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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
10/110

逃げられない気がする

 

「おはよう、エミリア」


 朝、寮の入口で出会ったノアに早々抱きしめられる。そしてそのまま流れるようにおでことほっぺにキスされた。


「…ノア、お仕置は終わったんじゃ…」

「そうだね。だからしたくてしてるんだよ」


 これだからイケメンは!でも私は慣れてないんですって!

 周りの視線も痛い…。こちらを見て顔を赤くする人が見える。


 ノアは周りなど見えていないようで、にこりと笑って私の手を握って歩き始める。


「もしかして、嫌?」

「あー嫌というか、人目が、ね?」

「嫌じゃないんだ。そっかぁ。」


 人目が、のところには触れてくれない。都合のいい耳してやがる。

 ノアは本当に嬉しそうに歩く。そんなに嬉しそうにされると私も戸惑ってしまう。向けられる好意にどうしていいか分からなくなる。


 私も好意を返した方がいいのか?いやそうだよね。一応婚約者だし、もしかしたら結婚するかもしれないんだし…。


「エミリアはそのままでいいんだよ」


 私の心を読んだかのようにノアは言う。

 …本当に読んだのかな。


「エミリアはゆっくりでいいよ。ゆっくり僕のこと好きになってくれれば。僕のものにはなってくれたから、そんなに急いでないよ」


 …だから私は私のものだってば。

 まぁでもノアがそこまで言ってくれるんだから、私も私らしくのんびり生きていこうかな。…逃げられそうもないしね。





「あー、だからあんなにベタベタなのね」

「だよね。やっぱくっつきすぎだよね?」


 教室でミルムに会うなり言われる。たぶんノアが教室まで送ってくれた時に、ハグとほっぺチューしてからばいばいしたからだと思う。

 教室がざわめいて、そこに残された私の気持ちはもう恥ずかしすぎておかしくなりそうだった。


 でもミルムも言うってことはやっぱりくっつきすぎなのでは…?

 なら、やめてくれる可能性も…?


「まぁエミリアにはそれくらいがちょうどいいんじゃない」

「ちょうどいい!?どゆこと!」

「あなた鈍いし、すぐ心配かけるし。おしおきの意味でもあれくらいでちょうどいいわ」


 ミルムまでそんなこと言うのかぁぁ。

 逃げ場が…ない…。


 …私本当に逃げられないんじゃないこれ。

 え?ローリアさん…もしもの時はお願いしますよ?


「ところで、エミリアをいじめた人達のこと知ってる?」

「え?ううん、まだ」


 昨日ノアとさよならしたとき、この後調べるって言ってた。だから結局誰があんなことしたのか、私を案内したのは誰からの指示なのか分からずじまいだった。


 でもノアが調べると言ったんだからあっという間に見つかるんだろう。


「あなたが寮に戻ったあとノアゼット様が戻ってきて、ぱぱっと犯人見つけちゃってたわよ」

「なにそれ。あの人何者?」

「あなたの婚約者でしょ。…でね、犯人の名前は4年生のグレイシー・ランダル伯爵令嬢よ。」


 ランダル伯爵令嬢…。聞いたことある、くらいだなぁ。学年も違うし…。


「今までの嫌がらせも全部そう。ただ自分は指示だけで、行動は全部ダリア男爵令嬢にやらせてたみたいね。理由はもちろん、あなたが婚約者になったからよ」


 あちゃーー。やっぱりかー。

 ノアは人気なんだなぁ。

 そしてやっぱり人気者の婚約者はこういう目にあうのはセオリーなんだな。


「ただ、もうこういうことは起きないと思うわ」

「なんで?ノアのこと好きな子いっぱい居るでしょ」


 あんな人気者を婚約者にしたんだから仕方ないよ。と言うと、ミルムにキッ、と睨まれる。


「ノアゼット様にお仕置追加してもらおうかしら…?!」

「ごめんなさい」


 それだけは勘弁してください。これ以上状況が悪化するのだけは嫌です…!

 手を擦り合わせてペコペコ頭を下げると、ミルムも落ち着いてくれた。


 そして改めて、なんでこういうことはもう起きないのかと聞くと、ミルムは私から視線を逸らす。


「あー…犯人が捕まったあとね、ノアゼット様が校内放送流してたんだけど…」

「え?校内放送?」

「…エミリア・ライドは僕のものだから手を出したら許さない、少しでもなにかしようものなら自分の持ちうる力使って家ごと叩き潰すって言ってね…」

「え、は?」


 少し恥ずかしそうにミルムが言う。

 待って、校内放送って言った?全クラス全学年に向けて?言ったの?


 …嘘でしょ?もう全校生徒に私たちの婚約と、ノアが私を好きなことがバレてるの?

 しかも叩き潰すって……脅し?全校生徒を脅した?


