054 口止めや口裏あわせをする時間はなかった
ヨーキャンにとって不幸なことな、ディアナにとって幸運なことに、解放区でさらわれだディァナは一日で【無傷】で解放されて翌日に王立学園に戻ってきた。
王立各園から処分を受けることを覚悟で自分たちが許可なく解放区に行ったことをぶちまけた。
よほどにヨーキャンのことを許せなかったのだろう。
恨みがましい。
━━女であるあたしのことを危険な場所に置きざりにして逃げやがった。
という主張。
危険な場所に自分で出向いたのだから男でも女でも自己責任が男女平等なんて話には耳を傾けない。
話が嚙み合わないというよりも前提が違い過ぎる。
建前と本音。
ふだん何を言おうとも、前で本音としては男女平等なんてどうでもいい。
━━ヨーキャンを痛いメにあわせて自分の気持ちがよくなりたい。
シンプルな目的である。
もちろん『他の犠牲者を生まないようにした い』とか、もっともらしい理屈は後からつけられる。
目的を広げれば保護すべきと思われる保護対象が現れることになる。
その分に多くの者の自由は制約されることなる。
解放区に出向こうとする生徒たちへの監視の目は厳しくなるだろう。
弱者保護を言い立てて多数の自由を制約。
新たなトラブルだ。
自分の与えられた状況に満足できず別のトラブルを引き起こす。
もちろん、それ自体『常にダメ』と絶対否定はできない。
不満な状況を何もせず放置しておくことで、より悪にい結果を招くようなことだってある。
少なくとも、時として変化が必要になることもある。
しかし、正常性バイアスというものがあることからわかるように、人の心は変化に不安と恐怖をおぼえて混乱することは多い。
変化が一切にないようにするのが保守主義であれば、とりあえず、後のことは他人が全て解決してくれるというのが功利主義か。
状況を見ながら自分なりの解決を模索するのが近代科学主義か、自分で解決方法を見つけるために状況を変えるべく動くのが社会改良主義か。
ディアナという少女のやり方は粗っぽかった。
学校側にヨークたちの処罰を要求したのである。
自分だって解放区に出向いたじゃないかという話については、解放区で行方不明になったルーのことを同じ王立学園の生徒として心配してやむえず探しに行ったのであり、自分に対しては厳しい処罰をすべきできないと理屈をつける。
ヨークの実家のライト家もディァナの実家のツースリー家も侯爵の大貴族である。
下手な扱いをして、家同士の争いにつながるようなことがあれば、学校側の手腕が問われることになるだろう。
責任者からすれば、厄介な問題である。
そういう他人の迷惑を気にしないツラの皮の厚さをディァナは持っていた。
* *
ツラの皮の厚さという点では、相手のヨーキャンも負けていない。
昨日に解放区に行ったこともディァナを置き去りにして逃げたことも全てなかったこともしようとしていた。
それなのに、悪運強くディアナは無事に戻ってきてしまったのである。
ヨーキャンはともかく、一緒に解放区に行った者には、ツラの皮の厚さが足りない者がいた。
王立学園側から追及を受け、ライト侯爵家とツースリー侯爵家を天秤にかけ、正直者ポジションにまわった方が自分の将来の傷は浅くてすむと判定した。
そういう連中は正直にしゃべる。
さらに、ヨーキャンにとって認識していない存在が二人ばかりいた。
ヒーナック・ゲッカーとレイ・ハツネテイクである。
ルーを助けるつもりで間違えてでィアナを助ける結果を生んだこの二人について、ヨーキャン川はまるで把握できなかった。
結果として口止めやめや口裏あわせをする時間はなかった。




