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私は逃げたい  作者: 兎のうさぎ
本編
1/110

私は逃げたい

初投稿です!拙い文章ですが、最後まで見てやって下さい。

 

「ねぇ、なんで逃げるの?」

「ひぃっ」


 誰もいない音楽室の隅っこまで追いやられてしまった。まずい、逃げ場がない!

 逃げ場を探して目をウロウロさせてると、ダンっ、と音を立てて私の顔の両サイドの壁に手を突く。右も左も彼の腕で後ろは壁、正面に彼本人。どうにも逃げられないようです!!


ど、どうしてこうなった…!?





 2年半前、私はただの社会人だった。楽しい職場で仕事をして、恋人はいなかったけど、友達もいたし、親とも仲良くて順風満帆な人生を送っていた。

 そんなある日のことだ。私は仕事の帰り道、歩道を歩いていたらすごい勢いでトラックがこちらに向かってくるのが見えた。

 あ、と思った時には遅くて、目の前がトラックのライトで何も見えなくなった。


 反射で目をつぶったけど、痛みは来なくて、恐る恐る目を開けたらそこは先程私のいた歩道ではなかった。暗い10畳くらいの部屋の真ん中にぽつんと私は立っていた。

 目の前には顔をフードで隠してる人が3人と、偉そうな20歳くらいの男がひとり。


 訳の分からないままその部屋から違う部屋へ案内され、ひとり部屋に取り残された。

 ベッドしかないその部屋に嫌な予感がして、近くにあった窓を開けて辺りを確認していると、話し声が聞こえてきた。別の部屋で話してる声が聞こえたのできっとその部屋も窓が開いてたんだろう。


 その声はさっきの20歳の男の人の声で、話の内容を聞くとなんとびっくり。

 私は異世界から召喚されたんだって。

 確かにこの部屋にある家具も、ここに来るまでの廊下の様子も、とても現代日本で見られる光景ではなかった。窓から見える景色は夜のなのか暗くて分からないけど、見える限りに明かりは見当たらない。


 彼らの話によると、私と体を繋げると魔力?ってやつが増幅するらしい。そのための道具として呼ばれたらしい。本当は私の心が伴った行為の方が、めちゃくちゃ増幅するらしいけど、嫌々でも増幅するらしい。



 そんなの聞いて黙って部屋に居られないよね。

 私は窓から1番近かった木に勢いよく飛びついて、何とか木に登る。そして屋敷の塀の上に降り立って、そこから約2m下の地面に降り立った。運がいいことに足を捻ったりはしなくて、私はそこから夜のくらい森をひたすらまっすぐ走った。


 何も考えてなかった。ただ無我夢中で走った。運動は得意ではない方だったけど、人間やらなきゃいけない時はなんでも出来るもんだ。


 何度か木の影で休憩して、空も白んできた頃、ようやく森が途切れた。森をぬけた先は見事な草原で、森と草原の間には道があった。


 この道を辿れば、人のいるところにたどり着く…!

 そう思って道を走り出して割とすぐ、向かいから馬に乗った人が来た。


 馬!?と驚いてから、ここが異世界だったことを思い出す。



 馬の前に両手を広げて馬を止めて、その場の地面に頭を突いた。


「お願いします、助けてください!!!」

「えっ!?」


 土下座は最上級の敬意だ!とばかりに地面に頭を擦り付けると、馬上の人は馬から降りて、私を立たせようとしてくれた。

 声からして若い男の人だ。でも私は立ち上がらなかった。


「お願いします!!誘拐されて、逃げてきたんです!どこか、どこでもいいので何処かに送ってください!!」

「ちょ、ちょっと頭上げて…」


 嫌だ!いいよって言うまであげるもんか!!

 頑なに動かない私に痺れを切らした男の人は、ふぅ、と一息ついた。


「分かった、安全なところに送り届けるから、頭上げて?」

「ありがとうございます!!」


 その洋服は目立つから、と彼は自分の被ってたローブを私に貸してくれて、私はフードも被って怪しい人みたいな見た目になった。


 彼は私を馬に乗せてくれて、私の後ろに彼が乗り、ゆっくりめに馬が走り出す。馬に乗ったことも無くて、変な筋肉を使ったけどそれも最初だけで、緊張と疲労で私は意識を飛ばした。



 目を開けると、そこはまた知らない部屋で、私はがばっ、と飛び起きた。捕まった!?と思い辺りを見ると、ベッドの脇に1人のおばさまがいた。


「大丈夫よ、ここにはあなたを害するものは無いわ」


 おばさまはローリアと名乗り、私はエミと名乗った。そして目が覚めたら知らないところだったこと、誘拐犯の会話を聞いて、犯されると思って逃げてきたことを説明した。


 ローリアさんは相槌をうちながらしっかり耳を傾けてくれて、話し終わった私に言った。


「エミちゃん、あなたもしかして、ここじゃない世界から来たんじゃない?」

「えっ!」


 驚きつつ否定しなかった私の手を、ローリアさんは優しく握ってくれた。

 彼女の話によると、私のような黒髪黒目の存在はこの世にはいないそうだ。でも歴史書には、過去に黒髪黒目の存在がいたとされていて、それは異界からの来訪者とされていた。


 私は観念してローリアさんに全て話した。召喚されたこと、私と体を繋げると、魔力が増幅するらしいこと。



 全て聞いたローリアさんは顔を顰めて、私を召喚した人に憤ってくれた。そして一緒にこれからを考えてくれた。


 過去の異世界人のことはあまり分かってないけど、歴史上での異世界人の旦那は、それはそれは魔力が多かったらしい。それは国で1番とされるほどだった。だから私が誘拐犯から聞いたことも、証明は出来ないけどあながち間違ってもないだろう、と。


 ただ異世界人=魔力増幅装置かもしれないというのはあまり知られてはなくて、異世界人の記述のある本さえ限られた人しか読めない。しかも魔力増幅装置なことは明言されてないし、その本を読んでもその考えには至らないことが大半だ。

 おそらく私を召喚した人がダメもとでやったことか、もしくはその人が貴族であるなら、代々受け継がれる本にそういうことが書いてあってもおかしくは無いと。


 だから異世界人だと周りにバレても、そこまで脅威じゃないけど、異世界人だとバレて研究を進められて、魔力増幅装置だということがバレるのは良くないし、そもそも目立つこの見た目は人に晒したらすぐに元の誘拐犯に捕まるだろう。



 ということで、ローリアさんお手製の魔道具というやつをもらった。それは太めのバングルで、それを付けると髪と目が茶色になった。ちょっと嬉しい。


 私をここに送ってくれた男の人は、騎士さんだったらしく、私の髪と目を見て、私にローブを貸してくれたそうな。彼はローリアさん曰く信用のおける人物で、私のことを他言しないとローリアさんに誓ってくれたらしい。起きた時には居なかったからお礼も言えなかったけど。



 そこから1週間、ローリアさんと暮らしたけど、その暮らしには期日があった。

 ローリアさんは、王都という首都みたいな所にある学園の学園長をしてるらしく、もう少ししたらそちらに帰らねばならないそう。

 王都に帰ったら3ヶ月は帰ってこない。


 そこでローリアさんが提案してくれたのは、その学園に通わないか、ということ。ローリアさんは貴族ではないけど発言力はあるらしく、ローリアさんを後見人にすれば学園に入れると。

 学園は関係者以外立ち入り禁止だし、学園の寮なら警備もしっかりしてる。何よりローリアさんも学園に住んでるし、守りやすいそうだ。


 私には魔力もあるそうで、魔法も使えるらしい。そこらの勉強も学園で教えて貰えるし、学園には貴族もいるからこの世界での過ごし方が分かりやすいとのこと。



 入学は15歳からで、四年制で途中入学は出来ない。

 でも私、22歳なんですけど…。と言うと、黙ってれば分からないと言われ、なんとも言えない気持ちになる。まぁいいや。


 15歳の振りをして学園に入学する。そしてそこでこの世界のことを学んで、その後の身の振り方を考える。

 ローリアさんとそんな計画を立てて、エミリア・ライドという名前で私は学園に入学した。






 入学してそれなりに楽しくやってきた。人の輪に入るのは得意だし、輪を作るのも得意だ。数少ない平民の友達を作って、貴族とはなるべく関わらないようにして、あまり目立たないように過ごしてきたのに。



 何故か半年前くらいから、1人の男に声をかけられるようになった。

 それが今目の前にいる、次期侯爵で次期宰相のノアゼット様。

 のらりくらりと会話を躱して、度々降ってくる質問も躱し続けて、ついに先週くらいから強引に聞いてくるようになり、逃げていたんだけど…。



「ふふ、もう逃げられないね?」

「に、逃げたい…」

「ごめんね、逃がさないよ」


 顔は笑ってるのに目が笑ってない。ごめんなんて一欠片も思ってないよこの人!


「こんな庶民捕まえてないで、綺麗な貴族のお嬢様捕まえてよ!」

「あはは」

「あははじゃなーい!」


 次期侯爵のノアゼット様が、なんでこんないち平民に興味を示してるのか。この学園には他にも平民いるよ!?趣味悪いよ!?


「それでも僕は君が気になっちゃってさ」

「なんも面白いことしてないけど!?」


 至って平凡に、周りに馴染むように生きてきたんだけど!あなたのような高位貴族に目をつけられたく無かったからね!


 反撃するようにキッ、と睨みつけると、ノアゼット様は嬉しそうに目を細めた。なぜ!?Mっけあるの!?


「エミリア・ライド。君のことをどれだけ調べても情報がひとつも出てこないんだよね。」

「ええっと…孤児…だから?」

「でもね、ただの孤児に学園長が後見人になるわけないんだよね。孤児でも学園に入りたければ、孤児院に入って手続きが出来るはずだよ?」


 うぐ。学園長に後見人になってもらってるの、なんで分かったんだよぉぉ。


 ノアゼット様の言う通りで、この学園には庶民が入れる枠がある。確か20人くらい?だったはず。試験を受けて上位から枠の人数分が入学できる。


 でも私は試験は受けてない。学園長が後見人になってくれて、試験パスして入学した。


なんで知ってるんだ。


「これでも次期宰相だからね。情報収集は得意だよ?」

「は、腹黒い…」

「うん?」

「なんでもないです!!」


 怖い笑顔が近付いてきたので、慌てて謝った。顔は離れてくれたけど、相変わらず逃げ場はない。


「君が何かから逃げて、学園長と出会ったところは調べがついてるよ。ただの平民なら、元いたところに送ってもらえば良いだけだと思うんだけど…そこからどういう理由があって学園に来ることになったのかな?」


 なんでそこまでバレてるんだ!!

 この世界は日本より進歩してないように見えて、日本よりプライバシーがガバガバなのか?!




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