 ノアのやることが規格外すぎて、開いた口が塞がらない。

 恥ずかしいけど、私を絶対守るっていう意思も感じられてなんとも言えない気持ちになる。


「…それで、今日聞いたんだけど、ランダル伯爵令嬢は修道院送りになったって…」


 …過激すぎるなぁ。あれだけのことで修道院かぁ…。

 ちょっと可哀想な気もするけど、ノアならやりかねないし、見せしめのためでもあるのかな…。


「あ、ダリア男爵令嬢は?」

「そっちはね、暫く謹慎ってだけだったわ。私も聞いてたんだけど、重い処罰したらエミリアが気に病むとか言ってた」


 あー…脅されてて可哀想的なこと言ったからか。

 良かった。そっちも重い罰だったらどうしようかと思った。私の気持ちを尊重してくれたんだね、ノアは。


「次はないとも言ってたけどね」

「…ノアって結構過激派なんだね。知らなかったよ」

「知らなかったのあなただけよ」

「えぇ?」


 どういうこと?私結構人間観察上手い方だと思うんだけどなぁ。

 ノアも腹黒いとは思ってたけど、こんな過激派だとは思ってなかったよ。


 そう言うと、ミルムははぁ、とため息をつく。


「ノアゼット様はあなたにだけは知られないようにしてたからね。でもエミリアのいない所で色々やってたのよ?」


 なに、私の知らないところで色々って。怖いよ!

 聞きたいような聞かない方がいいような…。


「なんで教えてくれなかったのミルム…」

「そんなの言ったら私が殺されるでしょうよ」


 あなた絶対逃げるでしょ、とミルム。

 たしかに。言われてたら逃げてたわ。もっと逃げてたわ。


「でもあなたが平和なら私達も平和だから、くれぐれも無茶しないでよ」

「うぅ…はーい。」


 私の平和がみんなの平和ね…。

 …私の心は全然平和じゃないけどね!?





「今日は東の庭園に行かない?サンドイッチ作ってきたんだ」

「えっ、ノアが?」


 お昼に迎えに来てくれたノアに手を引かれ歩いてると、ノアがそう言った。手を握ってるのと逆の手には茶色いバスケットを持っていた。


「エミリアに食べてもらいたいなって思って」


 す、凄い。料理も出来るのこの男?!

 ここまで来たら何ができないのかが気になる…。


「ノア、料理も出来るんだね」

「簡単なものだけだけどね」

「それでも凄いよ」


 上位貴族の子息が、料理まで出来るなんて。


「あはは、エミリアに褒められるなら、できて正解だったね」


 嬉しそうに笑うから、いたたまれない気持ちになる。




 東の庭園はベンチとテーブルもあるけど、ガゼボもいくつかある。いつも思うけどこの学園の庭園、レベル高すぎ。


 ノアは私をガゼボまで案内してくれて、周りを取り囲むコスモスの花畑に目を奪われながら椅子に腰を下ろす。

 こんな凄そうなところ、私一人じゃ絶対来れない。


 暗黙の了解で、ガゼボは貴族が使えるものとなってる。だから東の庭園には貴族がよく集まってるから私も来たことはなかった。

 こんなに綺麗なんだ…。


「はい、どうぞ」

「ありがとう…」


 ノアがくれたサンドイッチは、シンプルなBLTサンドとたまごサンド。作るのは簡単だけど、貴族が作るのはとても難しいってことはよく知ってる。


 まずBLTサンドを口に入れてみた。


「ん!?お、美味しい…!」

「良かった。……うん、我ながら美味しいね」


 分厚いベーコンがカリッと香ばしく焼けていて、厚みのある瑞々しいトマトと、パリッとしたレタス。全てがうまく口の中で混ざりあって、ひとつになっていく。


 これは…美味しい。馬鹿にならない、うまい。


 たまごサンドにも手を伸ばしてみる。


「ふぁ…」


 ゆで卵を潰したタイプのたまごサンドではなく、ふわふわの半熟オムレツが挟んであるたまごサンドだった。挟んであるパンと同じくらいふわふわの卵は、噛むと中からチーズがとろーり出てきた。この塩っけがたまらない。


「まって、うますぎる…」

「ふふ、いっぱい食べてね」


 これは…胃袋を掴まれてしまう。おかしい。私が掴まれる側なのか。

 男子力女子力ともにトップじゃないか。敵わない…。



「ご馳走様でした。すっごく美味しかった。ありがとう」

「喜んでくれてよかった。こんなに喜んでくれるなら毎日持ってこようかな」

「それはノアの負担になるからやめて?」


 これを作るのに朝早く起きなきゃいけないじゃん。それを毎日なんて…。


「エミリアが喜んでくれるなら些細なことだよ」

「……私も申し訳なく思っちゃうから、たまににして?」

「そう言われちゃうと従うしかないね。分かったよ」


 よし。少し扱い方が分かってきた気がする。


 ノアがいれてくれた紙コップの紅茶を飲んで一息つく。


「そういえば、ノアのご両親は私が婚約者なの許してくれるの?」


 いくら身分差の結婚が許されてるとはいえ、風当たりはきついはずだ。あまりいい顔されないのも頷ける。

 婚約は認めても、本当は良くは思ってない…なんてこともざらにあるだろう。


 と思ったのにノアはきょとん、とした顔をした。


「そっか、エミリアは知らなかったね」

「?」

「うちはね、恋愛結婚推奨派なんだよ。だから相手が誰でもどんな身分でも、想いあってのことなら歓迎されるよ」


 想いあって…ませんけどねぇ…。


「むしろ権力を集中させるのを防ぐために、高位の貴族との結婚の方がいい顔されないんだ。」

「へぇー…」

「うちの両親もね、僕があまりにもエミリアの事を好きすぎるから、会うの楽しみにしてるよ」


 それ聞くと会うの恥ずかしくないか。

 まぁでも反対されてないなら…いいの…かな?


 このまま婚約が続けばいつかは挨拶に行かなくちゃいけないんだろう。

 うぅ、胃が痛い…。


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