065 自分たちの陣営に早めに取り込まなければいけない
聖犬使のマトリに連れられて、ルー・サ・ナド―は、ついに王立学園の領に戻ってくることができた。
領の門の近くまで出向かえてくれたレイはわんわん泣いた。
久々の再会。
校則で禁止されている解放区までルーを探しにいったというレイは停学になっていた。
と はいえ、彼女が解放区に行ったことは、幸運の積み重ねがあったとはいえ、決して無駄に終わらなかった。
その冒険行は、結果的にルーの救出につながった。
ルーは言う。
「馬鹿だねえ。探さなくてよかったのに、あたしみたいなのなんかさ」
マトリ先輩に後頭部を拳でコツンとルーは殴られた。
「強がるなよ」
「痛い」
「レイも本気で心配したんだ。身体が勝手に動くのは仕方ない」
「はあ・・・」
頭を抑えるルーに、マトリは説教する。
「いざという時にろくな判断はできない。
そんなの、あたりまえ。
いざというときにおちいらないようにすること(予防対策)。いざというときにもしっかり動けるように普段から色々なことを予想して自分の身体をねちねち仕込んでおくこと(発生対策)」
「わかりました」
ルーは頭を下げる。
言い足りなかったのかマドリは説教する。
「緊急時よりも普段が大事っていう平和大好きっ子がいるけどね、うろたえるやつは普段から備えていなかったことだけはわかる。
世の中は全て運。
でも、『自分はついているから』とか吠えて、ろくに何の準備もしないで、世渡りしようとするのはダメ。
見ていたら、こちらに喧嘩を売っていやがると思ってイラっとするというか、ムカつくんだヨ。
えーと、何の話をしていたんだっけ?
それでもね、世の中は色々なことが起きるんだよ。
ナメた態度を取る奴にはイタイ目にあわせるって、決めている奴もいるんだ。
くりかえすけれども、どうせ最後の結果は運なんだよ。
でも、つまんねえじゃん?
それじゃあ、生きていることの意味なんてわからない。
ココロの存在を、本当の事実はわからないけど、何かあるって信じる。
自分にいいことがあったと思ったらね、まともに努力してその運を呼び込んでくれたまわりに対して、きちんと感謝しろよ」
知性あふれる犬との交流がある聖犬使の話は心の在り方に及んだ。
ルーには少し難しい。
「感謝、ですか?」
そうさね、とマトリは溜め息をつく。
「何もかも偶然、かもしれない。
おそらく高い位置から見ればそうだろう。
でも、ナメた態度をとった奴をイタイ目にあわせるというようなキモチは、偶然だけで終わらせてはいけないって感じ。
気合いと根性が重点。
そういうキモチも全て偶然の一言で終わらせるのは、淋しいっていうか、寂しいっていうか、ねえ・・・・」
* *
世界はルーを中心に動いてない。
王立学園にルーの不在の間、ヨーキャンとディアナといった上級生の面々がルーを探しに行き、ヨーキャンとその仲間たちは危険な解放区にディアナのことを置き去りにして逃げた。
どういうわけか、もう駄目だという多くの予想を裏切って、ディアナは一日で学園に無事に帰還してしまった。
貴族社会。
権威主義。
カタチカタチカタチ。
自分の現在および将来のポジション争いのため、ディアナはヨーキャンたちの貴族人生を終わらせることを決めていた。
下手に遠慮するとディアナはせっかく解放区を【無傷】でキレイな身体のまま帰ってきたのに「何かあった」というような悪いウワサを流されかねない。
馬鹿馬鹿しい。
損である。
ヨーキャンらのために【我慢してやりたい】 とか思わなかった。
「もう、我慢するの、やめ」
その発言には、周囲の者は「お前が我慢したところを見たことはない」という言葉を飲み込んだ。
しょせんは平民の娘のルーが解放区から学園に帰還できたことは、本人と関係者はともかく学園の全体にとって大したことではない。
ルーの行方不明事件に付随して起きた【ディアナのヨーキャン狩り】の方が重用。
両者とも嫡子であり、いずれも夫婦別姓の外姓人ではなくて、互いの親のツースリー侯爵家とライト侯爵家がからむ。
危急の場でヨーキャンらが逃げたことは事実・・・
しかし、逃げた全員を処罰するとなれば、学園内の騒ぎはとんでもなく大きくなる。
振り上げた拳のおろしどころ。
どのように自分の面子を保ちつつ、処罰の範囲をしぼるか、ディァナの人間的器量の見せ所ではあろう。
とはいえ、ディアナは喧嘩を始めるのに夢中で、落としどころを考えていなかった。
* *
「本当に、おかえりなさい」
ディアナの友人ポジションのパンナ・ネオカー子爵令嬢(停学中)は、学園領で思いっきりルーの身体をだきしめた。
これからの争いにルーの存在はディアナ陣営にとってどのような使い道があるのか?
まだ定かではない。
ただ、解放区から戻ってきたルーは、人々の耳目を集めるポジションである。
ルーは利用できそうなので早めに自分たちの陣営に取り込まなければいけないという判断は働く。




