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059 とんでもないことに巻き込まれそうだと気づく

 4625企画のゲームの世界と違って、ディアナはヨーキュンの悲しい暗い想い出のキャラクターにならなかった。

 ディアナ・ツースリーが無事に学校に戻ってきた。

 もちろん、ディアナにとって幸運ではある。

 しかし、解放区にディアナのことを置き去りにして逃げた者たちにとっては不運であった。


 ━━あいつ、よくも逃げやがったな。


 ディアナは問題にする。

 何もなかったということにするのは、彼女のプライドが許さない。

 誰かを犠牲にしなければならない。

 ズタボロにして学内におけるツースリー侯爵家の権力の強さを演出しなければいけない。

 ヨーキャン・ライト。

 もちろん、まったくの無実ではない。

 学生たちの間で「解放区に行こう」と最初に誘ったのは、この男である。

 ヨーキャンの誘いに乗って校則で原則として禁止されている解放区に足を踏み入れた側もどうかしている。

 そういうことを一切に抜きにして「すべてヨーキャンが悪かった」と言う結論に、ディアナは話を落とし込みたいのだ。

 どうして、そこまでヨーキャンのことが憎い?

 目立っていたからだろう。

 昨日の自分は今日の自分は別人というヨーキャンのような種類の者は、【受刑能力なし】として病院で扱われるべきではないか、という疑念が生まれる。

 しかし、人格personalityを認めて人権を認める知性のラインを野放図にあげていくというのは、理性万能のジャコビニズムにつながりかねないのではないか?

 もちろん、多重人格に副人格ごとの人権を認め、いくら犯罪をしても、「他の副人格がやったこと」で無罪と主張するのは、理論上には正しい。

 だが、主観面の証明責任が捜査機関側にある法制度の場合には何をやっても無罪の続出ということになってしまうであろう。

 リラックス。

 全身の副交感神経を活性化するアルファ・シヌクレインという体内ホルモンを放出していると、リラックスして記憶力が上昇する反面、脳がイカれてしまってバセドー氏病にかかる。

 交通事故でやられた者の入院のために看護師の数が足りなくなった時に、自分のところに看護師がまわってこないと不満を言って「どうしてボクに優しくしてくれない?」と叫んで無理に病院をでて、その日の内に死んだ男がいる(説明不要だが、緊急患者の世話で病院側は大変だったのである)。

 ヨーキャンはそういう種類の陽キャだ。

 良い面をあげれば、明るくわかりやすく楽しいが、悪い面をあげれば、気合いや根性というものがない。

 武勇伝を語らないというのは、語ると危険な話が多いので用心のために口をつぐんでいるとかいうのではなく、最初から真っ白な生き方をしていて何もない・・・

 ライト侯爵家に生まれたヨーキュンはカタチに乗ってオイシイことが多くあったのだからカタチに乗ったまま痛い目にあうようなことがあるのも運命。

 カタチをみんなで対話して再考するような準備はヨーキャンにない。

 好きな言葉は立憲主義(モンテスキューすら読んでいない)、世界平和、夢、希望・・・・


 どうして、ヨーキャンみたいな男の言葉に引っ張られて、解放区みたいな危険な場所に足を踏み入れたのか?


 きわめて好意的に見れば、王立学園の階級社会のカタチを重視する教育に、多くの生徒たちは行き詰まっていたのだろう。

 そして、ヨーキャン・ライトという存在がその閉塞感を打破してくれるかもしれないという幻想を抱いたのではないだろうか?

 開放的な性格で、しかも文武両道の大貴族の御曹司だい完璧超人に見えるヨーキャンに希望を託そうとした。

 しかし、所詮は幻想。

 どれだけ人気者でも、なかなかアテにはならない。

 愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶと言うが、経験なしで学ぶような人物に出会うのは、実際に賢者と出会うのと同じぐらいの確率である。

 もしも、いたら、「西国一とか、陰然と画策して至らざるはなしとか、言われていないか?」と聞きたくなるレべルだ。


   *  *


 パンナ・ネオカーは、ディアナ・ツースリーの走狗(友人?)として工作するべく、レイ・ハツネテイクの部屋にやってきた。

 何と言ってもろもパンナも解放区でディアナを置き去りにして逃げた一人である。

 ディアナの怒りを鎮めるべく、ヨーキャンを犠牲にするということに、パンナは躊躇しなかった。


「可哀そうだけど、ヨーキャンは仕方のない犠牲よ」

「はあ・・・」

「だって、解放区に行くのが本当はイヤだったあたしたちを誘ったのは、ヨーキャンだから」

「そうですか」

「ディアナがヨーキャンのことを許さないって言うのだったら、それはあたしはディアナの側につく。だから、あなたもあたしに協力する。いいわね?」

「協力って」

「ヒーナックさまの解放区での御活躍の話は、あたしは今、あなたから聞いた通りのまま学校で広める。嘘はないよね?」


 ここまできて、勘の鈍いレイもとんでもないことに巻き込まれそうだとは気づいた。


「ヒーナックさまはあまりみんなに話さないようにおっしゃっていました」


 じゃあ、とパンナは言う。


「あなたはあたしだけに話した。あたしが他のコに話をする分に後で『ゴメンナサイ』ですむわ。別に悪い話じゃないでしょ?」

「でも・・・」

「ああ、もう! だから、あなたはあたしだけに話してしまった。そして、あたしが広める。いいわね?」


 レイは断ることがてきなかった、


「はい・・・」


 悪いようにしないから、とパンナは溜め息をつく。


「このパンナ先輩だって必死のパッチなのよ。

 もしも、あなたがヒーナックさまを完全に抑え込んでいて発言をコントロールできるって言うのなら、あなたさえ押さえておけば、こちとらの任務完了っていうことになるのだけど」


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