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051 それは単純に嫌われているのではないかと思う

 モカさんがカオリを連れて部屋に入ってきた。

 正体隠しのため、前と同じ黒の鎧姿。

 レイがヒーナックの演奏時に花束を渡せないかという企画を聞きつけて、カオリは提案する。


「校則とか気になるんだったら、そんなの、顔の見えないように、いろいろ着こんだらどうかな? フルアーマーでぶっこんだら誰かわからない。お客さんたちも『あいつ、何者ぞ?』って騒ぐ」


 ヒーナックは言う。 


「そういうイロモノはいりません。あくまで今回の主役のウヅキさんを中心にまわさないと」

「ほーん」

「お客さんの注意がウヅキさんに集まるようにするのがか鉄則」


 その発言に対して、ソルは感想を述べる。


「スクエアー」

「え?」

「何が起きるかわからないという状況で、こっちは対応しなきゃいけないんじゃない?」

「それはそうだけど、余計なトラブルが起きないように、最初からわかる範囲で手を打っておきたい」


 ヒーナックの性格がわかる発言である。

 ソルは言う。


「多少ヤバイことが起きるかもしれないという予感がある方がみんな緊張する。そういうピリピリした空気がいいんじゃないか?」

「バクチだよ、そんなの。普通が一番とか、眠たいとは言わないけど、抑えるところは抑えなきゃ、イザという時に動けない」


 ヒーナックたちの会話を聞いていて、レイはおろおろする


「あたしのこと、お気にはなさらず・・・」


 カオリの感想。


「さすがに、この場面で『みんな、あたしのために争わないで』 は言わない?」


 何それ、とヒーナックは言う。


「そういうふざけたセリフは却下ですよ、却下。腹が立ちます」

「自分サゲの発言に見せかけて、『あたしは実は値打ちがある』っていうアピール。『みんな、あたしのために争わないで』は、自分の価値をまわりに高く売りつけたい」

「絶対に買いません」

「ここぞと言う時に、おいしいセリフを口にするタイミングを逃さないように、ワンチャンス狙いで目をギラギラさせている」

「他のヒとに決め台詞を取られないために早口の練習は欠かせませんね」

「早口すぎて、みんな、聞き取れない。何を言っているのか、わからない。それでもって。時々、隣とネタがかぶってしまう。何かあったら、みんなで同じセリフを一緒に口にしてしまっている」

「さむい。前もってネタの打ち合わせをしていないと、ネタかぶりはこわいですね。反射神経だけで生きようとするのはダメ」

「せっかく、おいしいセリフを決めても、後から同じセリフをかぶせられると、『それ、さっき聞いた』って気分になりますヨ」


 突如として始まったゲッカー姉弟のネタ合戦。

 モカさんが口をはさむ。


「同じ学校の生徒が行方不明の時でしょ? ちょっと不謹慎では」


 えー、とカオリは首をかしげる。

 鎧姿だから顔は見えない。


「あたし、そのコのことをよく知らないし・・・ ていうか、まったく知らない。あたし、まだ王立学園とかっていないから」


 甘い、とヒーナックは笑った。


「その場の空気に合わせて上手に振る舞う訓練は欠かせないって思います」

「訓練って、何かこすっからいよ、それ」

「お葬式とかね、死んだ人がいい人だったって空気を演出するために、いつでも泣ける訓練をした人たちを集める文化というもあります」

「うわあ・・・」

「そういう文化を嫌がるのは差別ですよ、差別」

「ちゃがまし」

「かわいそうランキングをあげて、いいひとポジションにまわる。

 偽証は六百七十一倍、誣告は四千百五十一倍という言世界であれば、嘘でも何でも先に言うことが勝利へのカギです」

「こいつ、信じられない」

「まあ、そう言わずに。

 そういう文化では、たとえ嘘をついても恥じることはありません。

 まわりがみんな嘘つきなんですから。

 華やかなインパクトのあめ絵をつくる技術が洗練されます。

 少し考えれば嘘だってわかりそうなものなのですが、誰も考えないことが前提なのです」

「嫌な前提」

「とりあえず、いいひとポジションにつくると、まわりからチヤホヤされます。かわいそうランキングで上位に食いこめるとモテますよ」ナ

「何がモテる だ? そんなランキングなんて消えてなくなれ」

「実際に、あるものは、仕組みをきっちり学んで使うのです、自分のために。うまく利用するのです」

「たとえ時代が変わっても、変わってはいけなてものがあるんだ」

「変わってはいけないものを、ひとりで決めてはいけせん。あなただけでは、時代の流れを押しとどめることはできませんヨ」

「そんなの、やりもせずに、わかるものか?」

「世の中、やりもしなくても、結果がわかることって、結構あるって思います」

「わ・・・」

「こういうときにお約束のように『若者の可能性は無限大』とか言うの、うすっぺらいものですね?」

「あ、あたしは、まだ何も言ってないぞ(セーフ)」

「そういうセリフは最初に思いついたそとは偉いけど、他人のマネを恥知らずに何度も繰り返すのはサムイですよ。新しい可能性なんて感じません。見る価値なし」

「そこまで言うなよ。何をするにしても、まず、真似から始まるんだい」

「新しい可能性とか言うならば。それ以上がほしいですね」

「それ以上? たとえば?」

「人間に記憶というものがあって、いざというときの話は後に残ることが多いのですから、そういうときの言動にわかりやすい矛盾があると警戒されます。

 どんなことを言っても、『あいつが言うのなら、たぶん嘘に決まっている』と、マイナス方向で信用されますよ」

「マイナス方向の信用・・・」


 それは単純に嫌われているのではないかとカオリは思う(もちろん好きだけど相手のことを犯人だろうと推測していて全く信じていないというパターンはミステリー小説にはたまにある)。

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