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062 【高速戦闘】の異名を持つ聖犬使が現れる

 

 その日、【高速戦闘】の異名を持つ聖犬使がふらりと解放区の【05の居場所】を訪れた。

 マトリ・タカハ騎士爵。

 王立学園在学中に解放区で遊び歩き、聖犬シルバーとフレンドリー関係を締結し、平民出身でありながらも在学中に聖賢使として国家に認められた人物である。

 彼女のような問答無用の成功例も存在するために、王立学校の生徒たちの間で、原則として解放区への出入りは禁止されていても、ルー・ザ・ナド―のように解放区に密航しようとする者が後を絶たない。

 しかし、王立学園の生徒たちが解放区に密航する理由は遊び半分の冒険心やスリルを味わうためであり、危険と隣り合わせであることは否定できない。

 解放区でヨーキャン・ライト侯爵令息たちが女生徒ディアナ・ツースリー侯爵令嬢を置き去りにして敵前逃亡をしてから、河原でアカい服を着て踊り狂ったことは解放区で笑いのタネになっていた。


(さすがに、そーゆーのは王立学園の恥だワ・・・)


 マトリは問題の河原に行ってみた。

 いくらヒエラルキー万歳、カースト万歳とか普段に吠えてみても、喧嘩ゴロマキでビンタ一発でキャンキャン言わされてゴロゴロしているようでは話にならない。

 アカい服を着て【陽の者ダンス】をみんなで仲良く踊られてもディアナにとって何のなぐさめにもならなかっただろう。

 幸いにも、その日のうちにヒーナック・ゲッカー公爵令息が相手を軽く一蹴してディアナを無傷で取り返したと言うが、でヨーキャン・ライト侯爵令息たちのお笑いダンスで王立学園のカンバンに傷がついたことは間違いない。

 ヒーナックは解放区への出入りを特別許可されているだけの実力はあった。

 実力を証明したヒーナックについてはマトリも文句を言うつもりはない。

 それにつけても、王立学園の恥と思うのはヨーキャン・ライト侯爵令息たちのことである。


(よそに行くのなら、カンバンを背負うのあたりまえ)


 みんな忙しい。

 個人主義だ何だかんだ言っても、一人一人のことを見る経験も時間もない。

 集団の一人がナメられたら集団全体が迷惑をする。

 カツアゲする者とカツアゲされる者とどちらが他の学生たちに現実に迷惑か?(なお、「〇〇さん、こいつらカモですよ」と学生証が自分の兄弟のところに集ってくるような環境を前提にした上で考えてみよう)


(いつもヨーヨー言っているヨーキャン・ライトでは、王立学園のカンバンを背負うには貫目が足りなかった)


 そんなことを【高速戦闘】マトリは思う。


 しかし、ヨーキャンのことはさておき、解放区で行方不明になったルー・サ・ナド―。

 名前も顔も知っている。

 王立学園における後輩。

 マトリは平民出身でありながらも解放区で聖犬シルバーとフレンドリー同盟を締結して一足飛びに聖犬使になった。

 それまで解放区に出向いた校則違反は全てチャラ。

 細かいことは置いておいても犬ごころは絶対。

 マトリと同じ平民出身のルーが解放区に足を運んだのは、マトリの悪影響が少しあったかもしれない。

 ルーが行方不明になったと聞いて心配になった。


(あのバカ・・・)


 と思わなくもない、

 ろくに監視の行き届かない解放区は、学者の言うような楽園ではない。

 パンドラの箱。

 その未知や異質の奥底には確かに希望も隠されている。

 しかし、未知や異質は不安と恐怖の根源であり、本来的に解放区は危険な場所なのだ。

 未知や異質が一掃されて危険な場所でなくなれば、そこに希望もなくなるであろう。

 そういうことをを認識しないままに、ルーが解放区の未知や異質に呑み込まれて消えたとしたら、少し残念な話である。


(もしも、万が一にも、帰ってきたら、ガツンガツン殴ってやる)


 そんなふうにマトリは思う。

 まだルーの死亡確認はされていない。

 さらば友よの酒を飲むには早いカナと思いつつ、マトリの足は居酒屋の【05の居場所】に向かった。  


   *  *


 マトリは【05の居場所】に訪れて驚いた。

 一撃必殺でルーの居場所がわかってしまった。

「こっちこっち」


 と、顔見知りの店員に店の奥に案内される。

 行方不明中にルーは相当にきつい目にあわされたらしい。

 異界からきたウヅキという女の歌い手を相手にして、ルーは慰めてもらっていた。

 よかった、とウヅキは言う。


「このコを区外の王立学園魔の学生寮にまで送り届けるのは女手が必要かと思っていました」

「引き受けた」


 マトリ先輩は短く応じた。

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