064 勘違いしたのではないかという見方も出る
ヨーキャンらが踊ったという【陽の者ダンス】は解放区で評判になっている。
隠そうとしても隠しきれるかどうか?
となれば、先手を打って自分に有利な情報を広めてやろう、というのがディアナの判断。
ライト侯爵家にヨーキャン以外にも跡継ぎになりうる弟がいる。
ツースリー侯爵家と決定的対立を避けるべく、ライト侯爵家はヨーキャンのことを絶縁処分する可能性が高い。
他人の不幸はカモの味と言う。
しかし、残念ながらパンナ・オネカーも子爵令嬢も笑っていられない。
彼女はデイアナを解放区で置きざりにして逃走した時、河原で【陽の者のダンス】を明るく楽しく踊ったメンバーの一人であった。
ディアナとヨーキャンが対立するのなら、負け組になりそうな側にパンナはまわるわけにはいかない。
つくづく思うに、ヨーキャンは器用な男で立ったまま素敵な夢を見ることができるようだったが、パンナはヨーキャンに何の義理も感じていない。
もともとパンナは王立学園でディアナのシンユウ(笑)のポジションにいた。
ディアナに味方するのは、パンナにとって【裏切り】ではなく【表返り】と言ってもよい。
ヨーキャンがライト家に勘当されようか、王立学園を退学にされようが、貴族の身分を失おうが、どこかで野垂れ死にしようが、痛くもかゆくもない。
ありがちな記号。
替えはいくらでもある。
ヨーキャンにこだわる必要はない。
まずは自分のことである。
━━修身斉家治国平天下(天下を論じる前にまず自分のことをきちんとしよう)
ヨーキャン・ライトの没落に自分までまきこまれるというのは、パンナ・ネオカーも願い下げだった。
他人のことを考えるのは、まず、自分の安全が確保されてからで十分である。
ディアナ・ツースリーが王立学園に無事に帰還した以上、パンナ・ネオカーは何よりも先にディアナの友人の地位に立たなければならない。
今のディアナには勢いを感じる。
と言うよりも、ヨーキャンが無防備すぎるのだ。
もうすでにディアナはヨーキャンを沈めるための手を着々と打ち始めている。
ヨーキャンは、まだディアナの復帰にすら気づいていなかった。
* *
王立学園期間後に帰還後にディアナは自分がたち無許可で解放区に出向いたことを自白し、パンナはすぐ認めたので、ディアナとパンナは即停学処分処分になった。
その際に、ディアナ解放の契機をつくったレイとヒーナックの名前も出た。
レイも停学処分。
解放区の出入りの特別許可を得ていたヒーナックは、すぐに許可のないレイを戻さなかった件で、厳重説諭(お説教)。
パンナ・ネオカー子爵令嬢は地方の中小貴族の娘としてレイ・ハツネテイク男爵令嬢と同じく王立学園の女子寮に入っていた。
女子寮にはレイとパンナが停学処分で残ったのである。
レイは、証言する際に、自分の発言の真正を神に誓う権利のある貴族の娘でありよ
その証言の証拠能力は大きい。
ディアナの友人として、レイからのよい証言を、パンナは確保したい。
パンナは、ヨーキャン側からの工作手段のない時期に、本人いわく【必死のパッチ】で、レイに対する工作活動をした。
「それはね、あたしも、ディアナも、ルーのことは心配だよ。だから、解放区にまで行った」
「ですが、ライト家とツースリー家がもめるなんて」
「もめないわよ。ヨーキャンがライト侯爵家の継承権を失うっていうのが、おそらく落としどころでしょう? あいつには弟がいるし、いなくなってもライト家には変わりがある」
「弟さんが・・・」
「だから、ヨーキャンがライト侯爵家の継承権を失ったところで、誰も大して困らない」
でも、とレイは言う。
「ヨーキャンさまが最初にルーのことを探しに行くことを提案なさったと聞いております。そんな方のことを悪く言うのは・・・」
はあ、とパンナは溜め息をつく。
「解放区が危ないって話を甘く見ていた」
「そうですか?」
「ヨーキャンとか遊び半分だったんじゃないかな?
みんなで解放区に行く名目をつくるための?
ディアナとあたしは後輩のルーのことを、けっこう本気で心配していたのよ。それで、ヨーキャンの誘いにのって、学校側に無許可で解放区に行ってしまったわけだけど」
あくまで自分は【ルーのことを心配している善役】のポジションどりをパンナは徹底しようとする。
ゲームは既にディアナが始めていた。
否応なしにレイはその駒として扱われることになってしまっている。
流行の【鈍感力】とか言って都合の悪い情報を忘れるヨーキャンはゲームを仕掛けられていることさえも気づいていない。
敵兵やモンスターを倒すことよりも、貴族は一般に身につけるべき謀略ゲーム。
負ければヨーキャンは貴族としての生活を失う。
残酷な暗闘。
あけすけにパンナは言う。
「ヨーキャンはさ、今まで上手くいきすぎていたから勘違いしたんじゃないかな?」




