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057 近代の感覚からするとイカれて無責任で過激

 解放区に出向くのは学生の間の流行。

 流行。

 その時々のカタチに従っただけのものに何の責任があるのか?

 結果責任と言うのなら、よりよい結果を得られる行動を示すことができるのか?

 良い結果が出ると誰が判断する?

 すべては【シュレーディンガーの猫】の思考実験だ。

 せめて、関係者の同意がとりつけられればいいけれども、そもそも同意することができる人格personalityは限られている。


 ヨーキャン・ライトはただ流行のカタチに乗っただけである。

 流行のカタチが変わればすべて変わる。

 昨日の自分と今日の自分は関係のない別人と主張するような類。

 流行のカタチに乗らなければ生きていけないという強迫観念に共感できなければ、彼のことを好きになることも嫌いになることも難しい。

 淋しさ。

 そこには、ヨーキャンの善意も悪意も認めがたい。


 流行のカタチに従っただけのヨーキャンに厳しい処罰を受けさせるべくディアナは動いている。 

 ヨーキャンを痛い目に会わせると気分がよくなるような気がしたのだ。

 しかし、彼のことを痛い目に合わせてどうする?

 先述の通り、ヨーキャンへの処罰については教育刑の意味が乏しい。

 また、将来に同じような場面の逃亡者を防ぐた積極的一般予防の効果もあるかどうかも怪しい。

 復讐刑?

 ヨーキャンを処罰すれば、ディアナも気分がよくなるやもしれない。

 しかし、幸運が重なったにせよ、ディアナは無事にその日のうちに無傷でで戻ってきたのだ。

 一歩間違えれば大変なことになる危険もあったという話はわかるが、終局的には大した結果が発生しなかったのだから、ヨーキャンを厳しく処罰すれば、復讐刑の意味があやふやになる。


 そもそも事件の被害者であるディァナも学校の規則を破って無許可で解放区に足を運んでいる。

 法を破った者を法で保護するべきか?

 登山禁止区域に出向いて遭難した者の捜索は限定される。

 自己負担。

 本来の業務外の仕事を無料でしてもらうのは無理筋。 

 法定外の捜索になれば民間の業者を自費で雇うしかない。

 そのための保険はある。

 通常の登山の場合も保険は大切である。

 法を破った者は『獣として扱え』『戦争の敵として処刑せよ』ロックやルソーなどは言い放つ。

 わざわざ国外の渡航禁止地域に出かけてテロリストの人質という身分になり、日本の自衛隊の撤兵をさけんだ韓国のパスポートの者もいた。

 通常の契約論(社会契約、それのもとになった教会契約)の考え方からすれば、契約外のことに当事者の義務はない。

 たとえ契約が結ばれていても、一方に明確な債務不履行があれば相手が契約解除をしてもやむなし。

 継続的な契約の場合には、債務不履行があっても、解除まで猶予を与えて履行させるべきとされるが、それは債務不履行者による原状回復の見込みがあっての話である。

 今回のディアナの場合には、解放区から無事に戻ってきたとはいえ、決して自力で責任を取ったとは言えない。

 もしも、その背景にツースリー侯爵家がなければ、ディアナが平民の子であれば、騒ぎたてるただ、彼女を退学にして、他の面子を軽い処分に終わらせるという選択肢が王立学校側に与えられた。

 面倒なことだ。

 学校側からしても、ライト侯爵家の跡取りというヨーキャンのことを厳しく処罰したくない。


 ただ、ディァナの側にも突破口はある。

 ヨーキャンらを蹴散らしてディアナのことを拉致った者たちのことを王立学園の下級生のヒーナックに軽く一蹴したという話。

 おかげで(相手側の勘違いもあって)ディアナは無事に解放された。


 ━━解放区でディアナのことを置き去りにして『おしりプー』と逃げ出したヨーキャンたちは王立学園の生徒として恥なのではないか?


 今回の事件の被害者は、ディアナだけではなく、王立学園の生徒の全体だという絵図をディアナは描こうとしていた(ディアナのみが犠牲者であるとすれば「お前も校則を破りやがっただろう。痛い目にあって当然だ。偉そうなことを言うな」と学校側が言って話が簡単に終わってしまう)。 

 是が非でもヨーキャンを潰したい。


   *  *


 ヨーキャン・ライトを詰めるためには、パンナ・ネオカーはディアナ・ツースリーにとって有用な手駒であった。

 ルーのことを探すのに解放区に行こうと最初に言い出したのはヨーキャンである。

 当事者ディァナ一人の証言だけでは弱い。

 一緒に解放区に行ったパンナの証言も欲しい。

 さらにヨーキャンの防御の動きが遅ければ、パンナを使って他の者も抱き込めるかもしれない。


 ━━今の状況でヨーキャン側についているのは損だぞ。

 ━━どうせ裏切るのならば早く裏切った方がいい。


 ヨーキャンの仲間たちの結束力は弱い。

 切り崩せる。

 その自信はあった。

 ディアナは言う。


「あなたには、女子寮で動いて欲しいのよ」

「え?」


 パンナは寮生である。

 彼女の実家は地方の小領主であり、首都に公館を持っていない。

 ディアナは説明した。


「寮には、今回にヒーナック・ゲッカーと一緒にいたレイ・ハツネテイク男爵令嬢がいる。レイがこちら側の味方になるように抱き込んでちょうだい」


 何となく悪い予感のしたパンナは少しためらった。


「同じ寮生ってだけで、そんなにつきあいがないですよ・・・」


 難しく考えないでちょうだい、とディアナは笑った。


「レイには自分の眼 で見たことを正直に話してもらうだけのこと。簡単よ。実際にあったことについて『嘘をつけ』というのは悪いことだけれども、『正直に全て話してほしい』と頼むことは別に悪いことじゃないわ」


   *  *

 

 九五〇ドル未満の万引きや窃盗は不起訴と言う地域である日に突然にルールが変わったらどうなる?

 国内の不法滞在者が突然に追い出されるようになったらどうする?

 厳密に言えば、社会倫理としての正義justiceは、統合した人格personaliityの持ち主が二人以上の社会で心より正しいと同意した時のみ、彼らの間でのみ成立する。

 過度の多様性の中で対話が断念されて法律lawが一人歩きを始めた時、そこに法jusはなくなってしまう(そのように、ヘルマン・ヘラー『主権論』は分析する)。


 ヨーキャンのみならず、事件にかかわることになる多くの者との対話を最初から断念して、機械的にヨーキャンのことを破滅に押しやろうという目的のみに駆られて行動するディアナは、馬鹿馬鹿しくなるぐらいにイカレて無責任で過激だった。



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