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067 つまらないことで敵をつくるべきではない

 何が正しかったのか。

 誰が正しかったのか。

 今は論じてみても、せんなきこと。

 解放区に足を踏み入れた時点で誰もが王立が学園のルールを破っていたのだ(ヒーナックは学校から許可を受けていたがレイをすぐ解放区から返さなかった時点でルール違反である。

 ディアナ・ツースリー侯爵令嬢の帰還し王立学園に嵐を巻き起こした。

 彼女は無事だった。

 それで、解放区でディアナのことを置き去りにして逃げたヨーキャンらの処罰を王立学園に要求した。

 下級生のヒーナックが一蹴したレベルの相手に、ヨーキャンらは「悪い人たちとはトモダチ(笑)のはず」とか言っていながら、ヨーヨーキャンキャン泣いて陽気に逃げたのである。

 逃げた後に河原で【陽の者の踊り】を踊った。

 自らの他者に対する支配権を確認するため、心の安定のため、ヨーキャンもやらざるを得なかったのだろう。

 さらわれて身体の危機さえもあったディアナ・ツースリー侯爵令嬢は【陽の者の踊り】の話に怒り心頭だった。


「こっちが危ない時にのんきにチャラチャラ踊っているんじゃねえ」


 てなことである。

 その時代の多くの者が踊り狂った【陽の者の踊り】というダンス。

 いかなるときも陽気で明るく輝いていたいという気持ちのあらわれか?


 ━━そのダンスを誰に見てもらいたい?


 という疑問。

 そういうことを考えること自体が暗いのだ

 もちろん考えずに目を閉じて走っていれば何かにぶつかる、

 目を開けていてもぶつかるときは同じかもしれないけれども。

 ぶつかればぶつかったことも明るく忘れてしまえばいいという考え方。

 どこまでも陽気で明るい。

 それでいいのだ(本人にとって)

 ヨーキャン・ライトのような者のことを陽キャとキラキラ王とか呼んで崇拝する者もある。

 明るく陽気に振る舞って人を集める組織で勝つ。

 質よりも量。

 古来から中原の鹿を追う者の間で天下取りの技法として説かれる。

 ただ、人と人の間の信用のない組織は一瞬に大きくなるが滅ぶときには一瞬子浅くに滅んで何も後に残らないというのは近時の経営組織論の研究の通り。

 確かに、ヨーキャン・ライトは人を集める外形的魅力のある男だった。

 しかし、ディアナ・ツースリーの復讐の対象にされたというのは、うまくない。

 本来であればディアナは無傷で一日で王立学園に帰還したのだから「何もなかった」ということにしてもおかしくなかったはず。

 それを彼女のプライドは許さなかった。

 もともとディアナの友人だったパンナ・オネカーは、ディァナの復帰を知るや否や即座にディアナの配下に入り、自分も解放区に行ったことを自白し、

女子寮内で停学処分になっている。

 そして、同じく停学処分で領内にいたレイ・ハツネテイクをディアナの側に引き込もうと工作している。

 どんなにヨーキャンが明るく楽しく振る舞っても世の中は十分に残酷であった。

 ヨーキャンが口をポカンと開けている間に、ディアナの側はヨーキャンらの貴族としての人生を破滅に追い込むための手順を着々と進めていた。

 ひとりでも裏切ればあとはドミノ倒し。

 仲間の結束を高めるために、みんなで逃げた後に【陽の者の踊り】を踊ったのだが、それに参加した者とて「あの時はまわりの空気がそうだった」と言っておけば話が通ってしまう。

 先手必勝。

 機を見るに敏。

 ディアナが勝利する状況と見てとった王立学校の生徒たちたちは、あの夜に【陽の者の踊り】を踊った者でさえ、ディアナの無事生還を祝うための手土産をたずさえて、停学中のディアナが引きこもっているツースリー侯爵家の公館に面会に押し寄せた。

 王立学園の教育をうけた者たちはヨーキャンのことを犠牲にしてディアナにといりいって自分だけは助かろうという絵図を描く。

 そういうことについて卑怯だと思う感覚がない。

 まるで平安貴族。

 カーストとかヒエラルキーとかいう言葉が大好き。

 貴族主義の教育の成果か?


   *  *


 ディアナの無事生還によって校内に嵐が吹き荒れていた。

 王立学園の生徒でありながら王子であるコーキは、どのように振る舞うのがよいのかわからない。

 ディアナの怒りはわからないでもない、

 しかし、彼女もルール違反で解放区に行った者である。

 何かを偉そうに言える資格はあるのか?

 解放区でユーキャンらがディアナを置き去りにして逃げたというのは、王立学園全体の恥・・・

 もしも、そうであるにしても、同日に(解放区の出入りの許可を学校から受けていた)ヒーナックがヨーキャンらが逃げた相手を軽く一蹴してディアナを無事に連れ戻している。

 結果的に、騒ぐほどの恥は王立学園になかったと思わないでもない。


 完璧な策を練るというサクネルは、目的が一致していれば、頼もしい男である。

 サクネルは言う。


「ここはコーキ王子さまが出るのは、まだ早い。もう少し情勢が固まってから、最後の一押しというかたちで」


 意地わるくコーキ王子は言った。


「俺が先に出ると、ディアナ・ツースリーの側にこれから走る者の顏が立たなくなるということか?」


 はい、とサクネルはうなずいた。


「王子が動いたから他の者も動いたというかたちになっては他の者も家から処罰をうけるやもしれません。

 あくまでも他の者たちは自主的にディアナ・ツースリー侯爵令嬢の側についたというかたちにするのが望ましいのです」


 コーキ王子はたずねた。


「お前は【陽の者の踊り】わ踊ったのか?」


 いいえ、と胸をはってサクネルは答えた。


「私は踊りませんでしたよ。何となく悪い予感がしたのです」

「悪い予感」

「ディアナさまは運の強い御方です。

 あの方が王立学園に戻ってきたという場合、そういう踊りに参加していたら、あの方がさらわれたことを私が喜んだというように解釈されかねません」


 ほう、とコーキは溜め息をついた。


「賢明な判断だ」


 ありがとうございます、とサクネルは頭を下げた。


「これからは知略の時代です。つまらないことで敵をつくるというのはよろしくない。あまり利口者のすることではございません」

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