ノアより少ない魔力の私が、ノアの魔法を解けるわけが無いと思ったんだろう。



 ノアと魔力の量を確かめてみたことがある。

 ノアが私を抱いてから約12時間後に確かめた時は、私の見えてる大きさと同じくらいの量だった。

 そしてそこからさらに12時間後に確かめると、倍の量になっていた。


 この実験は、ノアがどれだけ私を抱くのを我慢できるかにかかっていて、結局試せたのは3日。

 1日で私の見える量の倍あった魔力は、2日目にはその倍、3日目には一日目の3倍…と、増える量は日付とともに比例して伸びて行った。


 でもノアが初めて私を抱いた時、ノアに渡った魔力は、私の見えてる魔力の約10倍だった。

 ずっと溜め込んでいてそれだから、恐らくそれが限界だろう。


 そして私は、まる2日あれば確実にノアの魔力を超えられる。

 ノアの魔法でかかった鍵も、それのお陰で壊せた。



 でもきっと次は、見えてる魔力よりも多いと気付いたノアは、魔法を封じてくるだろう。

 そうしたらどうするか…。


 魔法封じについては、隣国の王子様と誘拐されてから、ノアと対策を練った。

 それをここでやってみるべきか。

 いやとりあえず、彼の出方を見るしかない。




「エミリア」


 そして今日も今日とて、彼が迎えに来た。

 その笑顔は昨日より凄みが増していて、私も思わず顔が引つる。


 うぅ…怒ってる…。

 とんでもなく怒ってる…!


 クラスメイトはノアの様子が違うことには気付いたけど、私の様子も見て、どうやら私がノアを怒らせたらしいと思ってくれて、そこに疑問は抱いていなかった。


 いや、今は疑問を抱いて欲しい…!止めて!ノアを止めて!


「帰るよ」


 あぁぁぁ……。





 昨日のように部屋に連れ込まれ、内鍵をかけられる。

 戻ってきたノアは何かを持って私の前に跪いた。


「手、出して」

「?はい」


 手を出せと言われて素直に片手を差し出す。

 なんの警戒もしていなかった私の片手に、ノアはリストバンドを嵌めた。


 リストバンド?なんで?


 と思ったら、そのリストバンドの上からロープを巻き付けられる。


「えっ」


 ノアは手馴れた様子で私の手首にロープを括りつけ、そして自分の手首と繋いだ。

 そしてそれが終わると、私の首に見たことある首輪をつけた。


「えっと…これは…」

「魔法封じの首輪だよ」

「あ………そうですか……」


 やっぱり魔法封じですか…。想像はしてたけど。

 でもこれって、一般人は持てないものだったような…。


「リストバンドがあるから痛くないとは思うけど、痛かったら言って。やり方変えるから」

「ハイ、どうも……」


 ご丁寧に説明まで…。


 確かに痛くない。痛くないけど取ることは出来なさそう。片手の手首に付けられると、それを取るためにはもう片方の手しか使えない。


 これは切るしか無いかなぁ…。




「なんで逃げたの?僕を怒らせたいの?」


 昨日よりも苛立った様子で眉を顰めてるノアに、仁王立ちで見下ろされている。

 辛うじてソファに座らせてくれるけど、次は床かもしれない。


「怒らせたい訳じゃないんですけど、私もここに閉じ込められる訳にはいかなくてですね…」

「なんで?夫婦なんだから、部屋に閉じこもっててもおかしくないでしょ?」

「授業は……」

「学園に通う意味も分からない」


 うぐ。そうですよね。ノアはとっくに学園の勉強終わってるし…。

 そう、通う必要ないのだ。私の将来も決まってるし。


「それでもごめんなさい。ちゃんと卒業したいんです」

「……それまでここにいるなら卒業式は出てもいいよ」


 なん、ですと?それまでここにいるって?

 無理、無理無理!


「嫌です!私は閉じ込められるのは嫌いなんです!」


 思い切って声を上げた。

 だって、卒業式までこの部屋で監禁なんてたまったもんじゃない!

 絶対いや!断固拒否!

 どんだけ睨まれても攻撃されても拒否!!



 仕返しとばかりにノアを睨むと、ノアは何故か……笑った。


 自然に出たような笑みだった。

 でも、妖しい笑みでもあった。


「閉じ込められるの嫌いなんだ、へぇ。でも僕は好きみたい。君を僕の部屋に閉じ込めてると落ち着くし、なんだか満たされる気がする」

「へぁっ!?」

「でも安心して。閉じ込めても痛いこととかしないし、暇なら何か付き合うし、僕と一緒なら多少の外出も許すよ」


 ね、とニコリと笑う彼に、私は冷汗をかいた。

 ノアの記憶が無くなってから初めて聞いた、安心してって言葉だけど、こんなに安心できないものだとは…。


 閉じ込めるの好きって何。満たされるって何!

 たまにの外出許されても、私はなにも落ち着けないって!



 ノアのやたらいい笑顔が、脳裏に焼き付いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