052 信用が欲しければ有言実行だろう
フォウがバーソナリティーをつとめる魔界ラジオの深夜番組のようなやりとりをゲッカー姉弟たちがしている間に、さっきの弓使いの男が一人の王立学園の女学生を連れて【05の居場所】の店内に入ってきた。
どーでもいいけど、とヒーナックは文句を言った。
「そのコじゃないよ」
もちろん、身代金を支払ってもいい。
大貴族であるゲッカー公爵の家の跡取りであるヒーナックからすれば、大した負担ではない。
しかし、あきれる。
ルーの行方不明があって、上級生が解放区に捜索に行く話はあった。
それに加わった一人が今日のうちにボコボコにされてつかまっていた。
よくよく考えてみれば、ヒーナックたちが先ほどに相手とモメたときには、モカさんが中心に話をまとめたので、拉致されたルーの外見など全く説明しなかった。
モカさんは苦笑する。
「どうもタイミングが悪いというか、世の中は妙なことが起きる」
カオリぱ言う。
「ハズレの予感」
予感ではないだろう。
見ての通りにハズレである。
しかし、泣きじゃくっている王立学校の女生徒を「こいつじゃないからイラナイ」と突き放すようなことは、ヒーナックにはできない。
ヒーナックは言う。
「まあ、こっちが探していたコとは違うけど、そのコでいいよ。約束どおりの身代金を払うよ」
カオリは目を丸くする
「え、ホント?」
女学生からすれば、地獄に仏といった感じではないか、ぺこぺこ頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
ヒーナックは苦笑した。
「解放区に行くのでしたら、もうちょっと、それなりの護衛をつけた方がいいですよ」
女学生は言う。
「解放区には、ライト侯爵家のヨーキャンさまたちと一緒にまいりました」
女学生が無事に学校に戻ると、ヨーキャン・ライトの名前が校内に広がるだろう。
下手をすれば、ゲッカー公爵家とライト侯爵家の間にトラブルを引き起こしかねない。
それに、何と言っても、ヒーナックは【守ってのあげたい男の子】のキャラづくりを目指している。
となれば、【意外に強い】なんていう種類の話はいらない。
まずいナ、とヒーナックは頭をかかえる。
「その名は聞かなかったことにしたいです・・・」
女学生はきょとんとした表情を浮かべる。
「え?」
ヒーナックは言った。
「ヨーキャン先輩の恥になることでしょう?」
女学生は素直に認めた。
「はい」
同じ王立学園に通っている。
当然、ヨーキャン・ライトはヒーナックにとって校内で先輩にあたる。
ヒーナックが女学生を助けたのはいいが、その前にヨーキャンたちが逃げていたという話は危ない。
扱い方を間違えれば、ヒーナックが恨まれるかもしれない。
不要なトラブルはおことわり。
ちょっとは頭を使ってほしい、とヒーナックは思う。
「他に、捕まったコはいませんでしたか?」
「いえ」
「あなたは何もなくてよかったですよ。ボクはレイ・ハツネテイク男爵令嬢がルーさんをのことを探すのにちょっとおつきあいしただけですから」
後にトラブルのタネになりそうな手柄はいらない。
他人に押しつけてしまいたい。
そのあたりの呼吸がレイには読めない。
レイは言う。
「あ、あたしは何もしておりませんよ。ヒーナックさまが相手を軽くのしておしまいになりました。あたしは相手の男に手をつかのれてうろたえていただけです」
ヒーナックは言う。
「ボクは大したことはしていませんよ。
すべてレイさんのお手柄。
そもそも、学校は解放区に行くことを原則として禁止しています。特別の許可をもらっている僕以外は誰も解放区に行かなかったということにするというのが、よろしいのではないでしょうか?」
「え?」
「いいですね」
貴族階級の男爵令嬢であるレイはさすがに問題に気づいた。
「はい、もちろんです」
女学生は顔をしかめた。
「あたしはツースリー侯爵家の娘でヨーナリー・ツースリーと申します。ヒーナックさまには当家からもゲッカー家にお礼を」
「いいえ、いいですよ。何もなかったということにしましょう」
「ご謙遜なさらず」
「レイさんがいなければボクは何もできませんでした。ですから、お礼はレイさんの方にでも」
問題の女学生、ヨーナリー・ツースリー侯爵令嬢は納得しかねる表情を浮かべた。
「違うようにも思います」
ちょっきは先のことを考えてくれ、とヒーナックは思う。
本当に感謝しているならば、感謝しているという相手の立場を第一に考えてほしい。
油断すれば『てめー、脳みそスカってるんじゃねーか?』とピーマン女に毒づきたくなる。
ヒーナックは鋼の自制心で感情を抑え込んだ。
「解放区では、何も起きなかったということにするのが一番ですよ。後に、ツースリー侯爵家とライト侯爵家の関係もあるはずです」
ヨーナリーは唇をかんで不満顔でうなずいた。
「わかりました」
すると、弓遣いの男が口をはさむ。
「人の口に戸は立てられませんよ。
うちのグループがゲッカー家の公子にやられたという話は、解放区で広まるでしょ?
こちらとしては【05の居場所】のメンパーとモメたという話になれば、ただの学生さんを相手に引いたということではなくなり、こちらが頭を下げて後ろに引きやすくなるものでしてね」
面子の問題。
それはヒーナックにもわかる。
解放区において、領主が背景についている【05の居場所】はそれなりの顔だ。
個々のイメンバーに、ややこしい武闘派がそろうという評判。
向こうも引きやすいだろう。
話を丸くおさめることは大切。
ヒーナックは言った。
「なにか話が大きくなりすぎるのも嫌ですよね。かかわっているだけでトラブルが起きそう」
モカさんは同情する。
「その先輩もえらい災難ダ。
解放区に女の子を探しに行ったのは、悪意はなかったのだろう。そこで事件に巻き込まれて逃げた。逃げるときに一人つかまった。
まあ、解放区がヤバイ地域だっていう話を、みんな、なめていたのだろうけど。
思うけど、まわりから注意されたはず。
注意をきかなかったというのは簡単に自己責任とかいうものではなくて、注意する側も『そいつの言うことをきいても仕方ないだろ』という認定されるようなクズ連中だったのではないか?」
ヒーナックはため息をついた。
「自己責任って、どこに行ったのでしょ?」
信用の問題だな、とモカさんは言った。
「自分の言うことを他人に信じてもらいたければ普段が大切だよ。
信じてもらいたければ、普段からきっちり自分の予想をあててみせなければならない。
自信のないことは言わない。
かといって、何も言わない不言実行というのも信用につながらない。
うまくいっても、たまたまに見える。
信用が欲しければ有言実行だろう。
もちろん、自分の影をまわりから隠さなければいけない時には不言実行もいいけどな」
「はあ」
「下にしゃべつても混乱するだけという時にはやむなく不言実行になるが、そのときには結果で見せなければならない。
それでも、しゃべっても混乱するだけと判断されるような責任あると思うヨ。
自分たちは何も考えないしやらないから、いつでも『絶対に結果を出せ』と吠えるのは、あっさり捨てられてしまって終わるとトいうのが、そういう連中の受け取る結果だ」




