006 教える側が「これは面白い」と思うことを教える
ゲッカー公爵家を勘当されたカオリはア・バシリ―の地にある孤児院に送られた。
孤児院を運営する修道女のマーサは説いた。
「お犬さまをイジメてストレス発散とか言うような馬鹿を素早くみきって素早くボコりましょう」
何せ、そういうやり方でマーサは人生の一発逆転に成功したのだ。
9612(クロイヌ)企画の設定したゲーム世界は犬にどこまでも優しい。
たとえ親から引き継ぐ仕事がない孤児でも、犬がらみの善行を積む機会に恵まれれば、衣食住みたいなものはアッという間にそろってしまう。
「犬ギライを痛めつけるために武闘は大切です」
通常のマーサの肉体は、ヒトを大型肉食獣に新化させたような姿に改造させる。
彼女は町中の犬ギライの悪党をこらしめて、天から直接に与えられる財産で孤児院を運営している。
もちろん、その孤児院の中に犬ギライの子どもが入ってくれば徹底的に制裁する(本当に天から褒賞の金貨が降ることまである)・
このゲーム世界における孤児院運営の旨味。
確かな手ごたえをもって、マーサは協会に規定のみかじめ料を支払って孤児院を運営していた。、
「エライところに送られてしまった・・・」
武闘推奨の孤児院に送られたカオリは金髪縦ロールの長い髪は短く切られて。身体を動かしやすいように男女おそろいのスポーティなジャージのような服を与えられた 。
モンスターのように見える修道女の運営する孤児院で武闘派教育。
「わからない。これから、わかろう」
前世にカオリはゲーマーのはしくれ雑食性ゲーマーだった
身近な年長者から阿多折られた昔のゲームを、わからなくても時代遅れでもやってみる。
決してほめられたことばかりではないが、
「初めてのゲームはこんなものか。やっているうちにわかれば無問題よ」
というある種の積極性が育成された。
与えられたものを簡単に否定しない。
反逆の牙をむくのは、相手も「つまらない」と思うものを寄越して結果も保証しないと言う悪意が判明してからでも遅くはない。
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場合によっては相手が親でも逆らってよいと古代ギリシアでは語られ(ギリシア神話において主神ゼウスはは父神クロノスを殺す)。中世ヨーロッパにも伝えられた(王権神授説のボダン『主権論』は【親に逆らってよい場合】について古代ギリシア哲学者ソロンの言を引用する)。
考えてみると、現在でも、毒親と呼ばれる種類の親は、毒親本人が特に興味がなくても「成功すれば金になる」という理由だけで子どもに勉強・スポーツ・芸事を押しつける。
中世ヨーロッパの【家父長制】よりも子どもにとって無慈悲で酷薄。
しかるに、修道女マーサの孤児院における武闘教育には、結果の保証はなくても、熱意があった。
教える側が、
「これは面白い」
と思うことを教えた。
その一点だけでもマーサの教育は、カオリの前世の社会の大部分の教育よりも優れていた。




