009 この世界の孤児院は純然たる慈善事業ではない
愛犬家が犬ギライの悪党を痛めつけると、天から色々と特典が与えられる。
カオリの活躍のおかげで孤児院の子どもたちも心から納得した。
子どもたちは自分たちの間に犬ギライの外道がいないか探し回った。
殺伐とした展開。
執筆補助AIが提示する話の展開は、近時の作品のありふれた平均値だと言う。
しかし、修道女のマーサは言った。
「犬ギライのお友達を見つけたら、自分たちで処断せず、きちんと大人に報告しなさい」}
「どうしてですか?」
「犬ギライの悪党を処断するのは、処断する者の犬好きレベルが高ければ高いほど。天から与えられる褒賞も大きくなります。
ですから、犬ギライの子どもを見つけた時。あなた達で痛めつけるよりも、ちゃんと犬好きの先生たちで痛めつけた方がガッポガッポ特典が入ってきてお得なのです」
「えええ・・・」
「この孤児院も無料で運営することはできません。犬ギライの子どもを痛い目にあわせて天から与えられる褒賞も孤児院にとって重要な収入になっています」
「なるほど・・・」
この世界の孤児院は、純然たる慈善事業ではなかった。
犬を悪く言う害虫を見つけて叩くのは実入りが大きかった。
特に、犬好きな者が【前世で犬食いの転生者】を見つけて痛めつけると、孤児院の運営の経費の数年分がすぐ取り返せる大当たりであった。
収益事業。
この世界の【ムゲンキョー】の宗教皇帝は、伝統的権威でもって犬好きを育成するということでで、孤児院事業を支配し、孤児院設立の許認可権を持ち、各地の孤児院のナワバリを確定し、ミカジメ料を徴収していた。
エリア王国の成立後、この世界の宗教皇帝ははほとんどの直轄領を失ったが、北の地のア・バシリ―を拠点にして何だかんだと伝統的権威を活用してうまくやっていたのである。
* *
修道院でカオリが友人になった同年代の女の子に、【銭はあるでい】ではなくて、ゼニハー・アルディがいる。
4625(シロネコ)企画の設定では、悪役令嬢カオリ・ゲッカーの王立学園における取り巻きの一人であった。
しかし、9612(クロイヌ)企画が設定を改変した世界では、ゼニハーという女の子は孤児院時代から堂々と登場した。
父親のゼニハー騎士爵の六男であったが、人生一発逆転を賭けて、南の地で冒険者になって行方不明になり、その結果としてゼニハーは孤児院に蹴り込まれたのである。
まるで小公女セーラのような境遇。
カオリも貴族の家の出であるが、将来に格闘ゲーム化されたら対戦ダイヤグラムが全キャラ平均で7点台後半になりそうな武闘派で、孤児院で顔役になっていた。
コバンザメは世渡りジョーズと昔から言うが、不幸ヒロインの顔立ちのゼニハーは調子よくカオリにゴマをすって取り巻きの一人になった。
ゼニハーぱ語る。
「人生で一発逆転を狙うのなら、南の地で冒険者ギルドに入るか、北の地で修道院に入るか、です」
「なるほど」
:謙虚で純真無垢な性格のカオリはそのとおりだと思う。
ゼニハーの語りは続く。
「もちろん、修道院に入ることができても、そこからが勝負ですよ。
立派な犬好きになって、皇帝閣下にナワバリを認められて、ナワバリのなかで犬ギライを捕まえるのです。
犬ギライにビンタ一発で衣食住に必要なものがどんどん降ってくる仕様。
ちくしょー、たまんねえな。
孤児院を設立してうまく運営することができれば、単なる名声だけではなく、犬ギライの子どもたちを戦棍でガツンガツン殴りまくることで、天からの褒賞が簡単にいっぱいもらえます」
「らくしょー?」
そうカオリがたずねると、ゼニハーは真面目な顔で答えた。
「天から立派な犬好きと認められて、犬ギライをグーで殴るたびに大判小判がザクザク降りそそぐようになれぱ、素晴らしいことだって思います」
「うーん、天から犬好きと認められるかあ・・・」
カオリは前世の記憶を取り戻したさの日に「犬よりも猫」と愚かなことを口走ってしまい、ゲッカー維公爵家から叩きだされたのである。
はげますようにゼニハーは言う。
「だいじょうぶですよ。カオリさまには修道女になれる才能がおありですから」
「才能ねえ・・・」
「子どもの頃から犬ギライの馬鹿を見つけて殴ってジュースや菓子パンが大量に天から降ってくるということは、それだけ天はカオリさまのことを犬好きの子どもと認めている証拠ですよ。この孤児院の期待の星です」
まあ、ねえ・・・
カオリは苦笑した。
「あたし、前世でわんわんとも、結構フレンドリーだったからね」
「そうなのですか?」
「前世のあたしのおばあち ゃんの飼っていたミケという猫がご近所のわんわんと仲良くしていたからね、あたしもわんわんベタベタさわっていたよ」
「それは素晴らしい。前世では、お犬さまと実地の交流の経験を重ねていたなんて。それは最強です。転生チート。絶対無敵。カオリさまの背中にひたすらついていくことで、このゼニハー・アルディも活躍できるのです」
「うーん・・・」